■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)

ふと意識が覚醒すると、ここがどこだか確認するよりも先に隣で眠っている悪魔の存在に心が温かくなる。
広いベットの中央に寄り添うように二人、シーツの狭間で眠っていた夜も明けたようだ。
ルシファーの腕の中で目を覚ますのはとても心地がいい。
けれど、これだけの幸せをもらっていると、稀に、本当に極稀に、私の他にもこの腕に抱かれて夜を過ごした者がきっといたんだろうなと寂しくなる時もあったりして、人の心は忙しないなと苦笑する。
今日も思い出したようにそんな気持ちが湧き上がって、キュゥと苦しく心が鳴いたので、それを隠すようにルシファーの胸に擦り寄ると、眠気眼のルシファーが『どうした……?』と声をかけてきた。

「あ、ごめん……起こしちゃった……」
「いや、いい……それより……珍しい、今朝は甘えたい気分なのか」
「っ……まぁ……そんなとこ……」
「歯切れが悪いな。気になることがあるなら言え。お前になら何を言われたって怒りはしない」

そんな風に優しい言葉をかけられた上に、ルシファーからもぎゅっと抱きしめ返されたら、なんだか自分一人で抱えているのも馬鹿らしくなってきて、ちょっとだけ素直になってみようかと震える唇を開いた。

「っ……聞きたくないけど……知りたいことが、あって」
「ククッ……なんだそれは」
「こんなこと、聞くのも、なんだか重いみたいでちょっと気がひけるんだけど」

背中を行ったり来たりする手に安心をもらって、前置きもそこそこに、確信に触れる。

「ルシファーって今までこういう……ベッドとか……その、経験、あるの?」
「……そう言うことか。まぁ、そうだな。俺も長年生きてきたから、経験が全くないわけじゃない」
「……だよね」
「そんな顔をするな」
「自分で聞いといてなんだけど、ルシファーと一緒に眠った女の人が他にもいるのは…なんかいやだなって……ごめん」
「謝ることじゃない。それから話は最後まで聞け。俺は、経験が全くないわけではないが、あくまでそれは相手の誘いに乗ってやったと言うだけだ」
「?」
「つまりだな……自分から求めたのは、お前が初めてだよ」
「え……っわ!?」

その言葉と同時に、両脇に手を差し込まれたと思ったら、私の身体を軽々持ち上げたルシファーはころりと反転して私を自分の上に乗せた。
見下ろした先のルシファーの表情は、いつになく柔和でトクンと胸が跳ねる。
その手が私の頬を撫で、親指がスリと目の下をなぞる。

「んっ、何……?」
「目が腫れてるな……昨日も随分啼かせた」
「っ!い、言わなくていいよっ」
「善がってもらえるのは男冥利に尽きる」
「も、だから良いったら!」

あまりの恥ずかしさに使っていなかった枕を手に取ってルシファーの顔に押し付ければ、とても楽しそうな笑い声が上がって悔しい。なんだかあんなことで悩んでいた自分が不憫だとムゥと頬を膨らませるも、こんなことをしていても仕方ないのでそれを退ければ、反撃開始とばかりに伸びてきた腕に捉えられ、そのままグッと顔を引かれた。その先にあるのはもちろん唇で、触れただけでは終わらず、ツンと舌が唇を突く。唇の端っこを親指で開けさせられては抗えるはずもなく、クチュリ、音を立てて忍び込む舌を受け入れる以外の道はない。

「ん、ぁ、ぅ」
「ンっ、はぁ、」

まだまだ上手くキスができない私をリードするかの如く咥内を動くルシファーの舌に捕らわれて、絡まったそれはちゅぷっと可愛い音を立てる。しかし音に反して行為は卑猥そのもので、角度を変えては唇を食み、どちらともない唾液が飲み下しきれずに滴っていく。それでも離れることなどできなくて、与えられるがままにキスを享受する。言葉もなしに愛情が全身に流れ込んでくる。気持ちがいい。何も考えられなくなるーーーと、するりと私の背骨を辿ったルシファーの指が、昨晩やっとのことで履かせてもらったショーツの端をまた捉えて引っ張った。そこで、ビクリと跳ねた身体が、私を現実に引き戻す。

「っ、ん、ゃン、ルシ、んんっ、やめ、」
「ん……なんだ、ここまでしておいてお預けか?」
「っだ、って、今何時……!?」
「そんなこと気にするな。今日はお前も俺も朝食当番じゃないだろう、後で連絡でもすればいい」
「っ……そんな……、……ルシファーって、たまに子供みたいになるよね……」
「そうか?……じゃあ遊んでもらおうか」
「は!?」
「どんな遊びをしてくれるんだ、お前は、俺と」

上がった口角は、私を逃がすつもりはさらさらないのだと楽しげに歪む。
こんな大きな悪魔が子供だったとしたら、あやすことすら難しいだろう。
それでもルシファーが私と過ごしたいと言うのなら、断るなんて選択肢があるわけもなくて。
自然と綻んでしまう頬で、私が何を考えてるかなんて全部全部筒抜けだろうから、一言だけ。

「ルシファーの気の向くままに、愛して」

そう告げると、一瞬キョトンとして、それから目元が緩んで。
『仰せのままに』と言うが早いかまた唇が重なった。

魔界の夜は明けても明けない。
朝とはきっと、私とルシファーがベッドの上にいることをやめる、その時点のことを言うんだよ。
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