■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)
雨が、降っていた。
いや、魔界にだって空があるんだから天候だって変わるだろう。けど、魔界に来てから今まで、空から宝石が降ってきた以外に何かが降っているのを見たことがなかったので驚いたのだ。
ぽかんと空を見つめて数秒。私はあることに気づいた。
「あっ……!傘、ない!」
今の今まで傘を買う、なんて発想が全くなかったと言ったらみんなに笑われそうだなと、状況にそぐわず漏れたのは笑い。
なんだか楽しくなってきて、濡れるのも厭わず雨の中に躍り出た。
「あめあめふれふれかぁさんがー」
昔よく歌った童謡が自然と口をつく。
しとしと、しとしと。雨がゆっくり、制服に染み込んでゆく。
雨粒一つ一つが街灯やランプの光を反射して、きらきら、きらきらと色とりどりに光り、幻想的だ。
小さな水溜りを靴の先がつくかつかないかのところで避けては飛び跳ねて、足にかかる水飛沫をどこか他人事のように眺めてはいい気分になる。
「じゃのめでお迎えうれしーぃなー♪ぴっちぴっちちゃ…あれ?」
そんなご機嫌な歌が止まったのは、雨が止んだからだった。
否、正解には、私の周りだけ雨が落ちてこなくなったのだ。
なんで?と思うも、そんなことは少し目線を上げればすぐに理解できた。
「傘……と、ルシファー!」
「おまえは雨の中で何をしているんだ?風邪を引くぞ」
「あは。魔界で初めての雨だから浮かれちゃって」
「雨で浮かれるなんて、変わってるな」
「そう?……まぁ確かにそうか!ふふ!ルシファー、お迎えに来てくれたから母さんだね」
「どういうことだ?」
さりげなく腰を取って私を引き寄せたルシファーは、私を帰路へと誘う。
ルシファーの傍に寄るとほんのりと体温が移って暖かい。
ということは、あの少しの間に私はだいぶ冷えていたようだ。
本当に風邪をひいてしまうかもと思うと、人間とは面白いものでぶるっと身体が震えた。
それを敏感に感じ取ってか、腰から腕に移動した手が私をさすってくれて、その心遣いで心がほんわかする。
「ふふ、えっとね、人間界にはそういう歌があるんだよ。雨が降ったらお母さんが傘を持って迎えにきてくれるの」
「なるほど?しかし俺はおまえの母親でもなければ父親でもないが?」
「そりゃあもちろん!わかってる!」
「じゃあ」
そう呟いて、少し前屈みになったルシファーは、私に覆い被さるようにして視線を交える。
「俺は、おまえの、なんだ?」
「っ、それは、」
多分私は。心のどこかで、兄弟の誰かが迎えに来てくれるって信じていたから雨の中で遊んでいたのかもしれない。
そしてそれがルシファーだったら嬉しいなと、期待していたんだ。
傘に隠れた私たちは、世界から隔絶されて二人きり。
この狭い空間がルシファーでいっぱいになって恥ずかしい。
「る、しふぁーは、わたし、の」
「…時間切れだ」
「ンッ、」
奪われたのは唇。
呟いた、こいびと、の四文字はルシファーに呑み込まれてしまった。
聞こえていたはずの雨音は消え、耳に聞こえるのはリップノイズとトクトクと響く心音だけ
こんな雨の日も、ルシファーと過ごすなら悪くない。
いや、魔界にだって空があるんだから天候だって変わるだろう。けど、魔界に来てから今まで、空から宝石が降ってきた以外に何かが降っているのを見たことがなかったので驚いたのだ。
ぽかんと空を見つめて数秒。私はあることに気づいた。
「あっ……!傘、ない!」
今の今まで傘を買う、なんて発想が全くなかったと言ったらみんなに笑われそうだなと、状況にそぐわず漏れたのは笑い。
なんだか楽しくなってきて、濡れるのも厭わず雨の中に躍り出た。
「あめあめふれふれかぁさんがー」
昔よく歌った童謡が自然と口をつく。
しとしと、しとしと。雨がゆっくり、制服に染み込んでゆく。
雨粒一つ一つが街灯やランプの光を反射して、きらきら、きらきらと色とりどりに光り、幻想的だ。
小さな水溜りを靴の先がつくかつかないかのところで避けては飛び跳ねて、足にかかる水飛沫をどこか他人事のように眺めてはいい気分になる。
「じゃのめでお迎えうれしーぃなー♪ぴっちぴっちちゃ…あれ?」
そんなご機嫌な歌が止まったのは、雨が止んだからだった。
否、正解には、私の周りだけ雨が落ちてこなくなったのだ。
なんで?と思うも、そんなことは少し目線を上げればすぐに理解できた。
「傘……と、ルシファー!」
「おまえは雨の中で何をしているんだ?風邪を引くぞ」
「あは。魔界で初めての雨だから浮かれちゃって」
「雨で浮かれるなんて、変わってるな」
「そう?……まぁ確かにそうか!ふふ!ルシファー、お迎えに来てくれたから母さんだね」
「どういうことだ?」
さりげなく腰を取って私を引き寄せたルシファーは、私を帰路へと誘う。
ルシファーの傍に寄るとほんのりと体温が移って暖かい。
ということは、あの少しの間に私はだいぶ冷えていたようだ。
本当に風邪をひいてしまうかもと思うと、人間とは面白いものでぶるっと身体が震えた。
それを敏感に感じ取ってか、腰から腕に移動した手が私をさすってくれて、その心遣いで心がほんわかする。
「ふふ、えっとね、人間界にはそういう歌があるんだよ。雨が降ったらお母さんが傘を持って迎えにきてくれるの」
「なるほど?しかし俺はおまえの母親でもなければ父親でもないが?」
「そりゃあもちろん!わかってる!」
「じゃあ」
そう呟いて、少し前屈みになったルシファーは、私に覆い被さるようにして視線を交える。
「俺は、おまえの、なんだ?」
「っ、それは、」
多分私は。心のどこかで、兄弟の誰かが迎えに来てくれるって信じていたから雨の中で遊んでいたのかもしれない。
そしてそれがルシファーだったら嬉しいなと、期待していたんだ。
傘に隠れた私たちは、世界から隔絶されて二人きり。
この狭い空間がルシファーでいっぱいになって恥ずかしい。
「る、しふぁーは、わたし、の」
「…時間切れだ」
「ンッ、」
奪われたのは唇。
呟いた、こいびと、の四文字はルシファーに呑み込まれてしまった。
聞こえていたはずの雨音は消え、耳に聞こえるのはリップノイズとトクトクと響く心音だけ
こんな雨の日も、ルシファーと過ごすなら悪くない。