◆悪魔とメリークリスマス
魔王城でのお茶会の帰り道。私は相変わらず暗い空を見上げつつ、白い息を吐きだした。
「はぁ~寒くなったなぁ」
「そうですね、本当に」
「魔界にも普通に温度変化はあるんだね」
「それはもう。人間界のように四季はないものの、常に陽が指さないので少しの気温差が大きな変化を引き起こすのですよ」
寒さで少し赤くなった私の頬を指で擦りながら、バルバトスはどこから取り出したのかその首にマフラーをくるっと巻きつけた。
「そういえば今日、大きな荷物が魔王城に運ばれてきてたけど……」
「ああ、お気づきになられましたか?あれは魔界樹ですよ」
「魔界樹……って木?それお城の中に植えるの?面白いね」
「ええ。あなたなら何をするのかわかるのではないでしょうか」
「え?」
「人間界はこの時期とてもにぎやかになるでしょう?」
「この時期……あっ!まさか!」
カレンダーを思い浮かべて、それから数秒。五文字のカタカナが私の頭に並んだ。
「クリスマス!?」
「そうです、クリスマスですよ」
「えっ、でもここ魔界…」
「坊ちゃまの意向ですよ。三界の交流を活発にしたい……その想いから、どの世界の文化にも触れる機会を作ろうと画策した、と、そういうことです」
「な、なるほど……?」
一つの文化交流のなのだろうけれど、正直なところクリスマスを受け入れられる魔界って凄すぎるのではと少し不安になる。こちらにきてすぐのときも、留学制度には魔界に住む者全員が賛同しているわけではないから気をつけるようにと釘を刺されたこともあったから。
その空気を感じ取ったのか、バルバトスは今度は私の手に手袋を被せながら言った。(それにしても一体どこからこの防寒具たちは出てきているのだろうか)
「確かに坊ちゃまのお考えは全ての方に受け入れられているわけではありません。ただ、魔界の者は皆数千年単位で生きているので、基本的に楽しいことには目がないのですよ。なのでパーティーを盛り上げるスパイス的な位置付けで取り組めば良いと、まずはその程度からです」
「はー……殿下、さすがだね。いろんなこと考えて、最善を尽くして……すごい」
「ふふ、ですのであなたも思う存分に楽しんでいただければと。それと、坊ちゃまに人間界のクリスマスの雰囲気をぜひともお伝えしてあげてください。実際にそれを味わってきたあなたの所感はきっと役立つでしょうから」
「そのくらいお安い御用だよ!興味を持ってもらったり知ってもらえるのは嬉しいことだし。一緒に飾り付けとかできたら私も嬉しい!」
「そう言っていただけて良かったです。ありがとうございます」
結構な距離も二人で歩けばなんのその。すぐに嘆きの館に着いてしまった。名残惜しくとも忙しいバルバトスを引き止めるわけにはいかないと、館の門の前で別れの挨拶を済ませる。
「今日もありがとう、ばいばいバルバトス」
「はい、それではまた明日」
しかし、いつも通り門を開けようと伸ばした私の手の上に、バルバトスの手が重ねられたのはいつもと違う一コマだった。
「!?…っあ、あの、バルバトス、どうしたの…?」
覆い被さるように私を背中から抱きしめて数秒の沈黙。高鳴る鼓動に私があわわとしている間に重ねられた手はもう一度キュッと握られて、それから耳に囁かれた。
「プレゼント、楽しみにしていますよ」
「ふぁ!?」
「もちろん私からもご用意しますから」
そのままこめかみあたりにチュッと一つ口付けを贈られて離れた身体。バッとそこに手をあてて振り返った私を、ふふっと笑いながら見つめるバルバトスの瞳はどこか悪戯っ子のような色を湛えており、大層楽しそうだった。
「本気なのか揶揄われてるのかわかんないっ…」
精一杯の抵抗に対して返ってきたのは頭を撫でる優しい掌。
生粋の悪魔はクリスマスに何をしてくれるのだろう。
クリスマス当日までは、あと1ヶ月を切っている。ワクワクドキドキなイベントはすぐそこに迫っていた。
「はぁ~寒くなったなぁ」
「そうですね、本当に」
「魔界にも普通に温度変化はあるんだね」
「それはもう。人間界のように四季はないものの、常に陽が指さないので少しの気温差が大きな変化を引き起こすのですよ」
寒さで少し赤くなった私の頬を指で擦りながら、バルバトスはどこから取り出したのかその首にマフラーをくるっと巻きつけた。
「そういえば今日、大きな荷物が魔王城に運ばれてきてたけど……」
「ああ、お気づきになられましたか?あれは魔界樹ですよ」
「魔界樹……って木?それお城の中に植えるの?面白いね」
「ええ。あなたなら何をするのかわかるのではないでしょうか」
「え?」
「人間界はこの時期とてもにぎやかになるでしょう?」
「この時期……あっ!まさか!」
カレンダーを思い浮かべて、それから数秒。五文字のカタカナが私の頭に並んだ。
「クリスマス!?」
「そうです、クリスマスですよ」
「えっ、でもここ魔界…」
「坊ちゃまの意向ですよ。三界の交流を活発にしたい……その想いから、どの世界の文化にも触れる機会を作ろうと画策した、と、そういうことです」
「な、なるほど……?」
一つの文化交流のなのだろうけれど、正直なところクリスマスを受け入れられる魔界って凄すぎるのではと少し不安になる。こちらにきてすぐのときも、留学制度には魔界に住む者全員が賛同しているわけではないから気をつけるようにと釘を刺されたこともあったから。
その空気を感じ取ったのか、バルバトスは今度は私の手に手袋を被せながら言った。(それにしても一体どこからこの防寒具たちは出てきているのだろうか)
「確かに坊ちゃまのお考えは全ての方に受け入れられているわけではありません。ただ、魔界の者は皆数千年単位で生きているので、基本的に楽しいことには目がないのですよ。なのでパーティーを盛り上げるスパイス的な位置付けで取り組めば良いと、まずはその程度からです」
「はー……殿下、さすがだね。いろんなこと考えて、最善を尽くして……すごい」
「ふふ、ですのであなたも思う存分に楽しんでいただければと。それと、坊ちゃまに人間界のクリスマスの雰囲気をぜひともお伝えしてあげてください。実際にそれを味わってきたあなたの所感はきっと役立つでしょうから」
「そのくらいお安い御用だよ!興味を持ってもらったり知ってもらえるのは嬉しいことだし。一緒に飾り付けとかできたら私も嬉しい!」
「そう言っていただけて良かったです。ありがとうございます」
結構な距離も二人で歩けばなんのその。すぐに嘆きの館に着いてしまった。名残惜しくとも忙しいバルバトスを引き止めるわけにはいかないと、館の門の前で別れの挨拶を済ませる。
「今日もありがとう、ばいばいバルバトス」
「はい、それではまた明日」
しかし、いつも通り門を開けようと伸ばした私の手の上に、バルバトスの手が重ねられたのはいつもと違う一コマだった。
「!?…っあ、あの、バルバトス、どうしたの…?」
覆い被さるように私を背中から抱きしめて数秒の沈黙。高鳴る鼓動に私があわわとしている間に重ねられた手はもう一度キュッと握られて、それから耳に囁かれた。
「プレゼント、楽しみにしていますよ」
「ふぁ!?」
「もちろん私からもご用意しますから」
そのままこめかみあたりにチュッと一つ口付けを贈られて離れた身体。バッとそこに手をあてて振り返った私を、ふふっと笑いながら見つめるバルバトスの瞳はどこか悪戯っ子のような色を湛えており、大層楽しそうだった。
「本気なのか揶揄われてるのかわかんないっ…」
精一杯の抵抗に対して返ってきたのは頭を撫でる優しい掌。
生粋の悪魔はクリスマスに何をしてくれるのだろう。
クリスマス当日までは、あと1ヶ月を切っている。ワクワクドキドキなイベントはすぐそこに迫っていた。