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過去の自分を思い出してみろ?
そんなのはナンセンスだ。
やってきたことが全てだし、間違ったことなど一つもなかった。
結果的に僕は成功している。
思い出す必要など、ない。
なぜこんなことを考えているのかというと、目の前で紙とにらめっこしている彼女の課題の内容がそんなものだからだ。
どうやら、本日の授業で練習したのは、具現化の魔法らしい。
何かを具現化する時には、対象物を詳細に思い描く必要がある。魔力を持つ同級生たちは、思い思いに対象物の具現化を試みていたが、魔力がない彼女にはそれができない。
なので、過去の自分を詳細に思い描き、絵でも文でも書き起こしてこい、との課題を持ち帰らされたらしかった。
「強引すぎやしませんか?第一、魔法の授業は魔力を持つグリムさんがやればいい話なのでは?」
「私のことわかってくれてる先生の授業はそれで済むんですけどね…。やっぱり、モンスターごときが…って思ってる先生も、いるにはいるので。」
「まだそんなことを言う頭の固い教師がいるんですか。」
「まぁ、グリムも飛行術の授業以外は大概寝てしまったりしますから、お互い様です」
ふふ、と笑った彼女は、いったん手を止めてハーブティーをこくりと一口飲んだ。
それからへにゃ、とラウンジのソファーにもたれて、過去って難しいや、と目を閉じる。
「過去といっても、それほど昔のことを思い描く必要はないのでは?こちらにきてからのことでも十分過去になるでしょう」
「ああ、なるほどたしかに。そっか…過去って言われるとどうしても前の世界のことを考えちゃってだめですね…」
あは、と笑う表情が少し苦しそうで、しまったと思った。今度は何かあっても大丈夫なように、手紙の一つでも残しておかなくっちゃと無理に明るい声を出すものだから、言いたくない一言を言わせてしまったと気づく。
彼女が前の世界に忘れてきた物は、きっと僕が思うよりも多かったに違いない。しかしここで謝るのもなんだか違う気がした。
本心を言えば、過去じゃなく今を見て欲しい。
『僕が隣にいるでしょう。過去よりも僕との未来を見て。そして安心して笑っていて。』と、そう言って抱き寄せてしまいたい。
けれどそんなことをしても彼女がこの問題から逃げられる訳でないことは、僕もよくわかっている。
だから彼女の課題が一秒でも早く終わるようにサポートするしか道はない。
「…それなら、今日のことを書いてはどうですか」
「え?」
「明日には今日は過去になる。今日の自分を詳細に記しておくことでも課題の内容は十分に満たせるでしょう」
「なるほど…!?先輩天才!」
今の自分のことなら残せそう!と勢いよく紙に向かって何かを書き始めたのを見て、ほっと一息。なんとか役に立ったようだ。
だけれどこのまま悠長にもしていられない。次の相談者が来る時間も迫っているなと、ふと思考を別の次元にやっていると、何やら視線を感じた。視線の方に目を向ければ、その主は当然のように彼女だった訳だが、彼女は僕と目が合うとボッと頬を真っ赤に染め上げてわかりやすく顔をそらした。
「え?」
「あ、いえ、その、これは、あの、なんでもなくてっ!!」
「…なんでもなくてそんな表情が変わるものなら驚きですが?」
「っ…」
「何があったか言えますよね?」
「そ、れは、…その、」
「何です?僕、今なにかしました?」
「いえ…考えてみれば、昨日もその前も…ずっと先輩と会ってたなって…私を形作るのは、先輩との思い出ばかりだって、気づいたら、恥ずかしくなりました」
そんな可愛らしいことを言うものだから、こちらが言葉を詰まらせてしまった。
「な、にを…、っ、というか、貴女にはグリムさんや同級生も、いるじゃないか」
「それはそうなんですけどっ!!でも、でも…」
『先輩は、特別だから』と、上目遣いで告げられたその言葉に、眩暈がするほど嬉しかったなんて。
「貴女、ね…!無意識か…!?」
「へ…?」
「っ…ラウンジが閉店するまでに、その課題、終わらせてくださいね」
今日は僕の部屋に強制連行しますから
とは、小さな声で耳に囁いた。
逃しはしない。僕の番だ。
入り込んだ蛸壺がどれだけ深いものだったか、その身体でしっかり覚えてくださいね。
そんなのはナンセンスだ。
やってきたことが全てだし、間違ったことなど一つもなかった。
結果的に僕は成功している。
思い出す必要など、ない。
なぜこんなことを考えているのかというと、目の前で紙とにらめっこしている彼女の課題の内容がそんなものだからだ。
どうやら、本日の授業で練習したのは、具現化の魔法らしい。
何かを具現化する時には、対象物を詳細に思い描く必要がある。魔力を持つ同級生たちは、思い思いに対象物の具現化を試みていたが、魔力がない彼女にはそれができない。
なので、過去の自分を詳細に思い描き、絵でも文でも書き起こしてこい、との課題を持ち帰らされたらしかった。
「強引すぎやしませんか?第一、魔法の授業は魔力を持つグリムさんがやればいい話なのでは?」
「私のことわかってくれてる先生の授業はそれで済むんですけどね…。やっぱり、モンスターごときが…って思ってる先生も、いるにはいるので。」
「まだそんなことを言う頭の固い教師がいるんですか。」
「まぁ、グリムも飛行術の授業以外は大概寝てしまったりしますから、お互い様です」
ふふ、と笑った彼女は、いったん手を止めてハーブティーをこくりと一口飲んだ。
それからへにゃ、とラウンジのソファーにもたれて、過去って難しいや、と目を閉じる。
「過去といっても、それほど昔のことを思い描く必要はないのでは?こちらにきてからのことでも十分過去になるでしょう」
「ああ、なるほどたしかに。そっか…過去って言われるとどうしても前の世界のことを考えちゃってだめですね…」
あは、と笑う表情が少し苦しそうで、しまったと思った。今度は何かあっても大丈夫なように、手紙の一つでも残しておかなくっちゃと無理に明るい声を出すものだから、言いたくない一言を言わせてしまったと気づく。
彼女が前の世界に忘れてきた物は、きっと僕が思うよりも多かったに違いない。しかしここで謝るのもなんだか違う気がした。
本心を言えば、過去じゃなく今を見て欲しい。
『僕が隣にいるでしょう。過去よりも僕との未来を見て。そして安心して笑っていて。』と、そう言って抱き寄せてしまいたい。
けれどそんなことをしても彼女がこの問題から逃げられる訳でないことは、僕もよくわかっている。
だから彼女の課題が一秒でも早く終わるようにサポートするしか道はない。
「…それなら、今日のことを書いてはどうですか」
「え?」
「明日には今日は過去になる。今日の自分を詳細に記しておくことでも課題の内容は十分に満たせるでしょう」
「なるほど…!?先輩天才!」
今の自分のことなら残せそう!と勢いよく紙に向かって何かを書き始めたのを見て、ほっと一息。なんとか役に立ったようだ。
だけれどこのまま悠長にもしていられない。次の相談者が来る時間も迫っているなと、ふと思考を別の次元にやっていると、何やら視線を感じた。視線の方に目を向ければ、その主は当然のように彼女だった訳だが、彼女は僕と目が合うとボッと頬を真っ赤に染め上げてわかりやすく顔をそらした。
「え?」
「あ、いえ、その、これは、あの、なんでもなくてっ!!」
「…なんでもなくてそんな表情が変わるものなら驚きですが?」
「っ…」
「何があったか言えますよね?」
「そ、れは、…その、」
「何です?僕、今なにかしました?」
「いえ…考えてみれば、昨日もその前も…ずっと先輩と会ってたなって…私を形作るのは、先輩との思い出ばかりだって、気づいたら、恥ずかしくなりました」
そんな可愛らしいことを言うものだから、こちらが言葉を詰まらせてしまった。
「な、にを…、っ、というか、貴女にはグリムさんや同級生も、いるじゃないか」
「それはそうなんですけどっ!!でも、でも…」
『先輩は、特別だから』と、上目遣いで告げられたその言葉に、眩暈がするほど嬉しかったなんて。
「貴女、ね…!無意識か…!?」
「へ…?」
「っ…ラウンジが閉店するまでに、その課題、終わらせてくださいね」
今日は僕の部屋に強制連行しますから
とは、小さな声で耳に囁いた。
逃しはしない。僕の番だ。
入り込んだ蛸壺がどれだけ深いものだったか、その身体でしっかり覚えてくださいね。