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「降ってきちゃいましたねぇ…」
「山の天気は変わりやすいですからね。仕方ありません」
天気予報でもぴかぴか晴れマークがついていた上に降水確率は0%だったのに降り始めた雨。でも、空は青いし雲もない。これは俗に言う天気雨というやつだろう。
「すぐ止みますかねぇ」
「ええ、本降りではなさそうですから、恐らく」
「…こっちでも狐の嫁入りって言いますか?」
「狐…はあまり言いませんね。涙雨などとは言いますよ」
「へぇー」
「ほかには、悪魔の婚礼、とか」
「わぁ…。でも結婚式にまつわる言い回しなんですね。面白いな」
「ああ、それから天気雨は幸運の予兆とも」
「そうなんですか!じゃあ…これから山を降りるまでに何か新しい発見があるかもしれないですね!」
しとしと、しとしと。
雨は木々の葉の合間をぬって私たちに優しく降り注ぐ。こういう非常事態に対応できるように水を弾くウインドブレーカーを着てきたけれど、元々涼しいところに雨が降ってきたので寒さは弾き飛ばせなかったようだ。
くしゅんっと小さなくしゃみが出て、慌てて口を塞いだけれど、その音がジェイド先輩の耳に届いていないはずはなかった。
「少し寒いですね。この辺りにロッジがあればよかったのですが…」
「そうなんですよね。確かこの山、中腹には雨宿りできそうな場所ってなかったですもんね」
あはは…心配かけてごめんなさい、大丈夫ですから。
そう口にした直後にもくしゃみが一つ出てしまい、目をパチクリさせながら口を塞いだ。私の顔はきっと真っ赤だろう。恥ずかしい。小さな声で、ごめんなさい、と返すと、何をおっしゃいますかと微笑まれた。
「そうですね…せっかくのふたりきりですから、一つ、僕の秘密を教えて差し上げましょう」
「え?」
ジェイド先輩が自分のレインパーカーのジッパーを下げたと思ったら、人差し指の先っぽを口の前にあてて、内緒ですよ、と言った。
「この中、どうなっているか知りたいですか?」
「えっ?普通の洋服じゃないんですか?」
「それは…見た人にしかわかりません。どうです?気になりますか?」
ニコニコ笑顔で意味深な問い掛けをされて、勢いコクリと頷くと、ではこちらへ、と招かれた。一歩、二歩と近づいた途端、グイッと腕を取られて倒れこんだのは、そのパーカーの中だった。私が倒れる直前にパッと開かれたはずのパーカーは、倒れ込むと同時に同じようにパッと閉じられて視界は真っ暗。
ジェイド先輩と私の体格差では抵抗することもできない。
「わっ!なっ、」
「何が見つかりましたか?」
「えっ!?」
「僕の秘密、見つかりました?」
ああそういえば、見ないとわからないと言っていたっけ…でも、真っ暗で何も見えない。ただその分、嗅覚と聴覚が敏感になっているようだ。森の香りに混じるのは、ジェイド先輩の香り。サワサワしとしとと葉の音に混じるのは、トクトクと波打つジェイド先輩の心音。なんだかとても安心するし、暖かい。
「真っ暗でわからないんですけど、でも」
「でも?」
「ジェイド先輩でいっぱいにしてもらえますね、ここ…ここで雨宿りしてもいいですか?」
「ええ、もちろん。貴女専用の場所ですから」
そのときすでに雨は止んでいて、また木漏れ日が差し込んでいたなんて私は知らなかった。ジェイド先輩にぎゅっとして、私の五感全てを預け、その温もりを一身に感じていたから。
束の間の幸せは、ふたりぼっちの空間に。
きらきらほろほろと降り積もる。
「山の天気は変わりやすいですからね。仕方ありません」
天気予報でもぴかぴか晴れマークがついていた上に降水確率は0%だったのに降り始めた雨。でも、空は青いし雲もない。これは俗に言う天気雨というやつだろう。
「すぐ止みますかねぇ」
「ええ、本降りではなさそうですから、恐らく」
「…こっちでも狐の嫁入りって言いますか?」
「狐…はあまり言いませんね。涙雨などとは言いますよ」
「へぇー」
「ほかには、悪魔の婚礼、とか」
「わぁ…。でも結婚式にまつわる言い回しなんですね。面白いな」
「ああ、それから天気雨は幸運の予兆とも」
「そうなんですか!じゃあ…これから山を降りるまでに何か新しい発見があるかもしれないですね!」
しとしと、しとしと。
雨は木々の葉の合間をぬって私たちに優しく降り注ぐ。こういう非常事態に対応できるように水を弾くウインドブレーカーを着てきたけれど、元々涼しいところに雨が降ってきたので寒さは弾き飛ばせなかったようだ。
くしゅんっと小さなくしゃみが出て、慌てて口を塞いだけれど、その音がジェイド先輩の耳に届いていないはずはなかった。
「少し寒いですね。この辺りにロッジがあればよかったのですが…」
「そうなんですよね。確かこの山、中腹には雨宿りできそうな場所ってなかったですもんね」
あはは…心配かけてごめんなさい、大丈夫ですから。
そう口にした直後にもくしゃみが一つ出てしまい、目をパチクリさせながら口を塞いだ。私の顔はきっと真っ赤だろう。恥ずかしい。小さな声で、ごめんなさい、と返すと、何をおっしゃいますかと微笑まれた。
「そうですね…せっかくのふたりきりですから、一つ、僕の秘密を教えて差し上げましょう」
「え?」
ジェイド先輩が自分のレインパーカーのジッパーを下げたと思ったら、人差し指の先っぽを口の前にあてて、内緒ですよ、と言った。
「この中、どうなっているか知りたいですか?」
「えっ?普通の洋服じゃないんですか?」
「それは…見た人にしかわかりません。どうです?気になりますか?」
ニコニコ笑顔で意味深な問い掛けをされて、勢いコクリと頷くと、ではこちらへ、と招かれた。一歩、二歩と近づいた途端、グイッと腕を取られて倒れこんだのは、そのパーカーの中だった。私が倒れる直前にパッと開かれたはずのパーカーは、倒れ込むと同時に同じようにパッと閉じられて視界は真っ暗。
ジェイド先輩と私の体格差では抵抗することもできない。
「わっ!なっ、」
「何が見つかりましたか?」
「えっ!?」
「僕の秘密、見つかりました?」
ああそういえば、見ないとわからないと言っていたっけ…でも、真っ暗で何も見えない。ただその分、嗅覚と聴覚が敏感になっているようだ。森の香りに混じるのは、ジェイド先輩の香り。サワサワしとしとと葉の音に混じるのは、トクトクと波打つジェイド先輩の心音。なんだかとても安心するし、暖かい。
「真っ暗でわからないんですけど、でも」
「でも?」
「ジェイド先輩でいっぱいにしてもらえますね、ここ…ここで雨宿りしてもいいですか?」
「ええ、もちろん。貴女専用の場所ですから」
そのときすでに雨は止んでいて、また木漏れ日が差し込んでいたなんて私は知らなかった。ジェイド先輩にぎゅっとして、私の五感全てを預け、その温もりを一身に感じていたから。
束の間の幸せは、ふたりぼっちの空間に。
きらきらほろほろと降り積もる。