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Azul
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「言いなさい」
「…嫌です」
「どうして強情なんですか、あなた」
「だってなんでもないんですもん…」
「それならどうして涙を拭っていたんですか?」
「涙じゃありません、欠伸ですっ」
この静かな小競り合い…否、尋問は、VIPルームのソファーの上で行われている。正確には、私はなぜか、更にアズール先輩の膝の上に跨がった挙句、両手を取られたままでいるので逃げ出すこともできない状況だ。
「あなたはもう少し素直になりなさい」
「素直に、って、いわれても…」
『簡単に言いますけど、やり方がわからないんです』との言葉は心の中に飲み込んだ。
アズール先輩は、慈悲の心でいろんな人の悩みを解決してきただろうけど、それができるのは『人に相談することができる』特殊な人間だけだ。
私はそれほど赤裸々な人間ではない。
弱みを見せないという矜恃をもって育ってしまったので『話してください』と言われて簡単に言えるわけがない。そんな苦労をしようとも思わない。それが自分を守り、保つための手段なのだから。
一方で、矜恃があるからといっても泣かない訳ではない。元から涙腺は緩かったりする。
「全部教えてくださる、と約束したでしょう?」
「…それは…っ」
「はぁ…」
そのため息を聞いて、絶望感が私を襲った。
現金な話だけれど、これだけ好きにさせておいて見捨てられるのは嫌だと思ってしまったの。
そうしたら、もはや涙が溢れ出すのは止められなくなって。
「ご、めんな、さ…」
「?っちょ、な、なんで、」
「ち、がうんです…なんで、か、自分でもわからなくて、だから言えなくてっ」
手を握られているせいで、自分の顔を隠すこともままならず、精一杯下を向いたら、そのせいで先輩のスラックスにポタポタと涙のシミが出来る始末。
こんなの、100年の恋だって冷めてしまう。
毎日綺麗にしているだろう寮服がびたびただ。
離れないと、と、身体を無理矢理捩ろうとしたが、その刹那。
ぐい、と引き寄せられた私の身体は、すっぽりと先輩の腕の中に、もっと深くおさまってしまう。
「!」
「あなたのことだから、どうせ逃げ出そうとするかと思ったので。先手必勝です」
「っ、」
「泣き顔を見られたくない気持ちは、僕にもよくわかります。なので、せめて抱きしめさせてもらえませんか?」
「でも、先輩の制服、汚しちゃう、から、」
「そんなこと。貴女、僕が魔法を使えることをお忘れでしょう?」
『ほら、見てください』と言いながら、マジカルペンをさっと一振りしたのだろう。
ぽちゃん、と音がしたと思ったら、私の目の前、つまり先輩の背中側に、水泡みたいなものが一つ、プカリと浮かんで、次の瞬間、イルカの形をとった。
小さなイルカは、透明ながらも黄金色、蒼、紺碧、紅、そして黒と徐々に色を変え、さながら泳ぎ回るように優雅に私の眼前を浮いている。
それは、まるで朝から始まって夜を迎える海を写しているようで、とても綺麗だ。
「わ、ぁ…すごいっ!」
「やっと笑った」
「あっ…」
「あっ、とはなんですか、あっ、とは。笑ってくれるなら、どんなでもいいんですよ」
「い、いえ…子どもみたいで…恥ずかしいなって…」
「子供みたい?童心を忘れないという意味では良いことだと思いますが?何事も楽しむことが大切と聞きます。でないと商売にならない時もありますし」
「ふ…ふふ…アズール先輩らしいっ…でも、そうですねっ、うんっ」
「でしょう?」
しばらくふわふわしていたイルカは、最後に私の鼻先にちょんとキスをして、またぽちゃんと弾けて消えてしまった。
すっかり気分が浮上して涙も乾いた私の顔をそっと自分から引き離したアズール先輩は、私の目尻をキュと撫でながら微笑む。
「理由がわからない気持ちというものを持つ時も、確かにあるでしょうが」
「ん、」
「せめて、そんな時でも傍にいる特権は残しておいてくださると嬉しいです」
「う…はい…」
「…そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ。いくら僕でも傷つきます」
「ち、ちが…っ、その、こんなに気持ちをかけてもらえるの…初めてだから、どうしていいか、わからなくって…」
「おや、僕はオクタヴィネルの寮長ですから、慈悲の心は人一倍です。当たり前でしょう」
「で、でも」
「…なーんて。そんなの決まってるでしょう。あなたのためだから、ですよ。あなたは多少強めに言っておかなくては効き目がありませんし。僕がいないと涙も流せないくらいには、抱きしめておかなければね」
そんな風に言われたら、どうしようもないなと、今日も私は先輩に絆されて、溺れていくんだ。
綺麗な花には、棘があるとは、本当なのかもしれない。
今後もし、涙を流したくなった時には、アズール先輩に触れにきますね。
「…嫌です」
「どうして強情なんですか、あなた」
「だってなんでもないんですもん…」
「それならどうして涙を拭っていたんですか?」
「涙じゃありません、欠伸ですっ」
この静かな小競り合い…否、尋問は、VIPルームのソファーの上で行われている。正確には、私はなぜか、更にアズール先輩の膝の上に跨がった挙句、両手を取られたままでいるので逃げ出すこともできない状況だ。
「あなたはもう少し素直になりなさい」
「素直に、って、いわれても…」
『簡単に言いますけど、やり方がわからないんです』との言葉は心の中に飲み込んだ。
アズール先輩は、慈悲の心でいろんな人の悩みを解決してきただろうけど、それができるのは『人に相談することができる』特殊な人間だけだ。
私はそれほど赤裸々な人間ではない。
弱みを見せないという矜恃をもって育ってしまったので『話してください』と言われて簡単に言えるわけがない。そんな苦労をしようとも思わない。それが自分を守り、保つための手段なのだから。
一方で、矜恃があるからといっても泣かない訳ではない。元から涙腺は緩かったりする。
「全部教えてくださる、と約束したでしょう?」
「…それは…っ」
「はぁ…」
そのため息を聞いて、絶望感が私を襲った。
現金な話だけれど、これだけ好きにさせておいて見捨てられるのは嫌だと思ってしまったの。
そうしたら、もはや涙が溢れ出すのは止められなくなって。
「ご、めんな、さ…」
「?っちょ、な、なんで、」
「ち、がうんです…なんで、か、自分でもわからなくて、だから言えなくてっ」
手を握られているせいで、自分の顔を隠すこともままならず、精一杯下を向いたら、そのせいで先輩のスラックスにポタポタと涙のシミが出来る始末。
こんなの、100年の恋だって冷めてしまう。
毎日綺麗にしているだろう寮服がびたびただ。
離れないと、と、身体を無理矢理捩ろうとしたが、その刹那。
ぐい、と引き寄せられた私の身体は、すっぽりと先輩の腕の中に、もっと深くおさまってしまう。
「!」
「あなたのことだから、どうせ逃げ出そうとするかと思ったので。先手必勝です」
「っ、」
「泣き顔を見られたくない気持ちは、僕にもよくわかります。なので、せめて抱きしめさせてもらえませんか?」
「でも、先輩の制服、汚しちゃう、から、」
「そんなこと。貴女、僕が魔法を使えることをお忘れでしょう?」
『ほら、見てください』と言いながら、マジカルペンをさっと一振りしたのだろう。
ぽちゃん、と音がしたと思ったら、私の目の前、つまり先輩の背中側に、水泡みたいなものが一つ、プカリと浮かんで、次の瞬間、イルカの形をとった。
小さなイルカは、透明ながらも黄金色、蒼、紺碧、紅、そして黒と徐々に色を変え、さながら泳ぎ回るように優雅に私の眼前を浮いている。
それは、まるで朝から始まって夜を迎える海を写しているようで、とても綺麗だ。
「わ、ぁ…すごいっ!」
「やっと笑った」
「あっ…」
「あっ、とはなんですか、あっ、とは。笑ってくれるなら、どんなでもいいんですよ」
「い、いえ…子どもみたいで…恥ずかしいなって…」
「子供みたい?童心を忘れないという意味では良いことだと思いますが?何事も楽しむことが大切と聞きます。でないと商売にならない時もありますし」
「ふ…ふふ…アズール先輩らしいっ…でも、そうですねっ、うんっ」
「でしょう?」
しばらくふわふわしていたイルカは、最後に私の鼻先にちょんとキスをして、またぽちゃんと弾けて消えてしまった。
すっかり気分が浮上して涙も乾いた私の顔をそっと自分から引き離したアズール先輩は、私の目尻をキュと撫でながら微笑む。
「理由がわからない気持ちというものを持つ時も、確かにあるでしょうが」
「ん、」
「せめて、そんな時でも傍にいる特権は残しておいてくださると嬉しいです」
「う…はい…」
「…そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ。いくら僕でも傷つきます」
「ち、ちが…っ、その、こんなに気持ちをかけてもらえるの…初めてだから、どうしていいか、わからなくって…」
「おや、僕はオクタヴィネルの寮長ですから、慈悲の心は人一倍です。当たり前でしょう」
「で、でも」
「…なーんて。そんなの決まってるでしょう。あなたのためだから、ですよ。あなたは多少強めに言っておかなくては効き目がありませんし。僕がいないと涙も流せないくらいには、抱きしめておかなければね」
そんな風に言われたら、どうしようもないなと、今日も私は先輩に絆されて、溺れていくんだ。
綺麗な花には、棘があるとは、本当なのかもしれない。
今後もし、涙を流したくなった時には、アズール先輩に触れにきますね。