■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)
ハッと目覚めると額から一筋、汗が流れたのがわかった。今の今まで、とてもリアルな夢を見ていて、けれど覚えているのはただ、恐怖という感情のみ。一人でいることに耐えられず、ふらりと自室をあとにした。
慰めてほしい、なんて、あんまりな理由だけど、向かう先など一つしかない。けれど一応、悪魔も寝静まる夜中だし、もしも一度のノックで反応がなかった場合は、一人でラウンジにでも居ようとも思っていたのは確かだ。
しかし。
そんな私の意に反して、その扉はノックする前に開いた。
「ルシ、ファー、」
「こんな時間にどうした」
「あのっ…」
そこまで言って、その先が口に出せなかった。言ってしまったら、ここでない何処かに…連れ戻される気がして。口を開いては閉じ。はく、と言葉を探していると、ふ、とルシファーの息遣いが耳に届いて柔らかく背中を取られた。
「そんなところで突っ立っていないで、入れ」
それはどれほど私を安心させる台詞だろうか。こくりと頷けばそのままソファーに誘導される。ここはルシファーの領域だ。ここまでこれば、誰も追ってはこられない。そこでやっと、ひゅっと息を吐きながら口にできたのは、あまりにも幼稚な理由だった。
「怖い夢、見た…っ」
「はは…お前は俺たちのような悪魔を怖がらない癖に、夢を怖いと言うのか?」
案の定ルシファーはそれを笑い話にしてくれようとしたが、続く言葉に少しだけ息遣いがへんかした。
「っ…だって、一番怖いのは、ヒト、だから」
欲に支配されたら、ヒトはなんだってできてしまう。齢ウン千年の悪魔とは違って、ヒトはすぐに欲に負ける。抗うことも律することも難しいのだ…まぁそう言って逃げていては人間界は混沌なので、大抵の人はどうにかこうにか抑えているわけだけれど。そういうヒトは大きな欲がないだけのような気もしている。
カタカタ震える私を見て、何か思うところがあったのか、ルシファーは緩めた口元を引き締めると私の身体を自分に引き寄せ、ギュッと抱きしめた。ルシファーの体温を感じ、鼓動を享受すれば、少しずつ落ち着き始める私の心臓。
静かな部屋に、二人の吐息が静かに静かに、落ちてゆく。
「…夢の中でも」
「ん…」
「俺を呼べ」
「っ、」
「お前は俺のマスターだろう?どこにだって、喚び出してみせろ」
「…!……っふふ…傲慢…っ」
「司っているものは伊達じゃないぞ?」
「うん、でも、そうだね。ルシファーがいてくれたら、もう一度眠るのも怖くないや」
「ああそうだ。だからゆっくり寝れ」
「ぅん…ありがとう」
「また夢の中で会おう」
「るし…ふ…ぁぃに、き、て…ね…」
だんだんと舌足らずになる私に対しておやすみ、と、柔らかく触れた唇は意識を深淵へと誘った。
寝ても覚めても、あなたといたい。
慰めてほしい、なんて、あんまりな理由だけど、向かう先など一つしかない。けれど一応、悪魔も寝静まる夜中だし、もしも一度のノックで反応がなかった場合は、一人でラウンジにでも居ようとも思っていたのは確かだ。
しかし。
そんな私の意に反して、その扉はノックする前に開いた。
「ルシ、ファー、」
「こんな時間にどうした」
「あのっ…」
そこまで言って、その先が口に出せなかった。言ってしまったら、ここでない何処かに…連れ戻される気がして。口を開いては閉じ。はく、と言葉を探していると、ふ、とルシファーの息遣いが耳に届いて柔らかく背中を取られた。
「そんなところで突っ立っていないで、入れ」
それはどれほど私を安心させる台詞だろうか。こくりと頷けばそのままソファーに誘導される。ここはルシファーの領域だ。ここまでこれば、誰も追ってはこられない。そこでやっと、ひゅっと息を吐きながら口にできたのは、あまりにも幼稚な理由だった。
「怖い夢、見た…っ」
「はは…お前は俺たちのような悪魔を怖がらない癖に、夢を怖いと言うのか?」
案の定ルシファーはそれを笑い話にしてくれようとしたが、続く言葉に少しだけ息遣いがへんかした。
「っ…だって、一番怖いのは、ヒト、だから」
欲に支配されたら、ヒトはなんだってできてしまう。齢ウン千年の悪魔とは違って、ヒトはすぐに欲に負ける。抗うことも律することも難しいのだ…まぁそう言って逃げていては人間界は混沌なので、大抵の人はどうにかこうにか抑えているわけだけれど。そういうヒトは大きな欲がないだけのような気もしている。
カタカタ震える私を見て、何か思うところがあったのか、ルシファーは緩めた口元を引き締めると私の身体を自分に引き寄せ、ギュッと抱きしめた。ルシファーの体温を感じ、鼓動を享受すれば、少しずつ落ち着き始める私の心臓。
静かな部屋に、二人の吐息が静かに静かに、落ちてゆく。
「…夢の中でも」
「ん…」
「俺を呼べ」
「っ、」
「お前は俺のマスターだろう?どこにだって、喚び出してみせろ」
「…!……っふふ…傲慢…っ」
「司っているものは伊達じゃないぞ?」
「うん、でも、そうだね。ルシファーがいてくれたら、もう一度眠るのも怖くないや」
「ああそうだ。だからゆっくり寝れ」
「ぅん…ありがとう」
「また夢の中で会おう」
「るし…ふ…ぁぃに、き、て…ね…」
だんだんと舌足らずになる私に対しておやすみ、と、柔らかく触れた唇は意識を深淵へと誘った。
寝ても覚めても、あなたといたい。