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耳の奥に響く、ジーワジーワという音は、そう、蝉の鳴き声。
いつからか、こういう場面には蝉の声がする、という固定観念が私にはあったよう。
そういえばこの世界では蝉に出会っていない。
ここには、当然のようにあるものも、もちろんその反対で、存在しないものも、あるのだ。
「おや、小鳥」
「ほんと!かわいい!」
ジェイド先輩が指さした先には、青い羽根の小鳥が一羽。
その小鳥は、蝉の代わりに心地よいメロディーで囀る。
「幸せの、青い鳥ね…」
「ああ、そういう逸話もありますね。」
にこ、と笑いかければ、ふんわりとした笑みが返ってきた。
森の中にジェイド先輩と二人。
山を愛する会は、私にはピッタリの部活だとつくづく思う。
でも今日は部活で入る山よりかはなだらかな感じだったので、ハイキングというよりピクニック感覚。部活というより、デートだ。
いつもよりはちょっとだけ軽装で、足取りも軽い。
もとより自然が大好きだった。
私の故郷の記憶は、もはやぼんやりとしてきているけれど、そういった概念的なものは頭に残っている。
山や川という場所も。夏や冬という季節も。
それはたぶん、「見た」のではなく、「感じ取った」ものだから、忘れようがないんだろうなと。
だって逆に、あれほど近くにいた家族の顔ですら朧気になってしまったのだから。もちろん顔を合わせればすぐにわかるのだろうけど、恐らく一生、そんなタイミングは訪れないだろう。
きゅっと麦わら帽子のつばを下げて、空ではなく足元に目を向ける。
木漏れ日がキラキラと地面に反射しているのを見て、少しだけセンチメンタルになった。
もうそんな悲しみは私の中から消え失せたと思っていたけれど、どこかでちくちくと心に棘が刺さる気もする。
なんだか自分の存在が希薄になって、怖くて。
ジェイド先輩、と名前を呼ぼうとして気づく。
声が。
喉の奥に張り付いてしまったみたいに音を発することができなかった。
自分の声がどこかに行ってしまったみたい。
けれど、はく、と唇を動かした、それに合わせて、先輩はこちらを振り向いた。
「どうかされましたか?」
「…、ァ」
「ああ…また何か、貴女の心に映ってしまったのですか。」
私の瞳を見て、何もかもを悟ったジェイド先輩は、ふわり、私を抱き上げた。
柔らかく抱きしめられてしまえば、もうこの腕以外に望むものなんて何もなくなってしまうの。
「怖がらないでいいんです。僕だけをその瞳に映してください。貴女の居場所はここだけですよ。」
「じぇいどせんぱい、わたし、」
「大丈夫です。貴女の望むことは、全て叶えますから。僕が。」
地面にあったキラキラは。
今では先輩の髪を揺らしている。
私の世界のすべては、ここに。
幸せは、この青の先にしか、ありえない。
いつからか、こういう場面には蝉の声がする、という固定観念が私にはあったよう。
そういえばこの世界では蝉に出会っていない。
ここには、当然のようにあるものも、もちろんその反対で、存在しないものも、あるのだ。
「おや、小鳥」
「ほんと!かわいい!」
ジェイド先輩が指さした先には、青い羽根の小鳥が一羽。
その小鳥は、蝉の代わりに心地よいメロディーで囀る。
「幸せの、青い鳥ね…」
「ああ、そういう逸話もありますね。」
にこ、と笑いかければ、ふんわりとした笑みが返ってきた。
森の中にジェイド先輩と二人。
山を愛する会は、私にはピッタリの部活だとつくづく思う。
でも今日は部活で入る山よりかはなだらかな感じだったので、ハイキングというよりピクニック感覚。部活というより、デートだ。
いつもよりはちょっとだけ軽装で、足取りも軽い。
もとより自然が大好きだった。
私の故郷の記憶は、もはやぼんやりとしてきているけれど、そういった概念的なものは頭に残っている。
山や川という場所も。夏や冬という季節も。
それはたぶん、「見た」のではなく、「感じ取った」ものだから、忘れようがないんだろうなと。
だって逆に、あれほど近くにいた家族の顔ですら朧気になってしまったのだから。もちろん顔を合わせればすぐにわかるのだろうけど、恐らく一生、そんなタイミングは訪れないだろう。
きゅっと麦わら帽子のつばを下げて、空ではなく足元に目を向ける。
木漏れ日がキラキラと地面に反射しているのを見て、少しだけセンチメンタルになった。
もうそんな悲しみは私の中から消え失せたと思っていたけれど、どこかでちくちくと心に棘が刺さる気もする。
なんだか自分の存在が希薄になって、怖くて。
ジェイド先輩、と名前を呼ぼうとして気づく。
声が。
喉の奥に張り付いてしまったみたいに音を発することができなかった。
自分の声がどこかに行ってしまったみたい。
けれど、はく、と唇を動かした、それに合わせて、先輩はこちらを振り向いた。
「どうかされましたか?」
「…、ァ」
「ああ…また何か、貴女の心に映ってしまったのですか。」
私の瞳を見て、何もかもを悟ったジェイド先輩は、ふわり、私を抱き上げた。
柔らかく抱きしめられてしまえば、もうこの腕以外に望むものなんて何もなくなってしまうの。
「怖がらないでいいんです。僕だけをその瞳に映してください。貴女の居場所はここだけですよ。」
「じぇいどせんぱい、わたし、」
「大丈夫です。貴女の望むことは、全て叶えますから。僕が。」
地面にあったキラキラは。
今では先輩の髪を揺らしている。
私の世界のすべては、ここに。
幸せは、この青の先にしか、ありえない。