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まだまだ暑さが残る今日この頃。
あまり無駄遣いができる環境にいないため、普段は飲み物はお水だけで我慢している私は、急な温度変化に対応できなかった模様。
フラフラとしていたところをグリムに見られ、それが瞬く間に広まったせいで、やれジャミル先輩だ、ラギー先輩だと各寮のお母さん立ち位置の人に心配され、この時期はスポーツドリンクのようなものを飲むこと!と、説教された。
飲み始めて3日目にして、少し体の調子も落ち着いてきた気がする。いい兆候だ。
しかし、これを毎日飲むにはいささか懐事情に問題があると早々にうなだれてしまった。
毎日100マドル、か。
たかが、は、されど、だ。
「う~ん...昨日の今日だけど体調も戻ってきたし、薄めたら2倍飲めるかなっ…!?」
背に腹は代えられない。水増しするしかない。そうしよう。
と、食堂でそのドリンクのボトルに水を入れていたところ。
「こんにちは」
「アレェ?小エビちゃんだぁ~」
「監督生さん、何をしているのですか」
「あ」
やばい。
この行動を一番見られたくない人たちに見られてしまった。
「い、いえ、なんでも。あの、私急ぐので。失礼します」
このままここにいるよりは自分から離れたほうが得策だろう。ああ、もう少し新鮮なお水がほしかった…と名残惜しい気持ちもあれど、きゅ、と蓋を閉めて立ち去ろうとした。
刹那、フロイド先輩に腕を引かれ、元の位置に連れ戻されるだけでなく、そのまますっぽりと身体を拘束された。
「…あの…フロイド先輩?」
「まだ話し中なのにどこ行こうとしてんの?」
「何をしているのか、と尋ねたんですよ僕たちは」
「え、いや、先輩たちには関係ないじゃないですか…?」
「関係あるないはオレ達が決めるし」
「左様ですか…」
正直、私の身長からしたら三人に囲まれて見下ろされては怖い以外の感想がわかない。
腕に抱えたボトルをぎゅっと抱きしめて、引き笑いを漏らす。
「それで、答えは?」
「…笑いませんか…?」
「えぇもちろん」
「本当に本当ですか?」
「貴女、信用ありませんね。本当ですよ」
『じゃあ、言いますけど』と息を吸ってから、吐き出された言葉にアズール先輩がぽかんとした。
「かさましです…」
「はい?」
「だから!!かさまししてました!!」
「えっ…と…?」
「かさましの意味わかりますか!?」
「わかりますよ!!意味は!!けれど、それ…持っているそれは…」
「ただのスポーツドリンクですよ!?」
「スポーツドリンクくらい、買えば…」
「買えないから困ってるんですよ!!うちの寮の財政知ってますか?!破綻してんですよとっくに!!私が倒れたって何したってお金が増えることはないんです!!毎日100マドルもかけて!?スポーツドリンクを飲み続けられるとでも?!」
一気にまくし立てていたら、またふらりと倒れそうになって、いけないと頭をふるふる振った。
しかしながら、ジェイド先輩にはお見通しなようで、肩をそっとささえられて、大げさに身体が跳ねた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、す、すみません、大丈夫ですッ」
「あのさー小エビちゃん、まだ調子悪りぃの?」
「えっ、」
「カマをかけるような真似をしてすみませんでした。他の寮の方に、貴女の調子が悪いと伺っていたものですから。それで何をしているのか気になったんですよ。悪い薬でも飲んでいるのかと」
「…慈悲の心ですか?」
「それもありますが、僕らだって、女性の心配くらいしますよ」
「アズールがさぁ、ちょー心配してたんだって」
「ん”な”っ?!」
「へ?アズール先輩が?私を?なんで?」
三人の顔を順々に見回して、私は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
けれど、フロイド先輩とジェイド先輩はニヤニヤと笑っているだけだし、アズール先輩は顔を赤くしてわなわなと震えているだけだ。
私は、なにか先輩を怒らせるようなことを言っただろうか。
「ええと…ご、ごめん、なさい?」
「謝るくらいなら倒れるな!
「!」
「倒れそうになる前にモストロ・ラウンジへ来なさい!賄いくらい食べさせてあげますから!慈悲の心ですよこれは!」
いいですね!と、念を押されるままにうなづき返せば、『よろしい』と一言。
そのまま踵と返して、『ジェイド!フロイド!行きますよ!』だって。
「待ってよアズールゥ」
「早く来なさい!」
「んん??」
「あぁそうだ、貴女は知らないかもしれませんが、スポーツドリンクというのは、薄めて飲んでも効果はありませんよ。かさましはおやめなさい」
「…だから…私だってしたくてしてるわけじゃ…」
パチン、とジェイド先輩が指を鳴らすと、私の手の中にあったボトルの中身が、透明からレモン色に変わった。
わ、と感嘆の声を漏らすと、先輩は苦笑しながら『そちら、モストロ・ラウンジの夏の特製ドリンクです』と言う。
「さっぱりとした味わいですし、薄めたスポーツドリンクよりもビタミンが豊富で良いですよ」
「!?そんなものいただけないですよ!対価が払えないんですから!」
「いいんですよ、アズールのポケットマネーに請求しておきますから」
「余計怖い!!」
「小エビちゃん、毎日それのみに来てよウチに。そうしたら多分、アズール、チャラにしてくれるよ〜」
「そんなわけないでしょ!!」
「それが、あるんだなぁ〜。まぁ、細かいことは、秘密〜」
「こ、こわ…」
「人の善意は受け取っておくものですよ」
それだけ言って満足したのか、『それではまた』と残して、リーチ兄弟も私の元を去っていった。
「なんだったの…?」
後日知ったのだけれど、夏の終わりのこの時期に変更されたと思っていたラウンジのメニュー表は、実は私専用のもので、あのドリンクも『モストロ・ラウンジの特製ドリンク』ではなく『監督生のための特製ドリンク』だったそうで。
その真意を知るのはそれからさらに二ヶ月後であった。
あまり無駄遣いができる環境にいないため、普段は飲み物はお水だけで我慢している私は、急な温度変化に対応できなかった模様。
フラフラとしていたところをグリムに見られ、それが瞬く間に広まったせいで、やれジャミル先輩だ、ラギー先輩だと各寮のお母さん立ち位置の人に心配され、この時期はスポーツドリンクのようなものを飲むこと!と、説教された。
飲み始めて3日目にして、少し体の調子も落ち着いてきた気がする。いい兆候だ。
しかし、これを毎日飲むにはいささか懐事情に問題があると早々にうなだれてしまった。
毎日100マドル、か。
たかが、は、されど、だ。
「う~ん...昨日の今日だけど体調も戻ってきたし、薄めたら2倍飲めるかなっ…!?」
背に腹は代えられない。水増しするしかない。そうしよう。
と、食堂でそのドリンクのボトルに水を入れていたところ。
「こんにちは」
「アレェ?小エビちゃんだぁ~」
「監督生さん、何をしているのですか」
「あ」
やばい。
この行動を一番見られたくない人たちに見られてしまった。
「い、いえ、なんでも。あの、私急ぐので。失礼します」
このままここにいるよりは自分から離れたほうが得策だろう。ああ、もう少し新鮮なお水がほしかった…と名残惜しい気持ちもあれど、きゅ、と蓋を閉めて立ち去ろうとした。
刹那、フロイド先輩に腕を引かれ、元の位置に連れ戻されるだけでなく、そのまますっぽりと身体を拘束された。
「…あの…フロイド先輩?」
「まだ話し中なのにどこ行こうとしてんの?」
「何をしているのか、と尋ねたんですよ僕たちは」
「え、いや、先輩たちには関係ないじゃないですか…?」
「関係あるないはオレ達が決めるし」
「左様ですか…」
正直、私の身長からしたら三人に囲まれて見下ろされては怖い以外の感想がわかない。
腕に抱えたボトルをぎゅっと抱きしめて、引き笑いを漏らす。
「それで、答えは?」
「…笑いませんか…?」
「えぇもちろん」
「本当に本当ですか?」
「貴女、信用ありませんね。本当ですよ」
『じゃあ、言いますけど』と息を吸ってから、吐き出された言葉にアズール先輩がぽかんとした。
「かさましです…」
「はい?」
「だから!!かさまししてました!!」
「えっ…と…?」
「かさましの意味わかりますか!?」
「わかりますよ!!意味は!!けれど、それ…持っているそれは…」
「ただのスポーツドリンクですよ!?」
「スポーツドリンクくらい、買えば…」
「買えないから困ってるんですよ!!うちの寮の財政知ってますか?!破綻してんですよとっくに!!私が倒れたって何したってお金が増えることはないんです!!毎日100マドルもかけて!?スポーツドリンクを飲み続けられるとでも?!」
一気にまくし立てていたら、またふらりと倒れそうになって、いけないと頭をふるふる振った。
しかしながら、ジェイド先輩にはお見通しなようで、肩をそっとささえられて、大げさに身体が跳ねた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、す、すみません、大丈夫ですッ」
「あのさー小エビちゃん、まだ調子悪りぃの?」
「えっ、」
「カマをかけるような真似をしてすみませんでした。他の寮の方に、貴女の調子が悪いと伺っていたものですから。それで何をしているのか気になったんですよ。悪い薬でも飲んでいるのかと」
「…慈悲の心ですか?」
「それもありますが、僕らだって、女性の心配くらいしますよ」
「アズールがさぁ、ちょー心配してたんだって」
「ん”な”っ?!」
「へ?アズール先輩が?私を?なんで?」
三人の顔を順々に見回して、私は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
けれど、フロイド先輩とジェイド先輩はニヤニヤと笑っているだけだし、アズール先輩は顔を赤くしてわなわなと震えているだけだ。
私は、なにか先輩を怒らせるようなことを言っただろうか。
「ええと…ご、ごめん、なさい?」
「謝るくらいなら倒れるな!
「!」
「倒れそうになる前にモストロ・ラウンジへ来なさい!賄いくらい食べさせてあげますから!慈悲の心ですよこれは!」
いいですね!と、念を押されるままにうなづき返せば、『よろしい』と一言。
そのまま踵と返して、『ジェイド!フロイド!行きますよ!』だって。
「待ってよアズールゥ」
「早く来なさい!」
「んん??」
「あぁそうだ、貴女は知らないかもしれませんが、スポーツドリンクというのは、薄めて飲んでも効果はありませんよ。かさましはおやめなさい」
「…だから…私だってしたくてしてるわけじゃ…」
パチン、とジェイド先輩が指を鳴らすと、私の手の中にあったボトルの中身が、透明からレモン色に変わった。
わ、と感嘆の声を漏らすと、先輩は苦笑しながら『そちら、モストロ・ラウンジの夏の特製ドリンクです』と言う。
「さっぱりとした味わいですし、薄めたスポーツドリンクよりもビタミンが豊富で良いですよ」
「!?そんなものいただけないですよ!対価が払えないんですから!」
「いいんですよ、アズールのポケットマネーに請求しておきますから」
「余計怖い!!」
「小エビちゃん、毎日それのみに来てよウチに。そうしたら多分、アズール、チャラにしてくれるよ〜」
「そんなわけないでしょ!!」
「それが、あるんだなぁ〜。まぁ、細かいことは、秘密〜」
「こ、こわ…」
「人の善意は受け取っておくものですよ」
それだけ言って満足したのか、『それではまた』と残して、リーチ兄弟も私の元を去っていった。
「なんだったの…?」
後日知ったのだけれど、夏の終わりのこの時期に変更されたと思っていたラウンジのメニュー表は、実は私専用のもので、あのドリンクも『モストロ・ラウンジの特製ドリンク』ではなく『監督生のための特製ドリンク』だったそうで。
その真意を知るのはそれからさらに二ヶ月後であった。
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