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凍てつく冬から春に移り変わるこの時期が、私はあまり好きではない。
全ての生命が一斉に芽吹き、葉を付け浮き足立つ代わりに、大地に付けた私の足からは力が奪われるような気がするから。
間違って欲しくないのは、春という季節自体は好きなのだ。花がたくさん咲き乱れているのを見るのは好きだし、寒いよりも暖かい方が好きだ。
ただちょっとだけ、力がなくなって、疲れたなと思うことが多くなるというだけで。自分の世界にいた時もそうだったので、何となく、このツイステッドワンダーランドでもそうなんだろうなと漠然と思っていた。
周りから目を背けたくなる、独りでこもりたくなる。明るい顔をした人々を恨むわけではないし、そうするのはお門違いなのは重々承知している。けれど見たくないものは見たくないし視界に入れたくない。本人たちに直接言うわけじゃないから許してほしい。
とにかく、そんな理由で誰にも話しかけられたくなくて動作や反応が鈍くなったりもする。気怠くて、何もしたくない。
だからお昼時もグリムをマブたちに押し付けて、私は一緒に食堂に行くのではなくてサムさんのお店で小さなサンドイッチを手に入れて、一人、中庭のベンチで暖かい陽差しを感じていた。
「………いーい気持ち…」
先にも言った通り、別に春という季節が嫌いなわけではないので、この暖かさも花の香りを含んだ風だって感じるのは好きだ。そよそよと私の髪を揺らす風は優しい。ゆっくりと瞳を閉じると瞼の上に陽を感じる。皮膚という薄い膜越しにキラキラと照らす太陽。
「落ち着く…脚がここに根付いちゃうな…」
少しだけ、眠ってしまおうか。そう思った瞬間だった。
キラキラが何かに遮られてしまい、突然天気でも悪くなったかと重い瞼をあげると。
「…アズール先輩…」
「失礼しました。息が止まっているのかと思うくらい微動だにしなかったので」
「なんで…」
正直、今はあまり会いたくなかったなとひとりごちたが、先輩を真正面から捉えると、なるほど、その様相は昼明けの授業が飛行術であることを物語っていた。時計を見ると、まだ昼休みが終わるまで二十分ほどある。
「先輩、準備が早いんですね」
「授業への態度は評価につながりますからね。遅れたりしないようにしなければ」
「はぁ、そうですか。さすがアズール先輩です」
それではこれでお話は終わりですね、とばかりにもう一度瞳を閉じようとすると、私の隣にストンと腰を下ろした先輩に、『なんで?』と再度言葉を投げた。
「せっかく貴女に会えたので、時間は有効に使わなければ」
「…今さっき、評価のために早く来たって言ってませんでした?」
「それはそれ。これはこれ、です。僕にとっては評価も貴女との時間も同じくらい大切なので」
評価と彼女との時間が同じとは、何ともすごい言葉だ。でも先輩はそんなことは気にしない。私も、それは先輩の中で何番目に重要なことなんですか、なんてことは聞かない。
「時間って言っても、あと十分くらいじゃないですか」
「それでも、眠る貴女に肩をかすくらいのことはできます」
言葉を交わすのはこれで最後だった。そっと、と背中に回された手で優しく引き寄せられて。『さぁ存分に眠ってください』なんていうものだから、ああ、この季節は力をくれもするのかな、と少しだけイメージが変わった。
暖かい陽射しは変わらず私を、私たちを包み込む。
「…先輩にだったら、どれだけでも力を奪われたって構わないのに…」
その言葉が、実際口に出されたのか、夢の中で呟かれたのかは、私にはわからなかった。
「疲れた時は言ってください。肩くらいは貸しますよ」
全ての生命が一斉に芽吹き、葉を付け浮き足立つ代わりに、大地に付けた私の足からは力が奪われるような気がするから。
間違って欲しくないのは、春という季節自体は好きなのだ。花がたくさん咲き乱れているのを見るのは好きだし、寒いよりも暖かい方が好きだ。
ただちょっとだけ、力がなくなって、疲れたなと思うことが多くなるというだけで。自分の世界にいた時もそうだったので、何となく、このツイステッドワンダーランドでもそうなんだろうなと漠然と思っていた。
周りから目を背けたくなる、独りでこもりたくなる。明るい顔をした人々を恨むわけではないし、そうするのはお門違いなのは重々承知している。けれど見たくないものは見たくないし視界に入れたくない。本人たちに直接言うわけじゃないから許してほしい。
とにかく、そんな理由で誰にも話しかけられたくなくて動作や反応が鈍くなったりもする。気怠くて、何もしたくない。
だからお昼時もグリムをマブたちに押し付けて、私は一緒に食堂に行くのではなくてサムさんのお店で小さなサンドイッチを手に入れて、一人、中庭のベンチで暖かい陽差しを感じていた。
「………いーい気持ち…」
先にも言った通り、別に春という季節が嫌いなわけではないので、この暖かさも花の香りを含んだ風だって感じるのは好きだ。そよそよと私の髪を揺らす風は優しい。ゆっくりと瞳を閉じると瞼の上に陽を感じる。皮膚という薄い膜越しにキラキラと照らす太陽。
「落ち着く…脚がここに根付いちゃうな…」
少しだけ、眠ってしまおうか。そう思った瞬間だった。
キラキラが何かに遮られてしまい、突然天気でも悪くなったかと重い瞼をあげると。
「…アズール先輩…」
「失礼しました。息が止まっているのかと思うくらい微動だにしなかったので」
「なんで…」
正直、今はあまり会いたくなかったなとひとりごちたが、先輩を真正面から捉えると、なるほど、その様相は昼明けの授業が飛行術であることを物語っていた。時計を見ると、まだ昼休みが終わるまで二十分ほどある。
「先輩、準備が早いんですね」
「授業への態度は評価につながりますからね。遅れたりしないようにしなければ」
「はぁ、そうですか。さすがアズール先輩です」
それではこれでお話は終わりですね、とばかりにもう一度瞳を閉じようとすると、私の隣にストンと腰を下ろした先輩に、『なんで?』と再度言葉を投げた。
「せっかく貴女に会えたので、時間は有効に使わなければ」
「…今さっき、評価のために早く来たって言ってませんでした?」
「それはそれ。これはこれ、です。僕にとっては評価も貴女との時間も同じくらい大切なので」
評価と彼女との時間が同じとは、何ともすごい言葉だ。でも先輩はそんなことは気にしない。私も、それは先輩の中で何番目に重要なことなんですか、なんてことは聞かない。
「時間って言っても、あと十分くらいじゃないですか」
「それでも、眠る貴女に肩をかすくらいのことはできます」
言葉を交わすのはこれで最後だった。そっと、と背中に回された手で優しく引き寄せられて。『さぁ存分に眠ってください』なんていうものだから、ああ、この季節は力をくれもするのかな、と少しだけイメージが変わった。
暖かい陽射しは変わらず私を、私たちを包み込む。
「…先輩にだったら、どれだけでも力を奪われたって構わないのに…」
その言葉が、実際口に出されたのか、夢の中で呟かれたのかは、私にはわからなかった。
「疲れた時は言ってください。肩くらいは貸しますよ」