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Azul
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寮へ向かう途中には植物園がある。私はなんだかんだ、その空間がすきだった。
季節に関係なく咲き誇る沢山の草花は少なからず私の心を癒してくれるから。
今日も今日とて訪れたそこで、嗅ぎ慣れない匂いが私の鼻腔を掠めた。
「…?甘い香りがする…?」
すんすん、と息を吸いながら、その香りに誘われて植物園の中を彷徨い歩くと、『春の庭』と書かれた場所で、ピンクや白や薄紫色をした小さな花が満開を迎えていた。香りの元はその花のようだ。
「この香り何処かで…えっと…」
記憶を頼りに答えを探す。
そう、確かあれは、まだこちらにくる前のことだった…と、物思いに耽っていたせいで近づいてくる足音に気がつかなかった自分は、抜けているのかなんなのか。
漸く思い出された名前に『あ!』と上を向く。
「これはライラックですね」
「ライラック!って、え?」
一人だと思い込んでいたために一瞬戸惑ったけれど、声の方に視線を向ければそこにいたのは見知った顔だったので、すぐにホッと息を吐いた。
「アズール先輩じゃないですか…!」
「こんにちは」
「こんにちは…。びっくりしました、誰もいないと思っていたので」
「驚いたのはこちらですよ。貴女、植物園なんかで何してるんです」
「散歩です!そしたらとてもいい香りがしたので…このお花、先輩が育ててるんですか?」
「魔法薬に使うような植物も多いので、香りに誘われるのは感心しませんが、まぁいいでしょう…。それで、いいえ。僕は自分で花を育てたりはしません。時間の都合で毎日見に来ることはかなわないので」
「じゃあどうして今日はここに?」
「相談者の依頼で魔法薬を作ることになったので、少し材料を拝借しにきました」
そう言いながらその花弁に手を伸ばすものだから、ふと思ったことがそのまま声に出てしまった。
「その花。こっちの世界も同じかはわからないんですけれど、ライラックの花弁はこう…先が四つに割れてますよね。でも稀に、花びらの先が五つに割れていることがあるんですって。それで、その五つに割れた花は『ハッピーライラック』って呼ばれるって聞いたことがあります」
「ほぅ?」
「ハッピーライラックを見つけた人は、見つけたことを誰にも言わないでおいて、その上で、それを飲み込めたら…愛する人と永遠に幸せに過ごせる、という言い伝えがありますね」
伝説ですけどね、と呟くと、先輩は『貴女も探したんですか?』と聞いてきた。
「はい!昔は躍起になって探していましたよ」
懐かしいなと苦笑しながら私もライラックの花弁を指先でなぞると、ふとその手が黒のグローブに掴まれた。少なからず驚いて、グローブの主の方に目を向けると、眼鏡の奥が不安に揺れている。
「?アズール先輩…?」
「…見つかったんですか?その、ハッピーライラック」
「見つかるわけないですよ…きっと、本当に望んでいる人の前にしか現れないんじゃないでしょうか」
「…貴女は、どうしてそれを探したんです?」
「今となっては、覚えていないのですが…、珍しい、と言われたので宝探しの感覚だったんじゃないかと。おてんばでしたから、私」
「そう、ですか」
「でも、今見つけても飲み込まないと思いますよ」
柔く握られていた手を、ついと動かして、今度は私からきゅと指を絡めて微笑んだ。
「だって、私のことは先輩が幸せにしてくれるし、先輩を幸せにするために私も頑張っていますから。ハッピーライラックがなかったとしても、お互い幸せになろうと、しようと、してるでしょう?だから今の私には必要ありません」
「!」
「もし見つけたら、相談者さんの魔法薬に混ぜてあげてください。どんな相談かはわかりませんけど…ハッピーになれますようにって、私も願ってますね」
「…それは…いただけませんね」
「?どうしてで、ンッ、」
今度はムッとした顔をしているアズール先輩は、空いていた手を私の頬に添えて、触れるだけのキスをした。そっと離れていく瞳を見つめるしかできない私に、彼は一言こう言うのだ。
「貴女は、僕のことだけ考えていてください。僕だけを幸せにしてくれたら、それでいい」
そんな横暴な、と思わなくなったあたり、私は心底アズール先輩のことを好きなんだけれど。まだまだ伝え足りないようだ。
五つの花弁が見つからなくたって、ライラックのハッピーは運ばれてくるみたい。
見知らぬ相談者さんの分までハッピーになっちゃったかも、などと思いながら、伝え足りない気持ちを込めて、今度は私から唇を触れ合わせたのだった。
季節に関係なく咲き誇る沢山の草花は少なからず私の心を癒してくれるから。
今日も今日とて訪れたそこで、嗅ぎ慣れない匂いが私の鼻腔を掠めた。
「…?甘い香りがする…?」
すんすん、と息を吸いながら、その香りに誘われて植物園の中を彷徨い歩くと、『春の庭』と書かれた場所で、ピンクや白や薄紫色をした小さな花が満開を迎えていた。香りの元はその花のようだ。
「この香り何処かで…えっと…」
記憶を頼りに答えを探す。
そう、確かあれは、まだこちらにくる前のことだった…と、物思いに耽っていたせいで近づいてくる足音に気がつかなかった自分は、抜けているのかなんなのか。
漸く思い出された名前に『あ!』と上を向く。
「これはライラックですね」
「ライラック!って、え?」
一人だと思い込んでいたために一瞬戸惑ったけれど、声の方に視線を向ければそこにいたのは見知った顔だったので、すぐにホッと息を吐いた。
「アズール先輩じゃないですか…!」
「こんにちは」
「こんにちは…。びっくりしました、誰もいないと思っていたので」
「驚いたのはこちらですよ。貴女、植物園なんかで何してるんです」
「散歩です!そしたらとてもいい香りがしたので…このお花、先輩が育ててるんですか?」
「魔法薬に使うような植物も多いので、香りに誘われるのは感心しませんが、まぁいいでしょう…。それで、いいえ。僕は自分で花を育てたりはしません。時間の都合で毎日見に来ることはかなわないので」
「じゃあどうして今日はここに?」
「相談者の依頼で魔法薬を作ることになったので、少し材料を拝借しにきました」
そう言いながらその花弁に手を伸ばすものだから、ふと思ったことがそのまま声に出てしまった。
「その花。こっちの世界も同じかはわからないんですけれど、ライラックの花弁はこう…先が四つに割れてますよね。でも稀に、花びらの先が五つに割れていることがあるんですって。それで、その五つに割れた花は『ハッピーライラック』って呼ばれるって聞いたことがあります」
「ほぅ?」
「ハッピーライラックを見つけた人は、見つけたことを誰にも言わないでおいて、その上で、それを飲み込めたら…愛する人と永遠に幸せに過ごせる、という言い伝えがありますね」
伝説ですけどね、と呟くと、先輩は『貴女も探したんですか?』と聞いてきた。
「はい!昔は躍起になって探していましたよ」
懐かしいなと苦笑しながら私もライラックの花弁を指先でなぞると、ふとその手が黒のグローブに掴まれた。少なからず驚いて、グローブの主の方に目を向けると、眼鏡の奥が不安に揺れている。
「?アズール先輩…?」
「…見つかったんですか?その、ハッピーライラック」
「見つかるわけないですよ…きっと、本当に望んでいる人の前にしか現れないんじゃないでしょうか」
「…貴女は、どうしてそれを探したんです?」
「今となっては、覚えていないのですが…、珍しい、と言われたので宝探しの感覚だったんじゃないかと。おてんばでしたから、私」
「そう、ですか」
「でも、今見つけても飲み込まないと思いますよ」
柔く握られていた手を、ついと動かして、今度は私からきゅと指を絡めて微笑んだ。
「だって、私のことは先輩が幸せにしてくれるし、先輩を幸せにするために私も頑張っていますから。ハッピーライラックがなかったとしても、お互い幸せになろうと、しようと、してるでしょう?だから今の私には必要ありません」
「!」
「もし見つけたら、相談者さんの魔法薬に混ぜてあげてください。どんな相談かはわかりませんけど…ハッピーになれますようにって、私も願ってますね」
「…それは…いただけませんね」
「?どうしてで、ンッ、」
今度はムッとした顔をしているアズール先輩は、空いていた手を私の頬に添えて、触れるだけのキスをした。そっと離れていく瞳を見つめるしかできない私に、彼は一言こう言うのだ。
「貴女は、僕のことだけ考えていてください。僕だけを幸せにしてくれたら、それでいい」
そんな横暴な、と思わなくなったあたり、私は心底アズール先輩のことを好きなんだけれど。まだまだ伝え足りないようだ。
五つの花弁が見つからなくたって、ライラックのハッピーは運ばれてくるみたい。
見知らぬ相談者さんの分までハッピーになっちゃったかも、などと思いながら、伝え足りない気持ちを込めて、今度は私から唇を触れ合わせたのだった。