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学生が必要とするカロリーは割合い多いと思っている。
それは成長期だからというのもあるが、この学園の広さを考えると、移動だけでもよい運動になってしまうからだ。
僕は昔から自分の決めたカロリー配分通りに食べ物を摂取しているので、それによる変化はないわけだが。
「はぁ…今日はやけに腹が減りますね」
一限目から飛行術だったから仕方ないのかもしれない。腹が減るのは許せるが、腹が鳴るのは恥だ。しんとした教室で音を鳴らしてみろ、それは大問題、笑い者にはなりたくなかった。かと言って食べることはとうていできない。
「あれ?アズール先輩?」
「!」
こんな時に一番会いたくない人に会ってしまったと思いつつ、その声を無碍にはできないので後ろを振り向いて、笑顔を一つ。
「こんなところで会うなんて偶然ですね。貴女、どうなさったんです?」
「私はこれから移動教室で……あの、アズール先輩、何かありました?」
「は?何かとは?別に、」
「いえ…だって、その笑い方するときは、先輩、何か隠してる時だから」
その言葉に驚いたのが引き金となり、キュルル、と腹が鳴る。
まんまるに開いたのは僕の瞳だけではない。彼女も目を開いてキョトンとしていたが、すぐに破顔して『お腹が空いたの隠してたんですか?』と笑った。
「わ、悪いですか!?僕だって腹くらい減ります」
「悪いとか言ってないじゃないですか。ただ、先輩、いつも涼しい顔してるから、お腹空かしてるなんて微塵も思わなかったので」
「ふん…!何とでも言ってください」
「カロリー足りてないんじゃないんですか?」
「計算上は足りています。心配は結構」
あまりにも恥ずかしいので彼女に対しても不躾な態度を取ってしまい少しだけ自己嫌悪するが、こればかりはどうにもならない。
「あっ、じゃあ先輩、私と賭けをしませんか?」
「…は?賭け?」
「はい!じゃんけんで、私が勝ったら先輩は私の言う事を一つ、聞いてください。負けたら逆に言う事を聞きます。どうです?」
「…それは構いませんが…なぜ今?」
「まぁまぁ…!そんな厳しい事を言うつもりは全くないので。次の授業までのちょっとしたお遊びです」
正直、じゃんけんは好きではない。ある程度の予想はつくが、結局は運次第の勝負だからだ。でも彼女の笑顔に逆らえない自分もいて、彼女のお願いくらいなら聞いてもいいかと誘いに乗った。
「それじゃあいきますよ、じゃんけん…」
ぽん!と出した手は、彼女がパーで僕がグー。乗り気がしなかったとはいえ、予想通り負けては少しだけ悔しい。でも負けは負けだ。
「やった!」
「…僕の負け、ですね。で?何をしたらいいんですか?」
「じゃ、手を出してください!」
「?」
素直に手を出すと、ぽん、とそこに乗せられたのは、小さな透明のケースに入った菓子だった。
「…すみません、食べ物はちょっと」
「あっ!先輩嘘つくんですか?」
「ぐ…」
「…なんちゃって!アズール先輩、もしかしてこのお菓子知りません?ラムネって言うんですけど」
「こういった菓子は僕よりフロイドの方が詳しいくらいですよ」
そう返すと、説明されるにはこう言う事らしい。
ラムネには血糖値をアップするブドウ糖が多く含まれている。だから少し食べるだけで脳の空腹感が解消されるし、満足度も高いのだと。
「そんなにカロリーも高くないので、アズール先輩にぴったりですよ。だからそれ、あげます。実はさっきサムさんのお店に寄り道して買ってきたんです」
「え…ですが貴女が食べるために買ったのでは?」
「アズール先輩には、いつもよくしてもらってるから。お返しですよ。お腹空いたって気にしてたら授業に集中もできな」
そこまで言うと、ぐぅ、と音がした。
その音に、今度は彼女のほうが目を見張る。
よく考えたら、今の音は僕の腹から鳴ったんじゃなかった。もしかして。
「貴女も、お腹が減っているからこれを買ったのでは…?」
僕のセリフを聞いて苦虫を噛み潰したような表情をすると、それから、真っ赤になってああもう!と叫んだ彼女。
「実はそうです…でもほら、私はデュースやエース、それからグリムとよくお腹の大合唱してるので、気になりませんから!だからそれは先輩にあげます!ちゃんと食べてくださいね!」
「あ、ちょ…!」
「それじゃあまたモストロ・ラウンジで!」
有無を言わさぬスピードでその場から立ち去った彼女を追いかける力は残っていない。伸ばした手は宙を切ってダラリと落ちた。
片方の手にはラムネの入ったプラスチック容器が一つ。かぱりと開けると、身体に悪そうな香りがして、少し顔を顰めるも、勝負に負けたのだから仕方ないと一粒口に含んだ。
シュワシュワ
噛みもしないのに舌の上で溶けていく、それ。これまでには食べたこともないのに懐かしい味がした。
「腹が満たされる感覚はあまりしませんが…貴女からもらったアイテムですからね。有効活用します」
もうすぐ、次の授業の始まりの鐘が鳴る。
教室についたらまた一粒、いただくとしよう。
もし本当に腹が鳴らなかったら。
「彼女にお返しをしなければ」
懐かしい味じゃなく、とびきりスイートな味の、口付けでも。
それは成長期だからというのもあるが、この学園の広さを考えると、移動だけでもよい運動になってしまうからだ。
僕は昔から自分の決めたカロリー配分通りに食べ物を摂取しているので、それによる変化はないわけだが。
「はぁ…今日はやけに腹が減りますね」
一限目から飛行術だったから仕方ないのかもしれない。腹が減るのは許せるが、腹が鳴るのは恥だ。しんとした教室で音を鳴らしてみろ、それは大問題、笑い者にはなりたくなかった。かと言って食べることはとうていできない。
「あれ?アズール先輩?」
「!」
こんな時に一番会いたくない人に会ってしまったと思いつつ、その声を無碍にはできないので後ろを振り向いて、笑顔を一つ。
「こんなところで会うなんて偶然ですね。貴女、どうなさったんです?」
「私はこれから移動教室で……あの、アズール先輩、何かありました?」
「は?何かとは?別に、」
「いえ…だって、その笑い方するときは、先輩、何か隠してる時だから」
その言葉に驚いたのが引き金となり、キュルル、と腹が鳴る。
まんまるに開いたのは僕の瞳だけではない。彼女も目を開いてキョトンとしていたが、すぐに破顔して『お腹が空いたの隠してたんですか?』と笑った。
「わ、悪いですか!?僕だって腹くらい減ります」
「悪いとか言ってないじゃないですか。ただ、先輩、いつも涼しい顔してるから、お腹空かしてるなんて微塵も思わなかったので」
「ふん…!何とでも言ってください」
「カロリー足りてないんじゃないんですか?」
「計算上は足りています。心配は結構」
あまりにも恥ずかしいので彼女に対しても不躾な態度を取ってしまい少しだけ自己嫌悪するが、こればかりはどうにもならない。
「あっ、じゃあ先輩、私と賭けをしませんか?」
「…は?賭け?」
「はい!じゃんけんで、私が勝ったら先輩は私の言う事を一つ、聞いてください。負けたら逆に言う事を聞きます。どうです?」
「…それは構いませんが…なぜ今?」
「まぁまぁ…!そんな厳しい事を言うつもりは全くないので。次の授業までのちょっとしたお遊びです」
正直、じゃんけんは好きではない。ある程度の予想はつくが、結局は運次第の勝負だからだ。でも彼女の笑顔に逆らえない自分もいて、彼女のお願いくらいなら聞いてもいいかと誘いに乗った。
「それじゃあいきますよ、じゃんけん…」
ぽん!と出した手は、彼女がパーで僕がグー。乗り気がしなかったとはいえ、予想通り負けては少しだけ悔しい。でも負けは負けだ。
「やった!」
「…僕の負け、ですね。で?何をしたらいいんですか?」
「じゃ、手を出してください!」
「?」
素直に手を出すと、ぽん、とそこに乗せられたのは、小さな透明のケースに入った菓子だった。
「…すみません、食べ物はちょっと」
「あっ!先輩嘘つくんですか?」
「ぐ…」
「…なんちゃって!アズール先輩、もしかしてこのお菓子知りません?ラムネって言うんですけど」
「こういった菓子は僕よりフロイドの方が詳しいくらいですよ」
そう返すと、説明されるにはこう言う事らしい。
ラムネには血糖値をアップするブドウ糖が多く含まれている。だから少し食べるだけで脳の空腹感が解消されるし、満足度も高いのだと。
「そんなにカロリーも高くないので、アズール先輩にぴったりですよ。だからそれ、あげます。実はさっきサムさんのお店に寄り道して買ってきたんです」
「え…ですが貴女が食べるために買ったのでは?」
「アズール先輩には、いつもよくしてもらってるから。お返しですよ。お腹空いたって気にしてたら授業に集中もできな」
そこまで言うと、ぐぅ、と音がした。
その音に、今度は彼女のほうが目を見張る。
よく考えたら、今の音は僕の腹から鳴ったんじゃなかった。もしかして。
「貴女も、お腹が減っているからこれを買ったのでは…?」
僕のセリフを聞いて苦虫を噛み潰したような表情をすると、それから、真っ赤になってああもう!と叫んだ彼女。
「実はそうです…でもほら、私はデュースやエース、それからグリムとよくお腹の大合唱してるので、気になりませんから!だからそれは先輩にあげます!ちゃんと食べてくださいね!」
「あ、ちょ…!」
「それじゃあまたモストロ・ラウンジで!」
有無を言わさぬスピードでその場から立ち去った彼女を追いかける力は残っていない。伸ばした手は宙を切ってダラリと落ちた。
片方の手にはラムネの入ったプラスチック容器が一つ。かぱりと開けると、身体に悪そうな香りがして、少し顔を顰めるも、勝負に負けたのだから仕方ないと一粒口に含んだ。
シュワシュワ
噛みもしないのに舌の上で溶けていく、それ。これまでには食べたこともないのに懐かしい味がした。
「腹が満たされる感覚はあまりしませんが…貴女からもらったアイテムですからね。有効活用します」
もうすぐ、次の授業の始まりの鐘が鳴る。
教室についたらまた一粒、いただくとしよう。
もし本当に腹が鳴らなかったら。
「彼女にお返しをしなければ」
懐かしい味じゃなく、とびきりスイートな味の、口付けでも。