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「ジェイド先輩、これ、」
「おや、枯れてしまったのですか」
おず、と差し出された手の中にあったのは、先日僕が彼女にお裾分けした花だった。
僕の部屋に遊びに来た時に、可愛い花ですね、とキラキラした瞳で見つめていたのを覚えていたのと、ちょうど小さなポットが余っていたのとで、そちらに一部を移し替えてプレゼントしたのだ。
「ごめんなさい…せっかくいただいたのにこんな風にしてしまって」
「命あるもの、いつかは枯れてしまうので、お気になさらず」
「でも」
「ああ、僕はそんな顔をさせるためにお裾分けしたんじゃないんです」
そうは言っても彼女が蝶の行く末を悲しむくらい不安定な心の持ち主であることは誰よりも僕が知っているはずだったのに、と、内心舌打ちをする。反省が少しだけ遅かったなと思いつつも差し出されたポットを受け取り、よく見ると、その花が小さな種をつけていたのが目に留まる。
「ここを見てください」
「え?」
「花が朽ちただけではなくて、遺してくれたようですよ」
「…あ…ほんとだ!」
「また咲かせましょう。今度は少し、時間がかかるかもしれませんが、ゆっくりと、たくさん」
ね、と首を傾げて語りかければやっと納得できた様子で下げていた眉が元に戻り、少し笑顔になった。髪を撫でながら、今度はポットではなくオンボロ寮の裏あたりの広い場所に、他の花の種と一緒に植えませんかと提案する。
「全て咲く頃には季節が巡っているかもしれませんが、それを待つのも、貴女となら楽しい時間でしょうから」
「そうですね。ジェイド先輩と一緒なら、きっと」
「たくさん咲いたらそこでお茶会をするのもいいですね」
「ふふ、素敵な案ですね。グリムのためにおやつもたくさん用意しなきゃ」
すると次の瞬間また陰ってしまった表情。
今度はどの一言が彼女の暗い部分を刺激してしまったのだろうか。不謹慎だけれど、僕の言葉一つ一つに翻弄される彼女を観察するのは嫌いではなかった。何かあればどろどろに甘やかして僕に縋り付かせて離れなくできる。それは僕にとって喉から手が出るほどに切望する未来なのだ。
だがしかし、そんな気持ちはお首にも出さず、逆に僕はあからさまに眉を下げて問いかける。
「そんな顔をしないでください。僕はまた何かしてしまいましたか…?申し訳ありません」
「あっ、ち、違うんです!すみません、これは、その!」
「理由を、お伺いしても?」
「あ…えと……そのころまで、私、ここにいられるのかな、って…思ったら…寂しくなって」
ああ、いたいけな彼女はまだこの世界から帰ることができると思っているらしい。そんなこと、僕がさせるわけがないのに。何があっても、何がなんでも、この世界に、僕に、繋ぎ止めて離すわけがないのに。
「…貴女が望むのなら、何があっても守りますよ、僕が」
本心をオブラートに包んでマイルドに表現してみせれば、彼女はキョトンとしてから、「そうでしたね。私ったら…また心配させてしまいました、ごめんなさい」と言った。
「ここに色とりどりの花が咲き乱れて、それで幸せなことばっかり起こるなら…ここがユートピアにちがいないですね」
そこで彼女は一旦言葉を切って、それから僕の方を向いて。さらに少しの後、ふにゃりと笑った。
「でも私は、ジェイド先輩さえいたらどこでも幸せだから、きっとずっとユートピアにいるんだと思います」
「…そうですか」
「はい!ツイステッドワンダーランドに連れてこられて右も左もわからなかった最初のころは怖くて怖くて仕方なかったけど、今はジェイド先輩がいるから、この世界は全然怖くないです」
「貴女の心の平穏に一役かえたのなら、それ以上嬉しいことはありません」
「でも…私は浮き沈みが激しいから、不安になるときもあるので、その時は…その、」
願望を言葉にすることはいまだに慣れない様子でモジモジと言葉を口の中で転がすだけの彼女は僕の庇護欲を誘ってやまない。
歪んでしまう口元をいつもの仕草で隠しつつ、ふふ、とわざとらしく笑い声を漏らした。
「貴女が望むなら、僕がどこへでも攫って差し上げますよ」
「!」
「その不安が消えるまで、ずっと傍にいると誓いましょう」
「いいんですか…?」
「ええもちろん。そこでは永遠に二人きり、ですよ」
そうだ。二人だけしか入ることのできない楽園を作ってしまいましょう。そうすれば心ゆくまで貴女を独り占めすることができる。
貴女は知らないだろう。僕のこの大きな独占欲の塊のことを。
今はまだ、知らなくてもいいんです。徐々に気づき始めた時には、貴女はもう僕しか見えなくなっているでしょうから。
「おや、枯れてしまったのですか」
おず、と差し出された手の中にあったのは、先日僕が彼女にお裾分けした花だった。
僕の部屋に遊びに来た時に、可愛い花ですね、とキラキラした瞳で見つめていたのを覚えていたのと、ちょうど小さなポットが余っていたのとで、そちらに一部を移し替えてプレゼントしたのだ。
「ごめんなさい…せっかくいただいたのにこんな風にしてしまって」
「命あるもの、いつかは枯れてしまうので、お気になさらず」
「でも」
「ああ、僕はそんな顔をさせるためにお裾分けしたんじゃないんです」
そうは言っても彼女が蝶の行く末を悲しむくらい不安定な心の持ち主であることは誰よりも僕が知っているはずだったのに、と、内心舌打ちをする。反省が少しだけ遅かったなと思いつつも差し出されたポットを受け取り、よく見ると、その花が小さな種をつけていたのが目に留まる。
「ここを見てください」
「え?」
「花が朽ちただけではなくて、遺してくれたようですよ」
「…あ…ほんとだ!」
「また咲かせましょう。今度は少し、時間がかかるかもしれませんが、ゆっくりと、たくさん」
ね、と首を傾げて語りかければやっと納得できた様子で下げていた眉が元に戻り、少し笑顔になった。髪を撫でながら、今度はポットではなくオンボロ寮の裏あたりの広い場所に、他の花の種と一緒に植えませんかと提案する。
「全て咲く頃には季節が巡っているかもしれませんが、それを待つのも、貴女となら楽しい時間でしょうから」
「そうですね。ジェイド先輩と一緒なら、きっと」
「たくさん咲いたらそこでお茶会をするのもいいですね」
「ふふ、素敵な案ですね。グリムのためにおやつもたくさん用意しなきゃ」
すると次の瞬間また陰ってしまった表情。
今度はどの一言が彼女の暗い部分を刺激してしまったのだろうか。不謹慎だけれど、僕の言葉一つ一つに翻弄される彼女を観察するのは嫌いではなかった。何かあればどろどろに甘やかして僕に縋り付かせて離れなくできる。それは僕にとって喉から手が出るほどに切望する未来なのだ。
だがしかし、そんな気持ちはお首にも出さず、逆に僕はあからさまに眉を下げて問いかける。
「そんな顔をしないでください。僕はまた何かしてしまいましたか…?申し訳ありません」
「あっ、ち、違うんです!すみません、これは、その!」
「理由を、お伺いしても?」
「あ…えと……そのころまで、私、ここにいられるのかな、って…思ったら…寂しくなって」
ああ、いたいけな彼女はまだこの世界から帰ることができると思っているらしい。そんなこと、僕がさせるわけがないのに。何があっても、何がなんでも、この世界に、僕に、繋ぎ止めて離すわけがないのに。
「…貴女が望むのなら、何があっても守りますよ、僕が」
本心をオブラートに包んでマイルドに表現してみせれば、彼女はキョトンとしてから、「そうでしたね。私ったら…また心配させてしまいました、ごめんなさい」と言った。
「ここに色とりどりの花が咲き乱れて、それで幸せなことばっかり起こるなら…ここがユートピアにちがいないですね」
そこで彼女は一旦言葉を切って、それから僕の方を向いて。さらに少しの後、ふにゃりと笑った。
「でも私は、ジェイド先輩さえいたらどこでも幸せだから、きっとずっとユートピアにいるんだと思います」
「…そうですか」
「はい!ツイステッドワンダーランドに連れてこられて右も左もわからなかった最初のころは怖くて怖くて仕方なかったけど、今はジェイド先輩がいるから、この世界は全然怖くないです」
「貴女の心の平穏に一役かえたのなら、それ以上嬉しいことはありません」
「でも…私は浮き沈みが激しいから、不安になるときもあるので、その時は…その、」
願望を言葉にすることはいまだに慣れない様子でモジモジと言葉を口の中で転がすだけの彼女は僕の庇護欲を誘ってやまない。
歪んでしまう口元をいつもの仕草で隠しつつ、ふふ、とわざとらしく笑い声を漏らした。
「貴女が望むなら、僕がどこへでも攫って差し上げますよ」
「!」
「その不安が消えるまで、ずっと傍にいると誓いましょう」
「いいんですか…?」
「ええもちろん。そこでは永遠に二人きり、ですよ」
そうだ。二人だけしか入ることのできない楽園を作ってしまいましょう。そうすれば心ゆくまで貴女を独り占めすることができる。
貴女は知らないだろう。僕のこの大きな独占欲の塊のことを。
今はまだ、知らなくてもいいんです。徐々に気づき始めた時には、貴女はもう僕しか見えなくなっているでしょうから。
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