【完結】僕らの思春期に花束を
掛かってきた電話を『取りたくないな』と思いながら見つめていたフロイドは、暫く、観念したように通話ボタンをタップした。
「フロイド、一般人を八つ裂きにするにはどんな器具が必要だと思いますか?」
『何言ってんのジェイド』
開口一番がその言葉で、頭を抱える暇すらない。お前は魔法士だろうが!とキレそうになったが、相手がジェイドではこんなことを言っても意味がないと諦めの境地。一度深呼吸をしてから、『なんで』と努めて冷静な声を発した。
『理由は何よ…』
「僕の番 を取り返さなくては」
『メイドちゃんいつからオメェの番だよ』
「おや、メイドさんとよくわかりましたね。そうです、僕の番の」
『そーいうのいいからっ!…なぁ、それ、うちのじーちゃんが帰ってきてないのと関係あんの?』
「討つべきは執事長です。あの家全体でも構いませんが、僕のメイドさんを傷つけるわけにはいかないので」
『思ったよりガチなやつじゃん?は?ほんとやめろ!とりあえず落ち着けよ』
「落ち着く…水攻めですかねやはり」
『ちっげーよ!?待てよジェイドお前うちのじーちゃんをボコボ』
自分の欲しい情報がもらえなかったためにブツリと電話を切ったジェイドは、ふぅ、と一息つく。
そうして天井を見つめてから『やはり何も持つ必要はないですね、この身一つで乗り込みましょう』と結論付けた。
「出たとこ勝負というのも悪くないでしょうからね」
一体ジェイドが何をしでかそうと考えていたのかは、この時点では誰も知る由もなかった。
ちなみに別の執事と一緒に送迎車に乗せられて自分の家まで戻ったジェイドが、門から先一歩たりとも彼の敷地内への侵入を許さなかったことは、ここに補足しておく。
なお、帰宅したその日、ジェイドは思春期日記にこう記している。
X月X日(晴)
本日は晴れて番 宣言できるかと思いきや、とんでもない事態に巻き込まれてしまいました。
前時代的な方式は廃れてしかるべきですよね。
僕も、僕自身で、僕の人生を切り開こうとしているのだから、彼女にもそうしてもらわなければ。
彼女が僕のことを気に入ってくださっているのはわかりきっていますから。
それならば、僕は何をおいてでも迎えに行かなければならないでしょう。
ああ、焦ってはいけませんよ僕の思春期。
彼女が僕の元へ戻ってきた暁には、存分にその力を発揮してもらわなくてはなりませんからね。
*
決戦の時は、一日と時をおかずにやってきた。
ジェイドは何食わぬ顔でドアノックを叩く。
それはもちろんメイド宅の、である。
扉が開いた瞬間に、その長い脚を滑り込ませて閉じられないようにすると、ジェイドはすごい力で扉を押した。
しかしながら向こうも執事のスペシャリストだ。
力に自信があったのか、ジェイドに対抗する姿勢を見せるので開きもしなければ閉じもしないという拮抗の状況になる。
「っ…リーチ様、どうかっ、お引き取りくださいませっ…!」
「それを聞き入れるわけにはいきません。僕の番 を返してもらってから、帰ります」
「でき、ませんっ…!貴方はご自分の立場をわかって、いないのです!あの子だって一般の生活をしたほうがきっと幸せで」
「あなたたちは、ほんとうに…!」
その言葉を聞いて、心底うんざりしたような表情をしたジェイドがほぅっと一息吐き出したので、執事は「ああやっとあきらめてくれた」と一瞬気を抜いた。それが運の尽きだった。
「まだまだ甘いですねっ!」
「っうぁっ!」
その隙をついて壁を打ち破るかのごとくスルッと滑り込ませた身体。
にっこりと笑って佇むジェイドに敵うものなどいなかった。
「あ…」
「そんなに怖がらないで。さぁ僕の目を見て。そう、いい子ですね…僕の番 はどこに居」
「待って坊ちゃん!」
「!」
「こんなことにユニーク魔法を使うなんてバカじゃないですか!ばかばかばかばかっ!」
タッと、奥の扉から飛び出してきたのは、一日たりとも離れたくはなかった探し人。
今はメイドの服を纏っておらず、真っ白なワンピースの上に生成色のカーディガンを羽織っているだけだった。
普段見ることのできない姿にジェイドは、ここがどこであるかも忘れて、思わず胸に手をやる。
「スゥー……焦ってはいけません、僕の思春期…」
「へ?」
「ああすみません、そう、メイド服以外もやはりとてもお似合いですね」
「!?っも、もう!何言ってるんですかこんなときに!」
「こんな時だからこそ、ですよ」
すっとしゃがみ込んだジェイドは、メイドの手を取って、その指にスッと何かを嵌めた。
いや、この場合「何かを」なんて曖昧な言い方はよくないだろう。
だってそれはまごうことなく指輪、なのだから。
「これ、ゆ、ゆびわ?」
「はい。こちらは僕と貴女の番 記念の指輪です。内側には名前も掘ってありますから未来永劫外れません」
「え!?そんな!?嘘でしょ!?」
そして恭しくその手を持ち上げたと思えば、チュッと触れるだけのキスを落とす。
それから自分の指にもおそろいのリングを嵌めて、『ほら、これで陸式の手順でも番になれましたね』なんて言うのだ。
メイドは目を白黒させて、でもほっぺたは真っ赤にして、ふさがらない口をポカンと開けたままその場に立ち尽くす。
「僕はきちんと貴女に気持ちを伝えましたよ。だから次は貴女の番 です」
「っ、」
「はぐらかされるのはもうごめんですので。周りは囲わせてもらいました」
「「ジェイドちゃぁーんがんばれぇー!」」
「「古い人間に負けるんじゃァないよぉ!」」
「!?」
「商店街の皆さんです。何かあったらすぐに駆け込んでくださるそうで。人徳、でしょうか?」
「そっち!?!?」
ふふっと、爽やかな笑みを浮かべたジェイドが一体何を考えているのかわからない。
わからないけど、一つだけはっきりしているのは、これがプロポーズだということ。
「わ、わたし、おじぃちゃんを探しに、出てきただけでっ」
「はい」
「でも、おじぃちゃんはいなくて、代わりに坊ちゃんがいて」
「はい」
「だから、その、囲われたっていうのは、そういう、心理的なものかと…」
「ああ、そちらも対処済みですよ」
さらっと言われすぎてメイドの耳はそれを聞き逃してしまったが、実のところ、執事長は門の前ですでにジェイドの手に掛かって紐でぐるぐる巻きにされていた。『僕と彼女の間を邪魔するものは、何人たりとも許しませんからそのつもりで』と釘を刺された上で、だ。
「今は、僕と貴女の二人きりですから」
「本当のことを言っても…咎められないの?」
「ええ、もちろん」
極上の微笑みを浮かべたジェイドは、膝をついたままメイドの瞳を覗き込む。
ジェイドの指が頬に触れるか触れないかのところでメイドのほうがふわりとジェイドの首に抱きついた。
「!」
「私、初めて坊ちゃんに会ったとき、こんなに可愛らしい子のお世話をできるなんて、本当に恵まれてるなって思ったんです。だから、何が何でも20歳になるまで坊ちゃんのことを守って、立派にしようって」
「そうでしたか」
これ以上ない程に冷静に見えるジェイドだが、本日二回目の思春期大暴走を冷ますのに必死で、あまり余力はなかった。
「でもね、ぐんぐん成長していく坊ちゃんを見てると、嬉しいと同時になんだか寂しくもあって。それに最近は思わせぶりなことばかりしてくるんですもの。本当に、こんな都合のいいことがあるわけないのって、何度も何度も言い聞かせて、嘘だって思い込んで、気持ちに蓋をしたんです。坊ちゃんのその気持ちは、絶対気の迷いだと思ったから。坊ちゃんの輝かしい未来に傷はつけられないので」
「なるほど」
「だから、いつか、坊ちゃんが貸してくれた『愛のゆりかご』、あれを読んだ時、ああ、やっぱり身分違いの恋なんて、本の中でしか叶わないんだって思ったし、一方ではこんな風になれたらどれだけロマンチックかなって憧れもして…。でもそう思ったってことは、きっとその時には、坊ちゃんのこと、もう大好きだったんですね」
そう言ってから、少しだけ距離を取って、よしよしとジェイドの頭を撫でた。突然撫でられたジェイドは、当たり前のようにスペキャ顔である。
「坊ちゃんは、いい子です。でも、悪い子ですね」
「……お褒めに預かり光栄です」
「あはっ!褒めてないですよ?」
「僕は…貴女のためならどんなヒトにでもなります」
「っ…だ、だから…そういうところですっ…悪い子!」
恥ずかしがって離れようとするメイドの身体をいとも簡単に抱き上げて立ち上がったジェイドは、今度こそ、メイドの唇に自分の唇を寄せた。
音もなくくっついて、そして離れていった熱に、メイドは、ポンっと頭から煙を出して顔を隠してしまう。
ジェイドはそこで、やっと破顔した。
「長かったです。貴女にずっと、こうしたかった。何度も夢に見て、想像をして…僕の思春期は大変でしたよ」
「あっ!リーチ家のほうにはタイミングをみてまたお話しましょうね。この間お見合いをお断りしてからのこれじゃあ、勘当されちゃう」
「僕は家のことなどどうだっていいのですが、貴女がそう仰るなら」
僕は本当に執事にでもなんでもなるつもりです、と苦笑するので、それも一つの選択肢かなと、メイドも笑った。
「ですが気持ちの上では今から晴れて番 ということですので、今夜は、僕の思春期のお願いをしても?」
「…そういえば坊ちゃん、その『思春期』ってなんなんですか?」
「ああ、こちらの話です、どうかお気になさらず」
「?…そういうなら、今は聞かないでおきますけど…。いいですよ!私はメイドですから!坊ちゃんのお願いはなんだってお任せを!」
「ふふ、幸せ者ですね、僕は」
そうしてその夜には、ジェイド邸には艶めく喘ぎ声が響き渡ったそうな。
想い想われ…とはよく言われたものだけれど、やはり言葉にすることで伝わるものはあるもので。
こうして二人は結ばれて。
さてこの先、どうやって生きていくことにしたのかは…今はまだ、誰にもわからない。
「フロイド、一般人を八つ裂きにするにはどんな器具が必要だと思いますか?」
『何言ってんのジェイド』
開口一番がその言葉で、頭を抱える暇すらない。お前は魔法士だろうが!とキレそうになったが、相手がジェイドではこんなことを言っても意味がないと諦めの境地。一度深呼吸をしてから、『なんで』と努めて冷静な声を発した。
『理由は何よ…』
「僕の
『メイドちゃんいつからオメェの番だよ』
「おや、メイドさんとよくわかりましたね。そうです、僕の番の」
『そーいうのいいからっ!…なぁ、それ、うちのじーちゃんが帰ってきてないのと関係あんの?』
「討つべきは執事長です。あの家全体でも構いませんが、僕のメイドさんを傷つけるわけにはいかないので」
『思ったよりガチなやつじゃん?は?ほんとやめろ!とりあえず落ち着けよ』
「落ち着く…水攻めですかねやはり」
『ちっげーよ!?待てよジェイドお前うちのじーちゃんをボコボ』
自分の欲しい情報がもらえなかったためにブツリと電話を切ったジェイドは、ふぅ、と一息つく。
そうして天井を見つめてから『やはり何も持つ必要はないですね、この身一つで乗り込みましょう』と結論付けた。
「出たとこ勝負というのも悪くないでしょうからね」
一体ジェイドが何をしでかそうと考えていたのかは、この時点では誰も知る由もなかった。
ちなみに別の執事と一緒に送迎車に乗せられて自分の家まで戻ったジェイドが、門から先一歩たりとも彼の敷地内への侵入を許さなかったことは、ここに補足しておく。
なお、帰宅したその日、ジェイドは思春期日記にこう記している。
X月X日(晴)
本日は晴れて
前時代的な方式は廃れてしかるべきですよね。
僕も、僕自身で、僕の人生を切り開こうとしているのだから、彼女にもそうしてもらわなければ。
彼女が僕のことを気に入ってくださっているのはわかりきっていますから。
それならば、僕は何をおいてでも迎えに行かなければならないでしょう。
ああ、焦ってはいけませんよ僕の思春期。
彼女が僕の元へ戻ってきた暁には、存分にその力を発揮してもらわなくてはなりませんからね。
*
決戦の時は、一日と時をおかずにやってきた。
ジェイドは何食わぬ顔でドアノックを叩く。
それはもちろんメイド宅の、である。
扉が開いた瞬間に、その長い脚を滑り込ませて閉じられないようにすると、ジェイドはすごい力で扉を押した。
しかしながら向こうも執事のスペシャリストだ。
力に自信があったのか、ジェイドに対抗する姿勢を見せるので開きもしなければ閉じもしないという拮抗の状況になる。
「っ…リーチ様、どうかっ、お引き取りくださいませっ…!」
「それを聞き入れるわけにはいきません。僕の
「でき、ませんっ…!貴方はご自分の立場をわかって、いないのです!あの子だって一般の生活をしたほうがきっと幸せで」
「あなたたちは、ほんとうに…!」
その言葉を聞いて、心底うんざりしたような表情をしたジェイドがほぅっと一息吐き出したので、執事は「ああやっとあきらめてくれた」と一瞬気を抜いた。それが運の尽きだった。
「まだまだ甘いですねっ!」
「っうぁっ!」
その隙をついて壁を打ち破るかのごとくスルッと滑り込ませた身体。
にっこりと笑って佇むジェイドに敵うものなどいなかった。
「あ…」
「そんなに怖がらないで。さぁ僕の目を見て。そう、いい子ですね…僕の
「待って坊ちゃん!」
「!」
「こんなことにユニーク魔法を使うなんてバカじゃないですか!ばかばかばかばかっ!」
タッと、奥の扉から飛び出してきたのは、一日たりとも離れたくはなかった探し人。
今はメイドの服を纏っておらず、真っ白なワンピースの上に生成色のカーディガンを羽織っているだけだった。
普段見ることのできない姿にジェイドは、ここがどこであるかも忘れて、思わず胸に手をやる。
「スゥー……焦ってはいけません、僕の思春期…」
「へ?」
「ああすみません、そう、メイド服以外もやはりとてもお似合いですね」
「!?っも、もう!何言ってるんですかこんなときに!」
「こんな時だからこそ、ですよ」
すっとしゃがみ込んだジェイドは、メイドの手を取って、その指にスッと何かを嵌めた。
いや、この場合「何かを」なんて曖昧な言い方はよくないだろう。
だってそれはまごうことなく指輪、なのだから。
「これ、ゆ、ゆびわ?」
「はい。こちらは僕と貴女の
「え!?そんな!?嘘でしょ!?」
そして恭しくその手を持ち上げたと思えば、チュッと触れるだけのキスを落とす。
それから自分の指にもおそろいのリングを嵌めて、『ほら、これで陸式の手順でも番になれましたね』なんて言うのだ。
メイドは目を白黒させて、でもほっぺたは真っ赤にして、ふさがらない口をポカンと開けたままその場に立ち尽くす。
「僕はきちんと貴女に気持ちを伝えましたよ。だから次は貴女の
「っ、」
「はぐらかされるのはもうごめんですので。周りは囲わせてもらいました」
「「ジェイドちゃぁーんがんばれぇー!」」
「「古い人間に負けるんじゃァないよぉ!」」
「!?」
「商店街の皆さんです。何かあったらすぐに駆け込んでくださるそうで。人徳、でしょうか?」
「そっち!?!?」
ふふっと、爽やかな笑みを浮かべたジェイドが一体何を考えているのかわからない。
わからないけど、一つだけはっきりしているのは、これがプロポーズだということ。
「わ、わたし、おじぃちゃんを探しに、出てきただけでっ」
「はい」
「でも、おじぃちゃんはいなくて、代わりに坊ちゃんがいて」
「はい」
「だから、その、囲われたっていうのは、そういう、心理的なものかと…」
「ああ、そちらも対処済みですよ」
さらっと言われすぎてメイドの耳はそれを聞き逃してしまったが、実のところ、執事長は門の前ですでにジェイドの手に掛かって紐でぐるぐる巻きにされていた。『僕と彼女の間を邪魔するものは、何人たりとも許しませんからそのつもりで』と釘を刺された上で、だ。
「今は、僕と貴女の二人きりですから」
「本当のことを言っても…咎められないの?」
「ええ、もちろん」
極上の微笑みを浮かべたジェイドは、膝をついたままメイドの瞳を覗き込む。
ジェイドの指が頬に触れるか触れないかのところでメイドのほうがふわりとジェイドの首に抱きついた。
「!」
「私、初めて坊ちゃんに会ったとき、こんなに可愛らしい子のお世話をできるなんて、本当に恵まれてるなって思ったんです。だから、何が何でも20歳になるまで坊ちゃんのことを守って、立派にしようって」
「そうでしたか」
これ以上ない程に冷静に見えるジェイドだが、本日二回目の思春期大暴走を冷ますのに必死で、あまり余力はなかった。
「でもね、ぐんぐん成長していく坊ちゃんを見てると、嬉しいと同時になんだか寂しくもあって。それに最近は思わせぶりなことばかりしてくるんですもの。本当に、こんな都合のいいことがあるわけないのって、何度も何度も言い聞かせて、嘘だって思い込んで、気持ちに蓋をしたんです。坊ちゃんのその気持ちは、絶対気の迷いだと思ったから。坊ちゃんの輝かしい未来に傷はつけられないので」
「なるほど」
「だから、いつか、坊ちゃんが貸してくれた『愛のゆりかご』、あれを読んだ時、ああ、やっぱり身分違いの恋なんて、本の中でしか叶わないんだって思ったし、一方ではこんな風になれたらどれだけロマンチックかなって憧れもして…。でもそう思ったってことは、きっとその時には、坊ちゃんのこと、もう大好きだったんですね」
そう言ってから、少しだけ距離を取って、よしよしとジェイドの頭を撫でた。突然撫でられたジェイドは、当たり前のようにスペキャ顔である。
「坊ちゃんは、いい子です。でも、悪い子ですね」
「……お褒めに預かり光栄です」
「あはっ!褒めてないですよ?」
「僕は…貴女のためならどんなヒトにでもなります」
「っ…だ、だから…そういうところですっ…悪い子!」
恥ずかしがって離れようとするメイドの身体をいとも簡単に抱き上げて立ち上がったジェイドは、今度こそ、メイドの唇に自分の唇を寄せた。
音もなくくっついて、そして離れていった熱に、メイドは、ポンっと頭から煙を出して顔を隠してしまう。
ジェイドはそこで、やっと破顔した。
「長かったです。貴女にずっと、こうしたかった。何度も夢に見て、想像をして…僕の思春期は大変でしたよ」
「あっ!リーチ家のほうにはタイミングをみてまたお話しましょうね。この間お見合いをお断りしてからのこれじゃあ、勘当されちゃう」
「僕は家のことなどどうだっていいのですが、貴女がそう仰るなら」
僕は本当に執事にでもなんでもなるつもりです、と苦笑するので、それも一つの選択肢かなと、メイドも笑った。
「ですが気持ちの上では今から晴れて
「…そういえば坊ちゃん、その『思春期』ってなんなんですか?」
「ああ、こちらの話です、どうかお気になさらず」
「?…そういうなら、今は聞かないでおきますけど…。いいですよ!私はメイドですから!坊ちゃんのお願いはなんだってお任せを!」
「ふふ、幸せ者ですね、僕は」
そうしてその夜には、ジェイド邸には艶めく喘ぎ声が響き渡ったそうな。
想い想われ…とはよく言われたものだけれど、やはり言葉にすることで伝わるものはあるもので。
こうして二人は結ばれて。
さてこの先、どうやって生きていくことにしたのかは…今はまだ、誰にもわからない。