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はじめて彼女と会った日、僕は恐らく長年してきたものと寸分違わない自己紹介をしたはずだ。
【ジェイド・リーチと申します。生まれは珊瑚の海、陸に上がってまだ二年ほどです。双子の兄弟のフロイドがいます。よろしくお願いします】
いつもいつもそうしてきた。隣にフロイドが並んでいて、「双子なんだ~!見間違えそう!」と言われるところまで、いつも同じだった。
だけれどそのたった一回の自己紹介で、彼女は僕を認識し、フロイドと間違えることはなかった。珍しいなと思った。興味が、沸いた。
「ジェイド先輩とフロイド先輩って似てなさそうで似てるからわかんなくなんねぇ?」
「ええ?全然違うじゃない。間違える意味がわかんない」
その言葉を聞いて、これまで感じたことのない気持ちが生まれたのを鮮明に覚えている。
はじめて名前を呼ばれたのはいつだったかと思い起こすと、恐らく、出会ってすぐだった。
背中側から、ジェイド先輩、と何も迷いなく呼び止められて、あの時は驚いた。
ああ、この、異世界からきた女の子は本当に僕らを見分けているのだと。
なので、彼女が一人でいたところを狙って尋ねることにした。
『こんにちは』と声を掛けると、ビクリと肩を震わせてこわごわ振り向いたところから、向こうは僕に認知されていることを知らなかったようだ。
「な、何か、御用ですか、ジェ…ジェイド先輩」
「…どうして、わかったんですか?」
「どうして?何がですか?」
「僕らは双子なので、一年次などは名前を間違えられることも多かったです。寮生でさえ間違えることもあったのに、貴女はたった一度で僕らを見分けたし、その後も、今も、間違えることもなかった。ですから、なぜ?と問いました」
そう言って彼女の瞳をのぞき込んだら、もともと大きな瞳をさらにくるりと見開いた。
それから逡巡して、ぽつり、呟く。
「理由には、触れないでほしい、デス…」
「…それはどうしてでしょう?」
「だって、それを知って、ジェイド先輩はどうしたいんですか…?」
「単なる興味です。僕は貴女のことが気になって仕方がないので」
「へ…?」
「貴女はとても面白い存在だ。僕はイレギュラーなことが好きなのです」
「…!?」
その反応を見て一つの答えが頭に浮かんだけれど、それを僕の口から本人に伝えるのは野暮だろうと思ったので、黙っておくことにしたのだが。
それから半年も経たない内に、彼女とこういう関係になるとは思いもよらなかったと、彼女を待つ。
雲一つない青空を見あげる僕の耳に届くのは。
「ジェイドせんぱーい!」
「ああ、おはようございます」
「お待たせしてごめんなさい!」
「いいえ、ほんの少し早くついてしまっただけですし。それに貴女を待つ時間も心が躍る楽しい時間です」
「っも…!先輩ってば…」
僕を見上げる愛しい彼女。
そっと手を取って口づけを一つしただけで顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
ああ可愛い。一生僕にだけ翻弄されていてほしい。そんなほの暗い気持ちは微塵も見せないけれど。
「さぁ、行きましょうか」
「はい!」
今日は山を愛する会の活動日。
二人きりのこの会で、目指すは景色が素晴らしいあの緑で覆われた空間。
思えば一眼見た時から、囚われていたのは僕だったのかもしれませんね。
ふと脚を止めると、繋いでいた手がぴんと張ってつんのめりそうになった彼女が、どうしました?と振り返る。
「先輩?」
「いえ…貴女が、眩しくて、今にもどこかにいなくなってしまうんではないかと」
「…私は、先輩が眩しくて眩しくて、いつも怖いですよ」
「僕は貴女を手放したりしません」
「はい、知ってます。でも、やっぱり、怖くて」
「いっそ閉じ込めてしまいたいくらい」
「ジェイド先輩と二人きりなら、全然、」
ぽすりと、倒れ込んできた小さな身体を抱きしめて、『それは光栄ですね、ではいつかそうしましょう。二人きりで、ね』と囁けば、絶対ですよと返された。
密やかに語られる僕の理想郷。もう逃さないと、心に決めたのは、こんなにも美しい陽射しの降り注ぐ中だった。
【ジェイド・リーチと申します。生まれは珊瑚の海、陸に上がってまだ二年ほどです。双子の兄弟のフロイドがいます。よろしくお願いします】
いつもいつもそうしてきた。隣にフロイドが並んでいて、「双子なんだ~!見間違えそう!」と言われるところまで、いつも同じだった。
だけれどそのたった一回の自己紹介で、彼女は僕を認識し、フロイドと間違えることはなかった。珍しいなと思った。興味が、沸いた。
「ジェイド先輩とフロイド先輩って似てなさそうで似てるからわかんなくなんねぇ?」
「ええ?全然違うじゃない。間違える意味がわかんない」
その言葉を聞いて、これまで感じたことのない気持ちが生まれたのを鮮明に覚えている。
はじめて名前を呼ばれたのはいつだったかと思い起こすと、恐らく、出会ってすぐだった。
背中側から、ジェイド先輩、と何も迷いなく呼び止められて、あの時は驚いた。
ああ、この、異世界からきた女の子は本当に僕らを見分けているのだと。
なので、彼女が一人でいたところを狙って尋ねることにした。
『こんにちは』と声を掛けると、ビクリと肩を震わせてこわごわ振り向いたところから、向こうは僕に認知されていることを知らなかったようだ。
「な、何か、御用ですか、ジェ…ジェイド先輩」
「…どうして、わかったんですか?」
「どうして?何がですか?」
「僕らは双子なので、一年次などは名前を間違えられることも多かったです。寮生でさえ間違えることもあったのに、貴女はたった一度で僕らを見分けたし、その後も、今も、間違えることもなかった。ですから、なぜ?と問いました」
そう言って彼女の瞳をのぞき込んだら、もともと大きな瞳をさらにくるりと見開いた。
それから逡巡して、ぽつり、呟く。
「理由には、触れないでほしい、デス…」
「…それはどうしてでしょう?」
「だって、それを知って、ジェイド先輩はどうしたいんですか…?」
「単なる興味です。僕は貴女のことが気になって仕方がないので」
「へ…?」
「貴女はとても面白い存在だ。僕はイレギュラーなことが好きなのです」
「…!?」
その反応を見て一つの答えが頭に浮かんだけれど、それを僕の口から本人に伝えるのは野暮だろうと思ったので、黙っておくことにしたのだが。
それから半年も経たない内に、彼女とこういう関係になるとは思いもよらなかったと、彼女を待つ。
雲一つない青空を見あげる僕の耳に届くのは。
「ジェイドせんぱーい!」
「ああ、おはようございます」
「お待たせしてごめんなさい!」
「いいえ、ほんの少し早くついてしまっただけですし。それに貴女を待つ時間も心が躍る楽しい時間です」
「っも…!先輩ってば…」
僕を見上げる愛しい彼女。
そっと手を取って口づけを一つしただけで顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
ああ可愛い。一生僕にだけ翻弄されていてほしい。そんなほの暗い気持ちは微塵も見せないけれど。
「さぁ、行きましょうか」
「はい!」
今日は山を愛する会の活動日。
二人きりのこの会で、目指すは景色が素晴らしいあの緑で覆われた空間。
思えば一眼見た時から、囚われていたのは僕だったのかもしれませんね。
ふと脚を止めると、繋いでいた手がぴんと張ってつんのめりそうになった彼女が、どうしました?と振り返る。
「先輩?」
「いえ…貴女が、眩しくて、今にもどこかにいなくなってしまうんではないかと」
「…私は、先輩が眩しくて眩しくて、いつも怖いですよ」
「僕は貴女を手放したりしません」
「はい、知ってます。でも、やっぱり、怖くて」
「いっそ閉じ込めてしまいたいくらい」
「ジェイド先輩と二人きりなら、全然、」
ぽすりと、倒れ込んできた小さな身体を抱きしめて、『それは光栄ですね、ではいつかそうしましょう。二人きりで、ね』と囁けば、絶対ですよと返された。
密やかに語られる僕の理想郷。もう逃さないと、心に決めたのは、こんなにも美しい陽射しの降り注ぐ中だった。