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Azul
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昔何かの舞台でみたの。
たった一つのスポットライトは三日月のように笑っていた。
その下に、二人が照らされて。
愛を囁き結ばれる。
あまりにもできすぎでありふれた告白シーン。
でも人はそういうものにこそ憧れるというもの。
自分には絶対に起こり得ないと、夢のまた夢だとばかり、思っていたのだけれど。
人生に「絶対」なんてないみたい。
あるとすれば、ちょっとの「奇跡」だけ、なんてね。
『うわ…もう真っ暗だ…!』
図書館の外に出れば空にはニヤリと笑う猫のような三日月が昇っていた。
今日はクルーウェル先生の授業の補講に加えて、明日提出予定の魔法史レポートの作成に追われていて、気づけばこんな時間。
もちろんグリムが一緒にレポートに付き合ってくれるはずもなく、だいぶ前にどこかに飛んでいってしまった。大方ハーツラビュルにいるだろうから、あとでエースかデュースに連絡を入れておこう。
月のおかげで空はそれなりに明るいが、廊下自体は、壁に、恐らく魔法でつけられた炎が点々と続いているだけで、お世辞にも明るいとは言い難い。
この”いかにも”な廊下を通っていると、否が応でも考えたくない想像が頭を過ぎる。
オンボロ寮で一緒に住んでいるようなアレならいいのだけれど、そうじゃない本物のやつが出たらと思うと気が気でない。
『いや、だめだめ。こういう時は、思考したらだめなの。悪い想像をするから、そういう気持ちになる。うん、そう。今からご飯のことを考えよう。寮に帰ったら…そうね、グリムのツナ缶でも拝借するか…マヨネーズをかけてご飯に乗せれば、最高の手抜き飯になるわ。カロリーとバランス的には最悪だけど。』
あぁ、そんなことを考えていたらどんどんお腹が空いてくる。でも怖い想像はなくなってきた。よしよし。
『はは…でもそんなもの食べてたらアズール先輩あたり腰抜かしちゃうだろうなぁ』
「僕がなんですって?」
『ひ、っ!』
通り過ぎようとした曲がり角から、ぬらっと出てきた影に、思わず叫び声を上げそうになる口を、その影から伸びた手がグッと抑えた。
「こんな夜に叫ばないでください!」
『んぐぅ!?』
「あなた何をしているんですこんな時間に」
呆れたような声がして、やっとそれが、私が知っている人間ーー今し方思い描いていた、アズール先輩だという認識ができた。
私が自分のことを認識したと感じ取ったのだろう、先輩はすぐに手を離して、ふぅ、と偉そうに腕を組んで立ち直る。
「いくら学内だからといっても、女性が一人で歩き回るような時間じゃありませんよ」
『あ、えぇと…課題が…その』
「なるほど、わかりました。…真面目に取り組むのはいいことですが、今後は誰かを頼ったほうがよいでしょうね。」
「さ、行きますよ。」と歩き出すアズール先輩は、どうやら寮までついてきてくれるようだった。
この暗がりに一人の状況から考えたら、心底助かったので、素直にその背中を追いかけて、隣に並ばせてもらった。
『ありがとうございます、それから、お手数おかけしてしまってすみません…。今後はこんなことがないよう、リドル寮長あたりに頼んでみます』
「は?そこは僕を指名するところでは?」
『え…だって、アズール先輩に相談するときはポイントカードが必要って…』
「あなた個人の相談だったらいくらでも…っ…その、以前色々とご迷惑もおかけしたことですし…」
もごもごと、アズール先輩にしては歯切れが悪い言葉が聞こえてきて、はて?と首を傾げる。
ご迷惑とは、オーバーブロッド事件のことだろうか。あれについては、こちらも悪いところがあったわけだし、それになんだかんだでオクタヴィネルの三人には色々としていただいているのだから、もはや時効…というか、私自身はおあいこだと思っているのだけれど…。
ただ、本人が貸しだの汚点だのと思っているのなら、あまり突っ込まないであげるのも優しさかもしれない、との考えに至ったので、その言葉は素直に受け取っておいた。
それに、何もなくてもアズール先輩を頼っていいなど、これ以上嬉しいことはない。
だって私は先輩のことが好きなのだから。
『わかりました。今度こういうことがあったら、ぜひ助けていただけたら嬉しいです』
「そ、そうですか!では、有事の時のために連絡先を交換しておきましょう」
『え!?』
いいんですか?!と声を上げる間も無く、名刺を一枚渡される。モストロ・ラウンジで使われるのだろうか、ロゴの入った品の良いそれには、「個人用」と小さく走り書きされた番号とアドレスが載っていた。
歩きながらそこに連絡を入れ、それが私です、と断っておく。
「これでよいでしょう」
『はい!ありがとうございます!何かあったら、連絡しますね』
「ええ、なんなりと」
そう言ったアズール先輩は、三日月をバックにして、柔らかに微笑んだ。
そして私は、その姿に、思わず見惚れてしまった。
『…アズール先輩って…本当にカッコいい…』
「は、」
口から漏れたその言葉に、先輩は面食らったようにその目を見開く。
『あ、っ…へ、変なこと言ってすみません!』
「え、あ、いえ、」
『あ…あまりにも、その、ほら、このシチュエーションが…月を背負って、そんな優しい顔されたら、ね、世の中の女性はみんな虜ですよって!!あ…は。私、何を…忘れてくださいっ!送っていただいてありがとうございました、おやすみなさい!』
自分の言っている言葉の意味を、自分が理解すると同時に、ボフン!と頭が沸騰したかのような感覚。恥ずかしいことこの上なくて、とにかくこの場からいなくなりたい一心で、挨拶もそこそこにオンボロ寮へ走り込もうとした刹那。
ぐい、と腕を引かれて。気がつけば、鼻腔を擽るのはアズール先輩のコロンの香り。
抱きしめられていると理解するまで、ほんの数秒とかからなかった。
『あずっ…!?』
「そのままっ」
『っ、』
「聞いていただきたいことが、あります」
その少し緊張した声色を聞いて騒げるほど、私は非常識な人間でもなかった。心臓をなんとか押さえつけて黙って腕に抱かれたまま。
しばし静寂が私たちを包み、まるで世界に二人だけのような感覚となる。
「あのとき…あなたが僕の努力を、僕自身を認めてくださって…とても嬉しかった。それで…それから、僕は…あなたのことばかり考える。」
『…』
「僕は…僕は、こんな感情は持ったことがない…この気持ちはなんなんですか」
『そ…れは…』
「なんでもない会話でも、あなたとジェイドがしていたらなぜかムカムカします。このようにあなたを抱きしめるフロイドをみると、イライラするんです。僕の痛い傷まで、あなたには全部バレてしまっているのに、恥ずかしいという感情ではなくて…むしろ…どうして僕はあなたに…」
まってください先輩。
それって。それって。
『あの、先輩…私、それ、何か知ってます…多分…』
「!なんなんですか!?教えてください!」
『それは、ね…』
アズール先輩から少し距離を取り、その手を取って視線を絡めて私は言った。
奇跡のようなことだけれど、その気持ちは私が先輩に抱くものと同等のものだと思うんです。
『恋、つまり、好きの気持ち、ですよ。』
真夜中をすぎても物語の幕は閉じないで。
優しい月のスポットライトに照らされて、ふたり。
もしかしたら私もあの物語のように、愛を囁いてもらえるのかもしれないのだから。
お題:twst文字書きワードパレットより
三日月/crescent
(真夜中、照らされた、手)
リクエストありがとうございました!
たった一つのスポットライトは三日月のように笑っていた。
その下に、二人が照らされて。
愛を囁き結ばれる。
あまりにもできすぎでありふれた告白シーン。
でも人はそういうものにこそ憧れるというもの。
自分には絶対に起こり得ないと、夢のまた夢だとばかり、思っていたのだけれど。
人生に「絶対」なんてないみたい。
あるとすれば、ちょっとの「奇跡」だけ、なんてね。
『うわ…もう真っ暗だ…!』
図書館の外に出れば空にはニヤリと笑う猫のような三日月が昇っていた。
今日はクルーウェル先生の授業の補講に加えて、明日提出予定の魔法史レポートの作成に追われていて、気づけばこんな時間。
もちろんグリムが一緒にレポートに付き合ってくれるはずもなく、だいぶ前にどこかに飛んでいってしまった。大方ハーツラビュルにいるだろうから、あとでエースかデュースに連絡を入れておこう。
月のおかげで空はそれなりに明るいが、廊下自体は、壁に、恐らく魔法でつけられた炎が点々と続いているだけで、お世辞にも明るいとは言い難い。
この”いかにも”な廊下を通っていると、否が応でも考えたくない想像が頭を過ぎる。
オンボロ寮で一緒に住んでいるようなアレならいいのだけれど、そうじゃない本物のやつが出たらと思うと気が気でない。
『いや、だめだめ。こういう時は、思考したらだめなの。悪い想像をするから、そういう気持ちになる。うん、そう。今からご飯のことを考えよう。寮に帰ったら…そうね、グリムのツナ缶でも拝借するか…マヨネーズをかけてご飯に乗せれば、最高の手抜き飯になるわ。カロリーとバランス的には最悪だけど。』
あぁ、そんなことを考えていたらどんどんお腹が空いてくる。でも怖い想像はなくなってきた。よしよし。
『はは…でもそんなもの食べてたらアズール先輩あたり腰抜かしちゃうだろうなぁ』
「僕がなんですって?」
『ひ、っ!』
通り過ぎようとした曲がり角から、ぬらっと出てきた影に、思わず叫び声を上げそうになる口を、その影から伸びた手がグッと抑えた。
「こんな夜に叫ばないでください!」
『んぐぅ!?』
「あなた何をしているんですこんな時間に」
呆れたような声がして、やっとそれが、私が知っている人間ーー今し方思い描いていた、アズール先輩だという認識ができた。
私が自分のことを認識したと感じ取ったのだろう、先輩はすぐに手を離して、ふぅ、と偉そうに腕を組んで立ち直る。
「いくら学内だからといっても、女性が一人で歩き回るような時間じゃありませんよ」
『あ、えぇと…課題が…その』
「なるほど、わかりました。…真面目に取り組むのはいいことですが、今後は誰かを頼ったほうがよいでしょうね。」
「さ、行きますよ。」と歩き出すアズール先輩は、どうやら寮までついてきてくれるようだった。
この暗がりに一人の状況から考えたら、心底助かったので、素直にその背中を追いかけて、隣に並ばせてもらった。
『ありがとうございます、それから、お手数おかけしてしまってすみません…。今後はこんなことがないよう、リドル寮長あたりに頼んでみます』
「は?そこは僕を指名するところでは?」
『え…だって、アズール先輩に相談するときはポイントカードが必要って…』
「あなた個人の相談だったらいくらでも…っ…その、以前色々とご迷惑もおかけしたことですし…」
もごもごと、アズール先輩にしては歯切れが悪い言葉が聞こえてきて、はて?と首を傾げる。
ご迷惑とは、オーバーブロッド事件のことだろうか。あれについては、こちらも悪いところがあったわけだし、それになんだかんだでオクタヴィネルの三人には色々としていただいているのだから、もはや時効…というか、私自身はおあいこだと思っているのだけれど…。
ただ、本人が貸しだの汚点だのと思っているのなら、あまり突っ込まないであげるのも優しさかもしれない、との考えに至ったので、その言葉は素直に受け取っておいた。
それに、何もなくてもアズール先輩を頼っていいなど、これ以上嬉しいことはない。
だって私は先輩のことが好きなのだから。
『わかりました。今度こういうことがあったら、ぜひ助けていただけたら嬉しいです』
「そ、そうですか!では、有事の時のために連絡先を交換しておきましょう」
『え!?』
いいんですか?!と声を上げる間も無く、名刺を一枚渡される。モストロ・ラウンジで使われるのだろうか、ロゴの入った品の良いそれには、「個人用」と小さく走り書きされた番号とアドレスが載っていた。
歩きながらそこに連絡を入れ、それが私です、と断っておく。
「これでよいでしょう」
『はい!ありがとうございます!何かあったら、連絡しますね』
「ええ、なんなりと」
そう言ったアズール先輩は、三日月をバックにして、柔らかに微笑んだ。
そして私は、その姿に、思わず見惚れてしまった。
『…アズール先輩って…本当にカッコいい…』
「は、」
口から漏れたその言葉に、先輩は面食らったようにその目を見開く。
『あ、っ…へ、変なこと言ってすみません!』
「え、あ、いえ、」
『あ…あまりにも、その、ほら、このシチュエーションが…月を背負って、そんな優しい顔されたら、ね、世の中の女性はみんな虜ですよって!!あ…は。私、何を…忘れてくださいっ!送っていただいてありがとうございました、おやすみなさい!』
自分の言っている言葉の意味を、自分が理解すると同時に、ボフン!と頭が沸騰したかのような感覚。恥ずかしいことこの上なくて、とにかくこの場からいなくなりたい一心で、挨拶もそこそこにオンボロ寮へ走り込もうとした刹那。
ぐい、と腕を引かれて。気がつけば、鼻腔を擽るのはアズール先輩のコロンの香り。
抱きしめられていると理解するまで、ほんの数秒とかからなかった。
『あずっ…!?』
「そのままっ」
『っ、』
「聞いていただきたいことが、あります」
その少し緊張した声色を聞いて騒げるほど、私は非常識な人間でもなかった。心臓をなんとか押さえつけて黙って腕に抱かれたまま。
しばし静寂が私たちを包み、まるで世界に二人だけのような感覚となる。
「あのとき…あなたが僕の努力を、僕自身を認めてくださって…とても嬉しかった。それで…それから、僕は…あなたのことばかり考える。」
『…』
「僕は…僕は、こんな感情は持ったことがない…この気持ちはなんなんですか」
『そ…れは…』
「なんでもない会話でも、あなたとジェイドがしていたらなぜかムカムカします。このようにあなたを抱きしめるフロイドをみると、イライラするんです。僕の痛い傷まで、あなたには全部バレてしまっているのに、恥ずかしいという感情ではなくて…むしろ…どうして僕はあなたに…」
まってください先輩。
それって。それって。
『あの、先輩…私、それ、何か知ってます…多分…』
「!なんなんですか!?教えてください!」
『それは、ね…』
アズール先輩から少し距離を取り、その手を取って視線を絡めて私は言った。
奇跡のようなことだけれど、その気持ちは私が先輩に抱くものと同等のものだと思うんです。
『恋、つまり、好きの気持ち、ですよ。』
真夜中をすぎても物語の幕は閉じないで。
優しい月のスポットライトに照らされて、ふたり。
もしかしたら私もあの物語のように、愛を囁いてもらえるのかもしれないのだから。
お題:twst文字書きワードパレットより
三日月/crescent
(真夜中、照らされた、手)
リクエストありがとうございました!