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「…というわけです。だからこの暗号は『明日の二十時にA店で待つ』となる」
「あ~っ!そっかぁ…悔しい!近いところまできてたのに…!」
「ふふん!まだまだですね」
パズルや暗号、クイズをしてラウンジ開店までの時間を潰していたとある日の午後。
アズール先輩はさすが頭のキレが私とは段違いで、こういうパズルものはいつでも先を越されてしまう。
私もこういうものに強いと自負していたのだが、やっぱり勝てるわけがないみたいだ。
「暗号解読には一定のパターンがあります。それを見つければすぐですよ」
「でもなかなか見つからないから暗号になるんじゃないですか」
「それはもちろんそうですが、知っておいて損はありません。いつか作る側になるかもしれませんよ?」
「ええ…?そんなことあるかなぁ」
「何事も学びです。そうですね…一番簡単なのは、一文字ずらす方法ですかね」
そう言うと、先輩はこの世界の文字をすらすらと紙に書いた。
それを見てふと、あれ?私はこんな文字を今まで書いていたのか、と不思議に思ってぽろりと口に出す。
「そういえば、どうして私、これが読めるんだろう」
「おや、てっきり文字は同じものを利用していたのかと思ったのですが、違うんですか」
「たぶん…?うーん、どうだったっけ…」
「世界を跨いだときに何か細工されたのかもしれませんね。もしかすると話している言語だって違うのかもしれません」
「怖いこといわないでくださいよ…。でもそういえば、ナイトレイブンカレッジはいろんな国から生徒が来てますけど、みんな同じ言語が通じるんですね」
「これは、この国の共通語ですよ」
「あ、そうか。考えてみればエペルはちょっと訛ってたりするし、そういうものですか」
「ええ。というか貴女、この国の言葉を話せて読めるのはいいですが、自国の言葉は覚えているんですか?」
「えっ!?そ、そういわれると自信が……」
自分の持っていたペンを紙に乗せて、逡巡する。こういう時って何を書けばいいんだろう。
でも実際はただ迷っているだけではなく、本当に覚えていないのでは?と怖かったからかもしれない。
ちら、とアズール先輩の手元を見て、あ、そうか五十音があったなと、そこでやとほっとする。
「これです!あ、い、う、え、お!」
「ほぅ?それが貴女の国の言葉ですか?」
「はい!五十音って言って…あ~……た、たぶん…そう、だと、思う、かも?」
「何ですかその煮え切らない返事は」
「改めて考えてみたら、本当にこれが自分の国の言葉だって自信がですね……あはは…」
「何をそんな謙遜を。自信を持ちなさい。全部覚えているんだと、欲張ったことを言うくらいじゃないと困りますよ」
先輩なりの気遣いなのだろう、気にするなとわざと大きな溜め息をついて腕を組むその姿に少しだけ救われた。
「あ!えっと、そう、それで、この文字だと、ずらすってこういうことだ!」
ちょっとした悪戯心で、こんな場所を指差してみる。
さ [し] す せ そ
[か] き く け こ
先輩は読めないだろうから、意味も伝わっていないだろう。これは私だけがわかればいい暗号。
ふふっと微笑んでからアズール先輩を見ると、なぜか先輩は慌てて目を逸らして頬を赤らめた。
「え?な、何、で…?これ、分かるんですか?」
「っ、読めませんが、…貴女の考えそうなことくらいは、わかります…」
先輩の手元を見れば、私と同じように、ある文字にチェックがつけられている。
そっちは私も読めるわけで。
何だ、結局考えることは一つしかないんじゃないか。
「こんなの、暗号に、ならない…っ!」
「…ですがこれはこれでいいんじゃないでしょうか…似た者夫婦とも言いますし…」
なんて、そんな風にもっと恥ずかしいことを呟くものだから、どうしようもなくなって『この難し〜い暗号を解読できた記念日を祝わないと!』とよくわからないことを言いつつ席を立つ。
モストロ・ラウンジが開店する前に。
私だって香り高いブラックティーを一杯いただいてこの甘い空気を消化しなくっちゃ。
やっぱり私、先輩が隣にいてくれないと生きていけないかもしれない、なんて、大袈裟だけどそんなことすら思ってしまった。
「あ~っ!そっかぁ…悔しい!近いところまできてたのに…!」
「ふふん!まだまだですね」
パズルや暗号、クイズをしてラウンジ開店までの時間を潰していたとある日の午後。
アズール先輩はさすが頭のキレが私とは段違いで、こういうパズルものはいつでも先を越されてしまう。
私もこういうものに強いと自負していたのだが、やっぱり勝てるわけがないみたいだ。
「暗号解読には一定のパターンがあります。それを見つければすぐですよ」
「でもなかなか見つからないから暗号になるんじゃないですか」
「それはもちろんそうですが、知っておいて損はありません。いつか作る側になるかもしれませんよ?」
「ええ…?そんなことあるかなぁ」
「何事も学びです。そうですね…一番簡単なのは、一文字ずらす方法ですかね」
そう言うと、先輩はこの世界の文字をすらすらと紙に書いた。
それを見てふと、あれ?私はこんな文字を今まで書いていたのか、と不思議に思ってぽろりと口に出す。
「そういえば、どうして私、これが読めるんだろう」
「おや、てっきり文字は同じものを利用していたのかと思ったのですが、違うんですか」
「たぶん…?うーん、どうだったっけ…」
「世界を跨いだときに何か細工されたのかもしれませんね。もしかすると話している言語だって違うのかもしれません」
「怖いこといわないでくださいよ…。でもそういえば、ナイトレイブンカレッジはいろんな国から生徒が来てますけど、みんな同じ言語が通じるんですね」
「これは、この国の共通語ですよ」
「あ、そうか。考えてみればエペルはちょっと訛ってたりするし、そういうものですか」
「ええ。というか貴女、この国の言葉を話せて読めるのはいいですが、自国の言葉は覚えているんですか?」
「えっ!?そ、そういわれると自信が……」
自分の持っていたペンを紙に乗せて、逡巡する。こういう時って何を書けばいいんだろう。
でも実際はただ迷っているだけではなく、本当に覚えていないのでは?と怖かったからかもしれない。
ちら、とアズール先輩の手元を見て、あ、そうか五十音があったなと、そこでやとほっとする。
「これです!あ、い、う、え、お!」
「ほぅ?それが貴女の国の言葉ですか?」
「はい!五十音って言って…あ~……た、たぶん…そう、だと、思う、かも?」
「何ですかその煮え切らない返事は」
「改めて考えてみたら、本当にこれが自分の国の言葉だって自信がですね……あはは…」
「何をそんな謙遜を。自信を持ちなさい。全部覚えているんだと、欲張ったことを言うくらいじゃないと困りますよ」
先輩なりの気遣いなのだろう、気にするなとわざと大きな溜め息をついて腕を組むその姿に少しだけ救われた。
「あ!えっと、そう、それで、この文字だと、ずらすってこういうことだ!」
ちょっとした悪戯心で、こんな場所を指差してみる。
さ [し] す せ そ
[か] き く け こ
先輩は読めないだろうから、意味も伝わっていないだろう。これは私だけがわかればいい暗号。
ふふっと微笑んでからアズール先輩を見ると、なぜか先輩は慌てて目を逸らして頬を赤らめた。
「え?な、何、で…?これ、分かるんですか?」
「っ、読めませんが、…貴女の考えそうなことくらいは、わかります…」
先輩の手元を見れば、私と同じように、ある文字にチェックがつけられている。
そっちは私も読めるわけで。
何だ、結局考えることは一つしかないんじゃないか。
「こんなの、暗号に、ならない…っ!」
「…ですがこれはこれでいいんじゃないでしょうか…似た者夫婦とも言いますし…」
なんて、そんな風にもっと恥ずかしいことを呟くものだから、どうしようもなくなって『この難し〜い暗号を解読できた記念日を祝わないと!』とよくわからないことを言いつつ席を立つ。
モストロ・ラウンジが開店する前に。
私だって香り高いブラックティーを一杯いただいてこの甘い空気を消化しなくっちゃ。
やっぱり私、先輩が隣にいてくれないと生きていけないかもしれない、なんて、大袈裟だけどそんなことすら思ってしまった。