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お気に入りのフレグランスをシュッと身に纏えば、少し気持ちが高揚する。
お気に入りの靴を履けば、部屋を出るときの一歩が軽くなる。
今から向かうところもお気に入りになればいい、なんて考える。
「って言っても、纏うものがなんであれ、行く場所がどこであれ、一緒にいる人が重要なんだろうけど」
そんな独り言を落としてオンボロ寮を後にした。
今日は久しぶりに街にお出かけだ。
街のカフェの偵察に行くので女性の目線で意見がほしい、なんてもっともな理由をつけて約束を取り付けられたのが数日前のこと。
素直にデート代わりに付き合ってくれと言ってくれたらいいのに、と思わなくもないけど、それでこそ先輩だなとも感じるので二つ返事でOKした。
「偽善、かな」
こちらだって『デートですよね』と言えばいいところを勝手に「それでこそ」なんて結論付けてるのだから、物分かりがいい人に見られたいだけなのかもしれない。
嫌われたくないから言いたいことを言わないというのはあまり良いことではないけど、親しき仲にも礼儀あり。口に出せないこともあるのは仕方ない、と思いたい。
「何が偽善ですって?」
「あ、先輩!おはようございます。早いですね?」
「貴女の方が早かったでしょう?お待たせしました」
「一分も待ってませんよ」
笑いながら言うと、それでも自分の方が遅かったのは事実だからと頑なに譲らない。
なので、じゃあ今度はもうちょっと遅く来るようにしますと答えたが、それもちょっと、という表情をされてさらに笑ってしまった。
「とにかく行きましょう!少しネットで調べてみましたけど、街にはカフェがたくさんありそうでしたよ。時間が足りない気がします」
「おや。貴女自ら調べてくださるとは」
「ふふ!これでも先輩の彼女やらせてもらってるので、調査も少しはしますよ」
スマホで開いたマップを見ながら、私的にはこのカフェとこのカフェは覗いてみたいんですが、と歩を進める。
しかし数歩行ったところで振り返るはめになった。
だってなぜかアズール先輩は、その場に止まったまま動こうとしなかったから。
「…?どうかしましたか?忘れ物?」
声を掛けると、やっとのことで足を動かし始めたけれど、表情は硬いままだ。
「?ほんとにどうしたんですか?体調でも悪いんです?」
「……やらせてもらってるとは心外ですね」
「へ?」
「貴女のその物言い、どうにかならないんですか?」
何かが引っかかったようで、ちょっとだけムスッとしたまま私を見つめ、それからスマホを持っていないほうの手を徐に取った。
「僕は、貴女に番の役をやってもらっているわけではありません」
「あ、」
「お互い想いあっていたから、番となったんです。違いますか?」
至極真剣にそんな風に告げられて、揚げ足を取ったとか軽口を叩ける状況じゃないことは明白だった。
この人にとって「番う」ことは「ごっこ遊び」ではない。
それこそきっと、これは真実の愛。本当の想い。それで、生涯の番、なんだ私は。
そんなことをぐるぐる考えていた私の顔はポカンとしていたのか、先輩はふっと溜め息をつき、空気を揺らした。
「……すみません、人魚とヒトでは感覚が違うのかもしれませんね」
忘れてください。行きましょう。
そう言うと、繋いでいた手が離れそうになったので、勢い、ぎゅっと掴み返す。
「!」
「謝らないでください」
「なぜ、」
「ごめんなさい、私、言葉選びが下手みたい。気を付けます。だから、先輩の想ってることを教えてほしいです。嫌なことも好きなことも」
「……僕は、貴女に番だという自覚をもっと持ってほしい、です」
「わかりました。じゃあ……そうですね……今更なことを言ってもいいでしょうか」
「なんです?」
「アズール先輩が言う『番』が、アズール先輩にとってどんな存在なのか、私、ちょっと理解不足みたいなので、教えてもらってもいいですか、具体的に」
一瞬きょとんとした先輩が、徐々に顔を紅くしていったのを見て、『あれ?変なことを言ったかな?』と不安になったけど、繋いだ手が向こうからも握り返されたので、どうやら嫌がられているわけではないらしい。
眼鏡を押し上げながらそっぽを向いた先輩は小さくこう呟いた。
「その言葉、取り下げさせませんよ。骨の髄まで教えてさしあげますから、覚悟しなさい」
「…!」
繋いだこの手はきっとこの先、離れないんだろうな。ちょっとずつでも先輩のことを知れたら嬉しいと、人知れずにこり、笑った。
「そういえば、偽善と言えば」
「はい?」
「うわべだけを取り繕って自分をいい人に見せること、でしょう?」
「そうですね」
「ということは、そう言われる人の本質は『悪』なわけだ」
「まぁ…そうなりますかね」
「だから貴女のそれは、偽善ごっこです」
「んん?」
「だって貴女は無意識に小悪魔で、悪でも取り繕ってるわけでもありませんから」
お気に入りの靴を履けば、部屋を出るときの一歩が軽くなる。
今から向かうところもお気に入りになればいい、なんて考える。
「って言っても、纏うものがなんであれ、行く場所がどこであれ、一緒にいる人が重要なんだろうけど」
そんな独り言を落としてオンボロ寮を後にした。
今日は久しぶりに街にお出かけだ。
街のカフェの偵察に行くので女性の目線で意見がほしい、なんてもっともな理由をつけて約束を取り付けられたのが数日前のこと。
素直にデート代わりに付き合ってくれと言ってくれたらいいのに、と思わなくもないけど、それでこそ先輩だなとも感じるので二つ返事でOKした。
「偽善、かな」
こちらだって『デートですよね』と言えばいいところを勝手に「それでこそ」なんて結論付けてるのだから、物分かりがいい人に見られたいだけなのかもしれない。
嫌われたくないから言いたいことを言わないというのはあまり良いことではないけど、親しき仲にも礼儀あり。口に出せないこともあるのは仕方ない、と思いたい。
「何が偽善ですって?」
「あ、先輩!おはようございます。早いですね?」
「貴女の方が早かったでしょう?お待たせしました」
「一分も待ってませんよ」
笑いながら言うと、それでも自分の方が遅かったのは事実だからと頑なに譲らない。
なので、じゃあ今度はもうちょっと遅く来るようにしますと答えたが、それもちょっと、という表情をされてさらに笑ってしまった。
「とにかく行きましょう!少しネットで調べてみましたけど、街にはカフェがたくさんありそうでしたよ。時間が足りない気がします」
「おや。貴女自ら調べてくださるとは」
「ふふ!これでも先輩の彼女やらせてもらってるので、調査も少しはしますよ」
スマホで開いたマップを見ながら、私的にはこのカフェとこのカフェは覗いてみたいんですが、と歩を進める。
しかし数歩行ったところで振り返るはめになった。
だってなぜかアズール先輩は、その場に止まったまま動こうとしなかったから。
「…?どうかしましたか?忘れ物?」
声を掛けると、やっとのことで足を動かし始めたけれど、表情は硬いままだ。
「?ほんとにどうしたんですか?体調でも悪いんです?」
「……やらせてもらってるとは心外ですね」
「へ?」
「貴女のその物言い、どうにかならないんですか?」
何かが引っかかったようで、ちょっとだけムスッとしたまま私を見つめ、それからスマホを持っていないほうの手を徐に取った。
「僕は、貴女に番の役をやってもらっているわけではありません」
「あ、」
「お互い想いあっていたから、番となったんです。違いますか?」
至極真剣にそんな風に告げられて、揚げ足を取ったとか軽口を叩ける状況じゃないことは明白だった。
この人にとって「番う」ことは「ごっこ遊び」ではない。
それこそきっと、これは真実の愛。本当の想い。それで、生涯の番、なんだ私は。
そんなことをぐるぐる考えていた私の顔はポカンとしていたのか、先輩はふっと溜め息をつき、空気を揺らした。
「……すみません、人魚とヒトでは感覚が違うのかもしれませんね」
忘れてください。行きましょう。
そう言うと、繋いでいた手が離れそうになったので、勢い、ぎゅっと掴み返す。
「!」
「謝らないでください」
「なぜ、」
「ごめんなさい、私、言葉選びが下手みたい。気を付けます。だから、先輩の想ってることを教えてほしいです。嫌なことも好きなことも」
「……僕は、貴女に番だという自覚をもっと持ってほしい、です」
「わかりました。じゃあ……そうですね……今更なことを言ってもいいでしょうか」
「なんです?」
「アズール先輩が言う『番』が、アズール先輩にとってどんな存在なのか、私、ちょっと理解不足みたいなので、教えてもらってもいいですか、具体的に」
一瞬きょとんとした先輩が、徐々に顔を紅くしていったのを見て、『あれ?変なことを言ったかな?』と不安になったけど、繋いだ手が向こうからも握り返されたので、どうやら嫌がられているわけではないらしい。
眼鏡を押し上げながらそっぽを向いた先輩は小さくこう呟いた。
「その言葉、取り下げさせませんよ。骨の髄まで教えてさしあげますから、覚悟しなさい」
「…!」
繋いだこの手はきっとこの先、離れないんだろうな。ちょっとずつでも先輩のことを知れたら嬉しいと、人知れずにこり、笑った。
「そういえば、偽善と言えば」
「はい?」
「うわべだけを取り繕って自分をいい人に見せること、でしょう?」
「そうですね」
「ということは、そう言われる人の本質は『悪』なわけだ」
「まぁ…そうなりますかね」
「だから貴女のそれは、偽善ごっこです」
「んん?」
「だって貴女は無意識に小悪魔で、悪でも取り繕ってるわけでもありませんから」