■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)

今日は珍しく書類仕事も残さず早めに帰宅することができた。故に彼女を部屋に呼び出して、夜も初めの頃からベッドの上で愛を囁いていたが、それもひと段落して微睡んでいたときのこと。なんの脈絡もなく彼女が『ルシファーって飄々として見えて意外とお盛んなんだね』と言うので少し驚いた。

俺はセックスは愛情表現の一つだと思っていたのだが、彼女曰く人間界ではいかがわしいものとする国もあるらしく、なるほど、文化とは難しいものだと思う。

「なにも子作りのためだけにするものじゃないだろう」
「子ッ…っ…ま、まぁそうなんだけど、なんだろ、愛情を伝えるのが上手くない民族もあるってことだよ」
「そういうものか」
「そういうものです!」
「……お前は俺とするのが嫌なのか」
「は?!いや…その…そんなこと…」

全然ないから困ってるの、なんて可愛い返事に口元が緩むのがわかった。

「私、自分がこんな風に素直になれると思ってなかったよ」

俺の腕の中でもぞもぞと動いた彼女はへへ、とはにかむ。無意識とは末恐ろしいが、愛した女のそんな表情を見て何も感じない男はいないと知った方がいいな。俺は今猛烈にお前を抱きたいよ。

俺の腕に添えられていた手を徐に取ると、その指先にキスを一つ。そのままばらばらと指をとり、一本一本に唇を寄せた。

「っ、な、なに…?ふふっ、どうしたの?ルシファー、王子様みたい」
「俺はどうあがいても悪魔だが?」
「そ、れはそうだけど…」
「いいか」
「ぇ…」
「お前は、この指先、いや、爪の先まで俺のものだ」
「ッ、」
「大切にしろよ?ああ、もちろん誰にも傷つけさせやしない」
「わ、たし、は、」
「なにか言いたいことでも?」

ここで反論が出るとは思わず、素直に気になって聞き返せば、上目遣いのその双眸が俺を捉えた。不覚にもドキリと胸が波打つ。

「わたしは、ものじゃ、ないっ」
「…は……ハハッ…なにを言うかと思えば…ッククッ!…たしかにそうだな」

たっぷりと間をとって、期待の眼差しには本音で応えようじゃないか。

「そうだ、お前は、この俺を虜にした唯一の」

愛しい恋人だよ、と耳に囁くと同時に、今度はそこに軽く口付けを贈る。そしてそのまま告げたのは。

「それで?そんな素振りを見せると言うことは、俺はもう一度お前を味わってもいいと言うことか?」
「へっ…!?」
「異論は認めないがな」
「なっ、わがまま!」
「褒め言葉だな」
「んもぅ…かなわないよ…」

ゆっくり閉じた瞼に、俺の極上の笑みはさて、映っただろうか。
お前が望むなら、何だってくれてやる。
だからお前も、全て俺に捧げて、ここまで堕ちてこい。

夜はまだまだ、長いんだ。
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