■読み切りログ(ルシファー以外)
先日、身体も心も繋ぎ止めることができたはずだった春居は、魔界に帰ってすぐに雲隠れしてしまった。
いつも返事を聞かずに踵を返していたのは照れ隠しのせいだとばかり思っていたが、この感じ、本当にわたくしの気持ちが正しく理解されていないように思える。そんな最中、人間界から一つの小包が届き、その差出人を見ればそれは春居からで、なぜかそれには「お詫び」と書かれた熨斗が貼られていたのを見ると、先の考えは現実味を帯びてきた。
さて、どうしたものか。
春居はわたくしがあくまであることをお忘れの様子。人間界まで攫いに行ってもよいが、律儀にも書かれていた彼女の住所に押しかけるのも悪くないと、皆を焚き付けて人間界へと向かったのがつい先程のこと。
着いてみればそこは旅館という立派な宿泊施設で、八咫烏グループの今後の展開にも役立ちそうだと泊まることにまでなった。
あれよあれよという間に宿泊手続きを済ませたわたくしたちは、時間も良き頃なのでまずは夕食をいただくことに。
個室の宴会部屋に通されて、皆好き好きに料理を楽しむが、一方の春居はといえば、忙しなく動き回っていてわたくしに目もくれないので、少しだけいたずら心が湧いてきた。都合が良いことに、今、わたくしはお客で春居は従業員。ということは、わたくしのお願いを彼女が断る術はないでしょう。
「坊っちゃま、わたくし、少し」
「お手洗いかい?それなら部屋を出て右に曲がるとすぐだよ」
「そうですか。ありがとうございます」
純粋な優しさを真正面から受け止めると少し心が痛みますね、などと苦笑したのも束の間。襖を開ければ入り口のところに春居がおり、ナイスタイミングとばかりに声をかける。
「春居、」
「っバルバトス!?……な、ぁ、何か、その、ご、御用でしょうか」
「ええ、申し訳ありませんが、この宴会が終わったらで構いませんので、日本酒を少しわたくしの部屋まで運んでいただけますか?」
「へ、部屋!?」
その反応を見るに、わたくしの思惑通り。彼女は「部屋」というワードから先日の情事を思い出した様子。
襖を隔てたここ、部屋の入り口は死角。サッと腕を引いてみれば、小さな身体は簡単にわたくしの腕の中に収まった。ぎゅっと抱きしめてとどめの一言。
「敷布団、というのもなかなかに雰囲気があるようですから、ぜひ今夜はわたくしと過ごしましょう」
宴会部屋の中では皆が上機嫌に騒いでいるけれど、わたくしの耳には春居の震える吐息しか聴こえてはいなかった。
「っ、ァ」
「しー……返事は、はい、か、イエス、以外は受けつけられませんから、そのつもりで」
「!?」
「この着物をわたくしの手で見出す瞬間を楽しみにしております」
朱色の頬に触れるだけのキスを落として。
続きのサービスは、また後ほど。
よろしくお願いいたします。
いつも返事を聞かずに踵を返していたのは照れ隠しのせいだとばかり思っていたが、この感じ、本当にわたくしの気持ちが正しく理解されていないように思える。そんな最中、人間界から一つの小包が届き、その差出人を見ればそれは春居からで、なぜかそれには「お詫び」と書かれた熨斗が貼られていたのを見ると、先の考えは現実味を帯びてきた。
さて、どうしたものか。
春居はわたくしがあくまであることをお忘れの様子。人間界まで攫いに行ってもよいが、律儀にも書かれていた彼女の住所に押しかけるのも悪くないと、皆を焚き付けて人間界へと向かったのがつい先程のこと。
着いてみればそこは旅館という立派な宿泊施設で、八咫烏グループの今後の展開にも役立ちそうだと泊まることにまでなった。
あれよあれよという間に宿泊手続きを済ませたわたくしたちは、時間も良き頃なのでまずは夕食をいただくことに。
個室の宴会部屋に通されて、皆好き好きに料理を楽しむが、一方の春居はといえば、忙しなく動き回っていてわたくしに目もくれないので、少しだけいたずら心が湧いてきた。都合が良いことに、今、わたくしはお客で春居は従業員。ということは、わたくしのお願いを彼女が断る術はないでしょう。
「坊っちゃま、わたくし、少し」
「お手洗いかい?それなら部屋を出て右に曲がるとすぐだよ」
「そうですか。ありがとうございます」
純粋な優しさを真正面から受け止めると少し心が痛みますね、などと苦笑したのも束の間。襖を開ければ入り口のところに春居がおり、ナイスタイミングとばかりに声をかける。
「春居、」
「っバルバトス!?……な、ぁ、何か、その、ご、御用でしょうか」
「ええ、申し訳ありませんが、この宴会が終わったらで構いませんので、日本酒を少しわたくしの部屋まで運んでいただけますか?」
「へ、部屋!?」
その反応を見るに、わたくしの思惑通り。彼女は「部屋」というワードから先日の情事を思い出した様子。
襖を隔てたここ、部屋の入り口は死角。サッと腕を引いてみれば、小さな身体は簡単にわたくしの腕の中に収まった。ぎゅっと抱きしめてとどめの一言。
「敷布団、というのもなかなかに雰囲気があるようですから、ぜひ今夜はわたくしと過ごしましょう」
宴会部屋の中では皆が上機嫌に騒いでいるけれど、わたくしの耳には春居の震える吐息しか聴こえてはいなかった。
「っ、ァ」
「しー……返事は、はい、か、イエス、以外は受けつけられませんから、そのつもりで」
「!?」
「この着物をわたくしの手で見出す瞬間を楽しみにしております」
朱色の頬に触れるだけのキスを落として。
続きのサービスは、また後ほど。
よろしくお願いいたします。