【完結】監督生が二人いる?!
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あちらを立てればこちらが立たずとはきっとこのようなことを言うのだ。
「嫌です!!帰しません!!」
「ジェイド、気持ちはわかりますが、これはゆうさんのためでもあるんです。分別をつけてください」
「ジェイド先輩…」
やはり早めに帰り道の確認が必要だろうと、日が暮れる前に森に入ることにしようとの意見に満場一致かと思いきや、まさかのジェイドが駄々をこね始めた。
普段の調子からは想像ができないが、ジェイドとてただの十七歳男子高校生。譲れないことだって、あるのだ。
「ジェイド、小々エビちゃんはこっちの世界の住人じゃないんだからって、前話したよね。ジェイドも納得してたじゃん」
「フロイドには僕の気持ちはわかりません!僕がっ…どれだけっ…待っていたのか…っ」
「いやでもジェイドなんだかんだキノコ狩りしたり普通に生きてたから大丈夫じゃん?」
「黙りなさい!」
ジェイドなりに切り替えしている最中だったようで、こんなタイミングで戻ってきてしまったことに、申し訳なさやら複雑な気持ちがゆうを襲った。
「…実は私の方のアズール先輩もどこか淋しそうにしていて…」
「!」
「ただ、こちらは強がりのアズール先輩なので、わかりにくいんですけどね。私の勘違いかもしれないですけど…。でもそういうのを見てきてるから…ごめんなさい、ジェイド先輩。やっぱり私は向こうに帰るべきなんだと思います」
ごめんなさい、とハッキリ言ったのは、ゆうの優しさに相違いなく。ジェイドもそれ以上なにも言えなくなってしまった。
「小々エビちゃんのがしっかりしてんじゃん」
「本当ですよ。ジェイド、ほら、お前もケリをつけなくては」
「ゆうさんにそう言われてしまっては、僕は…仕方ありません…」
「ゆうちゃん、ぴょんちゃんたちに、森に連れて行ってもらおう?」
「そうだね、ユウちゃん」
甘いものを手土産に渡し、ぴょんちゃんたちにジェスチャーで何とか意図を伝えたご一行は、こうしてもう一度、森へと歩を進めることになった。
*
「ぴょん、ちゃん!ぴょん、ちゃん!」
「…あのさ…思ったんだけど」
「ユウちゃんも気づいた?」
「うん…ぴょんちゃんたち、さっきから『ちゃん』まで言うようになってるよね」
「だよね…成長早いよね…」
五人の前をゆくぴょんちゃんは、先程から名付けられたその言葉を繰り返すようになっていた。もしかしてものすごい学者能力を備えているのかもしれない。
「彼ら、甘いもので釣ってモストロ・ラウンジで働かせたらいいのでは…人件費が甘いものならばコスト削減に…」
「アズールさすが」
若干引き気味にフロイドがその言葉を受け止める。と、そのとき。ぴょんちゃんたちがとある木の前で跳ね始めた。
「ぴょんちゃん!ぴょんちゃん!」
「ここ、なのかな?」
「様子を見る限りそうっぽいね?」
「ジェイド的にはどうなわけ?ジェイドは自力でこの辺りまで来たんでしょ?わかんねぇの?」
「僕の感覚でも確かにこの辺りだとは思いますが…この辺りにあるのは普通の木、ですね…」
それでもなお飛び跳ねるぴょんちゃんたちを見つめていると、彼らは突然ピタリと止まる。そうして三匹揃ってその木の幹に掌を向けた。
すぐに、詠唱…には程遠いのだが、ぴょ〜(↑)ぴょ〜(↑)ぴょぉ〜(↓)といった調子で繰り返される言の葉(?)によって、ぽわりと幹が光に包まれる。
「す、すごい…!」
「…本当に、何者なんでしょうね、この生き物は…」
時間にすればほんの十秒程度か。
光が消えた頃には、そこにはポッカリと穴が開いていたのである。
「ぴ〜よぉ〜!!」
できた!と言ったのだろう、その後ちゃっかり両手を差し出したぴょんちゃんたちには、報酬の氷砂糖を渡しつつ。
しばしの沈黙の後、声を発したのはゆうだった。
「…それでは、帰りますね」
「ええ…」
「ジェイド先輩、私、貴方に会えてよかった」
「…金輪際会えないとでも言いたげですね」
「だって…」
「理論上、この穴を僕が通ることができれば、そちらの世界に行くことも可能なのですが?」
「私がつっかえたんですよ!?通れるわけないじゃないですか!?」
「ふふっ…冗談ですよ。ですが、そのくらいにはゆうさんに会いたいと思っていたのですよ。その気持ちは、わかっておいていただきたくて」
「…!あの、」
「二人の世界ンとこ悪いんだけどさぁ」
「…フロイド、邪魔をしないでくださいとあれほど」
「いや…でもさ…」
良い雰囲気を壊すことも厭わない理由は、穴の向こうから響いてくる声にあった。
とても小さな声だが、それはこのようなことを言っているようだ。
「ジェイド!やめろって!無理だから!」
「どう考えてもお前が通るには小さすぎる!詰まって窒息がオチだぞ!」
「じゃあ二人はゆうさんを見捨てるとでも言うのですか?!ひとでなし!僕はゆうさんを探しに行きます!そして必ずやあちらのジェイドに制裁を…」
「ジェイドの目的、最後の一点のが強いだろ!」
なるほど。本当に世界が繋がっているらしい。
ただ、あちらはあちらで修羅場であるようだ。ジェイドとゆうは顔を見合わせて、苦笑した。
「やっぱり、戻らないと」
「あちらのジェイドは少しばかり頭が弱いようですね。教育の程よろしくお願いします。ゆうさんにしか頼めません」
「もちろんです!任せてください!」
「それから」
そこで言葉を切ったジェイドは、徐にゆうを抱き上げて、その頬にキスを一つ贈った。
「っ?!」
「あちらの僕に、負けませんから、と一言お伝えください」
ニコリ、八の字眉でも笑おうとしたジェイドの優しさを受け取ったゆうは、ぎゅ、と一度ジェイドの首に抱きついて。口にはできないけれど、伝わってほしい気持ちはあるから。
「ありがとうございました!」
「うわーん!こうやってちゃんとお別れすると寂しくなる…!」
「ユウちゃん、こっちのアズール・アーシェングロットと仲良くね!」
「うん!ゆうちゃんは…言われなくても大丈夫だと思うけど、でも、何かあっても二人で乗り越えてね!」
「うん!…それじゃあ!」
ぴょんちゃんたちが入っていった後からついて、ゆうの姿が消えていく。
それが見えなくなると、自然と穴が閉じられて、何事もなかったかのように静けさが戻ってきた。
「さあさあ!しんみりしてる暇はありませんよ!これからラウンジに戻って仕事です!」
「えぇ〜…こんな日くらい休みでよくね?」
「フロイド先輩、こんな日だから、ですよ。働いて汗水垂らさないと!ね!ジェイド先輩!」
「貴女に言われなくとも。というか一番心配なのは貴女ですよ。今日こそ皿を割らないように」
「ヴッ」
出会いがあれば別れも当然あって。
ヒトは、想い出を胸にこれからを生きるしか、できないけれど。
それでも、その想い出がなかったほうがよい、なんて気にはなれないから。
木々がざわめく優しいメロディーとともに暮れゆく森をあとに。
(今頃、あちら側の世界についている頃だろうか。また、つっかえていないだろうか。)
お別れができてよかったとは思わないけれど、あのまま別れるよりは遥かに気分が晴れやかだと、ジェイドは一人、微笑んだ。
「嫌です!!帰しません!!」
「ジェイド、気持ちはわかりますが、これはゆうさんのためでもあるんです。分別をつけてください」
「ジェイド先輩…」
やはり早めに帰り道の確認が必要だろうと、日が暮れる前に森に入ることにしようとの意見に満場一致かと思いきや、まさかのジェイドが駄々をこね始めた。
普段の調子からは想像ができないが、ジェイドとてただの十七歳男子高校生。譲れないことだって、あるのだ。
「ジェイド、小々エビちゃんはこっちの世界の住人じゃないんだからって、前話したよね。ジェイドも納得してたじゃん」
「フロイドには僕の気持ちはわかりません!僕がっ…どれだけっ…待っていたのか…っ」
「いやでもジェイドなんだかんだキノコ狩りしたり普通に生きてたから大丈夫じゃん?」
「黙りなさい!」
ジェイドなりに切り替えしている最中だったようで、こんなタイミングで戻ってきてしまったことに、申し訳なさやら複雑な気持ちがゆうを襲った。
「…実は私の方のアズール先輩もどこか淋しそうにしていて…」
「!」
「ただ、こちらは強がりのアズール先輩なので、わかりにくいんですけどね。私の勘違いかもしれないですけど…。でもそういうのを見てきてるから…ごめんなさい、ジェイド先輩。やっぱり私は向こうに帰るべきなんだと思います」
ごめんなさい、とハッキリ言ったのは、ゆうの優しさに相違いなく。ジェイドもそれ以上なにも言えなくなってしまった。
「小々エビちゃんのがしっかりしてんじゃん」
「本当ですよ。ジェイド、ほら、お前もケリをつけなくては」
「ゆうさんにそう言われてしまっては、僕は…仕方ありません…」
「ゆうちゃん、ぴょんちゃんたちに、森に連れて行ってもらおう?」
「そうだね、ユウちゃん」
甘いものを手土産に渡し、ぴょんちゃんたちにジェスチャーで何とか意図を伝えたご一行は、こうしてもう一度、森へと歩を進めることになった。
*
「ぴょん、ちゃん!ぴょん、ちゃん!」
「…あのさ…思ったんだけど」
「ユウちゃんも気づいた?」
「うん…ぴょんちゃんたち、さっきから『ちゃん』まで言うようになってるよね」
「だよね…成長早いよね…」
五人の前をゆくぴょんちゃんは、先程から名付けられたその言葉を繰り返すようになっていた。もしかしてものすごい学者能力を備えているのかもしれない。
「彼ら、甘いもので釣ってモストロ・ラウンジで働かせたらいいのでは…人件費が甘いものならばコスト削減に…」
「アズールさすが」
若干引き気味にフロイドがその言葉を受け止める。と、そのとき。ぴょんちゃんたちがとある木の前で跳ね始めた。
「ぴょんちゃん!ぴょんちゃん!」
「ここ、なのかな?」
「様子を見る限りそうっぽいね?」
「ジェイド的にはどうなわけ?ジェイドは自力でこの辺りまで来たんでしょ?わかんねぇの?」
「僕の感覚でも確かにこの辺りだとは思いますが…この辺りにあるのは普通の木、ですね…」
それでもなお飛び跳ねるぴょんちゃんたちを見つめていると、彼らは突然ピタリと止まる。そうして三匹揃ってその木の幹に掌を向けた。
すぐに、詠唱…には程遠いのだが、ぴょ〜(↑)ぴょ〜(↑)ぴょぉ〜(↓)といった調子で繰り返される言の葉(?)によって、ぽわりと幹が光に包まれる。
「す、すごい…!」
「…本当に、何者なんでしょうね、この生き物は…」
時間にすればほんの十秒程度か。
光が消えた頃には、そこにはポッカリと穴が開いていたのである。
「ぴ〜よぉ〜!!」
できた!と言ったのだろう、その後ちゃっかり両手を差し出したぴょんちゃんたちには、報酬の氷砂糖を渡しつつ。
しばしの沈黙の後、声を発したのはゆうだった。
「…それでは、帰りますね」
「ええ…」
「ジェイド先輩、私、貴方に会えてよかった」
「…金輪際会えないとでも言いたげですね」
「だって…」
「理論上、この穴を僕が通ることができれば、そちらの世界に行くことも可能なのですが?」
「私がつっかえたんですよ!?通れるわけないじゃないですか!?」
「ふふっ…冗談ですよ。ですが、そのくらいにはゆうさんに会いたいと思っていたのですよ。その気持ちは、わかっておいていただきたくて」
「…!あの、」
「二人の世界ンとこ悪いんだけどさぁ」
「…フロイド、邪魔をしないでくださいとあれほど」
「いや…でもさ…」
良い雰囲気を壊すことも厭わない理由は、穴の向こうから響いてくる声にあった。
とても小さな声だが、それはこのようなことを言っているようだ。
「ジェイド!やめろって!無理だから!」
「どう考えてもお前が通るには小さすぎる!詰まって窒息がオチだぞ!」
「じゃあ二人はゆうさんを見捨てるとでも言うのですか?!ひとでなし!僕はゆうさんを探しに行きます!そして必ずやあちらのジェイドに制裁を…」
「ジェイドの目的、最後の一点のが強いだろ!」
なるほど。本当に世界が繋がっているらしい。
ただ、あちらはあちらで修羅場であるようだ。ジェイドとゆうは顔を見合わせて、苦笑した。
「やっぱり、戻らないと」
「あちらのジェイドは少しばかり頭が弱いようですね。教育の程よろしくお願いします。ゆうさんにしか頼めません」
「もちろんです!任せてください!」
「それから」
そこで言葉を切ったジェイドは、徐にゆうを抱き上げて、その頬にキスを一つ贈った。
「っ?!」
「あちらの僕に、負けませんから、と一言お伝えください」
ニコリ、八の字眉でも笑おうとしたジェイドの優しさを受け取ったゆうは、ぎゅ、と一度ジェイドの首に抱きついて。口にはできないけれど、伝わってほしい気持ちはあるから。
「ありがとうございました!」
「うわーん!こうやってちゃんとお別れすると寂しくなる…!」
「ユウちゃん、こっちのアズール・アーシェングロットと仲良くね!」
「うん!ゆうちゃんは…言われなくても大丈夫だと思うけど、でも、何かあっても二人で乗り越えてね!」
「うん!…それじゃあ!」
ぴょんちゃんたちが入っていった後からついて、ゆうの姿が消えていく。
それが見えなくなると、自然と穴が閉じられて、何事もなかったかのように静けさが戻ってきた。
「さあさあ!しんみりしてる暇はありませんよ!これからラウンジに戻って仕事です!」
「えぇ〜…こんな日くらい休みでよくね?」
「フロイド先輩、こんな日だから、ですよ。働いて汗水垂らさないと!ね!ジェイド先輩!」
「貴女に言われなくとも。というか一番心配なのは貴女ですよ。今日こそ皿を割らないように」
「ヴッ」
出会いがあれば別れも当然あって。
ヒトは、想い出を胸にこれからを生きるしか、できないけれど。
それでも、その想い出がなかったほうがよい、なんて気にはなれないから。
木々がざわめく優しいメロディーとともに暮れゆく森をあとに。
(今頃、あちら側の世界についている頃だろうか。また、つっかえていないだろうか。)
お別れができてよかったとは思わないけれど、あのまま別れるよりは遥かに気分が晴れやかだと、ジェイドは一人、微笑んだ。