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「もうすぐウインターホリデーだけど、今年は僕の家に一緒に帰らないか」
季節が巡るスピードはなんて早いんだろうか。
私がこちらの世界に呼ばれたのが秋の入学式のことで、それから冬、春、夏を経て二度目の秋を越え、ウインターホリデーがまた近づいてきた、そんな冬のある日。
私はデュースにこんな風に切り出された。
最初は、何を言われているのかわからなかった。
私の予定では、当たり前のようにグリムと過ごして、なんなら少しモストロ・ラウンジで美味しいものをいただいて。
もしかしたらスカラビア寮の人だってまた残ってるかもしれないから宴に参加して。
それで少し課題に取り組んで ー そんな、去年と寸分変わらないプランが組まれていたから。
「えっと…一緒にって言うのは…」
「母さんにあなたのこと、紹介したいんだ」
「!?」
「あっ、その、よく話すからさ、あなたのこと」
「よく話すの?!」
「あぁ!だから母さんも会いたいって言ってて…どうだ?」
そう言う問いかけ方をされると、断ることもできず、きゅん、とする自分が憎い。
『お邪魔じゃないなら…』とおずおず返事をすれば、パァ!とわかりやすくデュースの顔が明るくなった。
「邪魔な訳あるもんか!じゃあ母さんに伝えとくな!きっと喜んでくれる!」
「そ、そうかなぁ…。うん、でもご連絡、お願いします」
「ああ!ありがとう!細かい事はまた伝えるから」
「うん、よろしくね」
そんな風にして予定が決まった数週間後。皆に冷やかされながらもデュースとともに彼の実家に向かった私。
今回は鏡を通じて戻れたので、なんの苦もなくそこに到着した。
実家なのだから当たり前なのだけれど、何の断りもなしに家の戸を開けるデュースに、少しは心の準備をさせて!と胸の内が騒ぐ。
デュースが『母さん、帰ったよ!』と声をかけると奥からパタパタとスリッパの音が玄関に向かってきた。
「あら~あらあらあら!いらっしゃい!よくきたわね~!」
「あっあのっはじめまして、私、あなたと言います」
「デュースから話は聞いてるわよ~。ちょっとデュース!あんたこんなに可愛い子、どうやっておとしたの!」
「っ母さん!そういうことは」
「も~本当にねぇ、至らない息子なんだけど、末長くよろしくね」
「あっ、はい!こちらこそ至らないことが多くて」
「ね!結婚式はいつなの!?卒業したらすぐ?」
「…はい?」
お出迎えしてくれて早々、デュースにそっくりな雰囲気を纏ったお母さんから突拍子もない言葉が飛び出して目を見開いてしまう。
『さぁ立ち話もなんだから上がって』と促されるままにリビングへと通されている間も、一体何を言われた?と混乱していた。
『今、結婚式って言った?どういうこと?あ、でもデュースはよくプロポーズみたいな言葉をくれるよね。そうすると本気だったのかあれは。申し訳ないことをした。冗談とは思っていなかったけれど、まさか本気とも思っていなかったから、改めてそういう話をするのかとばかり思っていた。いや、それはいつかの未来の話なのだけれど。それでも何かしらあるんだと思っていたから…』などと、様々なワードがぐるぐる頭の中を巡る。
「デュ、デュース…あの…お母さんになんてお話ししたの?」
「…えっと…家族として、出迎えてやってくれって」
「あ…な、なるほど…」
それで勘違いをされたのか。その気遣いは正直、胸がはち切れそうなほどに嬉しいのだけれど、このまま話を進めるのはお母さんに申し訳なさすぎる。
リビングにて腰を落ち着けたあと、失礼のないよう慎重に言葉を選びながら、私は訂正を始めた。
「お母さん、すみません。今日は結婚のご報告に来たのではないんです」
「えっ!あらそうなの!?」
「はい。私とデュースくんとはお付き合いをさせていただいていますが、まだ学生の身分ですし、自分で自分の責任を取ることもできませんから」
「…まぁ、しっかりしてるのねぇ」
「あはは…しっかりなんてとんでもないです。ただ、その、デュースくんから聞いているかわかりませんが、私はもともと異世界の住人ですし、魔法師養成学校に入学できるような立派な息子さん…デュースくんに、今の段階でそんなに重荷を背負わせられませんから…不釣り合いと言われる日が、いつか来るかもしれませんし」
「おいあなた!」
「しっ。デュースはちょっと黙っていてね」
「っ…」
お母さん、と静かに、けれどしっかりと話を続ける。
「デュースくんは、将来のこともきちんと考えて毎日頑張ってます。私を、お母さんがこんな風に出迎えてくださってとっても嬉しいですが、結婚式のお話は、また…私とかもしれないし、別の子とかもしれないですが、いつかその時が来るのを楽しみにしておいてください」
「…」
私が一思いに気持ちを言い終えると、キョトン、としたお母さんはそのまま目をパチパチとさせる。
初対面で言いすぎたかなとも思ったけれど、デュースのお母さんに黙っておける話ではない。だってこんなにも嬉しそうに息子の帰りを待っているお母さんだ。
嘘なんてつけるはずもなかった。ゴクリと唾を嚥下したその時。『そっかぁ~』と柔らかな声が上がった。
「あなたちゃん、デュースのことを好きになってくれてありがとうね」
「え?」
「この子、今でこそこんなに真面目にやってくれてるけど、元ヤンだし、お世辞にも頭がいいとは言えないでしょ?」
「あ…えと」
「人柄は私が太鼓判を押して保証するけどね!でもね…そんな息子を持つ私が、異世界くらいで驚くと思う?」
「!」
「息子のこと好きになってくれて!家まで遊びに来てくれるなんて!お母さん、あなたちゃんがお嫁さんに来てくれたらなーってしか考えられないわ!」
「お、かあさん」
「あなたちゃん。あなたちゃんがね、もしも一大決心をして、自分の世界に別れを告げる、と言うのならば、うちは…スペード家は、どんな形であってもあなたちゃんを家族に迎え入れるわ。だからね、そんな辛そうな顔して、言いたくもないことを言わなくても、大丈夫よ」
にこりと微笑む顔は、デュースにそっくりで、それを見た私は、涙を堪えるだけで精一杯になってしまって言葉を返すことができなかった。
俯いて、コクリと小さくうなづけば、『よし!じゃあケーキ食べよう!』とお母さんは元気よく台所に向かっていった。
なんて優しい人なんだ。この人に育てられたデュースが、こんな風に育つのは心からわかる気がした。胸の奥が暖かい。
隣の席に腰をかけたデュースがそっと私の背に手を触れてくれたことが嬉しくて、ズビッと鼻をすすってしまった。
「あなた…」
「…へへ…ごめんね…ありがとう」
「いや…僕こそごめん」
「…デュースが、お母さん、大事にしたいの、わかった気がした」
「!そうだろう?母さんは世界一だ」
にっと口角を上げたデュースが、母さんの手伝いをしてくると言うので、じゃあ私もと腰をあげたら『今日は、お客さんなんだから座っててくれ』と制されてしまった。
その『は』に込められた気持ちがくすぐったくて、一人リビングでモジモジしてしまったのは言うまでもない。
おやつをいただき、談笑し、アルバムを見たりマジカルホイールに跨らせてもらっているうちに、あっという間に夕飯の時刻。
お母さんにそっと『デュースの好きな味付けを教えて欲しい』と頼めば快く台所に入れてくれて、一緒に料理を作ることになった。
台所に向かっている間何か視線を感じるなと思えば、じっとデュースが見ているので『なに?』と問えば、顔を赤くして逃げていってしまう。
その様子を見たお母さんに『あの子、あなたちゃんのエプロン姿見て何を想像したのかしらね!』と悪戯に笑われてしまって、こっちまで頬を赤くする羽目になった。
そうこうしているうちに夜も更け、そろそろ眠ろうかと言うことになったのだが、そこでふと、純粋な疑問を口にしたのがいけなかった。
「あの…私はどこで寝たらよいでしょうか…?」
「あら、デュースの部屋にお布団敷いておいたけれど、嫌だったかしら」
「!?」
「あ、デュース!変なことするんじゃないわよ!」
「っ!んなわけないだろ!」
「ふふ、と言うわけだから、安心して眠ってね、あなたちゃん。お母さん、あの部屋にいるから、いつでも来てね」
「あ、ありがとう、ござい、ます…ッ」
「それじゃまた明日ね、おやすみ」
「おやすみな、さい…」
後に残されたデュースと二人。
なんだか気まずくて、デュースの顔を見られない。
お母さんの『変なこと』に対して『するわけない』と答えたと言うことは。つまりは。そういう。
私はデュースのことを少しだけ見くびっていたようだ。
「い、行くか」
「あ…う、ん」
こっちだ、と歩き出したデュースの背を追って、私もそちらへ向かう。ついた先の部屋には、確かに布団が二つ並べてあった。
デュースの部屋、とはいえ、私物は寮に持ち込んだものもあるのだろう。意外とこざっぱりとしていて、物も少なかった。
パタン、と閉まるドアの音がやけに大きく耳に残る。
ああどうしよう、こんなことになるなんて予想もしてなくて。でも期待がないといえば嘘になる。こんな自分が恥ずかしい。
どうしたらいいのかもわからず突っ立ったままでいると、くるりと私の方を向いたデュースが『あのさ』と小さな声を出した。
「あなた、」
「っひゃい!」
「…ッ…そんな緊張されると、こっちまで、緊張、する」
「ご、めんっ!」
「や…いいんだ…僕も、その、僕はよくエースに馬鹿にされるけど、僕も普通の男子高校生だから、その、興味がないっていったら嘘になる、から」
「あっ!?そ、そうだよね!?」
『何に』と言われなくても、なんのことを言われているのかわかってしまうのが、余計に自分の体温を上げてしまうが、暗がりでも綺麗に光るデュースの瞳があまりにも真剣だから、ヒュ、と息を飲んで黙らざるを得なかった。
「僕は、あなたのことが大切だから、欲に負けてそんな事はしない。でも、いつか本当に、あなたが僕との未来を考えてくれる日が来たら、」
「…う、ん」
「その時は、僕にあなたの全部をくれないか?」
どこまでも純粋で、どこまでも真剣な貴方に、YES以外の言葉など返せるわけがないじゃない。
すうっと深呼吸をして、私は、そのままデュースに倒れこむようにして抱きついた。
「デュース以外の誰にもらってもらえると思ってるの…。もちろんだよ…」
「!」
「いつかそんな未来があるなら、全部もらってください…」
「っ…ありがとうっ!」
デュースからも確かな力で抱きしめ返されて、幸せをかみしめる。
その日は二人、手を繋いで眠った。
夢の中でも、デュースに会えるといいな。
季節がいくつも巡った後の、いつかの未来に思いを馳せて。
きっとずっと、二人笑って歩んでいこうね。
季節が巡るスピードはなんて早いんだろうか。
私がこちらの世界に呼ばれたのが秋の入学式のことで、それから冬、春、夏を経て二度目の秋を越え、ウインターホリデーがまた近づいてきた、そんな冬のある日。
私はデュースにこんな風に切り出された。
最初は、何を言われているのかわからなかった。
私の予定では、当たり前のようにグリムと過ごして、なんなら少しモストロ・ラウンジで美味しいものをいただいて。
もしかしたらスカラビア寮の人だってまた残ってるかもしれないから宴に参加して。
それで少し課題に取り組んで ー そんな、去年と寸分変わらないプランが組まれていたから。
「えっと…一緒にって言うのは…」
「母さんにあなたのこと、紹介したいんだ」
「!?」
「あっ、その、よく話すからさ、あなたのこと」
「よく話すの?!」
「あぁ!だから母さんも会いたいって言ってて…どうだ?」
そう言う問いかけ方をされると、断ることもできず、きゅん、とする自分が憎い。
『お邪魔じゃないなら…』とおずおず返事をすれば、パァ!とわかりやすくデュースの顔が明るくなった。
「邪魔な訳あるもんか!じゃあ母さんに伝えとくな!きっと喜んでくれる!」
「そ、そうかなぁ…。うん、でもご連絡、お願いします」
「ああ!ありがとう!細かい事はまた伝えるから」
「うん、よろしくね」
そんな風にして予定が決まった数週間後。皆に冷やかされながらもデュースとともに彼の実家に向かった私。
今回は鏡を通じて戻れたので、なんの苦もなくそこに到着した。
実家なのだから当たり前なのだけれど、何の断りもなしに家の戸を開けるデュースに、少しは心の準備をさせて!と胸の内が騒ぐ。
デュースが『母さん、帰ったよ!』と声をかけると奥からパタパタとスリッパの音が玄関に向かってきた。
「あら~あらあらあら!いらっしゃい!よくきたわね~!」
「あっあのっはじめまして、私、あなたと言います」
「デュースから話は聞いてるわよ~。ちょっとデュース!あんたこんなに可愛い子、どうやっておとしたの!」
「っ母さん!そういうことは」
「も~本当にねぇ、至らない息子なんだけど、末長くよろしくね」
「あっ、はい!こちらこそ至らないことが多くて」
「ね!結婚式はいつなの!?卒業したらすぐ?」
「…はい?」
お出迎えしてくれて早々、デュースにそっくりな雰囲気を纏ったお母さんから突拍子もない言葉が飛び出して目を見開いてしまう。
『さぁ立ち話もなんだから上がって』と促されるままにリビングへと通されている間も、一体何を言われた?と混乱していた。
『今、結婚式って言った?どういうこと?あ、でもデュースはよくプロポーズみたいな言葉をくれるよね。そうすると本気だったのかあれは。申し訳ないことをした。冗談とは思っていなかったけれど、まさか本気とも思っていなかったから、改めてそういう話をするのかとばかり思っていた。いや、それはいつかの未来の話なのだけれど。それでも何かしらあるんだと思っていたから…』などと、様々なワードがぐるぐる頭の中を巡る。
「デュ、デュース…あの…お母さんになんてお話ししたの?」
「…えっと…家族として、出迎えてやってくれって」
「あ…な、なるほど…」
それで勘違いをされたのか。その気遣いは正直、胸がはち切れそうなほどに嬉しいのだけれど、このまま話を進めるのはお母さんに申し訳なさすぎる。
リビングにて腰を落ち着けたあと、失礼のないよう慎重に言葉を選びながら、私は訂正を始めた。
「お母さん、すみません。今日は結婚のご報告に来たのではないんです」
「えっ!あらそうなの!?」
「はい。私とデュースくんとはお付き合いをさせていただいていますが、まだ学生の身分ですし、自分で自分の責任を取ることもできませんから」
「…まぁ、しっかりしてるのねぇ」
「あはは…しっかりなんてとんでもないです。ただ、その、デュースくんから聞いているかわかりませんが、私はもともと異世界の住人ですし、魔法師養成学校に入学できるような立派な息子さん…デュースくんに、今の段階でそんなに重荷を背負わせられませんから…不釣り合いと言われる日が、いつか来るかもしれませんし」
「おいあなた!」
「しっ。デュースはちょっと黙っていてね」
「っ…」
お母さん、と静かに、けれどしっかりと話を続ける。
「デュースくんは、将来のこともきちんと考えて毎日頑張ってます。私を、お母さんがこんな風に出迎えてくださってとっても嬉しいですが、結婚式のお話は、また…私とかもしれないし、別の子とかもしれないですが、いつかその時が来るのを楽しみにしておいてください」
「…」
私が一思いに気持ちを言い終えると、キョトン、としたお母さんはそのまま目をパチパチとさせる。
初対面で言いすぎたかなとも思ったけれど、デュースのお母さんに黙っておける話ではない。だってこんなにも嬉しそうに息子の帰りを待っているお母さんだ。
嘘なんてつけるはずもなかった。ゴクリと唾を嚥下したその時。『そっかぁ~』と柔らかな声が上がった。
「あなたちゃん、デュースのことを好きになってくれてありがとうね」
「え?」
「この子、今でこそこんなに真面目にやってくれてるけど、元ヤンだし、お世辞にも頭がいいとは言えないでしょ?」
「あ…えと」
「人柄は私が太鼓判を押して保証するけどね!でもね…そんな息子を持つ私が、異世界くらいで驚くと思う?」
「!」
「息子のこと好きになってくれて!家まで遊びに来てくれるなんて!お母さん、あなたちゃんがお嫁さんに来てくれたらなーってしか考えられないわ!」
「お、かあさん」
「あなたちゃん。あなたちゃんがね、もしも一大決心をして、自分の世界に別れを告げる、と言うのならば、うちは…スペード家は、どんな形であってもあなたちゃんを家族に迎え入れるわ。だからね、そんな辛そうな顔して、言いたくもないことを言わなくても、大丈夫よ」
にこりと微笑む顔は、デュースにそっくりで、それを見た私は、涙を堪えるだけで精一杯になってしまって言葉を返すことができなかった。
俯いて、コクリと小さくうなづけば、『よし!じゃあケーキ食べよう!』とお母さんは元気よく台所に向かっていった。
なんて優しい人なんだ。この人に育てられたデュースが、こんな風に育つのは心からわかる気がした。胸の奥が暖かい。
隣の席に腰をかけたデュースがそっと私の背に手を触れてくれたことが嬉しくて、ズビッと鼻をすすってしまった。
「あなた…」
「…へへ…ごめんね…ありがとう」
「いや…僕こそごめん」
「…デュースが、お母さん、大事にしたいの、わかった気がした」
「!そうだろう?母さんは世界一だ」
にっと口角を上げたデュースが、母さんの手伝いをしてくると言うので、じゃあ私もと腰をあげたら『今日は、お客さんなんだから座っててくれ』と制されてしまった。
その『は』に込められた気持ちがくすぐったくて、一人リビングでモジモジしてしまったのは言うまでもない。
おやつをいただき、談笑し、アルバムを見たりマジカルホイールに跨らせてもらっているうちに、あっという間に夕飯の時刻。
お母さんにそっと『デュースの好きな味付けを教えて欲しい』と頼めば快く台所に入れてくれて、一緒に料理を作ることになった。
台所に向かっている間何か視線を感じるなと思えば、じっとデュースが見ているので『なに?』と問えば、顔を赤くして逃げていってしまう。
その様子を見たお母さんに『あの子、あなたちゃんのエプロン姿見て何を想像したのかしらね!』と悪戯に笑われてしまって、こっちまで頬を赤くする羽目になった。
そうこうしているうちに夜も更け、そろそろ眠ろうかと言うことになったのだが、そこでふと、純粋な疑問を口にしたのがいけなかった。
「あの…私はどこで寝たらよいでしょうか…?」
「あら、デュースの部屋にお布団敷いておいたけれど、嫌だったかしら」
「!?」
「あ、デュース!変なことするんじゃないわよ!」
「っ!んなわけないだろ!」
「ふふ、と言うわけだから、安心して眠ってね、あなたちゃん。お母さん、あの部屋にいるから、いつでも来てね」
「あ、ありがとう、ござい、ます…ッ」
「それじゃまた明日ね、おやすみ」
「おやすみな、さい…」
後に残されたデュースと二人。
なんだか気まずくて、デュースの顔を見られない。
お母さんの『変なこと』に対して『するわけない』と答えたと言うことは。つまりは。そういう。
私はデュースのことを少しだけ見くびっていたようだ。
「い、行くか」
「あ…う、ん」
こっちだ、と歩き出したデュースの背を追って、私もそちらへ向かう。ついた先の部屋には、確かに布団が二つ並べてあった。
デュースの部屋、とはいえ、私物は寮に持ち込んだものもあるのだろう。意外とこざっぱりとしていて、物も少なかった。
パタン、と閉まるドアの音がやけに大きく耳に残る。
ああどうしよう、こんなことになるなんて予想もしてなくて。でも期待がないといえば嘘になる。こんな自分が恥ずかしい。
どうしたらいいのかもわからず突っ立ったままでいると、くるりと私の方を向いたデュースが『あのさ』と小さな声を出した。
「あなた、」
「っひゃい!」
「…ッ…そんな緊張されると、こっちまで、緊張、する」
「ご、めんっ!」
「や…いいんだ…僕も、その、僕はよくエースに馬鹿にされるけど、僕も普通の男子高校生だから、その、興味がないっていったら嘘になる、から」
「あっ!?そ、そうだよね!?」
『何に』と言われなくても、なんのことを言われているのかわかってしまうのが、余計に自分の体温を上げてしまうが、暗がりでも綺麗に光るデュースの瞳があまりにも真剣だから、ヒュ、と息を飲んで黙らざるを得なかった。
「僕は、あなたのことが大切だから、欲に負けてそんな事はしない。でも、いつか本当に、あなたが僕との未来を考えてくれる日が来たら、」
「…う、ん」
「その時は、僕にあなたの全部をくれないか?」
どこまでも純粋で、どこまでも真剣な貴方に、YES以外の言葉など返せるわけがないじゃない。
すうっと深呼吸をして、私は、そのままデュースに倒れこむようにして抱きついた。
「デュース以外の誰にもらってもらえると思ってるの…。もちろんだよ…」
「!」
「いつかそんな未来があるなら、全部もらってください…」
「っ…ありがとうっ!」
デュースからも確かな力で抱きしめ返されて、幸せをかみしめる。
その日は二人、手を繋いで眠った。
夢の中でも、デュースに会えるといいな。
季節がいくつも巡った後の、いつかの未来に思いを馳せて。
きっとずっと、二人笑って歩んでいこうね。