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だだっ広いコンクリートの上に一人。
ただ一人で立っている。
ここはどこなんだろう、そう思って辺りを見まわすと、煙が上がっているのが目に止まる。
それしか見当たらないので、仕方なくそちらに向かう。
しかし近づくにつれてそれが何なのか、なんとなしに感じ取った私の足取りは重い。
「火葬炉だ…」
その昔、近しい人が亡くなった時に見た、悲しい煙。
今ではあまり見ることのなくなった、天高く登ってゆくそれ。
先程までなかったのに、行く道の脇には今、大輪の牡丹が咲き乱れていた。
独特の空気に胸がざわつく。
『誰の』それなんだろうか。
見たくない。知りたくない。
それでも足は止まらない。私の意思と関係なしに進んでゆく足は、止まらない。
『嫌だ!やめて!止まって!』
口も回らない私は、それを見たくなくて叫ぶーー
「ーーー!」
ハッと覚醒すると、滲んだ視界に貝殻の照明があった。声にならない声がヒュー…ヒュー…と喉から漏れる。カチカチに固まった身体は、まだ動かすことが出来ない。辺りはまだ真っ暗で、全身が闇に食い尽くされそうな恐怖を覚える。
「ゆめ…?」
それにしても、あれは。
あれは、あの葬儀で弔われたのは…
「わたしだった…」
その事実は私を心の底から震撼させた。
静かな部屋に、自分の心音が響く。心臓が波打っているのがわかって少しだけ安心した。
やっとの事で動かせた指先で縋ったのは隣に眠るアズール先輩のパジャマ。そこに指が引っかかったことで、どうにか身体を傾けて先輩にすり寄った。
「…ん…?…どうしました…?」
「せんぱい、わ、わたし、ゆめを、みて…。わ、たしが、っ…」
「自分の死」を予兆させるリアリティある夢の内容を言葉にすることができず、溢れたのは涙だった。
強がりな私はその涙を先輩に見せたくなくて、胸元に顔を隠して震えることしかできない。
「…夢、ですか?」
「は…ッ、はぃ、怖い、夢、私の、未来、かも」
「未来?」
「っ…ゃだ…私、私は、先輩と生きていきたいのに、」
死んじゃう、とは声にならなかった。
しかしながら、なんとなしにその先を悟ったのか、アズール先輩は、ふ、と溜め息をついた後、普段より強く私の身体を抱きしめた。
「…貴女は、僕の隣で一生笑っていてくれないと許さない」
「あず、る、せんぱ、」
「貴女は僕との未来だけ見ていればいい。それ以外のことが、夢なんです」
「!」
「夢は、夢。現実は、現実。いいですか?」
「っ…」
「何があっても離しません。大丈夫です。僕を信じて。また何かあったとしたら、今度は僕が迎えに行きますから」
髪を梳く先輩の指が、耳を擽る先輩の声が、身体を抱く先輩の腕が。
全部が心地よくて、安堵の吐息が漏れた。
私はここにいて、アズール先輩と生きている。
浅く繰り返していた呼吸が、しっかりとしたリズムに戻ってきて、『は、ぁ…』と息をする。
「せんぱい、すき、」
「ええ、僕もです」
「夢でも一緒に、いて、」
「それは……そう、ですね。遊びに行きましょう、貴女の夢の中に」
夢で死んだら、現実はどちらになるのだろう。
夢が私を殺しても、この現実は続いて欲しい。
アズール先輩がいる現実を、生きていけるのならなんだって差し出すから。
「わたしと、いきて、」
「はなからそのつもりです」
「おねがい、」
寝ても醒めても、ここがわたしの生きる場所。
ただ一人で立っている。
ここはどこなんだろう、そう思って辺りを見まわすと、煙が上がっているのが目に止まる。
それしか見当たらないので、仕方なくそちらに向かう。
しかし近づくにつれてそれが何なのか、なんとなしに感じ取った私の足取りは重い。
「火葬炉だ…」
その昔、近しい人が亡くなった時に見た、悲しい煙。
今ではあまり見ることのなくなった、天高く登ってゆくそれ。
先程までなかったのに、行く道の脇には今、大輪の牡丹が咲き乱れていた。
独特の空気に胸がざわつく。
『誰の』それなんだろうか。
見たくない。知りたくない。
それでも足は止まらない。私の意思と関係なしに進んでゆく足は、止まらない。
『嫌だ!やめて!止まって!』
口も回らない私は、それを見たくなくて叫ぶーー
「ーーー!」
ハッと覚醒すると、滲んだ視界に貝殻の照明があった。声にならない声がヒュー…ヒュー…と喉から漏れる。カチカチに固まった身体は、まだ動かすことが出来ない。辺りはまだ真っ暗で、全身が闇に食い尽くされそうな恐怖を覚える。
「ゆめ…?」
それにしても、あれは。
あれは、あの葬儀で弔われたのは…
「わたしだった…」
その事実は私を心の底から震撼させた。
静かな部屋に、自分の心音が響く。心臓が波打っているのがわかって少しだけ安心した。
やっとの事で動かせた指先で縋ったのは隣に眠るアズール先輩のパジャマ。そこに指が引っかかったことで、どうにか身体を傾けて先輩にすり寄った。
「…ん…?…どうしました…?」
「せんぱい、わ、わたし、ゆめを、みて…。わ、たしが、っ…」
「自分の死」を予兆させるリアリティある夢の内容を言葉にすることができず、溢れたのは涙だった。
強がりな私はその涙を先輩に見せたくなくて、胸元に顔を隠して震えることしかできない。
「…夢、ですか?」
「は…ッ、はぃ、怖い、夢、私の、未来、かも」
「未来?」
「っ…ゃだ…私、私は、先輩と生きていきたいのに、」
死んじゃう、とは声にならなかった。
しかしながら、なんとなしにその先を悟ったのか、アズール先輩は、ふ、と溜め息をついた後、普段より強く私の身体を抱きしめた。
「…貴女は、僕の隣で一生笑っていてくれないと許さない」
「あず、る、せんぱ、」
「貴女は僕との未来だけ見ていればいい。それ以外のことが、夢なんです」
「!」
「夢は、夢。現実は、現実。いいですか?」
「っ…」
「何があっても離しません。大丈夫です。僕を信じて。また何かあったとしたら、今度は僕が迎えに行きますから」
髪を梳く先輩の指が、耳を擽る先輩の声が、身体を抱く先輩の腕が。
全部が心地よくて、安堵の吐息が漏れた。
私はここにいて、アズール先輩と生きている。
浅く繰り返していた呼吸が、しっかりとしたリズムに戻ってきて、『は、ぁ…』と息をする。
「せんぱい、すき、」
「ええ、僕もです」
「夢でも一緒に、いて、」
「それは……そう、ですね。遊びに行きましょう、貴女の夢の中に」
夢で死んだら、現実はどちらになるのだろう。
夢が私を殺しても、この現実は続いて欲しい。
アズール先輩がいる現実を、生きていけるのならなんだって差し出すから。
「わたしと、いきて、」
「はなからそのつもりです」
「おねがい、」
寝ても醒めても、ここがわたしの生きる場所。