■2022/5〜の読み切りログ(ルシファー)
嘆きの館のプラネタリウムは精巧だ。今日は一人でその人工の星空を見上げている。魔界にはいつでも真っ暗な空が広がっているのに、どうにも滑稽なことをしているなと私は一つ、笑みをこぼした。
ルシファーの誕生日が近づいてきて、どんどん落ち着かなくなってくる私を茶化す兄弟もここ数日はもういなくなった。最初こそみんなに揶揄われたけど、結果的には私がルシファーにどれだけ大きな感情を抱いているかをぶつけられただけで嫉妬どころか面倒になったそうだ。
そういうわけで今日の私は珍しくひとりぼっち。隣のミュージックルームにも誰もおらず、特に必要もなかったので電灯もつけなかったからオレンジ色のランプが壁に二つ燻っているだけ。元々薄暗いプラネタリウムのソファーを陣取ってぼーっとしていると、瞼の裏にはやっぱりルシファーの顔が浮かんできてどうにもならない。
「はぁ……ルシファー…………すきぃ……うう…………どうしたら伝わる……?わかんない……でもすき……すきすきすき……!!」
もう何度繰り返したか。でもそんなことを独り言で言ったって伝わらない。ああ今日もこのまま終わってしまうと絶望の気持ちで肩を落としたその時、ふっと部屋中の、否、私の周りから全ての光がなくなった。
「!?な、何!?」
私の頭は、なんで突然闇の中に落とされたみたいに真っ暗になったの?とプチパニック。それでもものの数秒で、こういうのって呪いとかそういうのなのかもと思い当たるあたり、随分と魔界慣れしたのかもしれない。
「夜闇ノ外套 」
「え、」
突如耳の横で低い、それでいて優しい音色が鼓膜を揺らし、次いでふわりと何かが私の身体を抱きしめ、スリッと頬を熱が掠めた。
怖いとか迷いとかそういう感情があったのはそれまでの一瞬だけで、その時にはもうそんなものはまるでなくなっていた。だから暗闇の中そちらを向いた私からは、その相手の腕に、胸に、顔に指を這わせ、手探りでキスを送る。
触れ合った唇は甘く、私はこの甘美な熱を骨の髄まで教え込まれているわけで、安心して身を委ねる。
暫くリップノイズが闇に響いたのち、吐息が交わる距離でルシファーは言うのだ。
「全部わかってる。大丈夫だ。心配するな」
そんな一言で全てを許された私は、ちょっとだけ泣きそうになりながら答えた。
「ルシファーのくれる言葉は、まるで魔法みたいだね」
「そんなたいそうなものじゃないが、事実、これは魔法だ」
「……どういうこと?」
「この闇は俺のコートが作り出した。これも一種の魔法具でな。対象から光を奪う」
「俺のコートって……いつも羽織ってるあれ?」
「そうだ。おまえ一人くらいなら、すっぽりおさめられる。おまえが言いたいことを全部俺に言うまではこのままでいよう。誰にも聞かせない。俺だけに教えてくれるな?」
こっくり深い暗闇のせいで未だにルシファーの表情を捉えることはできないけれど、こんな声色のときは、揺れる赤色の視線が悪魔らしからぬ慈しみをもって私に注がれているに違いない。
なんとなく、恥ずかしい。見えていないのが私だけかもと思うと尚更。
おかしな場所にぶつかったりしないようにゆっくりと、ルシファーの首に腕を絡めて引き寄せた。それから耳許で囁くように本音を語る。
「今から言うことは独り言なんだけど」
微かにルシファーの顔が動き、頷いたのを感じ取ると、話を続ける。
「最近ね、ルシファーのことを考えるとドキドキして胸が苦しくて。本当にきゅーって心臓が泣くの。ふとした瞬間にルシファーの顔が浮かんで離れなくなっちゃうし、ルシファー今なにしてるかなって考えちゃう。頭の中のルシファーと会話できるようになっちゃったから、毎日毎日ずーっと好きだよって言ってるよ」
「そうか。それで、おまえの頭の中の俺はそれになんて答えるんだ?」
「……本物ならなんて言ってくれるか知りたいな」
少しイジワルな返事だったかもしれないけど、ルシファーにだって私のことでいっぱいになってほしいという乙女心からくるものだから許して……と考えていたら、今度は逆に、私の耳に唇が触れて、そのまま息を吹き込まれた。
「愛してるよ」
「ふぁ!?」
「俺は以前、おまえにネックレスをつけてもらった時、おまえに鎖で繋がれたようだと言ったが」
「、ぅん?」
「同じくらい、おまえが俺から離れられなくなればいいなと思っている」
「そんなの、」
「そうだな。独り言を聞いたら、そんなものは杞憂だったなと思えたよ。おまえも俺にべったりだ」
「!」
「だが、もっとだ。全然足りない。俺なしでは生きられないくらいにもっと俺を求めろ」
ぎゅぅっと、二人の身体が一つになってしまうんじゃないかというくらい強く抱きしめられて、抱きしめ返して、今度は別の意味で胸がドキドキし始める。苦しい。好きっていう気持ちは、自分が考えていたよりもすごいパワーを持つ感情なんだなと改めて思い知らされる。鎮まることのない鼓動が心地よくすらあった。すっと静かに深呼吸をして伝える言葉なんてこれしかない。
「私は」
もう全部ルシファーのものだよ。
その瞬間暗闇が揺らいだのは、ルシファーが動揺していたからかもしれない。
ルシファーの誕生日が近づいてきて、どんどん落ち着かなくなってくる私を茶化す兄弟もここ数日はもういなくなった。最初こそみんなに揶揄われたけど、結果的には私がルシファーにどれだけ大きな感情を抱いているかをぶつけられただけで嫉妬どころか面倒になったそうだ。
そういうわけで今日の私は珍しくひとりぼっち。隣のミュージックルームにも誰もおらず、特に必要もなかったので電灯もつけなかったからオレンジ色のランプが壁に二つ燻っているだけ。元々薄暗いプラネタリウムのソファーを陣取ってぼーっとしていると、瞼の裏にはやっぱりルシファーの顔が浮かんできてどうにもならない。
「はぁ……ルシファー…………すきぃ……うう…………どうしたら伝わる……?わかんない……でもすき……すきすきすき……!!」
もう何度繰り返したか。でもそんなことを独り言で言ったって伝わらない。ああ今日もこのまま終わってしまうと絶望の気持ちで肩を落としたその時、ふっと部屋中の、否、私の周りから全ての光がなくなった。
「!?な、何!?」
私の頭は、なんで突然闇の中に落とされたみたいに真っ暗になったの?とプチパニック。それでもものの数秒で、こういうのって呪いとかそういうのなのかもと思い当たるあたり、随分と魔界慣れしたのかもしれない。
「
「え、」
突如耳の横で低い、それでいて優しい音色が鼓膜を揺らし、次いでふわりと何かが私の身体を抱きしめ、スリッと頬を熱が掠めた。
怖いとか迷いとかそういう感情があったのはそれまでの一瞬だけで、その時にはもうそんなものはまるでなくなっていた。だから暗闇の中そちらを向いた私からは、その相手の腕に、胸に、顔に指を這わせ、手探りでキスを送る。
触れ合った唇は甘く、私はこの甘美な熱を骨の髄まで教え込まれているわけで、安心して身を委ねる。
暫くリップノイズが闇に響いたのち、吐息が交わる距離でルシファーは言うのだ。
「全部わかってる。大丈夫だ。心配するな」
そんな一言で全てを許された私は、ちょっとだけ泣きそうになりながら答えた。
「ルシファーのくれる言葉は、まるで魔法みたいだね」
「そんなたいそうなものじゃないが、事実、これは魔法だ」
「……どういうこと?」
「この闇は俺のコートが作り出した。これも一種の魔法具でな。対象から光を奪う」
「俺のコートって……いつも羽織ってるあれ?」
「そうだ。おまえ一人くらいなら、すっぽりおさめられる。おまえが言いたいことを全部俺に言うまではこのままでいよう。誰にも聞かせない。俺だけに教えてくれるな?」
こっくり深い暗闇のせいで未だにルシファーの表情を捉えることはできないけれど、こんな声色のときは、揺れる赤色の視線が悪魔らしからぬ慈しみをもって私に注がれているに違いない。
なんとなく、恥ずかしい。見えていないのが私だけかもと思うと尚更。
おかしな場所にぶつかったりしないようにゆっくりと、ルシファーの首に腕を絡めて引き寄せた。それから耳許で囁くように本音を語る。
「今から言うことは独り言なんだけど」
微かにルシファーの顔が動き、頷いたのを感じ取ると、話を続ける。
「最近ね、ルシファーのことを考えるとドキドキして胸が苦しくて。本当にきゅーって心臓が泣くの。ふとした瞬間にルシファーの顔が浮かんで離れなくなっちゃうし、ルシファー今なにしてるかなって考えちゃう。頭の中のルシファーと会話できるようになっちゃったから、毎日毎日ずーっと好きだよって言ってるよ」
「そうか。それで、おまえの頭の中の俺はそれになんて答えるんだ?」
「……本物ならなんて言ってくれるか知りたいな」
少しイジワルな返事だったかもしれないけど、ルシファーにだって私のことでいっぱいになってほしいという乙女心からくるものだから許して……と考えていたら、今度は逆に、私の耳に唇が触れて、そのまま息を吹き込まれた。
「愛してるよ」
「ふぁ!?」
「俺は以前、おまえにネックレスをつけてもらった時、おまえに鎖で繋がれたようだと言ったが」
「、ぅん?」
「同じくらい、おまえが俺から離れられなくなればいいなと思っている」
「そんなの、」
「そうだな。独り言を聞いたら、そんなものは杞憂だったなと思えたよ。おまえも俺にべったりだ」
「!」
「だが、もっとだ。全然足りない。俺なしでは生きられないくらいにもっと俺を求めろ」
ぎゅぅっと、二人の身体が一つになってしまうんじゃないかというくらい強く抱きしめられて、抱きしめ返して、今度は別の意味で胸がドキドキし始める。苦しい。好きっていう気持ちは、自分が考えていたよりもすごいパワーを持つ感情なんだなと改めて思い知らされる。鎮まることのない鼓動が心地よくすらあった。すっと静かに深呼吸をして伝える言葉なんてこれしかない。
「私は」
もう全部ルシファーのものだよ。
その瞬間暗闇が揺らいだのは、ルシファーが動揺していたからかもしれない。