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飛行術。それは僕が唯一苦手とする科目。
けれどそんなことを言っていても、成績は勝手には上がらない。居残りをさせられてでもやるしか、ない。
それでも今日はいつもより少しだけ気合いが入っている。それは隣に彼女がいるから。
僕が居残り練習のためにグラウンドに出てきたのは三十分ほど前のことだ。凍てつく寒い季節が終わり、陽射しが暖かくなってきたからか芝生の上で本を広げたり寝転がる生徒も増えてきた。居残り姿 は教師に見せるのはうってつけだが、生徒に見せたいものではないので、少し顰めっ面になるのくらい許されるだろうか。
「はぁ…グラウンドではやりにくいですね」
そんなことを呟いた刹那目に飛び込んだのは、なんの警戒心もなく、他の男子校生と同じように芝生の上で微睡んでいる彼女の姿だった。
「…………はぁ!?!?」
驚いて近づけば、微睡むどころか完全に寝ている。ふざけるな、ここは狼の巣窟だぞ!?なにを暢気な!と彼女の顔を覗きこむ。
「……くっ…」
僕は、本当にこの顔に弱いようだ。心底幸せそうな表情でくぅくぅと寝息を立てている。こんなときこそグリムさんを腹にでも乗せておけばよいのに、当の魔物はどこにも見当たらない。大方いつも一緒にいるマブダチとやらとどこかの寮に遊びにいったのか。このまま彼女一人を寝かせておくわけにもいかない。
「貴女、こんなところで眠っていないで…起きてください」
「…ん…ぅ、」
そっとその肩をゆすればゆるりと瞼が開いた。まだまだ眠そうであるが、そのまま半身を抱き起す。
目を擦りながらも僕の姿を認めて、ほやんとした表情をする。
「あれぇ…なんでアズール先輩が…」
そんなことを言うものだから、手に持っていた箒を見せると、それを見てから僕に目を向けて、あぁだから体操着、と呟いた。
「先輩は本当にすごいですね…。努力家だぁ…」
その悪意のない一言が僕の琴線に触れ、さわさわと心を波立たせた。
「…そうですね、僕は努力家です。ですが僕は、努力すれば必ずできる、という話は好きではありませんし、信じてもいません」
「え…そ、うなんですね…?ごめんなさい…。でも、その…」
「それならなぜ努力をするのか、とでも言いたげですね?」
僕は眉を歪めながらもクスリと笑った。
「…失礼ながら、そう、思いました」
「ふふ、誠実な人だ。そういう疑問は嫌いじゃないですよ。…僕は、努力すれば必ず叶うともできるとも思いませんが、努力しないと何も始まらないことを、知っています」
「あ、」
「だから僕は努力を惜しみません。叶わなければ別のアプローチがいるだけでしょう。その際は、それを探るだけです」
「…疲れないんですか?」
「疲れる?なぜ。理想の自分になれるなら、これ以上楽しいことなどないでしょう?」
自分としては当たり前の理論を口にしたら、キョトンとした表情が返ってきておや?と首を傾げた。
「なにか?」
「いや…だからアズール先輩はなんでもできちゃうのかって思って」
「?今までの話聞いてました?やればできるとかそういうわけでは、」
「はい。先輩の理論は、多くの人にとっては理想で、でもできない人ばかりだと思うから。だからやっぱりすごいなって思います。もし、できたら、きっと…って思いだけじゃダメですよね。ただ、それが疲れちゃう時もあるはずです。だから疲れたら、先輩も少しくらい私のこと頼ってくださいね。できることは少ないですが」
「…まぁ、そうですね…。僕の常識は他人の常識ではない。物差しは皆異なります」
「なので、先輩がすごい、ってことは、誇っていいはずですよ。…私も、自分の『もし、できたら』っていう希望を、見過ごさないでいられるように、頑張りますね」
「…もし、もし、もしを重ねていったらいつの間にか幸せな人生になっているはずですから、やってみてください」
「それでできなくたって、叶うかもと思いつつ幸せのままに死ねるならそれもいいかもなぁ…」
「なにをバカなことを」
「な…バカって、」
「いいですか?夢や希望は寝てみるものじゃありません。起きているから見るんです。幸せになることを夢見ているなら、これでもかというくらいに目を見開きなさい」
さぁっと、僕の背中を押したのは南風。
飛び上がるでもなく、流されるでもなく。
風に靡く彼女の髪を左手でそっと押さえたら、あとは唇を寄せるだけ。
「貴女を幸せにするのは、この僕ですよ。とくと見つめて。一つも取りこぼさないことだ」
けれどそんなことを言っていても、成績は勝手には上がらない。居残りをさせられてでもやるしか、ない。
それでも今日はいつもより少しだけ気合いが入っている。それは隣に彼女がいるから。
僕が居残り練習のためにグラウンドに出てきたのは三十分ほど前のことだ。凍てつく寒い季節が終わり、陽射しが暖かくなってきたからか芝生の上で本を広げたり寝転がる生徒も増えてきた。
「はぁ…グラウンドではやりにくいですね」
そんなことを呟いた刹那目に飛び込んだのは、なんの警戒心もなく、他の男子校生と同じように芝生の上で微睡んでいる彼女の姿だった。
「…………はぁ!?!?」
驚いて近づけば、微睡むどころか完全に寝ている。ふざけるな、ここは狼の巣窟だぞ!?なにを暢気な!と彼女の顔を覗きこむ。
「……くっ…」
僕は、本当にこの顔に弱いようだ。心底幸せそうな表情でくぅくぅと寝息を立てている。こんなときこそグリムさんを腹にでも乗せておけばよいのに、当の魔物はどこにも見当たらない。大方いつも一緒にいるマブダチとやらとどこかの寮に遊びにいったのか。このまま彼女一人を寝かせておくわけにもいかない。
「貴女、こんなところで眠っていないで…起きてください」
「…ん…ぅ、」
そっとその肩をゆすればゆるりと瞼が開いた。まだまだ眠そうであるが、そのまま半身を抱き起す。
目を擦りながらも僕の姿を認めて、ほやんとした表情をする。
「あれぇ…なんでアズール先輩が…」
そんなことを言うものだから、手に持っていた箒を見せると、それを見てから僕に目を向けて、あぁだから体操着、と呟いた。
「先輩は本当にすごいですね…。努力家だぁ…」
その悪意のない一言が僕の琴線に触れ、さわさわと心を波立たせた。
「…そうですね、僕は努力家です。ですが僕は、努力すれば必ずできる、という話は好きではありませんし、信じてもいません」
「え…そ、うなんですね…?ごめんなさい…。でも、その…」
「それならなぜ努力をするのか、とでも言いたげですね?」
僕は眉を歪めながらもクスリと笑った。
「…失礼ながら、そう、思いました」
「ふふ、誠実な人だ。そういう疑問は嫌いじゃないですよ。…僕は、努力すれば必ず叶うともできるとも思いませんが、努力しないと何も始まらないことを、知っています」
「あ、」
「だから僕は努力を惜しみません。叶わなければ別のアプローチがいるだけでしょう。その際は、それを探るだけです」
「…疲れないんですか?」
「疲れる?なぜ。理想の自分になれるなら、これ以上楽しいことなどないでしょう?」
自分としては当たり前の理論を口にしたら、キョトンとした表情が返ってきておや?と首を傾げた。
「なにか?」
「いや…だからアズール先輩はなんでもできちゃうのかって思って」
「?今までの話聞いてました?やればできるとかそういうわけでは、」
「はい。先輩の理論は、多くの人にとっては理想で、でもできない人ばかりだと思うから。だからやっぱりすごいなって思います。もし、できたら、きっと…って思いだけじゃダメですよね。ただ、それが疲れちゃう時もあるはずです。だから疲れたら、先輩も少しくらい私のこと頼ってくださいね。できることは少ないですが」
「…まぁ、そうですね…。僕の常識は他人の常識ではない。物差しは皆異なります」
「なので、先輩がすごい、ってことは、誇っていいはずですよ。…私も、自分の『もし、できたら』っていう希望を、見過ごさないでいられるように、頑張りますね」
「…もし、もし、もしを重ねていったらいつの間にか幸せな人生になっているはずですから、やってみてください」
「それでできなくたって、叶うかもと思いつつ幸せのままに死ねるならそれもいいかもなぁ…」
「なにをバカなことを」
「な…バカって、」
「いいですか?夢や希望は寝てみるものじゃありません。起きているから見るんです。幸せになることを夢見ているなら、これでもかというくらいに目を見開きなさい」
さぁっと、僕の背中を押したのは南風。
飛び上がるでもなく、流されるでもなく。
風に靡く彼女の髪を左手でそっと押さえたら、あとは唇を寄せるだけ。
「貴女を幸せにするのは、この僕ですよ。とくと見つめて。一つも取りこぼさないことだ」