◆Dead Drop

【第十三話】

 カッと、ホワイトボードにマジックのインクが走り始めたのは黄昏時のことだった。
「今回はB町の繁華街にあるカジノに潜入する」
「マージか!」
「遊びに行くわけじゃないんだからさー。マモンは飛びつきすぎ」
「何言ってんだアスモ! カジノってだけでやる気が段違いだぜ」
「まぁ僕も美しく着飾れるなら本望だけど〜」
「詳しくは俺から話そう」
 そう言って立ち上がったのはデビルズの情報収集を一手に担うサタンだった。
「このカジノは一般人でも遊べるゾーンの他に会員制の区域が存在しているともっぱらの噂だが、そこで人身売買が行われているらしい」
「この時代に? うわぁ悪趣味っ」
「それも売られているのは十代後半から二十代の女性ばかりだ。その子たちがどこから連れてこられているのかを突き止めるのが今回の主なミッション。加えて、可能であれば売買を牛耳る組織を捉えるところにある」
 多くの人命がかかっているのと、場所が場所なので一度で全てを片付けるために、確実性を持って対応したい。そう言うわけで、と、ボス・ルシファーは、サタンの言葉を引き継いだ。
「このミッションは、デビルズのメンバー総出でかかる」
「マージか!」
「マモン、さっきからそれしか言ってない」
「でもま、確かに、まじか、だよね。久しぶりにデカいヤマってこと」
「あのカジノは広い。人海戦術という意味でもそうすべきだと判断したんだろう」
「分担はどうなるんだい?」
 レヴィ、ベルフェ、ベール、ディアボロが好き勝手に話を進めるので、ルシファーはやれやれとジェスチャーをしつつもオーダーを広げた。
「またリスちゃん出勤?」
「当たり前だ。このヤマのためにお前を雇ったと言っても過言ではない」
「ハァ〜? いいように使ってくれちゃって!」
 愚痴を言いながらも目にした一覧には、このように書かれていた。
 
・レヴィ&ディアボロ カジノ監視室
・サタン&ベルフェ  ディーラー
・バルバトス&リス  フロア
・ベール       ボディーチェッカー
・その他       客

「その他ってぇーのは?」
「その他はその他だ。マモンとアスモ、俺とヴィーナスはそれぞれ客として潜入する」
「スタッフ用IDカードはすでに手配済みだ」
「潜入チームは明日からカジノに入れ。客として向かうチームは明後日二十一時以降、それぞれカジノに入る。質問はな」
「はーい!」
「……ないようだな」
「ちょっと待ちなさいよ〜! リスちゃんのこと無視する気!?」
「……くだらない内容だったら容赦しないぞ」
「やだやだそういうの。質問は一つよ! ボスはヴィーナスちゃんとペアになりたかっただ」
 ごちん!
 いつも通り良い音がアジト内にこだましたのは言うまでもない。
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