【完結】僕らのフェアリーテイル
学校探検は数日後に決行された。
万一の時に生徒に紛れるために真っ黒の大きなパーカーを買ってもらって、でもズボンは苦手でしょうからとスカートを履かせてくれたのは、アズールさんの優しさに違いない。スニーカーはフロイドさんが見繕ってくれた。とってもかわいいですと言えば、フェアリーちゃんも陸の生活楽しめるといいねと頭を撫でられて擽ったかった。
「さぁ、行きましょう」
「はいっ!」
手を握ってもらったら怖さなんて全くなくなるんだから、魔法士ってなんでもできてしまうのねと、そう思う。
(とても不思議。アズールさんとなら、なんだってできる気がするんです)
こそこそと小走りに進む寮内も、鏡を抜けた先の景色も、そこに広がる気配も、何もかもが初めてで情報量の多さに困ってしまう。すぅっと吸い込んだのは間違いなく普段通りの夜の空気なのに、空には私が元居たところや今住む家から見たものより数倍大きな月が浮かんでいて溜め息が漏れた。
「大きなお月様…!」
「一年のうちでも見え方が変わりますからね。この時期の賢者の島の満月は一番大きいはずですよ。僕も初めて見たときには驚いたくらいなので」
「お月様の見え方が違うなんて全然知らなかった…。世界は広いのね…」
「それに驚いているだけでは勿体ありませんよ。時間が惜しいです、先に進みましょう」
「あっ、すみません私ったら! つい見とれ、きゃっ!」
突然アズールさんの吐息を間近に感じたと思ったら私の身体は宙に浮いていて、それからその腕に横抱きに収まった。アズールさんを見上げると、ニヤリとされて頬が熱くなる。
「貴女のスピードに合わせていたら夜が明けてしまう」
「ご、ごめんなさい…!」
「…なんて。冗談ですよ。僕が貴女を抱き締めたかっただけです」
その言葉の意味を理解したら、恥ずかしくて嬉しくて。どうしようと口がぱくぱくしてしまったけれど、アズールさん自身も自分の台詞が恥ずかしかったのか頬を染めていたので、二人顔を突き合わせて笑ってしまった。
「学園はとても広いので、一日では回りきれません。貴女に紹介したい場所を僕が選んでも?」
「もちろん大歓迎です!」
「そうですか。では参りましょう、僕のプリンセス」
返事の代わりにぎゅっと掴まると、アズールさんはもう一度くすりと笑って歩き出した。
グレートセブンの銅像について説明してもらったり、マジフトというものをするグラウンドを見たり、お買い物をするお店にこっそり入って行って、美味しいドリンクをご馳走してもらったり、それから、大きな図書館を案内してもらったり。
とても楽しい時間があっという間に過ぎていくことに寂しさを覚えた。
時が止まればいいのにとさえ思いつつ、月が照らす長い回廊を二人、戯れながら進む。時に腕を絡めて歩き、時に止まって外を眺めては寄り添って囁いて、幸せを噛みしめる。
「ねぇアズールさん」
「はい」
「また一つ、夢が叶いました」
「へぇ?どんな」
「アズールさんとデートする夢!嬉しい!」
「っ、そんなの、貴女が望むなら、…! そこで止まって…! ……誰か来る」
「え、」
一本道の突き当たりにランプの光が揺れたのを見てとって、アズールさんの声が強張った。このまま鉢合わせたらお咎めを受けてしまう。どうしよう。教師や見回りの人たちは総じて魔力の強いものが多いと聞いたことがある。私の魔力程度で欺けるかしら。
「アズールさん、あの、」
「貴女! こちらへ!」
「え?」
魔法をかける範囲を狭めるために私に近寄って、と声を掛けようとしたそのとき、逆に腕を引かれてそばにあった教室に引き摺り込まれた。どうして鍵が? と思ったけれど、その理由はすぐにわかった。
「ふぅ、間一髪でしたね」
「見つからなくてよかったです…。でもここは…?」
「ここは、僕が所属しているボードゲーム部の部室です。だから鍵もあります」
「なるほど、ラッキーだったんですね、よかった…!」
チャリ、と揺らされた鍵を見て緊張を緩めつつ、室内を見て回った。
「っ…わぁ…!」
その部屋はアズールさんと同じ部活のイデアさんという方しか利用しないらしく、私物で溢れかえっていた。ボードゲームの駒やカードや何に使うかわからない電子機器まで様々なものを一つ手に取っては何をするものなのか聞き、また一つ取っては月明りに照らしてみる。そんな何でもないことがとても楽しくて、それでいて、寂しくなる。
ソファーに腰かけて、ふっと息を吐いてしまった私の足元に膝まづくように座り込んだアズールさんは私を下から覗き込んで『疲れてしまいましたか?』と優しく問いかけた。
「ううん…違うの…。とっても楽しい…ありがとうございます、アズールさん」
「僕の目をごまかそうとしても無駄ですよ。どうして元気がなくなってしまったのです? …それとも僕には話せませんか?」
「っ…そんなっ、」
「話せることなら聞かせてくれませんか? 残念ながら僕は心まで読むことができませんから」
壊れ物を扱うようにゆっくりと頬に触れられて、酷く心を揺さぶられた。私は決心して、徐に唇を開く。
「どうして私はアズールさんと同じ人魚じゃないの? 人でもないの? 悲しい…どうして? どうして貴方と同じに生きられないの?」
「貴女…」
ぽろりと零した言葉とともにまた涙が溢れそうになって、ぐっと口を引き結ぶ。
「だ、だめですねっ…。こんなこと、言っては。アズールさんは、そんな私を、好きだと言ってくれたのにっ、私った、ン、ん!」
私が無理に微笑もうとしたと同時に、アズールさんが立ち上がったと思ったら、そのまま頭を固定されてソファーに押し付けられるように唇を奪われた。最初はパクリと隙間なく合わさるだけだったそれなのに、迷いなく唇を割られて熱い舌が滑り込んできて、そのまま咥内を荒らされる。
時折漏れる唾液をかき混ぜる音が静かなお部屋に響いて私の身体を熱くする。こんなキスをされるとどんなときでもほしくなってしまうの。そんな風に、ずっとずっと、愛してもらってきたから身体は正直。震える指を必死でアズールさんに伸ばせば、こんなに激しくキスしているのにそれにきちんと気づいてくれて、私の手を絡め取って自分の首に誘ってくれた。
優しい。どうしよう。ほしい。アズールさんが、今すぐ。愛してほしい。
暫く互いの思うままに互いを貪って味わっていたけれどやっぱり私の息が続かなくて、くしゃりとアズールさんの髪を掴んでしまった。刹那、離れた唇。繋がった銀の糸は窓から差し込む月明りにキラリと反射した。ぷはぁッと胸いっぱいに息を吸い込めば、暖かな眼差しが私を捉える。その視線に、じわりと滴ったのは何だったかしら。
ずるずるとソファーの背を伝って沈んでいく身体は、アズールさんの手によってきちんと寝かされて、ソファーなのにふかふかだわ、とお門違いな考えが頭に浮かんだ。
アズールさんの掌がスカートの裾から入り込み、私の太ももを撫で上げる。ぴくんと素直に反応した私の身体にアズールさんの口の端がにやりと歪んだのにすらときめいて心臓が痛い。
「物欲しそうな顔をして…。いけない人だ」
「……だってっ…、そんな風に、触るんだものっ…」
「貴女が悲しいと言うからですよ。僕はこの出会いを運命とすら思っているのに」
「え…、」
「貴女が、僕が貴女のことを番にした理由をどう思っているのかはわかりませんが、僕は貴女がどんな姿であれ貴女に恋をしたでしょう。そんな見かけだけの理由じゃないんですよ?」
「…っ、ほん、と?」
「ええ、僕は嘘をつきません。少なくとも貴女にはね」
ちゅっ、と、優しいキスが唇に落ちてきて、角度を変えては触れ合って、そして離れた。瞳が潤いを増すのがわかったけれど、涙はまだ溢れない。アズールさんに触れるとね、愛しいと心が叫ぶの。だからきっと、綺麗な宝石ができるのね。
「アズールさん…もっと…」
「ふ、今日も素直でとても可愛いですね。いつもと違う場所、いいじゃないですか。このままここで育くみましょうか、愛を」
「!?こ、ここで?」
「鍵はかけましたし、たまには、ね?」
「アズールさん、まって、そんなっ、お部屋に戻りまッ、ァっ…!」
触れられてしまえば、快楽を覚えた身体は彼を求めてしまう。
ああ、こんな誰がくるかわからない場所で淫らにされてしまうのかと思うのに、それすらも私を煽るピースになってしまった。
好き、好き、好きよ、愛してるの。
私は貴方のものだから。
貴方が思うままに、愛してくださいね。
この身体が朽ちるまで、ずっと。
万一の時に生徒に紛れるために真っ黒の大きなパーカーを買ってもらって、でもズボンは苦手でしょうからとスカートを履かせてくれたのは、アズールさんの優しさに違いない。スニーカーはフロイドさんが見繕ってくれた。とってもかわいいですと言えば、フェアリーちゃんも陸の生活楽しめるといいねと頭を撫でられて擽ったかった。
「さぁ、行きましょう」
「はいっ!」
手を握ってもらったら怖さなんて全くなくなるんだから、魔法士ってなんでもできてしまうのねと、そう思う。
(とても不思議。アズールさんとなら、なんだってできる気がするんです)
こそこそと小走りに進む寮内も、鏡を抜けた先の景色も、そこに広がる気配も、何もかもが初めてで情報量の多さに困ってしまう。すぅっと吸い込んだのは間違いなく普段通りの夜の空気なのに、空には私が元居たところや今住む家から見たものより数倍大きな月が浮かんでいて溜め息が漏れた。
「大きなお月様…!」
「一年のうちでも見え方が変わりますからね。この時期の賢者の島の満月は一番大きいはずですよ。僕も初めて見たときには驚いたくらいなので」
「お月様の見え方が違うなんて全然知らなかった…。世界は広いのね…」
「それに驚いているだけでは勿体ありませんよ。時間が惜しいです、先に進みましょう」
「あっ、すみません私ったら! つい見とれ、きゃっ!」
突然アズールさんの吐息を間近に感じたと思ったら私の身体は宙に浮いていて、それからその腕に横抱きに収まった。アズールさんを見上げると、ニヤリとされて頬が熱くなる。
「貴女のスピードに合わせていたら夜が明けてしまう」
「ご、ごめんなさい…!」
「…なんて。冗談ですよ。僕が貴女を抱き締めたかっただけです」
その言葉の意味を理解したら、恥ずかしくて嬉しくて。どうしようと口がぱくぱくしてしまったけれど、アズールさん自身も自分の台詞が恥ずかしかったのか頬を染めていたので、二人顔を突き合わせて笑ってしまった。
「学園はとても広いので、一日では回りきれません。貴女に紹介したい場所を僕が選んでも?」
「もちろん大歓迎です!」
「そうですか。では参りましょう、僕のプリンセス」
返事の代わりにぎゅっと掴まると、アズールさんはもう一度くすりと笑って歩き出した。
グレートセブンの銅像について説明してもらったり、マジフトというものをするグラウンドを見たり、お買い物をするお店にこっそり入って行って、美味しいドリンクをご馳走してもらったり、それから、大きな図書館を案内してもらったり。
とても楽しい時間があっという間に過ぎていくことに寂しさを覚えた。
時が止まればいいのにとさえ思いつつ、月が照らす長い回廊を二人、戯れながら進む。時に腕を絡めて歩き、時に止まって外を眺めては寄り添って囁いて、幸せを噛みしめる。
「ねぇアズールさん」
「はい」
「また一つ、夢が叶いました」
「へぇ?どんな」
「アズールさんとデートする夢!嬉しい!」
「っ、そんなの、貴女が望むなら、…! そこで止まって…! ……誰か来る」
「え、」
一本道の突き当たりにランプの光が揺れたのを見てとって、アズールさんの声が強張った。このまま鉢合わせたらお咎めを受けてしまう。どうしよう。教師や見回りの人たちは総じて魔力の強いものが多いと聞いたことがある。私の魔力程度で欺けるかしら。
「アズールさん、あの、」
「貴女! こちらへ!」
「え?」
魔法をかける範囲を狭めるために私に近寄って、と声を掛けようとしたそのとき、逆に腕を引かれてそばにあった教室に引き摺り込まれた。どうして鍵が? と思ったけれど、その理由はすぐにわかった。
「ふぅ、間一髪でしたね」
「見つからなくてよかったです…。でもここは…?」
「ここは、僕が所属しているボードゲーム部の部室です。だから鍵もあります」
「なるほど、ラッキーだったんですね、よかった…!」
チャリ、と揺らされた鍵を見て緊張を緩めつつ、室内を見て回った。
「っ…わぁ…!」
その部屋はアズールさんと同じ部活のイデアさんという方しか利用しないらしく、私物で溢れかえっていた。ボードゲームの駒やカードや何に使うかわからない電子機器まで様々なものを一つ手に取っては何をするものなのか聞き、また一つ取っては月明りに照らしてみる。そんな何でもないことがとても楽しくて、それでいて、寂しくなる。
ソファーに腰かけて、ふっと息を吐いてしまった私の足元に膝まづくように座り込んだアズールさんは私を下から覗き込んで『疲れてしまいましたか?』と優しく問いかけた。
「ううん…違うの…。とっても楽しい…ありがとうございます、アズールさん」
「僕の目をごまかそうとしても無駄ですよ。どうして元気がなくなってしまったのです? …それとも僕には話せませんか?」
「っ…そんなっ、」
「話せることなら聞かせてくれませんか? 残念ながら僕は心まで読むことができませんから」
壊れ物を扱うようにゆっくりと頬に触れられて、酷く心を揺さぶられた。私は決心して、徐に唇を開く。
「どうして私はアズールさんと同じ人魚じゃないの? 人でもないの? 悲しい…どうして? どうして貴方と同じに生きられないの?」
「貴女…」
ぽろりと零した言葉とともにまた涙が溢れそうになって、ぐっと口を引き結ぶ。
「だ、だめですねっ…。こんなこと、言っては。アズールさんは、そんな私を、好きだと言ってくれたのにっ、私った、ン、ん!」
私が無理に微笑もうとしたと同時に、アズールさんが立ち上がったと思ったら、そのまま頭を固定されてソファーに押し付けられるように唇を奪われた。最初はパクリと隙間なく合わさるだけだったそれなのに、迷いなく唇を割られて熱い舌が滑り込んできて、そのまま咥内を荒らされる。
時折漏れる唾液をかき混ぜる音が静かなお部屋に響いて私の身体を熱くする。こんなキスをされるとどんなときでもほしくなってしまうの。そんな風に、ずっとずっと、愛してもらってきたから身体は正直。震える指を必死でアズールさんに伸ばせば、こんなに激しくキスしているのにそれにきちんと気づいてくれて、私の手を絡め取って自分の首に誘ってくれた。
優しい。どうしよう。ほしい。アズールさんが、今すぐ。愛してほしい。
暫く互いの思うままに互いを貪って味わっていたけれどやっぱり私の息が続かなくて、くしゃりとアズールさんの髪を掴んでしまった。刹那、離れた唇。繋がった銀の糸は窓から差し込む月明りにキラリと反射した。ぷはぁッと胸いっぱいに息を吸い込めば、暖かな眼差しが私を捉える。その視線に、じわりと滴ったのは何だったかしら。
ずるずるとソファーの背を伝って沈んでいく身体は、アズールさんの手によってきちんと寝かされて、ソファーなのにふかふかだわ、とお門違いな考えが頭に浮かんだ。
アズールさんの掌がスカートの裾から入り込み、私の太ももを撫で上げる。ぴくんと素直に反応した私の身体にアズールさんの口の端がにやりと歪んだのにすらときめいて心臓が痛い。
「物欲しそうな顔をして…。いけない人だ」
「……だってっ…、そんな風に、触るんだものっ…」
「貴女が悲しいと言うからですよ。僕はこの出会いを運命とすら思っているのに」
「え…、」
「貴女が、僕が貴女のことを番にした理由をどう思っているのかはわかりませんが、僕は貴女がどんな姿であれ貴女に恋をしたでしょう。そんな見かけだけの理由じゃないんですよ?」
「…っ、ほん、と?」
「ええ、僕は嘘をつきません。少なくとも貴女にはね」
ちゅっ、と、優しいキスが唇に落ちてきて、角度を変えては触れ合って、そして離れた。瞳が潤いを増すのがわかったけれど、涙はまだ溢れない。アズールさんに触れるとね、愛しいと心が叫ぶの。だからきっと、綺麗な宝石ができるのね。
「アズールさん…もっと…」
「ふ、今日も素直でとても可愛いですね。いつもと違う場所、いいじゃないですか。このままここで育くみましょうか、愛を」
「!?こ、ここで?」
「鍵はかけましたし、たまには、ね?」
「アズールさん、まって、そんなっ、お部屋に戻りまッ、ァっ…!」
触れられてしまえば、快楽を覚えた身体は彼を求めてしまう。
ああ、こんな誰がくるかわからない場所で淫らにされてしまうのかと思うのに、それすらも私を煽るピースになってしまった。
好き、好き、好きよ、愛してるの。
私は貴方のものだから。
貴方が思うままに、愛してくださいね。
この身体が朽ちるまで、ずっと。