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「ええ…?デートでモストロ・ラウンジに来る人いるんですか?」
「なんですかその言い方は。イベントの時などは学園が一般の方にも解放されますから、当たり前のようにカップルもいらっしゃいますよ」
「えっ、そうなんですか!それは失礼しました…」
「わかってもらえればいいんですが、やはり一言めの台詞は聞き逃せませんね」
「だって…敷居が高いじゃないですか…」
彼女曰く、モストロ・ラウンジの雰囲気は紳士の社交場と銘打たれているだけあって気軽に足を踏み入れられないんじゃないかと言うことだった。
「では貴女も?」
「へ?私?」
「貴女も、このラウンジに来るのは、本当は」
嫌なんじゃないんですか、などと自分からは聞けず視線を下に落とす。すると彼女は何を思ったか、自分が食べるために頼んでいたのだろう新作のケーキにフォークを通した。こんな話の途中で何をと、不思議になって行動を見守る。すぐにその一口取ったものを僕の方に向けた。
「先輩は、私が何かの気の迷いでこんなことをしていると思いますか?」
「はい?」
話の意図がわからない。前後関係のない支離滅裂な会話。彼女はそんなことをするような人間ではないと思っていたのだが、考えたところでやはりわからず首を捻る。
「あの…それは、どういう?」
「とりあえず、この一口をどうぞ」
僕が決めたカロリー以上のものは口になんかしないことを知っているだろうに、なぜこんな時に限って食べろだなどと言うのだろう。答えを聞こうにも頑なに譲らない彼女。食べなければ答えてもらえないのだろう。これがジレンマというものか。仕方ない。
「食べれば、よいのでしょう」
回答が気になって仕方がないので、ヤケクソで口を開けば、にこりと微笑んだ彼女は、あーん、と言いながらフォークを差し出した。途端、僕は公衆の面前で何をしているんだろうと顔から火を出したがもう遅い。
口の中に入れられたケーキはもちろん甘く、即座に脳内で弾き出されたカロリーにどう対応するか考えることでこの恥ずかしさを吹き飛ばそうと試みる。
「私は、」
徐に彼女が言葉を発する。
「私は、一人じゃないから」
「は?」
「先輩がいるから、このお店には来たくて来ています」
「!」
「敷居が高いとは言いましたが、大事な人と過ごす時間に非日常を求める人は沢山いるわけで。そういう人たちにとってここはきっと、なくてはならない場所だと思います」
「でも、そうすると、貴女は、」
「私は、さっきも言ったけれど、先輩がいるからここに来ます。先輩は私の特別な人ですけど、先輩の日常はここにあるから、だんだんと私の日常もここにあるようになりました。一人で非日常の空間に来るにはとても勇気がいりますが二人で来るには心地良くて、二人でいる非日常がいつのまにか日常になったら、きっともっと素敵なことなんじゃないかなと思うので」
だから私は、モストロ・ラウンジも大好きですよ。
そう言って笑うものだから、カロリーのことなんてとっくにどこか頭の奥底にいってしまった。
じゃあ先程僕がケーキを食べさせられたのは?と聞くと、返事はこういうことだった。
「先輩に私の日常の味を知って欲しくて」
自分の店で提供するものの味を知らない支配人はいませんよ、とは言えなかった。
彼女の日常を味わえて幸せですよ、とは、もう少し後、二人きりになれたら伝えたいと思う。
「なんですかその言い方は。イベントの時などは学園が一般の方にも解放されますから、当たり前のようにカップルもいらっしゃいますよ」
「えっ、そうなんですか!それは失礼しました…」
「わかってもらえればいいんですが、やはり一言めの台詞は聞き逃せませんね」
「だって…敷居が高いじゃないですか…」
彼女曰く、モストロ・ラウンジの雰囲気は紳士の社交場と銘打たれているだけあって気軽に足を踏み入れられないんじゃないかと言うことだった。
「では貴女も?」
「へ?私?」
「貴女も、このラウンジに来るのは、本当は」
嫌なんじゃないんですか、などと自分からは聞けず視線を下に落とす。すると彼女は何を思ったか、自分が食べるために頼んでいたのだろう新作のケーキにフォークを通した。こんな話の途中で何をと、不思議になって行動を見守る。すぐにその一口取ったものを僕の方に向けた。
「先輩は、私が何かの気の迷いでこんなことをしていると思いますか?」
「はい?」
話の意図がわからない。前後関係のない支離滅裂な会話。彼女はそんなことをするような人間ではないと思っていたのだが、考えたところでやはりわからず首を捻る。
「あの…それは、どういう?」
「とりあえず、この一口をどうぞ」
僕が決めたカロリー以上のものは口になんかしないことを知っているだろうに、なぜこんな時に限って食べろだなどと言うのだろう。答えを聞こうにも頑なに譲らない彼女。食べなければ答えてもらえないのだろう。これがジレンマというものか。仕方ない。
「食べれば、よいのでしょう」
回答が気になって仕方がないので、ヤケクソで口を開けば、にこりと微笑んだ彼女は、あーん、と言いながらフォークを差し出した。途端、僕は公衆の面前で何をしているんだろうと顔から火を出したがもう遅い。
口の中に入れられたケーキはもちろん甘く、即座に脳内で弾き出されたカロリーにどう対応するか考えることでこの恥ずかしさを吹き飛ばそうと試みる。
「私は、」
徐に彼女が言葉を発する。
「私は、一人じゃないから」
「は?」
「先輩がいるから、このお店には来たくて来ています」
「!」
「敷居が高いとは言いましたが、大事な人と過ごす時間に非日常を求める人は沢山いるわけで。そういう人たちにとってここはきっと、なくてはならない場所だと思います」
「でも、そうすると、貴女は、」
「私は、さっきも言ったけれど、先輩がいるからここに来ます。先輩は私の特別な人ですけど、先輩の日常はここにあるから、だんだんと私の日常もここにあるようになりました。一人で非日常の空間に来るにはとても勇気がいりますが二人で来るには心地良くて、二人でいる非日常がいつのまにか日常になったら、きっともっと素敵なことなんじゃないかなと思うので」
だから私は、モストロ・ラウンジも大好きですよ。
そう言って笑うものだから、カロリーのことなんてとっくにどこか頭の奥底にいってしまった。
じゃあ先程僕がケーキを食べさせられたのは?と聞くと、返事はこういうことだった。
「先輩に私の日常の味を知って欲しくて」
自分の店で提供するものの味を知らない支配人はいませんよ、とは言えなかった。
彼女の日常を味わえて幸せですよ、とは、もう少し後、二人きりになれたら伝えたいと思う。