■2022/5〜の読み切りログ(ルシファー)
月もない真っ暗な夜だ。ぼんやりと仄明かるいライトだけが部屋を照らす。
隣の彼女は抱き潰してからずっとよく眠っている。どれだけ眺めていても呼吸も心音も速度は変わらないし、瞼が開くこともない。なんだかんだで思う存分見つめていられる機会はこういうときしかないので、髪先を指で弄びながら俺だけが知る秘密の時間を過ごす。
「ぅぅん……るしふぁ……」
「起きたのか?」
「ん……ぅ……」
こちらに擦り寄って悩ましげな声を上げたので声をかけたが、起きたのではないらしかった。口をむにゃむにゃさせたと思ったら、彼女はまた夢の中に旅立った。先程までは色香を滲ませながら喘いでいたというのに、今はといえば子どものようにあどけない表情で。嘘のような差異にふっと笑みが浮かぶ。
何も纏っていない彼女には、当然耳も尾もついておらず、こういうとき、どうしても種族のことを考えてしまう。
どれだけ寵愛のシルシを付けたって、土地のものを身体に取り入れたって、ヒトとして成熟してからこちらの世界で生きようとしても間に合わない部分は存在する。いわゆる人間界で生きるものたちよりは多少は長生きになるだろうが、根本的なところで獣人になりきることはできないのだ。
彼女の小さな身体を引き寄せてその背骨を辿って尾てい骨まで手を滑らせる。獣人であれば尾があるだろうそこをさすさすと撫でる。当たり前だがつるんとしているそこに、柄にもなく臆病な部分が顔を覗かせた。
「先に、逝かないでくれ」
普段は絶対に外に出さない気持ち。口にすれば止めどなく溢れる想い。
「こんなに好きにならせておいて、俺を虜にしておいて、一人で消えていくなんて、許さないからな」
不安をかき消すように温もりを強く引き寄せて、擦り寄った。寵愛のシルシを刻んだ番の、存在、香り、気配、そう言ったものが俺の中に流れ込んできて、少しだけ落ち着いた心。
「好きだ。愛してる。おまえだけを、この先もずっと」
囁いて、髪に触れるだけのキスを落とすと、瞼を閉じた。夢の中に出てきた彼女に、愛してると言葉をもらった気がしたのは、気のせいではないと願う。
(口付けるのに理由なんていらないのに)
隣の彼女は抱き潰してからずっとよく眠っている。どれだけ眺めていても呼吸も心音も速度は変わらないし、瞼が開くこともない。なんだかんだで思う存分見つめていられる機会はこういうときしかないので、髪先を指で弄びながら俺だけが知る秘密の時間を過ごす。
「ぅぅん……るしふぁ……」
「起きたのか?」
「ん……ぅ……」
こちらに擦り寄って悩ましげな声を上げたので声をかけたが、起きたのではないらしかった。口をむにゃむにゃさせたと思ったら、彼女はまた夢の中に旅立った。先程までは色香を滲ませながら喘いでいたというのに、今はといえば子どものようにあどけない表情で。嘘のような差異にふっと笑みが浮かぶ。
何も纏っていない彼女には、当然耳も尾もついておらず、こういうとき、どうしても種族のことを考えてしまう。
どれだけ寵愛のシルシを付けたって、土地のものを身体に取り入れたって、ヒトとして成熟してからこちらの世界で生きようとしても間に合わない部分は存在する。いわゆる人間界で生きるものたちよりは多少は長生きになるだろうが、根本的なところで獣人になりきることはできないのだ。
彼女の小さな身体を引き寄せてその背骨を辿って尾てい骨まで手を滑らせる。獣人であれば尾があるだろうそこをさすさすと撫でる。当たり前だがつるんとしているそこに、柄にもなく臆病な部分が顔を覗かせた。
「先に、逝かないでくれ」
普段は絶対に外に出さない気持ち。口にすれば止めどなく溢れる想い。
「こんなに好きにならせておいて、俺を虜にしておいて、一人で消えていくなんて、許さないからな」
不安をかき消すように温もりを強く引き寄せて、擦り寄った。寵愛のシルシを刻んだ番の、存在、香り、気配、そう言ったものが俺の中に流れ込んできて、少しだけ落ち着いた心。
「好きだ。愛してる。おまえだけを、この先もずっと」
囁いて、髪に触れるだけのキスを落とすと、瞼を閉じた。夢の中に出てきた彼女に、愛してると言葉をもらった気がしたのは、気のせいではないと願う。
(口付けるのに理由なんていらないのに)