【完結】僕らの思春期に花束を

本日、五月十日。今日は。

「メイドの日、だそうです」
「はぁ」
「はぁ、ではありません。メイドの日。つまり貴女の日ですよ」
「あ…ああ!そういう…!だからエピのおばあちゃま、サービスしてくれたのね、このチョコクロワッサン」

メイドが手に持っていたのはエピ名物の「チョコましましたっぷり掛け★サクサククロワッサン」
『今日は特別だからね、いつもお疲れ様』
と貰ったものだった。
そしてジェイドの手ににぎられていたのも、また同じ。

「まさか、僕が出遅れるなんて」
「へ?…あー!坊ちゃん、それ!」
「はい。実は僕も貴女への御礼をしようと思ったのですが、先を越されてしまいましたね」

何を隠そう、メイドは甘いもの、特にチョコレートに目がなかった。
なので、ジェイドがたまに作ってくれるスイーツも密かに(と言ってもジェイドはもちろんわかっていたが)気に入っていた。

「坊ちゃんのお気持ちが嬉しいですよ。ありがとうございます。これは私の仕事ですし、御礼なんて考えなくてもいいのに」
「いいえ、僕は貴女のことをメイドだと思っていませんから。共に暮らしていることに感謝の気持ちもありますし」
「坊ちゃん…」

なんだかじ~んとしてしまったメイドは、でも感動の涙はこの場には似合わないと、逆ににっこりと口角を上げた。

「坊ちゃん!私、それをいただいてもいいですか?」
「え?ええもちろん…ですが、」
「で、私のこれを坊ちゃんにあげます!一緒に食べましょう、クロワッサン!」
「!」
「一緒に食べたほうが、おいしいですよ!」

そんなわけで本日のティータイムが始まった。
もちろん、紅茶はジェイドが淹れたとっておきの一杯。

今日もジェイドとメイドは、仲良く楽しく、暮らしているのであった。
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