■読み切りログ(ルシファー以外)
バルバトスのことを考える時、彼女の中で一番初めに思い浮かぶのは、彼の背中だった。
立ち振る舞いは背面に現れるというのは彼女の持論だが、あながち間違いでもないし、彼の背中を追いかけていた時間が長いからと言われたらそれまでなのだけれど、その理由としては何か違うものもあるかと彼女は感じていた。彼女は、実のところ根っから乙女チックだ。だがそれを表立って見せたりはしないし、ラブコメのヒロインというよりもプラトニックラブに憧れる少し古風なところもある。その一方で私が一番バルバトスのこと好き、という気持ちもひた隠しに持ち合わせているしでなかなか難しい性格だったりする。追いかけて追いかけて、気づいたときには囲われて、いつのまにやら手中に収められていて。ずっと翻弄されっぱなしだ。
と、なぜ彼女の思考がこんなところまで飛んでいるのかといえば、彼女は今、バルバトスの腕の中から逃げ出せず、素っ裸でカチコチに固まっているからであった。大好きな背中ではなく、胸板に密着している。
(う、動けない……すごい力だ……)
彼女が魔王城に脚繁く通うようになってから、ゲストルームの一つが彼女の部屋としてあてがわれた。とてもじゃないけれどこんないいお部屋、と最初は断ったものの、やれ坊ちゃまのご意向だとか、やれわたくしの気持ちを無駄にされるのですかとか、しまいには、ディアボロからの申し出を断わるとでも?との外圧もあり、そこまで言うのならと受け入れた次第。
そういうことだったので、最近はバルバトスの部屋で会うこともあるにはあったが、夜になるとこちらの部屋に移動する方が増えていた。
ふかふかのベッドですることなんて一つしかないわけで、次期魔王の厚意に対して少しだけ罪悪感もあるのだが、バルバトスに言いくるめられて勝てるわけもなく。受け入れるしかない。そう、これは全て仕方のないことだ。
「……」
「ねぇバルバトス、起きてるでしょ……」
「お目覚めですか?」
「もぅ。私よりバルバトスのが遅く起きることなんてあるわけないと思った!全然動けないから服も着れないで困ってるのわかってるでしょっ」
「ここにいる間はわたくしがあなたのお世話をしてもいい約束ですから」
「それはそうだけど!私もお世話してもらうの好きだからいいんだけど!服は!自分で!着れ!ますっ!」
こんなやり取りをする二人の朝はとても早い。バルバトスの本職は執事なので当たり前だが、ひっそりとした空気の中で交わされる会話は、普段の生活の中でするやり取りと違いどこかくすぐったさもある。安直な言葉で言えば、恋人の時間、というやつなのだ。シーツの内でぎゅっとさらに引き寄せられたり、こそこそモゾモゾショーツやキャミをなんとか身につけたり。なんとも甘い。ピロートークしかり朝チュンしかり。
こんな時間は、バルバトスの頬だって、つい緩んでしまう。
「ふふ、」
「へ?な、なぁに、」
「いいえ、なんでもありません」
「?変なバルバトス」
誰も見たことがない、バルバトスのこんな表情を自然に受け取れるようになったことこそが変化なのかもしれない。
支度を終えて、二人、顔を見合わせるとたちあがる。
トクベツは終わり。「いつも」の始まりだ。
「あ、今日は、」
「しーっ。いいでしょう。その続きはモーニングティーを飲みながらお伺いしますよ。もちろんスコーンと甘いデザート付きで」
「やったぁ!」
「あなたのその表情を見ることができるのが、なによりの楽しみです」
一際優しく落とされた声に誘われて、彼女らはゲストルームを退出した。
(わたくしがいなくなったら生きていかれないほどに、わたくしに堕ちてきてくださいね。そのためにはもっともっといい関係にならなければ)
悪魔の中の悪魔、バルバトス。彼は、彼女を完全に独り占めするために、今日も一つ一つ外堀を埋めている。
(あなたとて本望でしょう?)
立ち振る舞いは背面に現れるというのは彼女の持論だが、あながち間違いでもないし、彼の背中を追いかけていた時間が長いからと言われたらそれまでなのだけれど、その理由としては何か違うものもあるかと彼女は感じていた。彼女は、実のところ根っから乙女チックだ。だがそれを表立って見せたりはしないし、ラブコメのヒロインというよりもプラトニックラブに憧れる少し古風なところもある。その一方で私が一番バルバトスのこと好き、という気持ちもひた隠しに持ち合わせているしでなかなか難しい性格だったりする。追いかけて追いかけて、気づいたときには囲われて、いつのまにやら手中に収められていて。ずっと翻弄されっぱなしだ。
と、なぜ彼女の思考がこんなところまで飛んでいるのかといえば、彼女は今、バルバトスの腕の中から逃げ出せず、素っ裸でカチコチに固まっているからであった。大好きな背中ではなく、胸板に密着している。
(う、動けない……すごい力だ……)
彼女が魔王城に脚繁く通うようになってから、ゲストルームの一つが彼女の部屋としてあてがわれた。とてもじゃないけれどこんないいお部屋、と最初は断ったものの、やれ坊ちゃまのご意向だとか、やれわたくしの気持ちを無駄にされるのですかとか、しまいには、ディアボロからの申し出を断わるとでも?との外圧もあり、そこまで言うのならと受け入れた次第。
そういうことだったので、最近はバルバトスの部屋で会うこともあるにはあったが、夜になるとこちらの部屋に移動する方が増えていた。
ふかふかのベッドですることなんて一つしかないわけで、次期魔王の厚意に対して少しだけ罪悪感もあるのだが、バルバトスに言いくるめられて勝てるわけもなく。受け入れるしかない。そう、これは全て仕方のないことだ。
「……」
「ねぇバルバトス、起きてるでしょ……」
「お目覚めですか?」
「もぅ。私よりバルバトスのが遅く起きることなんてあるわけないと思った!全然動けないから服も着れないで困ってるのわかってるでしょっ」
「ここにいる間はわたくしがあなたのお世話をしてもいい約束ですから」
「それはそうだけど!私もお世話してもらうの好きだからいいんだけど!服は!自分で!着れ!ますっ!」
こんなやり取りをする二人の朝はとても早い。バルバトスの本職は執事なので当たり前だが、ひっそりとした空気の中で交わされる会話は、普段の生活の中でするやり取りと違いどこかくすぐったさもある。安直な言葉で言えば、恋人の時間、というやつなのだ。シーツの内でぎゅっとさらに引き寄せられたり、こそこそモゾモゾショーツやキャミをなんとか身につけたり。なんとも甘い。ピロートークしかり朝チュンしかり。
こんな時間は、バルバトスの頬だって、つい緩んでしまう。
「ふふ、」
「へ?な、なぁに、」
「いいえ、なんでもありません」
「?変なバルバトス」
誰も見たことがない、バルバトスのこんな表情を自然に受け取れるようになったことこそが変化なのかもしれない。
支度を終えて、二人、顔を見合わせるとたちあがる。
トクベツは終わり。「いつも」の始まりだ。
「あ、今日は、」
「しーっ。いいでしょう。その続きはモーニングティーを飲みながらお伺いしますよ。もちろんスコーンと甘いデザート付きで」
「やったぁ!」
「あなたのその表情を見ることができるのが、なによりの楽しみです」
一際優しく落とされた声に誘われて、彼女らはゲストルームを退出した。
(わたくしがいなくなったら生きていかれないほどに、わたくしに堕ちてきてくださいね。そのためにはもっともっといい関係にならなければ)
悪魔の中の悪魔、バルバトス。彼は、彼女を完全に独り占めするために、今日も一つ一つ外堀を埋めている。
(あなたとて本望でしょう?)