【完結】僕らのフェアリーテイル
これは、ジェイドが捕獲してきた一人の妖精と、アズール・アーシェングロットの甘く切ない、そして少しえっちな、恋の物語。
そのため話を始める前に、なぜそんなことになったのか説明しなければならない。
ある日、ジェイドは学園から少し離れた山へと足を運んでいた。
山を愛する会。
それはジェイド一人が所属している部活だが、それゆえ、好きに活動できるという利点を持っている。
ジェイドの下調べによれば、今日向かっている山には湖があるらしい。
普段登る山にはないものがあるということは、その山にしかない山菜やきのこがあるはずだ。
普段はおくびに出すこともない高揚感。
その気持ちを発散させるために出発したのが数時間前のこと。
到着した湖は想像したよりも大きく、また、大変綺麗だった。
「これは素晴らしい…。思った以上に期待できそうですね。」
ポツリと言葉を漏らしながら、湖に近づこうとしてふと気づく。
その周辺を緩やかに飛び回る何かがいることに。
暫く観察してその軌道をとらえると、ジェイドは、サッと素手でソレを捕まえた。
「おや。」
「きゃ!?」
「これは…」
「や!は、離してっ!」
捕まったソレは小さく甲高い声で騒いでキラキラを撒き散らすので、とりあえず持っていた籠にいれて蓋を閉めた。それから籠の隙間を覗き込み、ジェイドは少しだけ驚く。
「貴女…もしや妖精ですか?」
「…!」
「なるほど…仕方ありません。散策は日を改めましょう。」
「!?っは、離してっ!お願い!お願いよ!やめて!」
そんな言葉がジェイドに届くはずもなし。面白いものをみすみす見逃すことがあるわけもない。
そのまま学園へとんぼ返りすることにした。
「…というわけで、妖精を捕まえたので、アズール、見ていただけますか。」
「は?何を…そんな…妖精などその辺りに生息するものではないだろう。見間違いでは?」
「いいえ。見間違いなどではありません。この中にいますから…フロイド、しっかり寮長室の扉を閉めておいてください。」
「りょ〜かい〜」
フロイドが扉の前を固めたのを見て、ジェイドは籠を開ける。
その瞬間、ボフン!と大きな音がして、部屋が煙に包まれた。
「!」
「小賢しいですね。」
何にも動じないジェイドは、手にしていたマジカルペンをサッと一振りする。
ペンの動きに合わせて煙が蹴散らされると、床にへたりと座って涙を流す女が一人、現れた。
生成り色の布を身体に巻き付けただけのその女は、心なしかキラキラした空気を纏っている。
「…なるほど。この大きさに変化できる妖精とは、なかなかの力をお持ちのようで。」
「っ…ひっ…!」
「これは…普通の人間…じゃ、ないのか?羽根も何もないようだが?この女性が妖精だという根拠がない。」
「今までこの籠の中にいた事実だけでも…とはなりませんね。そうですね…あなたもう一度小さくなれないのですか?」
ジェイドの言葉にふるふると首を振ってNOの意思表示。
嫌だ、なのか、できない、なのかは、その態度から読み取ることはできなかった。
ふむ、と一つ息を吐いたジェイドは、何か証拠になるものはないかと籠を覗き込む。
するとその中に何か光るものがあるのを発見し、それをコロリと掌に出した。
それは一欠片の。
「ブルー…トパーズ?」
「!」
「…ジェイド、それをどこで?」
「いえ…僕はこんなもの拾った覚えは…」
そこでアズールは一つの異変に気づく。
ころり。ころり。女の座るその床にも、いくつもの宝石の欠片がある。
アズールは目を見開いた。
「まさか…貴女、宝石を創り出せるんですか…?」
「っ…!」
気づかれたその事実に、女が身体をビクつかせた瞬間。
涙がホロリと頬を伝い、それは床につく前にまた一つの宝石の欠片となった。
合点がいく。この宝石の正体は、女の涙だったのだと。
セレナイト、ムーンストーン、こっちはアメジストだろうか。
床に散らばるそれらは、小さいけれどどれも一級品のように見える。
アズールは息を飲んで口元を隠したが、『こんなの、商売になりすぎる…!』という言葉だけは飲み込めなかった様子だ。
「ジェイドさぁ、知ってて連れてきたわけ?」
「そんなわけないでしょう。面白そうなものが飛んでいたので、ちょっと来ていただいただけですよ。」
「ちょっと、って感じじゃねーじゃん、この子泣いてるし。」
「ですが、一人でいたようなのですよ。普通、妖精と言ったら群れでいるイメージなのですが、彼女の種族は違うのでしょうか?」
妖精…もとい、その女の前に膝をついたアズールは、慈悲の心と商売心の間で揺れていた。
「貴女、元いた場所へはお一人で帰れるのですか?」
「…っ、いえ…帰ったところで…一人なので…こうなってはどこにいても同じです…。あの…私は…売り飛ばされるのですか…?」
「僕は女性に対してそんなことはしませんよ。どうです?とりあえずここに住んでみませんか。食事や寝床は提供しましょう。悪いようにはしません。」
「…!ほ、んとうですか…?」
「はい。ですが一つだけ。この、涙の宝石は全て僕にいただけませんか。これを対価として、貴女を守ることを誓いましょう。」
Win-Winなのか、それとも。
しかしながら、アズールの瞳は輝いているし、連れてきた妖精自身も特に害はなさそうな上、戻る場所もないという。ジェイドは、その様子を見て、自分の働きに満足するのであった。
『これは面白いことになってきましたね。』と。
「ジェイド。」
「はい。なんでしょうアズール。」
「この妖精…いえ、この方に服を用意できますか。」
「かしこまりました。」
「フロイドは部屋の準備をし「待ってください!」
アズールに縋りついて、言葉を遮ってまで女は言う。
「あ、あの…」
「どうしました?」
「一人は、怖い、です…!」
うる、と瞳に滲んだのは涙。
今にも溢れそうだが、すんでのところで膜を張って落ちてはこない。
ぽとりと落ちれば、きっと綺麗な宝石になるはずなのに。
それを間近で見たアズールは、なぜかこの涙を溢してはいけないと思った。
「…わかりました。では暫くは僕の部屋にいてください。どうですか?」
「…! ありがとう、ございます…! よろしくお願いします…!」
にこりと女が笑った拍子に結局その涙は溢れ落ち、今度はモルガナイトの結晶となった。
(もしかすると宝石の種類は、涙を溢す時の感情によって変化するのかもしれない。)
そんなことを思いながら、アズールは女の手を握る。
「じゃ、オレもジェイドと服調達に行くから~、またね、フェアリーちゃん。」
パタンと閉まる寮長室の扉。
残されたのは、アズールと女の二人だけ。
「ところで、貴女、名前はあるのですか?」
「えっと…私の名前は妖精の国の言葉でつけられているので…」
「そうですか、では、僕が名前をつけて差し上げましょう。」
こうしてアズールと妖精の奇妙な共同生活は、幕を開けたのだった。
そのため話を始める前に、なぜそんなことになったのか説明しなければならない。
ある日、ジェイドは学園から少し離れた山へと足を運んでいた。
山を愛する会。
それはジェイド一人が所属している部活だが、それゆえ、好きに活動できるという利点を持っている。
ジェイドの下調べによれば、今日向かっている山には湖があるらしい。
普段登る山にはないものがあるということは、その山にしかない山菜やきのこがあるはずだ。
普段はおくびに出すこともない高揚感。
その気持ちを発散させるために出発したのが数時間前のこと。
到着した湖は想像したよりも大きく、また、大変綺麗だった。
「これは素晴らしい…。思った以上に期待できそうですね。」
ポツリと言葉を漏らしながら、湖に近づこうとしてふと気づく。
その周辺を緩やかに飛び回る何かがいることに。
暫く観察してその軌道をとらえると、ジェイドは、サッと素手でソレを捕まえた。
「おや。」
「きゃ!?」
「これは…」
「や!は、離してっ!」
捕まったソレは小さく甲高い声で騒いでキラキラを撒き散らすので、とりあえず持っていた籠にいれて蓋を閉めた。それから籠の隙間を覗き込み、ジェイドは少しだけ驚く。
「貴女…もしや妖精ですか?」
「…!」
「なるほど…仕方ありません。散策は日を改めましょう。」
「!?っは、離してっ!お願い!お願いよ!やめて!」
そんな言葉がジェイドに届くはずもなし。面白いものをみすみす見逃すことがあるわけもない。
そのまま学園へとんぼ返りすることにした。
「…というわけで、妖精を捕まえたので、アズール、見ていただけますか。」
「は?何を…そんな…妖精などその辺りに生息するものではないだろう。見間違いでは?」
「いいえ。見間違いなどではありません。この中にいますから…フロイド、しっかり寮長室の扉を閉めておいてください。」
「りょ〜かい〜」
フロイドが扉の前を固めたのを見て、ジェイドは籠を開ける。
その瞬間、ボフン!と大きな音がして、部屋が煙に包まれた。
「!」
「小賢しいですね。」
何にも動じないジェイドは、手にしていたマジカルペンをサッと一振りする。
ペンの動きに合わせて煙が蹴散らされると、床にへたりと座って涙を流す女が一人、現れた。
生成り色の布を身体に巻き付けただけのその女は、心なしかキラキラした空気を纏っている。
「…なるほど。この大きさに変化できる妖精とは、なかなかの力をお持ちのようで。」
「っ…ひっ…!」
「これは…普通の人間…じゃ、ないのか?羽根も何もないようだが?この女性が妖精だという根拠がない。」
「今までこの籠の中にいた事実だけでも…とはなりませんね。そうですね…あなたもう一度小さくなれないのですか?」
ジェイドの言葉にふるふると首を振ってNOの意思表示。
嫌だ、なのか、できない、なのかは、その態度から読み取ることはできなかった。
ふむ、と一つ息を吐いたジェイドは、何か証拠になるものはないかと籠を覗き込む。
するとその中に何か光るものがあるのを発見し、それをコロリと掌に出した。
それは一欠片の。
「ブルー…トパーズ?」
「!」
「…ジェイド、それをどこで?」
「いえ…僕はこんなもの拾った覚えは…」
そこでアズールは一つの異変に気づく。
ころり。ころり。女の座るその床にも、いくつもの宝石の欠片がある。
アズールは目を見開いた。
「まさか…貴女、宝石を創り出せるんですか…?」
「っ…!」
気づかれたその事実に、女が身体をビクつかせた瞬間。
涙がホロリと頬を伝い、それは床につく前にまた一つの宝石の欠片となった。
合点がいく。この宝石の正体は、女の涙だったのだと。
セレナイト、ムーンストーン、こっちはアメジストだろうか。
床に散らばるそれらは、小さいけれどどれも一級品のように見える。
アズールは息を飲んで口元を隠したが、『こんなの、商売になりすぎる…!』という言葉だけは飲み込めなかった様子だ。
「ジェイドさぁ、知ってて連れてきたわけ?」
「そんなわけないでしょう。面白そうなものが飛んでいたので、ちょっと来ていただいただけですよ。」
「ちょっと、って感じじゃねーじゃん、この子泣いてるし。」
「ですが、一人でいたようなのですよ。普通、妖精と言ったら群れでいるイメージなのですが、彼女の種族は違うのでしょうか?」
妖精…もとい、その女の前に膝をついたアズールは、慈悲の心と商売心の間で揺れていた。
「貴女、元いた場所へはお一人で帰れるのですか?」
「…っ、いえ…帰ったところで…一人なので…こうなってはどこにいても同じです…。あの…私は…売り飛ばされるのですか…?」
「僕は女性に対してそんなことはしませんよ。どうです?とりあえずここに住んでみませんか。食事や寝床は提供しましょう。悪いようにはしません。」
「…!ほ、んとうですか…?」
「はい。ですが一つだけ。この、涙の宝石は全て僕にいただけませんか。これを対価として、貴女を守ることを誓いましょう。」
Win-Winなのか、それとも。
しかしながら、アズールの瞳は輝いているし、連れてきた妖精自身も特に害はなさそうな上、戻る場所もないという。ジェイドは、その様子を見て、自分の働きに満足するのであった。
『これは面白いことになってきましたね。』と。
「ジェイド。」
「はい。なんでしょうアズール。」
「この妖精…いえ、この方に服を用意できますか。」
「かしこまりました。」
「フロイドは部屋の準備をし「待ってください!」
アズールに縋りついて、言葉を遮ってまで女は言う。
「あ、あの…」
「どうしました?」
「一人は、怖い、です…!」
うる、と瞳に滲んだのは涙。
今にも溢れそうだが、すんでのところで膜を張って落ちてはこない。
ぽとりと落ちれば、きっと綺麗な宝石になるはずなのに。
それを間近で見たアズールは、なぜかこの涙を溢してはいけないと思った。
「…わかりました。では暫くは僕の部屋にいてください。どうですか?」
「…! ありがとう、ございます…! よろしくお願いします…!」
にこりと女が笑った拍子に結局その涙は溢れ落ち、今度はモルガナイトの結晶となった。
(もしかすると宝石の種類は、涙を溢す時の感情によって変化するのかもしれない。)
そんなことを思いながら、アズールは女の手を握る。
「じゃ、オレもジェイドと服調達に行くから~、またね、フェアリーちゃん。」
パタンと閉まる寮長室の扉。
残されたのは、アズールと女の二人だけ。
「ところで、貴女、名前はあるのですか?」
「えっと…私の名前は妖精の国の言葉でつけられているので…」
「そうですか、では、僕が名前をつけて差し上げましょう。」
こうしてアズールと妖精の奇妙な共同生活は、幕を開けたのだった。
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