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Azul
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「いたっ…!」
本日もモストロ・ラウンジでのアルバイト。
この仕事に随分慣れてきた私は、少しだけ気が緩んでいたのかもしれない。
いつものメンツでいつもの下準備。決まった材料を用いて決められた順序で切り刻んでいく野菜。
よそ見をしたわけでもないのだが、気づいたときには指を深く切ってしまっていた。
私の声に反応して、オクタヴィネルの寮生がこちらの作業場を覗き込む。ポタリと一滴垂れた血に、アッ、と声が上がった。
「血?!どっか切ったのか」
「監督生ちゃん大丈夫か?!」
「う、うん、ちょっと包丁で…っ」
パッと指先を水に流すも、みるみる内に溢れ出す鮮血は止まるところを知らない。これは本格的な止血がいるかもしれないと、一言断ってから厨房を後にする。
ラウンジには、フロイド先輩とその向こうにジェイド先輩がいて、気は進まなかったけれどすみませんと声を掛けた。
「どったの小エビちゃん」
「あの、少しドジをしまして…バンソーコーなどはありませんか?」
「バンソーコー?そんなんどこに…あっなにそれ!?切ったの!?」
「アッ、いや、その、ちょっと…」
「おや、それは…切ったのですか?割と深そうですね…止血と、それから手当てを。フロイド、スタッフルームに切り傷に効く薬品があったはずです」
「取ってくんね」
「お願いします」
ジェイド先輩はフロイド先輩に指示を出し、すぐに私の指にハンカチを巻きつけて強く圧迫した。そのままソファーに腰掛けさせてくれる。
その間にもどんどん赤色がハンカチに染み込んできて、見た目が大層痛々しい。
「今は痛むとは思いますが、我慢してください。魔法は万能ではありませんので、傷を全て癒すことはできないんです」
「いえっ…大丈夫です…見た目ほど痛くはないので…。それよりすみません、お手を煩わせて…」
「従業員の面倒を見るのは僕らの役目ですから。直にフロイドが薬を持ってきます。治りが良くなるのと、痛みも和らぐはずですので、それまでの辛抱ですよ。アズールに知れる前でよか…」
「僕がなんだって、ジェイド」
「!」
ジェイド先輩の背中から一番気づかれたくない人物が顔を出してきて驚いてしまった。
「あ、アズール、先輩」
「…っそれはどうしたんですか?!」
「あっ、いえ、その」
「アズール、心配ないです。少し深く切れていますが、命に関わるものでは」
「そんなことはどうだっていい!治療は、」
「今フロイドに取りにいかせています」
「大丈夫です先輩、心配いりません、この通り止血も」
その言葉も聞かずに、ジェイド先輩から私の手を奪い取るようにして膝をついた先輩は、いつもの冷静さを欠いているように見える。
「どうして魔法を使わない!治癒魔法があるだろう」
「そんなもの簡単に使えるのはアズールくらいですよ。それにあの類の魔法は少なからず術者に跳ね返りもありますから、校内では禁止されています」
「その程度なんだ!僕が代わりに傷を負うくらい」
「だめです!」
代わりに、という言葉を耳にして、私の顔から血の気がひいた。
「だめ!どうして私が失敗したことでアズール先輩が傷つかないといけないんですか?!絶対だめです!」
「傷つくと決まったわけじゃない、大丈夫ですから」
そう言って、酷く優しい目をした先輩がマジカルペンを取り出そうとするから、もう片方の手を必死で伸ばしてそれを止める。
「やめて!だめ!少しでもその可能性があるなら私が我慢しますから!大丈夫です、フロイド先輩も薬を持ってきてくれます、治りますから!」
「ですが血がこんなにっ…」
「ジェイド先輩だって大丈夫って言ってくれました!このくらいなんてことないです!大丈夫ですから…っ…自分を犠牲にしないでくださいっ…」
「貴女…」
お願いですから…と小さな声で言って、ぎゅ、とマジカルペンを持つ手を握れば、わかりました、と、その手を下ろしてくれた。
「アズール先輩が傷を作るの、見たくないです…」
「そっくりそのままお返ししますよ…僕だって見たくない…」
「以後気をつけますから、ね。今回は本当に大丈夫です。安心して?」
「っ…」
『それに私、そんなヤワじゃないですよ!』と元気アピールすれば、『魔法を使えない貴女に冗談は似合いませんよ』と苦笑されてしまった。
入り口の方からフロイド先輩の声が聞こえ、少し安心したようだ。
「アズール、フロイドが戻ってきましたから、VIPルームで治療してきては?」
「そうですね、ではこちらへ」
「え、いや、そんな、私は仕事がっ」
「貴女このまま仕事をするつもりですか?」
「厨房は特に問題ありませんので、今日はVIPルームにいてはいかがです?アズールも気が気じゃないようですから」
ジェイド先輩までそんなことを言うものだから、その言葉に従うしかない。情けないやら申し訳ないやら。そのまま手を引かれてVIPルームへ案内され、薬を塗ってもらえば、たちまち血は止まり、切り傷特有のヒリヒリも和らいだ。
「わー…こっちの世界は薬もすごいんですね…全然痛くなくなりました…」
「貴女の世界の薬はそんなに役に立たないのですか?痛みがなくならなければ意味がないでしょう」
「うーん、化膿しないようにするとか…一応効能はあるんですよ…多分…」
「なるほど…?ああ、傷口が完全に塞がるまではまだ暫くかかりますから、安静にしていてください」
そう言うと先輩は、怪我したその指ーー左手の薬指にちゅ、とキスを落とした。
瞬間、ボッと音がするほど顔が赤くなるあたり、私はまだまだ、アズール先輩に翻弄され続ける運命にあるらしい。
「この指は…いいえ、貴女は自分の身体をもっと大事にしてください。いつか僕のものになるんですから」
「?!」
「なんですか?そんな驚いて」
「だっ、て、そ、んな」
「僕のプランは未来のことまで詳しく決まっていますからね。貴女にはずっと健康でずっと幸せにいてもらわなくては困ります」
真顔でそんなことを言うものだから、次第に笑いがこみ上げてくる。まだ火照る頬のままで私はアズール先輩に、こう返事した。
「わかりました。でも、それならアズール先輩だって…病めるときも健やかなるときも、永遠にそばにいるって、誓ってくださいね」
本日もモストロ・ラウンジでのアルバイト。
この仕事に随分慣れてきた私は、少しだけ気が緩んでいたのかもしれない。
いつものメンツでいつもの下準備。決まった材料を用いて決められた順序で切り刻んでいく野菜。
よそ見をしたわけでもないのだが、気づいたときには指を深く切ってしまっていた。
私の声に反応して、オクタヴィネルの寮生がこちらの作業場を覗き込む。ポタリと一滴垂れた血に、アッ、と声が上がった。
「血?!どっか切ったのか」
「監督生ちゃん大丈夫か?!」
「う、うん、ちょっと包丁で…っ」
パッと指先を水に流すも、みるみる内に溢れ出す鮮血は止まるところを知らない。これは本格的な止血がいるかもしれないと、一言断ってから厨房を後にする。
ラウンジには、フロイド先輩とその向こうにジェイド先輩がいて、気は進まなかったけれどすみませんと声を掛けた。
「どったの小エビちゃん」
「あの、少しドジをしまして…バンソーコーなどはありませんか?」
「バンソーコー?そんなんどこに…あっなにそれ!?切ったの!?」
「アッ、いや、その、ちょっと…」
「おや、それは…切ったのですか?割と深そうですね…止血と、それから手当てを。フロイド、スタッフルームに切り傷に効く薬品があったはずです」
「取ってくんね」
「お願いします」
ジェイド先輩はフロイド先輩に指示を出し、すぐに私の指にハンカチを巻きつけて強く圧迫した。そのままソファーに腰掛けさせてくれる。
その間にもどんどん赤色がハンカチに染み込んできて、見た目が大層痛々しい。
「今は痛むとは思いますが、我慢してください。魔法は万能ではありませんので、傷を全て癒すことはできないんです」
「いえっ…大丈夫です…見た目ほど痛くはないので…。それよりすみません、お手を煩わせて…」
「従業員の面倒を見るのは僕らの役目ですから。直にフロイドが薬を持ってきます。治りが良くなるのと、痛みも和らぐはずですので、それまでの辛抱ですよ。アズールに知れる前でよか…」
「僕がなんだって、ジェイド」
「!」
ジェイド先輩の背中から一番気づかれたくない人物が顔を出してきて驚いてしまった。
「あ、アズール、先輩」
「…っそれはどうしたんですか?!」
「あっ、いえ、その」
「アズール、心配ないです。少し深く切れていますが、命に関わるものでは」
「そんなことはどうだっていい!治療は、」
「今フロイドに取りにいかせています」
「大丈夫です先輩、心配いりません、この通り止血も」
その言葉も聞かずに、ジェイド先輩から私の手を奪い取るようにして膝をついた先輩は、いつもの冷静さを欠いているように見える。
「どうして魔法を使わない!治癒魔法があるだろう」
「そんなもの簡単に使えるのはアズールくらいですよ。それにあの類の魔法は少なからず術者に跳ね返りもありますから、校内では禁止されています」
「その程度なんだ!僕が代わりに傷を負うくらい」
「だめです!」
代わりに、という言葉を耳にして、私の顔から血の気がひいた。
「だめ!どうして私が失敗したことでアズール先輩が傷つかないといけないんですか?!絶対だめです!」
「傷つくと決まったわけじゃない、大丈夫ですから」
そう言って、酷く優しい目をした先輩がマジカルペンを取り出そうとするから、もう片方の手を必死で伸ばしてそれを止める。
「やめて!だめ!少しでもその可能性があるなら私が我慢しますから!大丈夫です、フロイド先輩も薬を持ってきてくれます、治りますから!」
「ですが血がこんなにっ…」
「ジェイド先輩だって大丈夫って言ってくれました!このくらいなんてことないです!大丈夫ですから…っ…自分を犠牲にしないでくださいっ…」
「貴女…」
お願いですから…と小さな声で言って、ぎゅ、とマジカルペンを持つ手を握れば、わかりました、と、その手を下ろしてくれた。
「アズール先輩が傷を作るの、見たくないです…」
「そっくりそのままお返ししますよ…僕だって見たくない…」
「以後気をつけますから、ね。今回は本当に大丈夫です。安心して?」
「っ…」
『それに私、そんなヤワじゃないですよ!』と元気アピールすれば、『魔法を使えない貴女に冗談は似合いませんよ』と苦笑されてしまった。
入り口の方からフロイド先輩の声が聞こえ、少し安心したようだ。
「アズール、フロイドが戻ってきましたから、VIPルームで治療してきては?」
「そうですね、ではこちらへ」
「え、いや、そんな、私は仕事がっ」
「貴女このまま仕事をするつもりですか?」
「厨房は特に問題ありませんので、今日はVIPルームにいてはいかがです?アズールも気が気じゃないようですから」
ジェイド先輩までそんなことを言うものだから、その言葉に従うしかない。情けないやら申し訳ないやら。そのまま手を引かれてVIPルームへ案内され、薬を塗ってもらえば、たちまち血は止まり、切り傷特有のヒリヒリも和らいだ。
「わー…こっちの世界は薬もすごいんですね…全然痛くなくなりました…」
「貴女の世界の薬はそんなに役に立たないのですか?痛みがなくならなければ意味がないでしょう」
「うーん、化膿しないようにするとか…一応効能はあるんですよ…多分…」
「なるほど…?ああ、傷口が完全に塞がるまではまだ暫くかかりますから、安静にしていてください」
そう言うと先輩は、怪我したその指ーー左手の薬指にちゅ、とキスを落とした。
瞬間、ボッと音がするほど顔が赤くなるあたり、私はまだまだ、アズール先輩に翻弄され続ける運命にあるらしい。
「この指は…いいえ、貴女は自分の身体をもっと大事にしてください。いつか僕のものになるんですから」
「?!」
「なんですか?そんな驚いて」
「だっ、て、そ、んな」
「僕のプランは未来のことまで詳しく決まっていますからね。貴女にはずっと健康でずっと幸せにいてもらわなくては困ります」
真顔でそんなことを言うものだから、次第に笑いがこみ上げてくる。まだ火照る頬のままで私はアズール先輩に、こう返事した。
「わかりました。でも、それならアズール先輩だって…病めるときも健やかなるときも、永遠にそばにいるって、誓ってくださいね」