【完結】監督生が二人いる?!
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ふよ、ふよ、すいーっ…
魚は空気中を泳ぐように木々の間を進んでゆく。
「なぁアズール、コイツどこまでいくの?」
「僕にもわかりません。先程も言った通り、この魔法でできるのは、対象者の残り香を辿ること。なのでその先のことは…」
「しかし本当に正しいのでしょうか。ゆうさんが一人でこのような森の奥に迷い込むとは思えませんが…」
「それについては僕よりもジェイドの方が詳しいでしょう…おや?」
アズールがあげた声に、リーチ兄弟も目を開く。魔法の魚が、一本の木の前で停止しているではないか。どうやらそれよりも先へは進まない様子で、木の周りをぐるぐる回っている。
「…ここで途切れたようだな」
「何も、ありませんが?」
「木になんかあんのかな」
アズールが魔法を解くと魚は消え、そこには静寂だけが鎮座した。
木…というにはあまりに立派なそれは、夕陽に照らされてそよそよと揺れているだけである。
しかしながら、ジェイドがその幹に触れてハッとした表情になった。
「魔法…」
「なんですって?」
「こちらの木、微かにですが魔法の気配がします」
「…ならもしかして、小エビちゃんは…」
木に呑み込まれたのか、とは、誰も口にできなかった。代わりに発されたのは、ジェイドの小さな声。
「ゆうさん…」
貴女はどうしていつも僕の腕を擦り抜けてしまうんですか…とは、ジェイドの心の中で呟かれた。
*
さて、こちらはもう一つの世界。
時刻は少し遡る。
ゆうからすると、同じようで、しかし所々で異なるそこ、オクタヴィネル寮の奥。モストロ・ラウンジの扉が開く。
「さぁ、着きましたよ」
「ジェイド!出勤時刻はとっくに過ぎてるぞ!お前とあろうものが…は?」
「少しくらい多目に見てくださいよ、アズール」
「あ〜ジェイドやっときたぁ〜オレ、ジェイドの分まで開店準備し…え、…?それ、小々エビちゃんじゃ…なんで、」
「あはは…いえ…その…、というかやっぱりここは、『そっち』なんですね」
「ええ、おかえりなさい、ゆうさん」
嬉しそうに笑うジェイドの顔に対して、野暮なことを言えないゆうは、控えめに笑った。
「ちょっとジェイド先輩!ただでさえ縦に大きいのだから、そんな風に扉の前で立ち止まらな…っえ?!ゆうちゃん?!と、えと、このうさぎさんたちは何?!」
「…相変わらず騒がしいですね」
「ユウちゃん!」
「うそ!なんで?!でも嬉しい!また会えたーっ!」
ジェイドが、あくまでもゆうのために、腕の中からゆうを降ろしてやれば、ユウとゆうは再会を飛び跳ねて喜んだ。
恨めしい、とジェイドが嫉妬の炎を燃やしていたことを、二人は知らない。
「ゆうちゃん、どうやって戻ってきたの?」
「えっとね、オンボロ寮の奥にあった木の穴を抜けて…この子達に案内してもらったんだ!」
「ええ。貴女よりよほど役に立ってくれますよ」
「ジェイド先輩一言多いですよ!?えーっ、小さい身体ですごいのね!あなた達、お名前はあるの?」
「ぴょ?」
「きゃー!しゃべる!可愛い〜!!」
「ぴょ~!」
オクタヴィネル寮の装飾に瞳をキラキラさせていたうさぎたちはユウの態度から「褒められている」と認識したようで、照れた表情を見せる。
「会話もできるの?」
「ぴょぉ?」
「言葉での意思疎通は難しいようですが、態度でわかることは理解しているようですよ」
「へぇ~!」
そこで、黙っていたゆうがキラキラしながらパッと顔を上げると、こう言った。
「…ぴょんちゃん!」
「は?」
「ぴょ~っていうから、ぴょんちゃんって名づけよう!」
「かわいい!決定だね!ぴょんちゃんたち、よろしくねっ!」
寮生含め、その言葉を聞いた誰もが「安直すぎる」と眉をひそめたが、ユウとゆうはきゃっきゃと喜んで、『ぴょんちゃん!ぴょんちゃん!』とうさぎと手を繋いで嬉しそうである。もちろんそれを見たジェイドだけは同じように破顔していたのは言うまでもない。
「ゆうさんが戻ってきたんです。パーティーを行わなければ!」
「それいいですね、ジェイド先輩!」
「ジェイド!それからユウはちゃんとシフト通りに働いてもらいますよ!」
ゆうが戻ってきたということは、遅かれ早かれまたユウもまた向こうに行けるようになってしまうだろう。皆に知られないよう密かに溜め息をついたアズールだったが、ユウの嬉しそうな顔を見てはどうにも歯がゆい気持ちになるのだった。
それよりも。
「オンボロ寮の裏の森とは、そんなに広かったでしょうかね。そんな時空を越えるような魔法があって、それを学園の関係者が見逃しているわけがないと思うのですが…」
「私も奥まで入ったことがなかったので知らなかったんですが、ぴょんちゃんたちはどうやらその穴を行き来しているようなんです。とても慣れた様子で入っていったので…」
そう言いながら、ゆうは、ジェイドにもらった飴や金平糖をはわぁ~!といった表情で口の中で転がして、ほっぺたを蕩けさせているぴょんちゃんたちを見やる。短い手がほっぺにギリギリ届くか届かないかでバタバタしているのが可愛くてついつい笑顔になる…ではなくて。
小さな生き物をそっと抱きかかえたゆうは、理解されないだろう疑問を投げかける。
「ぴょんちゃんたちは一体どっちの世界の生き物なんだろうね?」
「ぴょ?」
「ゆうちゃんも私も初めて見るんだもんね。各寮生たちはこれまでオンボロ寮なんか近寄らなかったろうし、ツノ太郎だって散歩は夜だけだもん。合わなかったとしてもおかしくはないけど…」
「ツノ太郎、こっちでも出歩いてるの?」
「あっ、そっちでもなんだ!?やっぱりパラレルワールドって似てるんだねぇ」
その言葉に、ギリと歯を噛み合わせたジェイドと、目を細めてニコリと黒く微笑むアズールが『ツノ太郎とは誰ですか?』と静かに静かに問いかけると同時に、ユウとゆうの視線を独占するぴょんちゃんたちを取り上げたのはフロイドの予想通りだった。
「なぁジェイド」
「なんです、フロイド。僕は今忙しいのです、後にしてください」
「後にって言うけどさ、小々エビちゃん、この感じだと知らずこっちにきたんだよね?あっちのオレたち、血眼なんじゃね?」
「あっそうだ!まずい…!グリムがもうすぐ帰ってくる予定だったのにっ」
「帰るっつても、帰れんの?」
うーん、と、ここでまた、五人の頭を悩ませる事実が思い出されたのであった。
魚は空気中を泳ぐように木々の間を進んでゆく。
「なぁアズール、コイツどこまでいくの?」
「僕にもわかりません。先程も言った通り、この魔法でできるのは、対象者の残り香を辿ること。なのでその先のことは…」
「しかし本当に正しいのでしょうか。ゆうさんが一人でこのような森の奥に迷い込むとは思えませんが…」
「それについては僕よりもジェイドの方が詳しいでしょう…おや?」
アズールがあげた声に、リーチ兄弟も目を開く。魔法の魚が、一本の木の前で停止しているではないか。どうやらそれよりも先へは進まない様子で、木の周りをぐるぐる回っている。
「…ここで途切れたようだな」
「何も、ありませんが?」
「木になんかあんのかな」
アズールが魔法を解くと魚は消え、そこには静寂だけが鎮座した。
木…というにはあまりに立派なそれは、夕陽に照らされてそよそよと揺れているだけである。
しかしながら、ジェイドがその幹に触れてハッとした表情になった。
「魔法…」
「なんですって?」
「こちらの木、微かにですが魔法の気配がします」
「…ならもしかして、小エビちゃんは…」
木に呑み込まれたのか、とは、誰も口にできなかった。代わりに発されたのは、ジェイドの小さな声。
「ゆうさん…」
貴女はどうしていつも僕の腕を擦り抜けてしまうんですか…とは、ジェイドの心の中で呟かれた。
*
さて、こちらはもう一つの世界。
時刻は少し遡る。
ゆうからすると、同じようで、しかし所々で異なるそこ、オクタヴィネル寮の奥。モストロ・ラウンジの扉が開く。
「さぁ、着きましたよ」
「ジェイド!出勤時刻はとっくに過ぎてるぞ!お前とあろうものが…は?」
「少しくらい多目に見てくださいよ、アズール」
「あ〜ジェイドやっときたぁ〜オレ、ジェイドの分まで開店準備し…え、…?それ、小々エビちゃんじゃ…なんで、」
「あはは…いえ…その…、というかやっぱりここは、『そっち』なんですね」
「ええ、おかえりなさい、ゆうさん」
嬉しそうに笑うジェイドの顔に対して、野暮なことを言えないゆうは、控えめに笑った。
「ちょっとジェイド先輩!ただでさえ縦に大きいのだから、そんな風に扉の前で立ち止まらな…っえ?!ゆうちゃん?!と、えと、このうさぎさんたちは何?!」
「…相変わらず騒がしいですね」
「ユウちゃん!」
「うそ!なんで?!でも嬉しい!また会えたーっ!」
ジェイドが、あくまでもゆうのために、腕の中からゆうを降ろしてやれば、ユウとゆうは再会を飛び跳ねて喜んだ。
恨めしい、とジェイドが嫉妬の炎を燃やしていたことを、二人は知らない。
「ゆうちゃん、どうやって戻ってきたの?」
「えっとね、オンボロ寮の奥にあった木の穴を抜けて…この子達に案内してもらったんだ!」
「ええ。貴女よりよほど役に立ってくれますよ」
「ジェイド先輩一言多いですよ!?えーっ、小さい身体ですごいのね!あなた達、お名前はあるの?」
「ぴょ?」
「きゃー!しゃべる!可愛い〜!!」
「ぴょ~!」
オクタヴィネル寮の装飾に瞳をキラキラさせていたうさぎたちはユウの態度から「褒められている」と認識したようで、照れた表情を見せる。
「会話もできるの?」
「ぴょぉ?」
「言葉での意思疎通は難しいようですが、態度でわかることは理解しているようですよ」
「へぇ~!」
そこで、黙っていたゆうがキラキラしながらパッと顔を上げると、こう言った。
「…ぴょんちゃん!」
「は?」
「ぴょ~っていうから、ぴょんちゃんって名づけよう!」
「かわいい!決定だね!ぴょんちゃんたち、よろしくねっ!」
寮生含め、その言葉を聞いた誰もが「安直すぎる」と眉をひそめたが、ユウとゆうはきゃっきゃと喜んで、『ぴょんちゃん!ぴょんちゃん!』とうさぎと手を繋いで嬉しそうである。もちろんそれを見たジェイドだけは同じように破顔していたのは言うまでもない。
「ゆうさんが戻ってきたんです。パーティーを行わなければ!」
「それいいですね、ジェイド先輩!」
「ジェイド!それからユウはちゃんとシフト通りに働いてもらいますよ!」
ゆうが戻ってきたということは、遅かれ早かれまたユウもまた向こうに行けるようになってしまうだろう。皆に知られないよう密かに溜め息をついたアズールだったが、ユウの嬉しそうな顔を見てはどうにも歯がゆい気持ちになるのだった。
それよりも。
「オンボロ寮の裏の森とは、そんなに広かったでしょうかね。そんな時空を越えるような魔法があって、それを学園の関係者が見逃しているわけがないと思うのですが…」
「私も奥まで入ったことがなかったので知らなかったんですが、ぴょんちゃんたちはどうやらその穴を行き来しているようなんです。とても慣れた様子で入っていったので…」
そう言いながら、ゆうは、ジェイドにもらった飴や金平糖をはわぁ~!といった表情で口の中で転がして、ほっぺたを蕩けさせているぴょんちゃんたちを見やる。短い手がほっぺにギリギリ届くか届かないかでバタバタしているのが可愛くてついつい笑顔になる…ではなくて。
小さな生き物をそっと抱きかかえたゆうは、理解されないだろう疑問を投げかける。
「ぴょんちゃんたちは一体どっちの世界の生き物なんだろうね?」
「ぴょ?」
「ゆうちゃんも私も初めて見るんだもんね。各寮生たちはこれまでオンボロ寮なんか近寄らなかったろうし、ツノ太郎だって散歩は夜だけだもん。合わなかったとしてもおかしくはないけど…」
「ツノ太郎、こっちでも出歩いてるの?」
「あっ、そっちでもなんだ!?やっぱりパラレルワールドって似てるんだねぇ」
その言葉に、ギリと歯を噛み合わせたジェイドと、目を細めてニコリと黒く微笑むアズールが『ツノ太郎とは誰ですか?』と静かに静かに問いかけると同時に、ユウとゆうの視線を独占するぴょんちゃんたちを取り上げたのはフロイドの予想通りだった。
「なぁジェイド」
「なんです、フロイド。僕は今忙しいのです、後にしてください」
「後にって言うけどさ、小々エビちゃん、この感じだと知らずこっちにきたんだよね?あっちのオレたち、血眼なんじゃね?」
「あっそうだ!まずい…!グリムがもうすぐ帰ってくる予定だったのにっ」
「帰るっつても、帰れんの?」
うーん、と、ここでまた、五人の頭を悩ませる事実が思い出されたのであった。