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暖かかったり寒かったり気温の変化が激しいこの時期。
花が咲き乱れた春が終わり、夏が近づいてくる。
散っていく最後の花を見つめながらふとジェイド先輩がこんなことを口にした。
「僕たち人魚にとっては、死というものはあまり身近ではないと思われがちですが」
「それは寿命がヒトよりも長いからですか?」
「そうですね。ただ、実はそうではなくて、幼いころから目の当たりにするものなのですよ」
「?」
ジェイド先輩曰く、海の中では稚魚のうちに亡くなってしまう命はとても多いのだという。かくいう彼らも、本当はたくさんの兄弟がいたところを、この年齢まで生き延びれたのが二人だけ…つまり、フロイド先輩とジェイド先輩だけだったとのことだ。
もともと双子として生まれたのだとばかり思っていたから、この言葉を聞いたとき、さぁっと北風のような冷たい何かが私の中を吹き抜けていったのを感じた。
それを悟ってか、海は思ったよりも過酷なのですよと、笑う先輩。
何でもないように話されるそれだったけれど、私には深く刺さる内容だった。
ヒトは、外敵に襲われて死ぬことはあまりない。
もちろん、不幸な事件事故に巻き込まれたり、家庭環境によって失われる幼い命がないとは言わないが、ごく一般的には自然や天敵に生命を脅かされるようなことはないはずだ。
「そう、だったんですね…。なんと言ったらいいのか…」
「ああ、悲しまないでください。正直なところ、物心つく程度まで育ったときに傍にいたのがフロイドしかいなかったので、あとの兄弟は顔すらしらないんです。薄情ですけれど」
「薄情だなんてそんな」
「両親にも生き残った強い子の典型例でこんなにも大きく成長して!とよく言われるんですよ」
ジェイド先輩のご両親も、子供の成長日記とかつけていたんだろうか。一人また一人と減っていく子供たちを前に、どんなことを感じていたんだろう。
私は…私だったら、自分が死んでしまいたくなるかもしれない。
だって、花びら一枚の命ですらこんなにも寂しくなるんだもの。
「命って、どれも儚いですね」
「ですが、その儚さが美しいとはよく言ったものですよ」
「…私の亡骸は、ジェイド先輩が拾ってくれますか?」
二人の間をさぁっと、今度は柔らかい風が吹き抜けていった。
それを聞いたジェイド先輩は眉を下げて困ったように笑って言った。
「そう…ですね。はい。貴女が永遠の眠りにつく、その時が来れば、僕が大切に弔いましょう。約束します」
「…それまでは、ずっと一緒?」
「もちろんです。傍に居させてくださいね」
「先輩、私が居なくなる前に居なくならないで。絶対…絶対…居なくならないで」
「ええ。もちろん」
ギュッと先輩に抱きつけば、先輩は私の身体をしっかりと抱き留めてくれる。
いつまで。
いつまで、こうしていられるのかな。
私の身体がなくなったら、そこを吹き抜けるのは春風のような優しいものであってほしい。
ううん。むしろ私がそんな風になろう。
ジェイド先輩の心にもしも寂しい気持ちがあったなら。私が優しく撫でて、全部攫っていくから。
花が咲き乱れた春が終わり、夏が近づいてくる。
散っていく最後の花を見つめながらふとジェイド先輩がこんなことを口にした。
「僕たち人魚にとっては、死というものはあまり身近ではないと思われがちですが」
「それは寿命がヒトよりも長いからですか?」
「そうですね。ただ、実はそうではなくて、幼いころから目の当たりにするものなのですよ」
「?」
ジェイド先輩曰く、海の中では稚魚のうちに亡くなってしまう命はとても多いのだという。かくいう彼らも、本当はたくさんの兄弟がいたところを、この年齢まで生き延びれたのが二人だけ…つまり、フロイド先輩とジェイド先輩だけだったとのことだ。
もともと双子として生まれたのだとばかり思っていたから、この言葉を聞いたとき、さぁっと北風のような冷たい何かが私の中を吹き抜けていったのを感じた。
それを悟ってか、海は思ったよりも過酷なのですよと、笑う先輩。
何でもないように話されるそれだったけれど、私には深く刺さる内容だった。
ヒトは、外敵に襲われて死ぬことはあまりない。
もちろん、不幸な事件事故に巻き込まれたり、家庭環境によって失われる幼い命がないとは言わないが、ごく一般的には自然や天敵に生命を脅かされるようなことはないはずだ。
「そう、だったんですね…。なんと言ったらいいのか…」
「ああ、悲しまないでください。正直なところ、物心つく程度まで育ったときに傍にいたのがフロイドしかいなかったので、あとの兄弟は顔すらしらないんです。薄情ですけれど」
「薄情だなんてそんな」
「両親にも生き残った強い子の典型例でこんなにも大きく成長して!とよく言われるんですよ」
ジェイド先輩のご両親も、子供の成長日記とかつけていたんだろうか。一人また一人と減っていく子供たちを前に、どんなことを感じていたんだろう。
私は…私だったら、自分が死んでしまいたくなるかもしれない。
だって、花びら一枚の命ですらこんなにも寂しくなるんだもの。
「命って、どれも儚いですね」
「ですが、その儚さが美しいとはよく言ったものですよ」
「…私の亡骸は、ジェイド先輩が拾ってくれますか?」
二人の間をさぁっと、今度は柔らかい風が吹き抜けていった。
それを聞いたジェイド先輩は眉を下げて困ったように笑って言った。
「そう…ですね。はい。貴女が永遠の眠りにつく、その時が来れば、僕が大切に弔いましょう。約束します」
「…それまでは、ずっと一緒?」
「もちろんです。傍に居させてくださいね」
「先輩、私が居なくなる前に居なくならないで。絶対…絶対…居なくならないで」
「ええ。もちろん」
ギュッと先輩に抱きつけば、先輩は私の身体をしっかりと抱き留めてくれる。
いつまで。
いつまで、こうしていられるのかな。
私の身体がなくなったら、そこを吹き抜けるのは春風のような優しいものであってほしい。
ううん。むしろ私がそんな風になろう。
ジェイド先輩の心にもしも寂しい気持ちがあったなら。私が優しく撫でて、全部攫っていくから。