■2022/4までの読み切りログ(ルシファー)

「帰るまでお預けだ。…わかったな」

ルシファーにこんなことを言われた私は、このあとのお祭りの記憶が曖昧だ。

みんなでやって来た夏祭り会場。着いて早々にはぐれてしまった私たちは、結局花火を見終わるまで二人きりで祭りの空気を楽しんだ。一頻りデートを堪能してから皆に合流してからも、繋いだ手は離れないまま。大きなルシファーの手に引かれる私の手は、夜風に冷やされても熱を逃がせず火照っている。
嘆きの館に着けば、皆、自分のことで頭がいっぱいで、ベールは台所に向かい、アスモはデビグラを更新しながらバスルームへ行ったし、ベルフェはもちろん自室へ眠りにいった。その他のメンツもそれぞれ好き勝手。この悪魔たちは家族全員で行動することも多いが根本的に自由なのだ。だから私がサラリとルシファーの部屋へと誘われたって気づくものはいなかった。
ガチャリと扉が開いた先は、少しだけひんやりとした空気の中にルシファーの香りが満ちている。
扉を閉めると同時に私の身体をそこに囲ったルシファーは、いつもよりも緊張して固まった私の指先をほぐすように弄ぶ。

「お前が俺の恋人になって結構な月日が流れた。それなのにまだこんなに強張って」
「っ…だ、って、二人でいるとルシファー、急にこうやって、甘くなるんだもん…心臓がもたないよ」
「ふっ…そう思ってもらえてると知れただけでもいいとしようか」

弄ばれていた私の手は、いつのまにかルシファーの腕を掴むように誘導されていて、一方のルシファーの手は私の頬を滑って、私が顔をそらすことができないように顎を固定している。
ルシファーの、ガーネットみたいな真っ赤な瞳が私を捉えて。それだけで、逸らすなんて選択肢はとうの昔に消え失せているっていうのに。

「あの、ッ!」
「何も、喋るな」
「…!」

整った爪先が私の唇をなぞって、声を奪う。
ふに、と柔らかく刺激を与えられただけなのに、身体が、心が、大げさに跳ねて彼を求めた。

「お前はわかりやすいな…。眼を見れば全てわかる。何を想っているのか。何を欲しているのか」
「るしふ、ぁ、ンッ」
「ん、っ、ふ、」

いとも簡単に塞がれた唇に落ちてくるのは、濃厚な口付け。舌を絡めて、吸って、舐めて嬲って。甘く切ない快楽は背中を這ってふるりと私を女にさせる。
きゅっとルシファーの浴衣を掴んだのを合図に一旦唇が離れたと思えば、その流れで首筋に一つ赤い華を咲かせたルシファーは、それはそれは綺麗な笑みを浮かべて満足気に囁いた。

「いい子でお預けを待てた君にはご褒美を…だろう?」

帯を引かれたら浴衣がはらりと乱れるのは自然の理。
さっきはきちんと直してくれたのに、同じ手が今度は私を淫らにさせるのかと、煽られた恥辱に溺れた。

きっとずっと、私はこの悪魔の囁きに、抗うことなどできはしない。
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