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飛行術の授業。それはアズールが最も苦手とする時間である。
人魚が陸を歩くだけでも十分に凄い事だと思ってほしいのだが、その人魚に宙に浮けという。
大層な話だ。
しかしながら、そう言おうものなら屁理屈だと怒られるのでモチベーションも半減するというもの。
人材育成をするときは頭ごなしにできないことを並べたってダメなんだ、そんなこともわからないのか…などと考えても、そんなことを教師に言っても意味がないことは、アズール自身が一番よく知っている。
未だに慣れない暑さの中で意識が混濁していたのかもしれない。
ツラツラと、そんな無意味なことを考えていて、箒への集中が一瞬でも散漫したのがいけなかった。
『アズール!』と叫ぶ声が聞こえたが、そのあとのことはアズールの記憶にはない。
『アズール、飛行術んとき箒から落っこちたから、暇だったら小エビちゃんも保健室行ってやって〜』
あなたの元にそんなメッセージが届いたのは、本日最後の授業が終わる直前の頃合いだった。
『フロイド先輩は相変わらずサボっているのか』と、いつもなら気になるそんなことも、今日は考える余地もない。
あなたは、ベルが鳴ると同時に保健室へと向かった。
「アズール先輩っ…!」
保健室の扉をノックもせずに開けてしまったことをしまったと悔いたが、先生は留守のようでホッと息を吐いた。
三つ並んでいるベッドのうち、二つが埋まっていて、そっと近づくと、扉から近い方の布団からグレーの髪が覗いていたのでこちらがアズールだと判断する。
見る限りでは、おでこのところにかすり傷の治療跡があるのみで、それ以外は問題なさそうで安心した。
静かな保健室には、スゥスゥと小さな寝息だけが満ちる。
あなたは、傍にあった椅子に腰掛けてじっとその顔を見つめた。
穏やかな寝顔は普段のアズールからは想像できないような、別の麗しさを湛えている。
「いつ見ても、寮長たるもの常に気を抜くなー…って、感じだもんね」
少しくらい気を抜いても、オクタヴィネルの寮生たちはアズールに失望したりはしないと、あなたは思う。
それでも、それがアズールのプライドなのだろう。
「寝顔だけは、高校生…って言っても、私が見てきた誰よりも綺麗だけど」
そっと横髪を指で梳いて、あなたはクスリと小さく笑った。
「大事はなさそうで安心したし…私はそろそろラウンジに行かなきゃな…。アズール先輩の分までがんばらないとね!」
大好きな人の寝顔を堪能して気合も十分、と、あなたが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
「あなた、」
「、!」
小さく、自分の名前を呼ぶ声を耳に留めて、振り向く前に、背中からぎゅ、とあなたの身体を抱きしめたのはアズールの腕。
背中にはアズールの体温が感じられ、ほんのり暖かい。
ふわりとあなたの首を擽ったのがアズールの柔らかな髪の毛であることに気づくのに数秒も要さず、あなたの心臓は早鐘を打つ。
「あ、ずーる、せんぱいッ…?!」
「どこへ」
「へ?」
「どこへ、いくんです」
「あ…もうすぐラウンジの開店時間なので、オクタヴィネル寮に行こうかなと…」
「…」
「あ!アズール先輩は休ませておいてってフロイド先輩から言伝が、」
そこまで言いかけたところで、肩口でスリとアズールの顔が動いたと思えば、次の瞬間、首筋を吸われる感触がして、びくりとあなたの身体が跳ねる。
「ン、」
「っ?!」
あなたが身体を捩ったくらいではビクともしないアズールの腕は、普段は物腰柔らかなくせにとてつもなく頑丈だ。
その檻から抜け出すことは叶わない。
唇を押し当てられた場所には、すでに鬱血痕が残っているだろうことは容易に想像がついた。
ふわりと鼻腔を擽るのはコロンの香りと、アズール自身が放つ色香か。
「ぁ、ンっ…!」
「いかないでください」
「ん、ちょ!?」
「ほら、あなたもこちらに…いっしょにねましょう…ああ、ネクタイははずさないと…くるしいでしょう」
「んん?!?!?!」
あなたを抱きとめていた腕が怪しく動いたと思えば、そのままネクタイに触れてそれを外しにかかられる。
するり、するり。
背中側からでも難なく外されていくネクタイ。何をされているのか理解した瞬間、あなたの脳は沸点を越えた。
ここは保健室。誰が来るかもわからない。
このままコトが運んでしまえば大変なことになるーーと目を瞑ったところで、ふとその手が止まる。
「ん…ぅ…」
「!」
はらり。
アズールが持っていたネクタイが床に落ちると同時、その体重があなたに覆いかぶさった。
いくら痩せ形のアズールとは言え、健康な高校生男児の身体が軽いわけもなく。
少しよろめくもなんとか自分の背中全体でそれを支えてそのままゆっくりと、アズールをベッドに寝かせるあなた。
「ふぅ…よかった…。にしても、どうして寝ちゃったんだろう…」
ネクタイを拾い上げたところで、ギッと保健室の扉が開いた。
ギョッとして振り替えられば、そこにいたのはクルーウェルだった。
「クルーウェル先生…!?」
「仔犬、お前がアーシェングロットと恋仲であることは知っていたが、節度ある行動をしろ」
「!」
「…なんてな。アーシェングロットには今、少し強めの睡眠魔法をかけてある。そうでもしないと安静にしていなくてな」
クルーウェルの話によれば、飛行術での怪我は然程酷いものではなかったらしかった。
アズールは一瞬気を失ったものの、保健室に運ばれたときにはすでに目覚めていたそうだ。
しかしながら、頭を強打しているのを周りの生徒が見ていたため、教師としては大事をとって安静にさせる必要があった。
であるにも関わらず、本人が『モストロ・ラウンジに行かないと』と言って聞かないものだから、無理矢理寝かせるという荒療治をとったのだとか。
「こんなにも早く目覚めた生徒は初めてだ。全く…アーシェングロットの力は計り知れないな。様子を見にきて正解だった」
「だからクルーウェル先生が来て、また眠りに…。先生、ありがとうございました」
「ああ、生徒に粗相がないように見張るのも教師の役目だからな。ただ…」
「?」
クルーウェルはアズールに布団をかけながら、あなたに不敵な笑みを送る。
「急ぎの用事がないなら、このままアーシェングロットの傍にいてやれ。寝言で何度もお前の名前を呟いていたからな」
「え、」
「目が覚めたときに惚れた女が傍にいてくれたら、こいつの面白い顔が見られるかもしれん」
俺もここで仕事をしていくから安心しろ、と言いながら、クツクツと笑うクルーウェルは、大人の余裕を纏っており、敵わないなとあなたは顔を火照らせた。
静かな保健室とは対照的に、窓の外からは放課後のざわめきが遠く聞こえる。
『アズール先輩が起きたとき、さっきのことを覚えていないといいんだけど』
そんなことがあろうものなら、恥ずかしさから機嫌を損ねてしまうかもしれない。
『ゆっくり休んでくださいね、それから、今度は二人きりになれる場所でお願いします』と、そんな気持ちを込めながら、あなたは、無防備に投げ出されていた彼の手を、そっと握った。
あぁ、あとで鏡も確認しなくちゃ。
首筋にバンソーコーを貼ったら、それこそ何か勘ぐられてしまうかもしれないけれど。
人魚が陸を歩くだけでも十分に凄い事だと思ってほしいのだが、その人魚に宙に浮けという。
大層な話だ。
しかしながら、そう言おうものなら屁理屈だと怒られるのでモチベーションも半減するというもの。
人材育成をするときは頭ごなしにできないことを並べたってダメなんだ、そんなこともわからないのか…などと考えても、そんなことを教師に言っても意味がないことは、アズール自身が一番よく知っている。
未だに慣れない暑さの中で意識が混濁していたのかもしれない。
ツラツラと、そんな無意味なことを考えていて、箒への集中が一瞬でも散漫したのがいけなかった。
『アズール!』と叫ぶ声が聞こえたが、そのあとのことはアズールの記憶にはない。
『アズール、飛行術んとき箒から落っこちたから、暇だったら小エビちゃんも保健室行ってやって〜』
あなたの元にそんなメッセージが届いたのは、本日最後の授業が終わる直前の頃合いだった。
『フロイド先輩は相変わらずサボっているのか』と、いつもなら気になるそんなことも、今日は考える余地もない。
あなたは、ベルが鳴ると同時に保健室へと向かった。
「アズール先輩っ…!」
保健室の扉をノックもせずに開けてしまったことをしまったと悔いたが、先生は留守のようでホッと息を吐いた。
三つ並んでいるベッドのうち、二つが埋まっていて、そっと近づくと、扉から近い方の布団からグレーの髪が覗いていたのでこちらがアズールだと判断する。
見る限りでは、おでこのところにかすり傷の治療跡があるのみで、それ以外は問題なさそうで安心した。
静かな保健室には、スゥスゥと小さな寝息だけが満ちる。
あなたは、傍にあった椅子に腰掛けてじっとその顔を見つめた。
穏やかな寝顔は普段のアズールからは想像できないような、別の麗しさを湛えている。
「いつ見ても、寮長たるもの常に気を抜くなー…って、感じだもんね」
少しくらい気を抜いても、オクタヴィネルの寮生たちはアズールに失望したりはしないと、あなたは思う。
それでも、それがアズールのプライドなのだろう。
「寝顔だけは、高校生…って言っても、私が見てきた誰よりも綺麗だけど」
そっと横髪を指で梳いて、あなたはクスリと小さく笑った。
「大事はなさそうで安心したし…私はそろそろラウンジに行かなきゃな…。アズール先輩の分までがんばらないとね!」
大好きな人の寝顔を堪能して気合も十分、と、あなたが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
「あなた、」
「、!」
小さく、自分の名前を呼ぶ声を耳に留めて、振り向く前に、背中からぎゅ、とあなたの身体を抱きしめたのはアズールの腕。
背中にはアズールの体温が感じられ、ほんのり暖かい。
ふわりとあなたの首を擽ったのがアズールの柔らかな髪の毛であることに気づくのに数秒も要さず、あなたの心臓は早鐘を打つ。
「あ、ずーる、せんぱいッ…?!」
「どこへ」
「へ?」
「どこへ、いくんです」
「あ…もうすぐラウンジの開店時間なので、オクタヴィネル寮に行こうかなと…」
「…」
「あ!アズール先輩は休ませておいてってフロイド先輩から言伝が、」
そこまで言いかけたところで、肩口でスリとアズールの顔が動いたと思えば、次の瞬間、首筋を吸われる感触がして、びくりとあなたの身体が跳ねる。
「ン、」
「っ?!」
あなたが身体を捩ったくらいではビクともしないアズールの腕は、普段は物腰柔らかなくせにとてつもなく頑丈だ。
その檻から抜け出すことは叶わない。
唇を押し当てられた場所には、すでに鬱血痕が残っているだろうことは容易に想像がついた。
ふわりと鼻腔を擽るのはコロンの香りと、アズール自身が放つ色香か。
「ぁ、ンっ…!」
「いかないでください」
「ん、ちょ!?」
「ほら、あなたもこちらに…いっしょにねましょう…ああ、ネクタイははずさないと…くるしいでしょう」
「んん?!?!?!」
あなたを抱きとめていた腕が怪しく動いたと思えば、そのままネクタイに触れてそれを外しにかかられる。
するり、するり。
背中側からでも難なく外されていくネクタイ。何をされているのか理解した瞬間、あなたの脳は沸点を越えた。
ここは保健室。誰が来るかもわからない。
このままコトが運んでしまえば大変なことになるーーと目を瞑ったところで、ふとその手が止まる。
「ん…ぅ…」
「!」
はらり。
アズールが持っていたネクタイが床に落ちると同時、その体重があなたに覆いかぶさった。
いくら痩せ形のアズールとは言え、健康な高校生男児の身体が軽いわけもなく。
少しよろめくもなんとか自分の背中全体でそれを支えてそのままゆっくりと、アズールをベッドに寝かせるあなた。
「ふぅ…よかった…。にしても、どうして寝ちゃったんだろう…」
ネクタイを拾い上げたところで、ギッと保健室の扉が開いた。
ギョッとして振り替えられば、そこにいたのはクルーウェルだった。
「クルーウェル先生…!?」
「仔犬、お前がアーシェングロットと恋仲であることは知っていたが、節度ある行動をしろ」
「!」
「…なんてな。アーシェングロットには今、少し強めの睡眠魔法をかけてある。そうでもしないと安静にしていなくてな」
クルーウェルの話によれば、飛行術での怪我は然程酷いものではなかったらしかった。
アズールは一瞬気を失ったものの、保健室に運ばれたときにはすでに目覚めていたそうだ。
しかしながら、頭を強打しているのを周りの生徒が見ていたため、教師としては大事をとって安静にさせる必要があった。
であるにも関わらず、本人が『モストロ・ラウンジに行かないと』と言って聞かないものだから、無理矢理寝かせるという荒療治をとったのだとか。
「こんなにも早く目覚めた生徒は初めてだ。全く…アーシェングロットの力は計り知れないな。様子を見にきて正解だった」
「だからクルーウェル先生が来て、また眠りに…。先生、ありがとうございました」
「ああ、生徒に粗相がないように見張るのも教師の役目だからな。ただ…」
「?」
クルーウェルはアズールに布団をかけながら、あなたに不敵な笑みを送る。
「急ぎの用事がないなら、このままアーシェングロットの傍にいてやれ。寝言で何度もお前の名前を呟いていたからな」
「え、」
「目が覚めたときに惚れた女が傍にいてくれたら、こいつの面白い顔が見られるかもしれん」
俺もここで仕事をしていくから安心しろ、と言いながら、クツクツと笑うクルーウェルは、大人の余裕を纏っており、敵わないなとあなたは顔を火照らせた。
静かな保健室とは対照的に、窓の外からは放課後のざわめきが遠く聞こえる。
『アズール先輩が起きたとき、さっきのことを覚えていないといいんだけど』
そんなことがあろうものなら、恥ずかしさから機嫌を損ねてしまうかもしれない。
『ゆっくり休んでくださいね、それから、今度は二人きりになれる場所でお願いします』と、そんな気持ちを込めながら、あなたは、無防備に投げ出されていた彼の手を、そっと握った。
あぁ、あとで鏡も確認しなくちゃ。
首筋にバンソーコーを貼ったら、それこそ何か勘ぐられてしまうかもしれないけれど。