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空を飛びたい。
それは、魔法士ではない私のような一般人が一度は夢見ることだと思う。
グリムの後ろで箒に乗せてもらったり、魔法のじゅうたんに乗ったりはしたけれどそういうのじゃなくて、行きたい時に行きたい場所に、自分で自由に飛び回るのに憧れるときだってあるだろう。
そんな願いを込めて、オンボロ寮のテラスから、紙飛行機を飛ばした。
それは一瞬風に乗って浮いたと思ったが、すぐに重力に負けて、へろ、と下へ落ちていく。
「あーあ…落ちちゃった…。拾いに行かなくっちゃ、え!?」
こんな時間にこんなところを歩いている生徒がいるだなんて思いもよらなかった。
その人物の頭にコツリと当たった紙飛行機は、ついに地面に着地。
拾われた飛行機は、無惨にも広げられて一枚の紙切れに戻されてしまった。
「…真っ白、ですか。」
「ジェイド先輩!?ごめんなさいっ!今行きます!」
「貴女からのラブレターかと思って期待しました。」
「え?なんですかー!?」
ジェイド先輩の言葉は私には届かなかった。
返ってきた笑顔を見て、つられて笑顔を返すのみに留まる。
急いでエントランスまで降りていくと、すでにそこには先輩の姿が。
「こんにちは。どうしたんですか?何か用事でしょうか。」
「貴女の顔を見に来るのに理由が必要ですか?」
「!」
「ああでも、貴女に会いたくなったから、というのが理由かもしれませんね。」
殺し文句はいつでも甘い香りとともにやってくる。
私の頭を撫でたジェイド先輩の手には、紙袋が一つ。
きっとそれには私の心を躍らすキラキラしたお菓子が入っていることだろう。
どうぞ、と先輩を招き入れながら、私は苦笑を漏らした。
「私、このままでいたら、ジェイド先輩なしでは何もできなくなっちゃいそうです…」
「それが僕の狙いだと言ったら、どうしますか?」
「へ、」
とん、と先輩の腕が談話室の扉についた。
腕によって固定されてしまった扉は、開くことはできない。
先輩によって遮られた陽の光は、私に届かなくなり。
そうして後ろを見上げたら、先輩の影の中でその双眸がきらりと光った。
「本日は、何をご心配で?」
「え…と、なに、も?」
「そうですか?なんだか憂いが見えますが…僕には話せないことでしょうか?」
「っ…私、本当に、」
「では今考えていたことを僕に話してください?」
そう言うと、扉に手をかけて談話室内へと私を誘う。
勝手知られたオンボロ寮は、もはやジェイド先輩のテリトリーの一部。
先輩は私をソファーへ座らせると、自分もその隣に腰をかけた。
「さぁ、話してみてください。」
「…うーん…さっきは…私に翼があったら、何処へでも飛び出していけるのにって、考えていました。でもそれだけで…それになにか意識があったわけではなくて…」
「飛び出していきたい、というのは潜在的に、ここでない何処かに行きたいと思っているからでは?」
「っそんなことはありません!」
「そうですか?」
「だって私は、私の居場所は、ここにしかない、ので、」
そう、私はここでない何処かになんかいけないんだ。私は私一人の力では生きていかれはしないのだから。
途端に不安になって視線を落とす。
すると、膝の上にきちっとそろえていた手にジェイド先輩の手が重なった。
私の内には、柔らかくて脆い自分が、小さく丸くなって眠っているの。
でもジェイド先輩が私の手を引いてくれるのなら、そこから羽ばたける気がする。
外は素敵な場所なんだって起き上がって飛び出して、世界は美しいって、陽の下に出ていける。
「先輩は、私とずっと一緒に、居てくれますか…?」
「もちろんですよ。貴女が望もうと望まずともこの先もずっと、先ほどのような真っ白な紙をたくさん思い出で埋めていきましょうね。」
やっぱり私は、ジェイド先輩なしでは何もできない身体にされてしまったに違いない。
頂いたお菓子の甘さと、ジェイド先輩の真綿のような優しさに、今日もまた溺れる。
それは、魔法士ではない私のような一般人が一度は夢見ることだと思う。
グリムの後ろで箒に乗せてもらったり、魔法のじゅうたんに乗ったりはしたけれどそういうのじゃなくて、行きたい時に行きたい場所に、自分で自由に飛び回るのに憧れるときだってあるだろう。
そんな願いを込めて、オンボロ寮のテラスから、紙飛行機を飛ばした。
それは一瞬風に乗って浮いたと思ったが、すぐに重力に負けて、へろ、と下へ落ちていく。
「あーあ…落ちちゃった…。拾いに行かなくっちゃ、え!?」
こんな時間にこんなところを歩いている生徒がいるだなんて思いもよらなかった。
その人物の頭にコツリと当たった紙飛行機は、ついに地面に着地。
拾われた飛行機は、無惨にも広げられて一枚の紙切れに戻されてしまった。
「…真っ白、ですか。」
「ジェイド先輩!?ごめんなさいっ!今行きます!」
「貴女からのラブレターかと思って期待しました。」
「え?なんですかー!?」
ジェイド先輩の言葉は私には届かなかった。
返ってきた笑顔を見て、つられて笑顔を返すのみに留まる。
急いでエントランスまで降りていくと、すでにそこには先輩の姿が。
「こんにちは。どうしたんですか?何か用事でしょうか。」
「貴女の顔を見に来るのに理由が必要ですか?」
「!」
「ああでも、貴女に会いたくなったから、というのが理由かもしれませんね。」
殺し文句はいつでも甘い香りとともにやってくる。
私の頭を撫でたジェイド先輩の手には、紙袋が一つ。
きっとそれには私の心を躍らすキラキラしたお菓子が入っていることだろう。
どうぞ、と先輩を招き入れながら、私は苦笑を漏らした。
「私、このままでいたら、ジェイド先輩なしでは何もできなくなっちゃいそうです…」
「それが僕の狙いだと言ったら、どうしますか?」
「へ、」
とん、と先輩の腕が談話室の扉についた。
腕によって固定されてしまった扉は、開くことはできない。
先輩によって遮られた陽の光は、私に届かなくなり。
そうして後ろを見上げたら、先輩の影の中でその双眸がきらりと光った。
「本日は、何をご心配で?」
「え…と、なに、も?」
「そうですか?なんだか憂いが見えますが…僕には話せないことでしょうか?」
「っ…私、本当に、」
「では今考えていたことを僕に話してください?」
そう言うと、扉に手をかけて談話室内へと私を誘う。
勝手知られたオンボロ寮は、もはやジェイド先輩のテリトリーの一部。
先輩は私をソファーへ座らせると、自分もその隣に腰をかけた。
「さぁ、話してみてください。」
「…うーん…さっきは…私に翼があったら、何処へでも飛び出していけるのにって、考えていました。でもそれだけで…それになにか意識があったわけではなくて…」
「飛び出していきたい、というのは潜在的に、ここでない何処かに行きたいと思っているからでは?」
「っそんなことはありません!」
「そうですか?」
「だって私は、私の居場所は、ここにしかない、ので、」
そう、私はここでない何処かになんかいけないんだ。私は私一人の力では生きていかれはしないのだから。
途端に不安になって視線を落とす。
すると、膝の上にきちっとそろえていた手にジェイド先輩の手が重なった。
私の内には、柔らかくて脆い自分が、小さく丸くなって眠っているの。
でもジェイド先輩が私の手を引いてくれるのなら、そこから羽ばたける気がする。
外は素敵な場所なんだって起き上がって飛び出して、世界は美しいって、陽の下に出ていける。
「先輩は、私とずっと一緒に、居てくれますか…?」
「もちろんですよ。貴女が望もうと望まずともこの先もずっと、先ほどのような真っ白な紙をたくさん思い出で埋めていきましょうね。」
やっぱり私は、ジェイド先輩なしでは何もできない身体にされてしまったに違いない。
頂いたお菓子の甘さと、ジェイド先輩の真綿のような優しさに、今日もまた溺れる。