【完結】監督生が二人いる?!
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オンボロ寮に戻ったユウはパニックに陥っていた。
何と言っても鏡にヒビが入っていたから。
「こ、これ…!どうしてっ…どうしようアズール先輩…ッ」
「落ち着いてください。この鏡の秘密は僕たち以外には言っていませんね?」
「は、はい…誰にも、」
「といういことは、冷静に考えて、こちら側の誰かが悪意を持ってこの鏡を割ったということはないでしょう。それと…この鏡は内側に向いて立っていますから、外から何か…例えばボールなんかが飛んできて偶然割れたとも考えにくい」
「確かに…」
「つまり考えられるとすれば、向こう側の世界で何かあった、ということです」
「!!あっちで鏡が割れたから、連動してこちらでも…?」
「恐らく」
「ゆうちゃん…!」
ゆうの身に何かがあったのか、それとも。無事でいてくれさえすればいいのだが、と、ユウは祈るような気持ちで鏡のヒビを見つめた。
*
そんな心配を他所に鏡を割った側の世界では、意外にもゆう自身が最も落ち着いていた。
『どうしてだろう。いつかはこんなことになるんじゃないか。そんな気がしていたからかもな』なんて心の中の誰かがゆうに語りかける。
「ジェイド何してんの?!これ割れたら小エビちゃんもう」
「いいんです、フロイド先輩」
「っでも小エビちゃん毎週楽しみにしてたじゃん!!」
「それは…そうなんですけれど、でも、これも一時の夢、だったのかもしれません」
「アズールは!?アズールはこれでいいわけ!?」
「え…あ、いえ僕は」
「フロイド先輩、私は、大丈夫ですから。でも、ありがとうございます、心配してくださって。あ…そうだ、割れた鏡、片付けなくっちゃ」
危ないですもんね、と言うゆうはヘラりと笑ったと思えば、部屋を出て行ってしまった。
その背中をぽかんと見つめていた男性陣は、ふと我に返ってジェイドに詰め寄る。
「おい!本当にどう言うつもりだよジェイド!!小エビちゃん、かなり衝撃うけてんじゃん!!」
「ジェイド、流石にあれは僕もいただけませんよ…仮にも貴方、ゆうさんの彼氏でしょう。彼女のことをもう少し考えてやったらどうです?」
「ゆうさんのことを考えたからこそ、ですよ。行ったり来たり…彼女の記憶が混濁したりしたらどうするのです?元の世界に帰るどころの話ではなくなります」
「…ンなこと言って…帰す気ねぇ癖に」
「それとこれとは話が別です」
にこり、綺麗な笑顔をはりつけて、ジェイドは暗く微笑んだ。
それから幾日かが経過した。
ゆうは至って普通に見えたが、たまに一人になるタイミングができると鏡の前でぼーっと佇んでいる姿をゴースト達は目撃している。
もはや家族のような仲になっていたゴーストでも、そのときばかりは声もかけられなかったと、後に語っていた。
なお、その見つめている鏡も、もはや以前の面影はない。それはあの後、オクタヴィネルのみんなからプレゼントされたものだったから。
「これが元あった姿なんだもんね…」
呟いたゆう自身なんでもないと振舞っていたのには理由があった。
諦めなければいけないとわかってはいた。
けれど「しなければならない」と「そうできる」の溝はいつだって深いものだ。
思考と感情のズレは、そう思い込ませることから揃えていくしかない。
テラスへ向かって外を見つめてみる。
何も変わらないようにみえるこの世界も、少しずつ変わっていくのかもしれない。
「むぅ、一人でいるとどうしてもダメだなぁ…んあー…あーーー??」
空を見上げて深呼吸。それから視線をオンボロ寮周りの緑に向ける。
やはり自然はいいな、とぼーっと見つめていたら、その緑の中に、見慣れぬ白色が動くのが見えた。
その白色はこの距離からでも見えるくらいなので割と目立っているのだが、それがゆっくりゆっくりと緑の間を行ったり来たりしている。
「…なに、あれ」
見つけてしまえば、その奇妙なものが気になって仕方がない。
ゆうはオンボロ寮の階段を駆け下りて、木が生い茂るそちらの方へと躍り出た。
「はぁっ…ふぅっ…!!こんなに、走ったのっ、ひ、久しぶりっ…はぁっ…こっちの方に行ったと思ったんだけどっ…」
なけなしの体力を絞ってやってきたのに、そこには白色の影も形もなかった。
残念だ。直感が『面白そうだ』と囁いてきたのに。
そこまで考えて、なんだか思考がジェイド先輩に似てきたなぁと苦笑する。
疲れた…、と息を吐いてから『確かポケットに飴があったはず…』とポケットからそれを取り出して封を開けた、その時だった。
「ぴょ」
「へ?」
「ぴょ…」
「え…ッ?」
目の前に、突如現れたのは。
「うさ、ぎ…?」
目の前のそれは、耳が二本生えている、白い物体。色から見て、先ほどゆうが見たもので間違いないだろう。
その物体の見てくれは、確かにうさぎだった。
しかし、耳はゆうが知っているうさぎのようにピンと上を向いているわけではなく、ちょうど真ん中あたりで90度折れ曲がっている。
それから、なぜか二足歩行だ。
「え…っと…」
「ぴょぉ…」
「…もしかして、これが欲しいの?」
「ぴょ!!」
手に持っていた飴を見せると、短い両の手をできるだけ高く上げてゆうに差し出してくるそのうさぎは、もしかしたら精霊や妖精の類なのかもしれない。フェアリー・ガラの時だって、色々なタイプの妖精がいたのを見たのだ。歩行タイプの妖精族がいたっておかしくはないだろうと、頭のどこかで結論づける。
飴を渡すと、ぽい、と口の中に投げ込んで、美味しい!とでも言いたげにほっこりとした顔をするうさぎは、意外と愛らしい顔をしている。
「うさぎちゃん、どこからきたの?」
「ぴょ、ぴょ」
「ん?あっち?」
「ぴょぉ!!」
「あっ待って!!」
ものすごくバランスの悪い体型をしているからか、よたよたと歩くうさぎは、それでも森の中を歩くのは慣れているようでそれなりのスピードで奥へ奥へと分け入っていく。ついて行くゆうは『ここの敷地、こんなにも広かったかしら』と不安になってくるが、振り向いたところでもはやどこをどう通ったのかわからなかったので、仕方なくそれの後をついて行くことを選んだ。
『なんだか御伽の国みたい…って、ここはツイステッドワンダーランドなんだから御伽話も何もないか』などとひとりごちる。
「うさぎちゃーん?もうそろそろつくのかな?私ちょっともう…」
「ぴょ!」
「え?この穴…もしかしてここがお家なの?」
「ぴょっ!!」
「ええっ?!」
着いた!と誇らしげにゆうの方を見たうさぎの目の前には、大きな木が一本。
その根本には、このうさぎが一匹通れるかどうか程度の穴が空いていた。
仕草を見るに、そこからやってきたらしいうさぎは、そのままその穴に入っていってしまう。
空を見上げればもうだいぶ日が落ちてきていて、ゆう一人ではオンボロ寮に帰れるかも怪しい。
ええいままよ!と、勇気を振り絞って、その穴に顔を突っ込んだ。
この世界の住人に比べれば、体格は随分小さいはずのゆうだが、それでもその穴を通るには厳しい大きさのようだ。
「く、くるし…うう、うさぎちゃん、ちょっと、待って、お願いっ、ッ!?」
気づけば、目の前に明かりが見えてきた。
後もう少しだ、というところだったのに、お尻が何かに引っかかっている。
グッと引っ張ろうとしても、力が入らずどうしても抜けない。
その間にもうさぎは先へ行ってしまう。
やだ、やだ、と半泣きのゆうは暴れるばかりで進まない。
恐怖のあまり声を絞り出すゆう。
「置いていかないでっ…ひとりにしないで!!」
「ぴょ〜!」
「ぴ〜よ〜!!」
「ぴょおおお」
「!?」
声の方に目を向けたゆうは驚きで声を失った。
なぜなら、一匹だと思っていたうさぎが増えて戻ってきたからだ。
うさぎたちは、ゆうの腕を、うんしょうんしょと引っ張ってくれた。
それも相まって。
「んん〜〜〜〜ぬ〜〜け〜て〜〜!!!!」
「ぴ〜〜よ〜〜!!!!」
すぽーーーん!!
ついに抜けたゆうの身体は、その勢いで穴の向こう側へ抜け出ていった。
コロン、と一回転して『アタタタ…』と頭を抱える。ここは一体…と周りを見回そうと顔を上げたその時。
「…ゆう、さん?」
聞こえるはずのない声が聞こえ。
いるはずのないその人が、そこには立っていたのだった。
何と言っても鏡にヒビが入っていたから。
「こ、これ…!どうしてっ…どうしようアズール先輩…ッ」
「落ち着いてください。この鏡の秘密は僕たち以外には言っていませんね?」
「は、はい…誰にも、」
「といういことは、冷静に考えて、こちら側の誰かが悪意を持ってこの鏡を割ったということはないでしょう。それと…この鏡は内側に向いて立っていますから、外から何か…例えばボールなんかが飛んできて偶然割れたとも考えにくい」
「確かに…」
「つまり考えられるとすれば、向こう側の世界で何かあった、ということです」
「!!あっちで鏡が割れたから、連動してこちらでも…?」
「恐らく」
「ゆうちゃん…!」
ゆうの身に何かがあったのか、それとも。無事でいてくれさえすればいいのだが、と、ユウは祈るような気持ちで鏡のヒビを見つめた。
*
そんな心配を他所に鏡を割った側の世界では、意外にもゆう自身が最も落ち着いていた。
『どうしてだろう。いつかはこんなことになるんじゃないか。そんな気がしていたからかもな』なんて心の中の誰かがゆうに語りかける。
「ジェイド何してんの?!これ割れたら小エビちゃんもう」
「いいんです、フロイド先輩」
「っでも小エビちゃん毎週楽しみにしてたじゃん!!」
「それは…そうなんですけれど、でも、これも一時の夢、だったのかもしれません」
「アズールは!?アズールはこれでいいわけ!?」
「え…あ、いえ僕は」
「フロイド先輩、私は、大丈夫ですから。でも、ありがとうございます、心配してくださって。あ…そうだ、割れた鏡、片付けなくっちゃ」
危ないですもんね、と言うゆうはヘラりと笑ったと思えば、部屋を出て行ってしまった。
その背中をぽかんと見つめていた男性陣は、ふと我に返ってジェイドに詰め寄る。
「おい!本当にどう言うつもりだよジェイド!!小エビちゃん、かなり衝撃うけてんじゃん!!」
「ジェイド、流石にあれは僕もいただけませんよ…仮にも貴方、ゆうさんの彼氏でしょう。彼女のことをもう少し考えてやったらどうです?」
「ゆうさんのことを考えたからこそ、ですよ。行ったり来たり…彼女の記憶が混濁したりしたらどうするのです?元の世界に帰るどころの話ではなくなります」
「…ンなこと言って…帰す気ねぇ癖に」
「それとこれとは話が別です」
にこり、綺麗な笑顔をはりつけて、ジェイドは暗く微笑んだ。
それから幾日かが経過した。
ゆうは至って普通に見えたが、たまに一人になるタイミングができると鏡の前でぼーっと佇んでいる姿をゴースト達は目撃している。
もはや家族のような仲になっていたゴーストでも、そのときばかりは声もかけられなかったと、後に語っていた。
なお、その見つめている鏡も、もはや以前の面影はない。それはあの後、オクタヴィネルのみんなからプレゼントされたものだったから。
「これが元あった姿なんだもんね…」
呟いたゆう自身なんでもないと振舞っていたのには理由があった。
諦めなければいけないとわかってはいた。
けれど「しなければならない」と「そうできる」の溝はいつだって深いものだ。
思考と感情のズレは、そう思い込ませることから揃えていくしかない。
テラスへ向かって外を見つめてみる。
何も変わらないようにみえるこの世界も、少しずつ変わっていくのかもしれない。
「むぅ、一人でいるとどうしてもダメだなぁ…んあー…あーーー??」
空を見上げて深呼吸。それから視線をオンボロ寮周りの緑に向ける。
やはり自然はいいな、とぼーっと見つめていたら、その緑の中に、見慣れぬ白色が動くのが見えた。
その白色はこの距離からでも見えるくらいなので割と目立っているのだが、それがゆっくりゆっくりと緑の間を行ったり来たりしている。
「…なに、あれ」
見つけてしまえば、その奇妙なものが気になって仕方がない。
ゆうはオンボロ寮の階段を駆け下りて、木が生い茂るそちらの方へと躍り出た。
「はぁっ…ふぅっ…!!こんなに、走ったのっ、ひ、久しぶりっ…はぁっ…こっちの方に行ったと思ったんだけどっ…」
なけなしの体力を絞ってやってきたのに、そこには白色の影も形もなかった。
残念だ。直感が『面白そうだ』と囁いてきたのに。
そこまで考えて、なんだか思考がジェイド先輩に似てきたなぁと苦笑する。
疲れた…、と息を吐いてから『確かポケットに飴があったはず…』とポケットからそれを取り出して封を開けた、その時だった。
「ぴょ」
「へ?」
「ぴょ…」
「え…ッ?」
目の前に、突如現れたのは。
「うさ、ぎ…?」
目の前のそれは、耳が二本生えている、白い物体。色から見て、先ほどゆうが見たもので間違いないだろう。
その物体の見てくれは、確かにうさぎだった。
しかし、耳はゆうが知っているうさぎのようにピンと上を向いているわけではなく、ちょうど真ん中あたりで90度折れ曲がっている。
それから、なぜか二足歩行だ。
「え…っと…」
「ぴょぉ…」
「…もしかして、これが欲しいの?」
「ぴょ!!」
手に持っていた飴を見せると、短い両の手をできるだけ高く上げてゆうに差し出してくるそのうさぎは、もしかしたら精霊や妖精の類なのかもしれない。フェアリー・ガラの時だって、色々なタイプの妖精がいたのを見たのだ。歩行タイプの妖精族がいたっておかしくはないだろうと、頭のどこかで結論づける。
飴を渡すと、ぽい、と口の中に投げ込んで、美味しい!とでも言いたげにほっこりとした顔をするうさぎは、意外と愛らしい顔をしている。
「うさぎちゃん、どこからきたの?」
「ぴょ、ぴょ」
「ん?あっち?」
「ぴょぉ!!」
「あっ待って!!」
ものすごくバランスの悪い体型をしているからか、よたよたと歩くうさぎは、それでも森の中を歩くのは慣れているようでそれなりのスピードで奥へ奥へと分け入っていく。ついて行くゆうは『ここの敷地、こんなにも広かったかしら』と不安になってくるが、振り向いたところでもはやどこをどう通ったのかわからなかったので、仕方なくそれの後をついて行くことを選んだ。
『なんだか御伽の国みたい…って、ここはツイステッドワンダーランドなんだから御伽話も何もないか』などとひとりごちる。
「うさぎちゃーん?もうそろそろつくのかな?私ちょっともう…」
「ぴょ!」
「え?この穴…もしかしてここがお家なの?」
「ぴょっ!!」
「ええっ?!」
着いた!と誇らしげにゆうの方を見たうさぎの目の前には、大きな木が一本。
その根本には、このうさぎが一匹通れるかどうか程度の穴が空いていた。
仕草を見るに、そこからやってきたらしいうさぎは、そのままその穴に入っていってしまう。
空を見上げればもうだいぶ日が落ちてきていて、ゆう一人ではオンボロ寮に帰れるかも怪しい。
ええいままよ!と、勇気を振り絞って、その穴に顔を突っ込んだ。
この世界の住人に比べれば、体格は随分小さいはずのゆうだが、それでもその穴を通るには厳しい大きさのようだ。
「く、くるし…うう、うさぎちゃん、ちょっと、待って、お願いっ、ッ!?」
気づけば、目の前に明かりが見えてきた。
後もう少しだ、というところだったのに、お尻が何かに引っかかっている。
グッと引っ張ろうとしても、力が入らずどうしても抜けない。
その間にもうさぎは先へ行ってしまう。
やだ、やだ、と半泣きのゆうは暴れるばかりで進まない。
恐怖のあまり声を絞り出すゆう。
「置いていかないでっ…ひとりにしないで!!」
「ぴょ〜!」
「ぴ〜よ〜!!」
「ぴょおおお」
「!?」
声の方に目を向けたゆうは驚きで声を失った。
なぜなら、一匹だと思っていたうさぎが増えて戻ってきたからだ。
うさぎたちは、ゆうの腕を、うんしょうんしょと引っ張ってくれた。
それも相まって。
「んん〜〜〜〜ぬ〜〜け〜て〜〜!!!!」
「ぴ〜〜よ〜〜!!!!」
すぽーーーん!!
ついに抜けたゆうの身体は、その勢いで穴の向こう側へ抜け出ていった。
コロン、と一回転して『アタタタ…』と頭を抱える。ここは一体…と周りを見回そうと顔を上げたその時。
「…ゆう、さん?」
聞こえるはずのない声が聞こえ。
いるはずのないその人が、そこには立っていたのだった。