◆一番星に口付けを
「歌詞を書く練習をさせてください」
そんな不毛な課題を出されたのは、バルバトスPとの定例ミーテイングの時だった。うちのメンツは壊滅的に歌詞が書けない。みんなセンスは悪くないはずなのに、どうも現代に即さないというか夢見がちというか、そういう感じの歌詞を書くのだ。
ちなみに、最低ランクはサタンで、まだマシレベルはレヴィである。あれだけ本を読むサタンが、歌詞になると「ティアーモ」とか書いてくるんだから失笑以外の道がない。レヴィは持前の語彙力でいい感じに作ってくるものの、確実に2フレーズはごく一部の人にしかわからないオタク語を入れてくるのが目下の課題である。本人曰く、それがなくなったら僕が作ったものじゃなくなる!だそうだ。
「バトスピィ~。あの課題、まだやるんですか?うちのメンバーじゃやっても意味ないんじゃないかなぁ……」
「訓練を積む以外に道はないです。ですので続けます」
「無理ですよ!他の仕事が立て込んでるのもあるし!いつも書いてくださってる人に頼めないんでしょうか」
「あの方は、……忙しくなったので」
「私からも頭を下げて頼んでみますから、一度先方に連れて行ってくれませんか?」
「だめです」
「じゃあせめて本人にどこを変えたらいいか指示してもらいたいです!!直せって言っても聞かないんですもん!!」
「なるほど……赤ペンというやつですか……。それならいいでしょう。頼んでみます」
「え!?いいんですか!?」
仕事が早いバルバトス。その次の瞬間には添削者……これはハーベストのことに他ならないが、彼女に連絡を取理つけてOKを言い渡したのであった。
そうして地獄の幕開けである。
「というわけでー。第三回歌詞ライティング講座は、これまで歌詞提供をしてくださっていた方の赤ペンチェックとなりました。テーマはみんなが大の苦手な恋です」
「マジか」
「バルバトスより怖いンゴ」
「やっと俺のセンスがわかるやつに見てもらえるということだな!」
「僕、自分の写真もはっちゃおーっと」
「美味しいものが好きな奴なら気に入ってくれるはずだ」
「冗談キツ……」
三者三様ならぬ六者六様の反応を返されて、私はまた苦笑した。しかしながらそこでふと、一人、声もあげずに受け取った用紙を見つめたままのリーダーがいることに気づいて近づいてみる。
「ルシファー」
「……ん?」
「ルシファーはできそう?」
「ああ、まぁ」
「てかさぁ、みんな恋なんかしたことあるの?ないからダメなんじゃない?」
「そうだそうだ!俺ら売れっ子だし最初っから恋愛事禁止されてんじゃん、だからできねーんだって!」
「あれ?マモン、もしかしてアイドルはそういうものって勝手に思い込んでる?うちは恋愛禁止じゃないよぉ?」
「何ぃ!?そうなのか!?」
「あ〜も〜みんな話がズレてきて----」
「俺は恋愛しているが」
「「「「「「は?」」」」」」
「んぉああああああああわああああああ!?ルシファー!!そういえばリーダーに話があるんだった!!」
「ん?きいてな」
「さ、ちょっとあっちで!!みんなは来週までにそれを仕上げておくこと!以上!今日は解散!」
信じられない言葉を吐いたルシファーの手を瞬時に引いて、強引にその場から去る。後に残された者たちの訝しげな表情を見ることもなかった私は、勢い駆け込んだ自分の部屋でルシファーを壁際に追い詰めて問うた。
「さっきなんて言おうとしたの!?」
「恋愛をしている、と」
「なんってこと言うの!私たちはっ」
「しているだろう。曲がりなりにもアイドルは、ファンにそういう目で見られることもある」
「へ?」
「ライブ中は特にだ。今、この時だけでも、とそう思って夢を見にきてくれる。そうして俺たちは皆に向けてラブソングを歌うだろう?」
言われてみればその通りである。アイドルはどうしてもそういった消費のされ方もある職業。それは、良い悪いで測れる単純な問題ではないわけで、そこは理解できたのだが、恥ずかしいのはそんなことにも気づかずルシファーの言葉を遮って部屋を飛び出した自分だ。あろうことか自分との関係を暴露されるのではと心配したなんて。あまりにも自意識過剰で体温が急上昇、頬が沸騰したように熱くなって言葉がうまく紡げない。
「それで?」
「あ、」
そんな私の様子から何を悟ったのか、ルシファーはニヤリ、口元に笑みを浮かべて私の顎を掬った。
「おまえはどうしてそんなに慌てているんだ?今も、先ほども、何か別の想像をしていたようだが」
「い、や、その、」
「自分でもわからないのか?それなら、目を閉じてみろ」
「、目?」
言われるままに素直に閉じる私が悪いのか。それとも。
耳に、素直すぎて心配になるな、と吹き込間れるが早いか否か、私の呼吸はルシファーに飲み込まれてしまった。
「俺が担当する歌詞は、全部おまえに向けて歌っていることを忘れるな」
キスの合間に告げられた言葉を理解するには、ルシファーに溺れる時間が長すぎて。
今は、私だけの推し でいてね。
ちなみに。
後日赤ペン先生から返ってきた用紙は、文字通り真っ赤。
皆が怒ったり凹んだりしている中、ルシファーは一人満足そうだった。覗いた用紙は皆と寸分変わらず真っ赤なのに、なぜ?と思えば、下の方に青文字でバルバトスプロデューサーから一言があり、それが彼にこの表情をさせたものと思われる。
【特定の女性に向けて愛を語るのはおやめなさい】
そんな不毛な課題を出されたのは、バルバトスPとの定例ミーテイングの時だった。うちのメンツは壊滅的に歌詞が書けない。みんなセンスは悪くないはずなのに、どうも現代に即さないというか夢見がちというか、そういう感じの歌詞を書くのだ。
ちなみに、最低ランクはサタンで、まだマシレベルはレヴィである。あれだけ本を読むサタンが、歌詞になると「ティアーモ」とか書いてくるんだから失笑以外の道がない。レヴィは持前の語彙力でいい感じに作ってくるものの、確実に2フレーズはごく一部の人にしかわからないオタク語を入れてくるのが目下の課題である。本人曰く、それがなくなったら僕が作ったものじゃなくなる!だそうだ。
「バトスピィ~。あの課題、まだやるんですか?うちのメンバーじゃやっても意味ないんじゃないかなぁ……」
「訓練を積む以外に道はないです。ですので続けます」
「無理ですよ!他の仕事が立て込んでるのもあるし!いつも書いてくださってる人に頼めないんでしょうか」
「あの方は、……忙しくなったので」
「私からも頭を下げて頼んでみますから、一度先方に連れて行ってくれませんか?」
「だめです」
「じゃあせめて本人にどこを変えたらいいか指示してもらいたいです!!直せって言っても聞かないんですもん!!」
「なるほど……赤ペンというやつですか……。それならいいでしょう。頼んでみます」
「え!?いいんですか!?」
仕事が早いバルバトス。その次の瞬間には添削者……これはハーベストのことに他ならないが、彼女に連絡を取理つけてOKを言い渡したのであった。
そうして地獄の幕開けである。
「というわけでー。第三回歌詞ライティング講座は、これまで歌詞提供をしてくださっていた方の赤ペンチェックとなりました。テーマはみんなが大の苦手な恋です」
「マジか」
「バルバトスより怖いンゴ」
「やっと俺のセンスがわかるやつに見てもらえるということだな!」
「僕、自分の写真もはっちゃおーっと」
「美味しいものが好きな奴なら気に入ってくれるはずだ」
「冗談キツ……」
三者三様ならぬ六者六様の反応を返されて、私はまた苦笑した。しかしながらそこでふと、一人、声もあげずに受け取った用紙を見つめたままのリーダーがいることに気づいて近づいてみる。
「ルシファー」
「……ん?」
「ルシファーはできそう?」
「ああ、まぁ」
「てかさぁ、みんな恋なんかしたことあるの?ないからダメなんじゃない?」
「そうだそうだ!俺ら売れっ子だし最初っから恋愛事禁止されてんじゃん、だからできねーんだって!」
「あれ?マモン、もしかしてアイドルはそういうものって勝手に思い込んでる?うちは恋愛禁止じゃないよぉ?」
「何ぃ!?そうなのか!?」
「あ〜も〜みんな話がズレてきて----」
「俺は恋愛しているが」
「「「「「「は?」」」」」」
「んぉああああああああわああああああ!?ルシファー!!そういえばリーダーに話があるんだった!!」
「ん?きいてな」
「さ、ちょっとあっちで!!みんなは来週までにそれを仕上げておくこと!以上!今日は解散!」
信じられない言葉を吐いたルシファーの手を瞬時に引いて、強引にその場から去る。後に残された者たちの訝しげな表情を見ることもなかった私は、勢い駆け込んだ自分の部屋でルシファーを壁際に追い詰めて問うた。
「さっきなんて言おうとしたの!?」
「恋愛をしている、と」
「なんってこと言うの!私たちはっ」
「しているだろう。曲がりなりにもアイドルは、ファンにそういう目で見られることもある」
「へ?」
「ライブ中は特にだ。今、この時だけでも、とそう思って夢を見にきてくれる。そうして俺たちは皆に向けてラブソングを歌うだろう?」
言われてみればその通りである。アイドルはどうしてもそういった消費のされ方もある職業。それは、良い悪いで測れる単純な問題ではないわけで、そこは理解できたのだが、恥ずかしいのはそんなことにも気づかずルシファーの言葉を遮って部屋を飛び出した自分だ。あろうことか自分との関係を暴露されるのではと心配したなんて。あまりにも自意識過剰で体温が急上昇、頬が沸騰したように熱くなって言葉がうまく紡げない。
「それで?」
「あ、」
そんな私の様子から何を悟ったのか、ルシファーはニヤリ、口元に笑みを浮かべて私の顎を掬った。
「おまえはどうしてそんなに慌てているんだ?今も、先ほども、何か別の想像をしていたようだが」
「い、や、その、」
「自分でもわからないのか?それなら、目を閉じてみろ」
「、目?」
言われるままに素直に閉じる私が悪いのか。それとも。
耳に、素直すぎて心配になるな、と吹き込間れるが早いか否か、私の呼吸はルシファーに飲み込まれてしまった。
「俺が担当する歌詞は、全部おまえに向けて歌っていることを忘れるな」
キスの合間に告げられた言葉を理解するには、ルシファーに溺れる時間が長すぎて。
今は、私だけの
ちなみに。
後日赤ペン先生から返ってきた用紙は、文字通り真っ赤。
皆が怒ったり凹んだりしている中、ルシファーは一人満足そうだった。覗いた用紙は皆と寸分変わらず真っ赤なのに、なぜ?と思えば、下の方に青文字でバルバトスプロデューサーから一言があり、それが彼にこの表情をさせたものと思われる。
【特定の女性に向けて愛を語るのはおやめなさい】