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ぴちゃん、ぴちゃん。
植物園を出ると通り雨がやんでいた。
どこか高いところから滴る余韻は、小さな音を立てながら地面の上に水溜まりを作っていく。
まだ分厚い曇が空を覆っているけれど、その隙間から漏れてくる赤い陽の光が私の時を止めた。
「雨が運んできた、幸運だ…」
「なんスか、それ。」
「わ!?…っ、ラギー先輩かぁ…びっくりしました。」
「シシッ。オレらあんまり足音も立てないッスからね!」
私の背後から突然声がかかって驚けば、そこにあったのはラギー先輩の姿だった。
よかった。知らない人じゃなくて。と安堵の溜め息をつく。
「で、その、幸運の~って、なんスか?」
「ああ、雨が降ったからこそ見れる景色ってあるでしょう?なんだか幸せになりませんか?だから、幸運。きっとこのあと、虹も見れると思います。楽しみ。」
「…アンタの幸運って、ほんっと、ささやかッスねぇ。」
「そうですか?小さなものでもたくさんみつければ、宝の山になりますよ?」
「…ハイエナのオレには一生わかりそーもねぇッス。」
頭の後ろで手を組んだ先輩は、眉を顰めてそう言った。なんでもたくさんあった方がいいに決まってる、って。それはそうですけど、小さな幸せも捨てがたいでしょ?との説明には、ないよりはマシと返ってきて、少し笑った。
「オレもこーゆーの、ちっさいころみたことあるんスけど。」
「…雨上がりの空のこと、ですか?」
「そうっス。…そんときは一瞬、流れ星でも降ってきたのかと思ったんス。」
「流れ星、」
「そう。スラムに流れ星。似合わないって、笑われるかもッスけど、そのくらいの夢は見たいって…ま、ガキの戯言ってやつで、何も変わらなかったんスけど。」
シシッと笑ったラギー先輩は、知っているんだろう。
幸せであることとそれを夢見ることは、根本的に違うのだということを。
返す言葉が見つからず黙った私に、アンタがそんな顔する必要ないっス、と微妙な表情を浮かべた。
「雨は世界に平等だけど、幸運は自分で掴み取ればいいだけの話っスよ!」
「!」
「アンタの分の幸運も、うかうかしてるとオレが掻っ攫うっスからね。」
ぽん、と私の頭を一撫でしたラギー先輩は、そのまま走り去って行った。
付かず離れず。
私の気持ちを知った上で、離れるでも近づきすぎるでもなく、さりげなく『そこ』にいてくれる先輩。
「私の幸運を攫ったところで、多分先輩は幸せになれません…だって私は、先輩に話しかけてもらえるだけで一日中幸せなんだから。」
先輩も、そう思ってくれるなら、私の幸運なんてどれだけでも拐って行って。
「好きです…」
私は知らない。走り去るラギー先輩が顔を真っ赤に染めていたなんて。
植物園を出ると通り雨がやんでいた。
どこか高いところから滴る余韻は、小さな音を立てながら地面の上に水溜まりを作っていく。
まだ分厚い曇が空を覆っているけれど、その隙間から漏れてくる赤い陽の光が私の時を止めた。
「雨が運んできた、幸運だ…」
「なんスか、それ。」
「わ!?…っ、ラギー先輩かぁ…びっくりしました。」
「シシッ。オレらあんまり足音も立てないッスからね!」
私の背後から突然声がかかって驚けば、そこにあったのはラギー先輩の姿だった。
よかった。知らない人じゃなくて。と安堵の溜め息をつく。
「で、その、幸運の~って、なんスか?」
「ああ、雨が降ったからこそ見れる景色ってあるでしょう?なんだか幸せになりませんか?だから、幸運。きっとこのあと、虹も見れると思います。楽しみ。」
「…アンタの幸運って、ほんっと、ささやかッスねぇ。」
「そうですか?小さなものでもたくさんみつければ、宝の山になりますよ?」
「…ハイエナのオレには一生わかりそーもねぇッス。」
頭の後ろで手を組んだ先輩は、眉を顰めてそう言った。なんでもたくさんあった方がいいに決まってる、って。それはそうですけど、小さな幸せも捨てがたいでしょ?との説明には、ないよりはマシと返ってきて、少し笑った。
「オレもこーゆーの、ちっさいころみたことあるんスけど。」
「…雨上がりの空のこと、ですか?」
「そうっス。…そんときは一瞬、流れ星でも降ってきたのかと思ったんス。」
「流れ星、」
「そう。スラムに流れ星。似合わないって、笑われるかもッスけど、そのくらいの夢は見たいって…ま、ガキの戯言ってやつで、何も変わらなかったんスけど。」
シシッと笑ったラギー先輩は、知っているんだろう。
幸せであることとそれを夢見ることは、根本的に違うのだということを。
返す言葉が見つからず黙った私に、アンタがそんな顔する必要ないっス、と微妙な表情を浮かべた。
「雨は世界に平等だけど、幸運は自分で掴み取ればいいだけの話っスよ!」
「!」
「アンタの分の幸運も、うかうかしてるとオレが掻っ攫うっスからね。」
ぽん、と私の頭を一撫でしたラギー先輩は、そのまま走り去って行った。
付かず離れず。
私の気持ちを知った上で、離れるでも近づきすぎるでもなく、さりげなく『そこ』にいてくれる先輩。
「私の幸運を攫ったところで、多分先輩は幸せになれません…だって私は、先輩に話しかけてもらえるだけで一日中幸せなんだから。」
先輩も、そう思ってくれるなら、私の幸運なんてどれだけでも拐って行って。
「好きです…」
私は知らない。走り去るラギー先輩が顔を真っ赤に染めていたなんて。