◆Dead Drop
【第九話】
「だーぁかぁらー!」
アジトに響くのは今日も今日とてアプリーリスの声である。天を仰ぐように首を上に向け、それからばんっ! と机を叩いた。
「色仕掛けしかないのよ! 私はこっちの狸爺ぃから情報を聞き出す! だからこっちはヴィーナスちゃんにやってもらうっきゃないでしょ!?」
「彼女はまだデビルズに入って日が浅い。任せられることと任せられないことがあるだろう」
「そんなこと言ってたら入れた意味ないじゃないの! 狸と狐のは一連の事件なのよ!? 一緒にコトを進めないと意味ないじゃない!」
「時間差があっても問題はない」
痺れを切らしたアプリーリスはワナワナと拳を震わせて、それでも大人な対応で言い争いを締めにかかった。
「アーッもうっ! わかったわよそれでいいわよ! それ以外にどうしようもないってんなら行きますよーーッ!」
「それでいい」
こんな形で新ミッションは始まったわけだが、アプリーリスにしてみればこんなミッションはよくあるありふれたものだ。カイロプタラがバディならなおさら、それほど時間も労力も必要ない。けれども今日はどうにも思ったようにことが進まないようだ。イライラが募るのも致し方ない。
「んもぅ! しつこーい!」
「今回の相手はなかなか執念深いですね……おや、行き止まり」
「えーっ!? もう! 仕方ない! 面倒だけど、カイっ!」
「ええ、そうですね」
「迎えうーつ!」
「承知いたしました」
難なくミッションをこなした二人だったが、追手が割としつこかった。その追手に背を向けていた二人は、目の前が行き止まりなことを察知し、仕方ないとばかりに、キュッと足を止めて振り向いた。それに気づいたのか、奴らはゆっくりとしかし確実に距離をつめてくる。カイロプタラがグローブを引っ張って整える最中、アプリーリスは構えを取ると片手を突き出し、くいっくいっと指先で相手を煽った。
「いつでもきなさい! リスちゃんを相手にしたこと、後悔させてやるわよ!」
「お優しい。その一言を口にする間に終わらせられるでしょう」
「こういうのはお約束。それにね、私今日、結構機嫌悪いのっ!」
「なるほど。でしたらわたくしもこう言うべきでしょう。雑魚は纏めてかかってきなさい、と」
カイロプタラの言葉に沸点を越えたのか、相手方の士気が上がり、ワッと飛びかかるように走り出した。
あとは、お察しの通り。
なんだかんだで、このバディな敵うものはいないのではないだろうか。細い路地でもなんのその。バッタバッタと敵を薙ぎ倒す姿はリスというあだ名とはほど遠いキレ。敵を華麗にノックダウンさせてゆくアプリーリスは、もはや美の域であった。
「あんたで終わりよっ!」
フッ! と気合を呼吸に乗せて、最後の一人の鳩尾に拳を打ち込んだアプリーリスは、倒れゆく相手を冷ややかな瞳で見つめながらパンっと手を払った。
「お見事です」
「このくらい。カイもお疲れ様」
サッと両手を挙げるアプリーリスに一瞬目を見張るも、次の瞬間にはその手にハイタッチするあたり、やはり二人の息はぴったりなものである。
「お怪我はございませんか」
「うん! このくらいで怪我するリスちゃんじゃありませ~ん!」
「では、少し早いですが」
「そうねー! 帰りましょうか!」
「ええ」
どこに、と明示されなかったことに疑問をおぼえるべきだったのだが、もはやあとの祭りかもしれない。腰を取られて連れて行かれた先がアジトではなくアプリーリスの自宅だったなんて、このとき彼女は知るよしもなかったのである。
「だーぁかぁらー!」
アジトに響くのは今日も今日とてアプリーリスの声である。天を仰ぐように首を上に向け、それからばんっ! と机を叩いた。
「色仕掛けしかないのよ! 私はこっちの狸爺ぃから情報を聞き出す! だからこっちはヴィーナスちゃんにやってもらうっきゃないでしょ!?」
「彼女はまだデビルズに入って日が浅い。任せられることと任せられないことがあるだろう」
「そんなこと言ってたら入れた意味ないじゃないの! 狸と狐のは一連の事件なのよ!? 一緒にコトを進めないと意味ないじゃない!」
「時間差があっても問題はない」
痺れを切らしたアプリーリスはワナワナと拳を震わせて、それでも大人な対応で言い争いを締めにかかった。
「アーッもうっ! わかったわよそれでいいわよ! それ以外にどうしようもないってんなら行きますよーーッ!」
「それでいい」
こんな形で新ミッションは始まったわけだが、アプリーリスにしてみればこんなミッションはよくあるありふれたものだ。カイロプタラがバディならなおさら、それほど時間も労力も必要ない。けれども今日はどうにも思ったようにことが進まないようだ。イライラが募るのも致し方ない。
「んもぅ! しつこーい!」
「今回の相手はなかなか執念深いですね……おや、行き止まり」
「えーっ!? もう! 仕方ない! 面倒だけど、カイっ!」
「ええ、そうですね」
「迎えうーつ!」
「承知いたしました」
難なくミッションをこなした二人だったが、追手が割としつこかった。その追手に背を向けていた二人は、目の前が行き止まりなことを察知し、仕方ないとばかりに、キュッと足を止めて振り向いた。それに気づいたのか、奴らはゆっくりとしかし確実に距離をつめてくる。カイロプタラがグローブを引っ張って整える最中、アプリーリスは構えを取ると片手を突き出し、くいっくいっと指先で相手を煽った。
「いつでもきなさい! リスちゃんを相手にしたこと、後悔させてやるわよ!」
「お優しい。その一言を口にする間に終わらせられるでしょう」
「こういうのはお約束。それにね、私今日、結構機嫌悪いのっ!」
「なるほど。でしたらわたくしもこう言うべきでしょう。雑魚は纏めてかかってきなさい、と」
カイロプタラの言葉に沸点を越えたのか、相手方の士気が上がり、ワッと飛びかかるように走り出した。
あとは、お察しの通り。
なんだかんだで、このバディな敵うものはいないのではないだろうか。細い路地でもなんのその。バッタバッタと敵を薙ぎ倒す姿はリスというあだ名とはほど遠いキレ。敵を華麗にノックダウンさせてゆくアプリーリスは、もはや美の域であった。
「あんたで終わりよっ!」
フッ! と気合を呼吸に乗せて、最後の一人の鳩尾に拳を打ち込んだアプリーリスは、倒れゆく相手を冷ややかな瞳で見つめながらパンっと手を払った。
「お見事です」
「このくらい。カイもお疲れ様」
サッと両手を挙げるアプリーリスに一瞬目を見張るも、次の瞬間にはその手にハイタッチするあたり、やはり二人の息はぴったりなものである。
「お怪我はございませんか」
「うん! このくらいで怪我するリスちゃんじゃありませ~ん!」
「では、少し早いですが」
「そうねー! 帰りましょうか!」
「ええ」
どこに、と明示されなかったことに疑問をおぼえるべきだったのだが、もはやあとの祭りかもしれない。腰を取られて連れて行かれた先がアジトではなくアプリーリスの自宅だったなんて、このとき彼女は知るよしもなかったのである。