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「…まぶしいな…」
清々しい午後の太陽は、春を運んできたかのように僕を照らす。
こんな時間にこの僕が、ポカンとしながら雲ひとつない青空を眺めているのはどうしてか。
それは飛行術の授業の居残りをさせられているからに他ならない。
「アズール先輩、大丈夫ですか?」
「…これが大丈夫に見えますか?」
「ですよね…頭とか打ってません?」
「身体ごと打ちつけましたよ」
「聞き方が悪かったですね、ごめんなさい。立てますか?」
「心配はいりません。一人で立てます」
居残りの課題は「ホウキに乗ったまま安定して一分、二メートル以上の高さで浮いて居られるようになること」。それを計測するためのパートナーに選ばれたのが彼女だった。
こんな無様な姿は見られたくなかったのだが、教員から直々にご指名された彼女は拒否できなかったに違いない。
目の前に差し出された手は、僕の言葉を聞いて、所在なさげに引っ込んでしまう。僕はその隙に上半身を起こして腕についた土を払った。
「今、どのくらい浮いていましたか?」
「えっと、四十秒くらい、ですね。高さは申し分なかったと思います」
「そうですか…」
「それでもはじめと比べたら格段に、」
「努力は美談じゃない。できなければ同じだ」
「…そ、そうですよね…すいません…」
だんだん小さくなる彼女の声に、しまったと思ってももう遅い。言葉は口から出してしまったら戻らない。相手に届いてしまったら心の中に一生取れることのない染みを作ってしまう。そんなこと、自分が一番わかっているはずなのに。どうして過ちを起こしてしまうのかと反省ばかりだ。
「…違うんです」
「はい?」
「すみませんでした…、そんなことが言いたかったのではなくて…ああもう…」
どう伝えたらよいのかわからず、そのまま足の間に頭を埋めて顔を隠した。
「どうしたんですか?やっぱりどこか痛みますか?」
「…痛いです、ものすごく痛いです、それはもう本当に痛みます!」
「ええっ?!ど、どこが?!大丈夫ですか?!ほ、保健室、それよりも先生?!」
「いえ、先生も保健室も必要ありません。ただ、必要なものが一つだけあります」
「なんですか!治るなら何でもしますから早く言ってください!」
前のめりに僕を見つめてくるその身体を引き寄せて、そのまま僕の腕の中に収めた。
肩口にぐり、と額を押し付けて、すぅ、と呼吸をすれば、この間彼女に送ったコロンの香りがして、心が満たされる。
それは僕のお気に入りのコロンの香りをベースに、カモミールが優しく漂う特注のもの。
彼女が僕の番だという証かのように、自分の香りを纏わせて満足するのは子供っぽいだろうか。
「せん、ぱい」
「身体は傷みませんが、心が少し…。なので、パワーの補給です」
「私で、補給、できるんですか?」
「貴女からじゃないと、できません」
それを耳にして、そっかぁ…と力を抜いた彼女は、僕の背中に手を回して、そっと抱きしめ返してくれる。
「先輩の心の痛み、私が治せて良かったです」
「…先程は失礼なことを言いました。すみません」
「いえ、私も、先輩が頑張ってるのを見ているのに、軽々しく言ったのが悪かったんです」
「…もう少しだけ僕を見捨てずに練習に付き合っていただけますか?」
「私が先輩を見捨てるわけないでしょう?先輩が頑張っている姿を私が見守らなくて誰が見守るんですか?」
「ふっ…そうですね」
「そうですよ!」
恋というのは、芽が出てしまえば枯れることはないのか?
…そんなことはないだろう。
たくさん愛情を注いで育てていかなければいけないものに違いない。
繋いだこの心が離れてしまわないように。
良いことも悪いこともなるべく素直に伝えて、春夏秋冬綺麗な花を咲かせ続けよう。
清々しい午後の太陽は、春を運んできたかのように僕を照らす。
こんな時間にこの僕が、ポカンとしながら雲ひとつない青空を眺めているのはどうしてか。
それは飛行術の授業の居残りをさせられているからに他ならない。
「アズール先輩、大丈夫ですか?」
「…これが大丈夫に見えますか?」
「ですよね…頭とか打ってません?」
「身体ごと打ちつけましたよ」
「聞き方が悪かったですね、ごめんなさい。立てますか?」
「心配はいりません。一人で立てます」
居残りの課題は「ホウキに乗ったまま安定して一分、二メートル以上の高さで浮いて居られるようになること」。それを計測するためのパートナーに選ばれたのが彼女だった。
こんな無様な姿は見られたくなかったのだが、教員から直々にご指名された彼女は拒否できなかったに違いない。
目の前に差し出された手は、僕の言葉を聞いて、所在なさげに引っ込んでしまう。僕はその隙に上半身を起こして腕についた土を払った。
「今、どのくらい浮いていましたか?」
「えっと、四十秒くらい、ですね。高さは申し分なかったと思います」
「そうですか…」
「それでもはじめと比べたら格段に、」
「努力は美談じゃない。できなければ同じだ」
「…そ、そうですよね…すいません…」
だんだん小さくなる彼女の声に、しまったと思ってももう遅い。言葉は口から出してしまったら戻らない。相手に届いてしまったら心の中に一生取れることのない染みを作ってしまう。そんなこと、自分が一番わかっているはずなのに。どうして過ちを起こしてしまうのかと反省ばかりだ。
「…違うんです」
「はい?」
「すみませんでした…、そんなことが言いたかったのではなくて…ああもう…」
どう伝えたらよいのかわからず、そのまま足の間に頭を埋めて顔を隠した。
「どうしたんですか?やっぱりどこか痛みますか?」
「…痛いです、ものすごく痛いです、それはもう本当に痛みます!」
「ええっ?!ど、どこが?!大丈夫ですか?!ほ、保健室、それよりも先生?!」
「いえ、先生も保健室も必要ありません。ただ、必要なものが一つだけあります」
「なんですか!治るなら何でもしますから早く言ってください!」
前のめりに僕を見つめてくるその身体を引き寄せて、そのまま僕の腕の中に収めた。
肩口にぐり、と額を押し付けて、すぅ、と呼吸をすれば、この間彼女に送ったコロンの香りがして、心が満たされる。
それは僕のお気に入りのコロンの香りをベースに、カモミールが優しく漂う特注のもの。
彼女が僕の番だという証かのように、自分の香りを纏わせて満足するのは子供っぽいだろうか。
「せん、ぱい」
「身体は傷みませんが、心が少し…。なので、パワーの補給です」
「私で、補給、できるんですか?」
「貴女からじゃないと、できません」
それを耳にして、そっかぁ…と力を抜いた彼女は、僕の背中に手を回して、そっと抱きしめ返してくれる。
「先輩の心の痛み、私が治せて良かったです」
「…先程は失礼なことを言いました。すみません」
「いえ、私も、先輩が頑張ってるのを見ているのに、軽々しく言ったのが悪かったんです」
「…もう少しだけ僕を見捨てずに練習に付き合っていただけますか?」
「私が先輩を見捨てるわけないでしょう?先輩が頑張っている姿を私が見守らなくて誰が見守るんですか?」
「ふっ…そうですね」
「そうですよ!」
恋というのは、芽が出てしまえば枯れることはないのか?
…そんなことはないだろう。
たくさん愛情を注いで育てていかなければいけないものに違いない。
繋いだこの心が離れてしまわないように。
良いことも悪いこともなるべく素直に伝えて、春夏秋冬綺麗な花を咲かせ続けよう。