■読み切りログ(ルシファー以外)
「この間デートしたときに見つけたんだけど」
そう言って手を差し出した彼女。その爪先は緑のマニキュアで綺麗に彩られていて、俺は湧き上がる感情を処理できず、目を見開いて固まった。
「サタンくん……?どうしたの?」
「、あ、いや……うん、似合ってる」
「それだけ?彼女が指先まで彼にお揃いにしてきたっていうのに」
ぷく、と頬を膨らませるその様が可愛らしくてどうしたらいいかわからなくなる。ただでさえ君といると感じたことがない気持ちに翻弄されてばかりなのに、と、並んで座っていたベッドにそのまま彼女を押し倒した。今度固まったのは彼女のほうで、俺はその上でわざとらしく優しく微笑む。それから投げ出されていた手を取ってまじまじと指先を見つめたあと、恭しくそこに口付けた。視線は彼女から逸らさない。数秒後、ポンっと音が立ったかと思うほど急激に、彼女は頬を染めた。
「っ、サタンくんっ!」
「ははっ!君の表情は本当にくるくる変わるな。猫みたいだ」
彼女はまだ俺を呼び捨てにすることに慣れない。他のみんなのことは呼び捨てにするのにどうして?と詰め寄ったら、顔を真っ赤にしながら『好きなひとの名前をそんな簡単に呼び捨てにできないよ……』と言っていた、あの頃に比べたらいい方だけど、未だ二人きりで、かつ、甘い雰囲気にならないと咄嗟には呼べないようだ。
「サタンくんはそうやってすぐ猫猫猫っていう……」
「君は猫が嫌いか?」
「そんなこと言ってない!私だって猫ちゃんは好きだよ。ただ、その、」
「?」
「……猫ちゃんのが気に入られてると思うと悔しい、です」
とんでもない爆弾を落とした上で、さらに彼女は、うるりと瞳を揺らして上目遣いで俺を見上げる。あまりに愛おしくて、言葉を発するよりさきに身体が動いた。
「ンッ」
「ん、ハッ、ンン……」
その間に彼女の手を取り、ベッドに縫い付ける。緑色のマニキュアがギュッと俺の手を握り返したことで、身体の中心がキュッと音を立てたのがわかった。これだ。この感覚。こうなったらもう離れることができなくなることは、何度かの経験上わかっている。握った手を自分の首に誘導して絡めさせると、今度は小さな身体を抱き上げて方向転換。きちんと枕の上に頭を預けさせてから唇を離す。
その頃には息も絶え絶えになった彼女の瞳に薄っすらと涙の膜が張っていて、目尻にも一つキスを落とした。涙すらも溢れてしまうのはいただけない。君は全部俺のものだ。
「っ、さた、ふ、ぁ」
「っはぁ……、ん、」
「んん……っ、ふぁ、心の狭い彼女でごめんね……」
「何を言ってるんだ。そんなに嬉しいことはないよ。君が他の兄弟や悪魔や天使の誰でもなく、この俺を選んでくれたことは、俺が一番嬉しく思ってるんだから」
「でも、」
「俺が嬉しいと言っているのに。君は俺のことを信じられない?」
「そんなこと……!」
「じゃあ何を困ってる?」
「……っ……わ、わらわない?」
会話の合間にも我慢できずに俺がキスをするものだから顔が逸らせず、もじもじと足を擦り合わせて抵抗にならない抵抗をする彼女。それはむしろ欲しがっているサインになっているのに。一方で口から発される本音は幼い子供のように純粋な、俺への愛情に満ちていて、一言一言が内側から俺に力を与えてくれる。これは憤怒の悪魔としての力とは全く逆の、この子を守りたいという、この子は俺だけのものだという、醜くも美しい独占欲だ。
「笑わないよ、誓って」
「……ッ、」
「ね、何を考えてるのか教えてほしいな」
「……わたし、猫ちゃんにできないことって思ったら、サタンくんとお揃いのものを増やすことくらいしか考え付かなかったの。前にわたしが、香水が好きで集めてるって話をしたとき、サタンくんは自分の使ってる香水をくれたでしょ?ああいうものをもっと増やしたい……それから、お揃いの……一緒に過ごした思い出も、たくさんたくさん、」
「この手に抱えきれないくらい」
「っ!」
なんて嬉しいことを。
それを聞いて俺がどう応えるかもわからずに躊躇っているとなると、もっともっと、教え込まなくちゃならないな。俺のこの気持ち。君への想い。嫉妬も、驕りも、なにもかも。知らなかったなんて言われたらたまらない。知って、さらに俺のことしか考えられなくなってもらわないと。
「ねぇ、」
「?どうしたのサタンくん」
「このお揃いのパーカー、これから脱がすことになるけど大丈夫かな」
「へ……ッ!!」
「俺もほしいんだ、たくさん、君が」
部屋着代わりのこのパーカーも、猫耳がついたお揃いのもの。これもデートのときに買った思い出のものだけど、華奢な彼女には少し大きく、ダボつくので脱がしやすいな、なんて思っていたことは口には出さないけど。
裾の方から手をさしいれて肌に指を這わすと、ンッ、と一つ吐息を漏らして俺を誘う彼女はきっと小悪魔と言ってもいいだろう。
「いい?」
囁きを耳に吹き込むと、ふるりと一度震えた彼女。きっと期待してくれていると思っていいんだよな?
一秒、二秒、三秒。
返事までの時間は殊更長く感じたが、暫く、小さな小さな、けれど俺にとってはとても大きな、可愛らしい声が響いて、そのまま俺たちはシーツの海に溺れた。
いつだってサタンくんの好きにしてほしい
そう言って手を差し出した彼女。その爪先は緑のマニキュアで綺麗に彩られていて、俺は湧き上がる感情を処理できず、目を見開いて固まった。
「サタンくん……?どうしたの?」
「、あ、いや……うん、似合ってる」
「それだけ?彼女が指先まで彼にお揃いにしてきたっていうのに」
ぷく、と頬を膨らませるその様が可愛らしくてどうしたらいいかわからなくなる。ただでさえ君といると感じたことがない気持ちに翻弄されてばかりなのに、と、並んで座っていたベッドにそのまま彼女を押し倒した。今度固まったのは彼女のほうで、俺はその上でわざとらしく優しく微笑む。それから投げ出されていた手を取ってまじまじと指先を見つめたあと、恭しくそこに口付けた。視線は彼女から逸らさない。数秒後、ポンっと音が立ったかと思うほど急激に、彼女は頬を染めた。
「っ、サタンくんっ!」
「ははっ!君の表情は本当にくるくる変わるな。猫みたいだ」
彼女はまだ俺を呼び捨てにすることに慣れない。他のみんなのことは呼び捨てにするのにどうして?と詰め寄ったら、顔を真っ赤にしながら『好きなひとの名前をそんな簡単に呼び捨てにできないよ……』と言っていた、あの頃に比べたらいい方だけど、未だ二人きりで、かつ、甘い雰囲気にならないと咄嗟には呼べないようだ。
「サタンくんはそうやってすぐ猫猫猫っていう……」
「君は猫が嫌いか?」
「そんなこと言ってない!私だって猫ちゃんは好きだよ。ただ、その、」
「?」
「……猫ちゃんのが気に入られてると思うと悔しい、です」
とんでもない爆弾を落とした上で、さらに彼女は、うるりと瞳を揺らして上目遣いで俺を見上げる。あまりに愛おしくて、言葉を発するよりさきに身体が動いた。
「ンッ」
「ん、ハッ、ンン……」
その間に彼女の手を取り、ベッドに縫い付ける。緑色のマニキュアがギュッと俺の手を握り返したことで、身体の中心がキュッと音を立てたのがわかった。これだ。この感覚。こうなったらもう離れることができなくなることは、何度かの経験上わかっている。握った手を自分の首に誘導して絡めさせると、今度は小さな身体を抱き上げて方向転換。きちんと枕の上に頭を預けさせてから唇を離す。
その頃には息も絶え絶えになった彼女の瞳に薄っすらと涙の膜が張っていて、目尻にも一つキスを落とした。涙すらも溢れてしまうのはいただけない。君は全部俺のものだ。
「っ、さた、ふ、ぁ」
「っはぁ……、ん、」
「んん……っ、ふぁ、心の狭い彼女でごめんね……」
「何を言ってるんだ。そんなに嬉しいことはないよ。君が他の兄弟や悪魔や天使の誰でもなく、この俺を選んでくれたことは、俺が一番嬉しく思ってるんだから」
「でも、」
「俺が嬉しいと言っているのに。君は俺のことを信じられない?」
「そんなこと……!」
「じゃあ何を困ってる?」
「……っ……わ、わらわない?」
会話の合間にも我慢できずに俺がキスをするものだから顔が逸らせず、もじもじと足を擦り合わせて抵抗にならない抵抗をする彼女。それはむしろ欲しがっているサインになっているのに。一方で口から発される本音は幼い子供のように純粋な、俺への愛情に満ちていて、一言一言が内側から俺に力を与えてくれる。これは憤怒の悪魔としての力とは全く逆の、この子を守りたいという、この子は俺だけのものだという、醜くも美しい独占欲だ。
「笑わないよ、誓って」
「……ッ、」
「ね、何を考えてるのか教えてほしいな」
「……わたし、猫ちゃんにできないことって思ったら、サタンくんとお揃いのものを増やすことくらいしか考え付かなかったの。前にわたしが、香水が好きで集めてるって話をしたとき、サタンくんは自分の使ってる香水をくれたでしょ?ああいうものをもっと増やしたい……それから、お揃いの……一緒に過ごした思い出も、たくさんたくさん、」
「この手に抱えきれないくらい」
「っ!」
なんて嬉しいことを。
それを聞いて俺がどう応えるかもわからずに躊躇っているとなると、もっともっと、教え込まなくちゃならないな。俺のこの気持ち。君への想い。嫉妬も、驕りも、なにもかも。知らなかったなんて言われたらたまらない。知って、さらに俺のことしか考えられなくなってもらわないと。
「ねぇ、」
「?どうしたのサタンくん」
「このお揃いのパーカー、これから脱がすことになるけど大丈夫かな」
「へ……ッ!!」
「俺もほしいんだ、たくさん、君が」
部屋着代わりのこのパーカーも、猫耳がついたお揃いのもの。これもデートのときに買った思い出のものだけど、華奢な彼女には少し大きく、ダボつくので脱がしやすいな、なんて思っていたことは口には出さないけど。
裾の方から手をさしいれて肌に指を這わすと、ンッ、と一つ吐息を漏らして俺を誘う彼女はきっと小悪魔と言ってもいいだろう。
「いい?」
囁きを耳に吹き込むと、ふるりと一度震えた彼女。きっと期待してくれていると思っていいんだよな?
一秒、二秒、三秒。
返事までの時間は殊更長く感じたが、暫く、小さな小さな、けれど俺にとってはとても大きな、可愛らしい声が響いて、そのまま俺たちはシーツの海に溺れた。
いつだってサタンくんの好きにしてほしい