小噺色々
ジェイドの部屋には妖精が住んでいる。
いや、妖精、などという俗な言い方はよくないか。彼女はジェイドの番なのだから。
小さな番に、持ち帰った一輪の白い薔薇を差し出して、にこりと笑ったジェイドは今日も番の可愛さに心癒され、上機嫌だ。
「まぁ綺麗!これを私に?ありがとう!えっと、これは…薔薇かしら?」
「ええそうですよ。今日は色を変化させる授業があったもので」
「あらそうだったの!じゃあ元から真っ白なわけじゃないのね?」
「元は真っ赤でしたよ。ですから…さながら偽物の純潔、と言ったところでしょうか」
白の薔薇の花言葉は純潔ですがそれは作られた白なので、とジェイドが言うと、妖精は「そんなふうに言ってはお花が可哀想だわ!」と頬を膨らませた。
「色が変わるなんて着せ替えみたいなものだわ。薔薇っていうものの本質は変わらないの。綺麗だし、香りも素敵よ」
ね、とその薔薇に語りかけるように花びらに触れる妖精はそれはそれは華麗だし、それに加えて可愛い理論。ジェイドはメロメロである。綻んだジェイドの顔を見てパタパタと飛び上がった妖精は、そのままジェイドの鼻先にちょんと触れた。
「それに色が変えられたことで偽物って言われてしまうなら、私が大きくなったら『お前は偽物だ!』って言われるのと同じよ?」
「なにを仰いますか。そんなことは、」
「ないって、ジェイドさんは言うと思うけれど。生まれたままの姿から自らの力では変われないお花と、きのこのおかげで変われる私の違いはなにかしら。運命的な出会いに恵まれて、大きくなれたり、オシャレを楽しめたりするのは、本当に偶然のことだったのよ」
「…なるほど。考えてみれば、僕もそうです。広い海の中、偶然にアズールと知り合わなければ陸にあがってくることもありませんでした」
「ほら、ね?偶然の重なりが今に繋がって、それが未来からみたら運命と言えるだけなんだわ。私、ジェイドさんと出会えてよかった」
チュッとジェイドの頬に贈られたキスは、柔らかい熱を残してすぐに消えたけれど、その事実は消えることはない。思い出を重ねて幸せを積み重ねるのだ。
ほわりと暖かく満たされる心がくすぐったくて珍しく柔和な笑みを浮かべたジェイドに向き合って、はた、と妖精は純粋な疑問を口にした。
「そういえばジェイドさん。今、海の中って言ったけれど、人魚の妖精ってどんな感じなのかしら?」
「え?」
「ジェイドさんは人魚の妖精なのでしょう?初めて会ったときにそう言っていたものね。私が大きくなったりジェイドさんが小さくなったりしてきたけれど、ジェイドさんの海の中での姿はどんななの?」
私も海の中に行けたらいいのに、と両手でほっぺを包んで妄想の世界に旅立った妖精を横目に、ジェイドの脳は高速回転して昔を思い出していた。
「では、一つ目。貴女は妖精、ですか?」
「そうよ。貴方は?」
「僕は人魚の妖精です」
記憶を遡り終えて、なるほど。そう言ったのは僕ですね、と今度は眉を八の字にしてニヤニヤとする。
さて、どうしようかと考えるがしかし、口を開けばすらすらと言葉を紡ぐことができるのが、このジェイド・リーチという男である。
「僕は陸の暮らしが海よりも好きなので、あまり海の話は…」
「えっ、そ、そうだったの…?私、そんな重いことだとは知らずに軽はずみなことを…!」
「いえ、いいんです、貴女はなにも悪くありません。僕がそんなことを言わなければ話にものぼりませんでしたし」
「ごめんなさい、いいのよジェイドさん、言いたくないなら、」
「いいえ、貴女にはぜひ知ってほしいのです。…その…実は僕、元の姿は体長が四メートルもあるのです」
「よっ、よんめーとる!?妖精でそんなに大きな種族があるの!?それ、本当に妖精なのかしら!?」
「ええ、ええ…妖精とは小さなイメージがありますから、恥ずかしくて…」
しくしくと涙するその姿もまた嘘の塊なのだが、そんなジェイドの様子にいつでも全てを許してしまうのが、心優しい妖精である。『ごめんなさい、もうそんなこと言わないわ、周りと異なるのは寂しかったりするものね』とジェイドの頬に縋り付いて撫で撫でと手を動かすのだからもうジェイドのナニはピンピンになってしまった。
完璧な笑顔を貼り付けて、今日も今日とて番に愛を語らうこの人魚の妖精…否、ウツボの人魚、ジェイド・リーチ。彼は番を掌に乗せて、シャワールームへと急ぎながらも『ですがまぁそれもまた、嘘、なんですけれどね』と呟いた。
いや、妖精、などという俗な言い方はよくないか。彼女はジェイドの番なのだから。
小さな番に、持ち帰った一輪の白い薔薇を差し出して、にこりと笑ったジェイドは今日も番の可愛さに心癒され、上機嫌だ。
「まぁ綺麗!これを私に?ありがとう!えっと、これは…薔薇かしら?」
「ええそうですよ。今日は色を変化させる授業があったもので」
「あらそうだったの!じゃあ元から真っ白なわけじゃないのね?」
「元は真っ赤でしたよ。ですから…さながら偽物の純潔、と言ったところでしょうか」
白の薔薇の花言葉は純潔ですがそれは作られた白なので、とジェイドが言うと、妖精は「そんなふうに言ってはお花が可哀想だわ!」と頬を膨らませた。
「色が変わるなんて着せ替えみたいなものだわ。薔薇っていうものの本質は変わらないの。綺麗だし、香りも素敵よ」
ね、とその薔薇に語りかけるように花びらに触れる妖精はそれはそれは華麗だし、それに加えて可愛い理論。ジェイドはメロメロである。綻んだジェイドの顔を見てパタパタと飛び上がった妖精は、そのままジェイドの鼻先にちょんと触れた。
「それに色が変えられたことで偽物って言われてしまうなら、私が大きくなったら『お前は偽物だ!』って言われるのと同じよ?」
「なにを仰いますか。そんなことは、」
「ないって、ジェイドさんは言うと思うけれど。生まれたままの姿から自らの力では変われないお花と、きのこのおかげで変われる私の違いはなにかしら。運命的な出会いに恵まれて、大きくなれたり、オシャレを楽しめたりするのは、本当に偶然のことだったのよ」
「…なるほど。考えてみれば、僕もそうです。広い海の中、偶然にアズールと知り合わなければ陸にあがってくることもありませんでした」
「ほら、ね?偶然の重なりが今に繋がって、それが未来からみたら運命と言えるだけなんだわ。私、ジェイドさんと出会えてよかった」
チュッとジェイドの頬に贈られたキスは、柔らかい熱を残してすぐに消えたけれど、その事実は消えることはない。思い出を重ねて幸せを積み重ねるのだ。
ほわりと暖かく満たされる心がくすぐったくて珍しく柔和な笑みを浮かべたジェイドに向き合って、はた、と妖精は純粋な疑問を口にした。
「そういえばジェイドさん。今、海の中って言ったけれど、人魚の妖精ってどんな感じなのかしら?」
「え?」
「ジェイドさんは人魚の妖精なのでしょう?初めて会ったときにそう言っていたものね。私が大きくなったりジェイドさんが小さくなったりしてきたけれど、ジェイドさんの海の中での姿はどんななの?」
私も海の中に行けたらいいのに、と両手でほっぺを包んで妄想の世界に旅立った妖精を横目に、ジェイドの脳は高速回転して昔を思い出していた。
「では、一つ目。貴女は妖精、ですか?」
「そうよ。貴方は?」
「僕は人魚の妖精です」
記憶を遡り終えて、なるほど。そう言ったのは僕ですね、と今度は眉を八の字にしてニヤニヤとする。
さて、どうしようかと考えるがしかし、口を開けばすらすらと言葉を紡ぐことができるのが、このジェイド・リーチという男である。
「僕は陸の暮らしが海よりも好きなので、あまり海の話は…」
「えっ、そ、そうだったの…?私、そんな重いことだとは知らずに軽はずみなことを…!」
「いえ、いいんです、貴女はなにも悪くありません。僕がそんなことを言わなければ話にものぼりませんでしたし」
「ごめんなさい、いいのよジェイドさん、言いたくないなら、」
「いいえ、貴女にはぜひ知ってほしいのです。…その…実は僕、元の姿は体長が四メートルもあるのです」
「よっ、よんめーとる!?妖精でそんなに大きな種族があるの!?それ、本当に妖精なのかしら!?」
「ええ、ええ…妖精とは小さなイメージがありますから、恥ずかしくて…」
しくしくと涙するその姿もまた嘘の塊なのだが、そんなジェイドの様子にいつでも全てを許してしまうのが、心優しい妖精である。『ごめんなさい、もうそんなこと言わないわ、周りと異なるのは寂しかったりするものね』とジェイドの頬に縋り付いて撫で撫でと手を動かすのだからもうジェイドのナニはピンピンになってしまった。
完璧な笑顔を貼り付けて、今日も今日とて番に愛を語らうこの人魚の妖精…否、ウツボの人魚、ジェイド・リーチ。彼は番を掌に乗せて、シャワールームへと急ぎながらも『ですがまぁそれもまた、嘘、なんですけれどね』と呟いた。