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彼女が魔法を使えることがわかってから、暫く経った。…否、暫く、という言葉にそぐわないほどたくさんのことが起こった。僕らは結婚したり、事業を拡大したり、子供を授かったり…色々と経験したわけで。つまりその間に彼女にあらゆることを教えてみた僕もいたのだが、やはり使えると言っても所詮は僕の魔力の一部が移っただけなので、生まれながらの魔法士のように力があるわけではないようだとわかってきた。
それでも、その辺のものを宙に浮かせたり少しの距離を移動させたり…NRCの生徒からみたら赤ん坊のような力が普通の人間だった彼女からしたら大層嬉しいことだったらしく、あの時の夢がかなったと、普段からカメラを浮かせてはカシャカシャと撮って楽しんでいた。
そんな姿を見ていると、彼女をこの世界の住人に仕上げてしまった僕の責任も、少しだけ許されるようで安堵する。『本当に、帰れなくしてしまった』と、実際のところは、そんな自責の念もあったりしたから。
気持ちの上では彼女を離したりはしたくなかったが、それはこちらの気持ちだし、帰りたいと言われたら帰すしかないとはいつも思っていた…その時に本当に「返せるか」は別として。
そんなことを取り留めなく考えていた、その時、カシャリ、と耳に届いた音で遠い精神世界から戻された。
「アズールさん激写!」
そう言いながら、彼女はポラロイド写真をピラピラ振った。
「子供たちは?」
「浅瀬で遊んでます」
ほら、と指差した先には水を掛け合う双子が一組。何の因果か僕らの子供は男女の双子で、楽しい反面、育児は壮絶だ。
そんな本日は父の日。
プライマリースクールの授業のおかげか危惧していたようなことは起こらず、きちんと覚えられていたこの日、僕は朝から子供たちにもらった似顔絵というベタなプレゼントに涙したりと忙しかった。
実はあまりに期待しすぎてこの日は休みを入れていたので、もらうだけではと、対価…じゃなくお礼としてみなを連れて海に遊びにきたのだ。
故郷の海とはまるで違っても、この青を見るとなんだかセンチメンタルな気分になる。
そっと隣に並ぶ彼女を盗み見た刹那。
一陣の海風が吹き抜けて、彼女の髪を揺らした。地平線を見つめる瞳を縁取っているまつ毛はキラキラと輝いていて。僕が知っているよりも長くて。
あのとき。
彼女が僕の前から姿を消したあの時も、こんな風に海を見たなと、思い起こされたイメージに身体がぶるりと震えた。僕の元から彼女がいなくなってしまうような、そんな嫌なイメージが、また。
それを振り払うように腕を引いて、彼女の身体を掻き抱く。
『ワッ!』と小さな声がして。
時が、止まる。
「急に…どうしたんですか?」
「……」
「…もぅ、大丈夫ですよ。私はここにいます」
僕の不安を感じ取ったのか、ぽんぽんと、軽く背中を撫でられて、今度は恥ずかしくなって力を緩められなくなってしまう。
「アズール先輩」
「…っふ…久しぶりです、その呼び方を聞くの」
「そうですね。あれから随分経ちましたから。でも、私の気持ちは変わらなかった」
「…」
「アズール先輩、好きですよ。大好き。先輩が彼氏に、彼氏が旦那さんに、旦那さんがお父さんになっても、変わらず大好き。父の日、私も後から…個別にお祝いさせてくださいね」
「貴女からは、もらってばかりだ」
「私だって、たくさんもらってますから」
変わったことも、変わらなかったことも、全部この腕に抱いて、共に生きていく。
「僕も、貴女を」
愛していますよ、と。
言いながら唇を寄せたはずが、子供たちがジッとこちらを見上げているのに気づいてひっくり返ってしまった。
静かな海辺のロマンスが台無しだ。
でも家族で大笑いするのも、悪くない。
ロマンスは、また夜に仕切り直させてもらうことにして。
今はただ。
彼女と僕と、それから子供たちの。
未来に、光あれと、願うとしよう。
それでも、その辺のものを宙に浮かせたり少しの距離を移動させたり…NRCの生徒からみたら赤ん坊のような力が普通の人間だった彼女からしたら大層嬉しいことだったらしく、あの時の夢がかなったと、普段からカメラを浮かせてはカシャカシャと撮って楽しんでいた。
そんな姿を見ていると、彼女をこの世界の住人に仕上げてしまった僕の責任も、少しだけ許されるようで安堵する。『本当に、帰れなくしてしまった』と、実際のところは、そんな自責の念もあったりしたから。
気持ちの上では彼女を離したりはしたくなかったが、それはこちらの気持ちだし、帰りたいと言われたら帰すしかないとはいつも思っていた…その時に本当に「返せるか」は別として。
そんなことを取り留めなく考えていた、その時、カシャリ、と耳に届いた音で遠い精神世界から戻された。
「アズールさん激写!」
そう言いながら、彼女はポラロイド写真をピラピラ振った。
「子供たちは?」
「浅瀬で遊んでます」
ほら、と指差した先には水を掛け合う双子が一組。何の因果か僕らの子供は男女の双子で、楽しい反面、育児は壮絶だ。
そんな本日は父の日。
プライマリースクールの授業のおかげか危惧していたようなことは起こらず、きちんと覚えられていたこの日、僕は朝から子供たちにもらった似顔絵というベタなプレゼントに涙したりと忙しかった。
実はあまりに期待しすぎてこの日は休みを入れていたので、もらうだけではと、対価…じゃなくお礼としてみなを連れて海に遊びにきたのだ。
故郷の海とはまるで違っても、この青を見るとなんだかセンチメンタルな気分になる。
そっと隣に並ぶ彼女を盗み見た刹那。
一陣の海風が吹き抜けて、彼女の髪を揺らした。地平線を見つめる瞳を縁取っているまつ毛はキラキラと輝いていて。僕が知っているよりも長くて。
あのとき。
彼女が僕の前から姿を消したあの時も、こんな風に海を見たなと、思い起こされたイメージに身体がぶるりと震えた。僕の元から彼女がいなくなってしまうような、そんな嫌なイメージが、また。
それを振り払うように腕を引いて、彼女の身体を掻き抱く。
『ワッ!』と小さな声がして。
時が、止まる。
「急に…どうしたんですか?」
「……」
「…もぅ、大丈夫ですよ。私はここにいます」
僕の不安を感じ取ったのか、ぽんぽんと、軽く背中を撫でられて、今度は恥ずかしくなって力を緩められなくなってしまう。
「アズール先輩」
「…っふ…久しぶりです、その呼び方を聞くの」
「そうですね。あれから随分経ちましたから。でも、私の気持ちは変わらなかった」
「…」
「アズール先輩、好きですよ。大好き。先輩が彼氏に、彼氏が旦那さんに、旦那さんがお父さんになっても、変わらず大好き。父の日、私も後から…個別にお祝いさせてくださいね」
「貴女からは、もらってばかりだ」
「私だって、たくさんもらってますから」
変わったことも、変わらなかったことも、全部この腕に抱いて、共に生きていく。
「僕も、貴女を」
愛していますよ、と。
言いながら唇を寄せたはずが、子供たちがジッとこちらを見上げているのに気づいてひっくり返ってしまった。
静かな海辺のロマンスが台無しだ。
でも家族で大笑いするのも、悪くない。
ロマンスは、また夜に仕切り直させてもらうことにして。
今はただ。
彼女と僕と、それから子供たちの。
未来に、光あれと、願うとしよう。