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その日デュースは珍しく辞書とにらめっこして頭を抱えていた。
勉強は、苦手だ。身体を使うほうが性に合っている。
マジカルホイールをぶっ飛ばして風になるほうが、自分らしい。
でも今はそんなことは言っていられない。
それは、さっき廊下を歩いていた時に、こんな話が聞こえてきたからである。
「愛は与えるもの、恋は奪うものって、うちの親父が言ってたんだよなー」
「あー、それよく言われるやつな!?」
「俺は前こんなん聞いたぞ『愛には真心、恋には下心』…な!そうじゃね?」
「なるほどなー」
それは上級生の何気ない会話だった。でも、デュースの気持ちを酷くかき乱したのだ。
「恋と、愛…か。母さんからは愛してるよって言われることも多かったけど、自分が誰かに言うところは想像できないな…」
思い返せば、とデュースは考える。
これまで、あなたに対してどんな言葉をかけてきただろうか?
面と向かって「好き」と声をかけたことはなかったような気さえしてきた。
もちろん、あなたのことを好き、ではある。
好きなんだけれど、「好きだ」と口に出すのは気恥ずかしく、言う機会もなかった。
「って言うのは、卑怯かもしれないな」
あなたとの仲は、順調だ、と思う。
この間だって、ちょっと悲しい思いをさせてしまったけれど、きちんと思いを伝えて仲直りした。
あなたはいつでも笑いかけてくれるし、楽しそうにしてくれている。幸せでいてくれている、はずだ。
けれど、それが思い上がりである保証はどこにもない。
現につい先日間違いを犯したばかりである。言葉で伝えようとして、失敗しているのだ。
拳で語り合うのが常だった自分には、少しのズレを感じ取るだけの語彙力も知識もないことは承知している。
だからこうして辞書と向き合っている。
けれど、書籍から得られる知識は、自分の欲しいものと何か決定的に違うものがあるようだ。
「…やっぱり僕にはこう言うのは向いてないな…」
パタン、と辞書を閉じて、デュースは図書室を後にした。
あなたに会って話したいと思った。だって、恋とか愛とか言うけれど、それは相手がいて初めて成り立つ関係だ。
と言うことは、あなたに聞いたほうが早いと。そんな結論に至ったから。
校舎を出た途端、はやる心を抑えられず、全速力で走り出す。
デュースが向かった先はオンボロ寮。この時間ならここにいる確率の方が高いだろうと踏んでのことだった。
オンボロ寮には人を呼び出すようなものは、まだ取り付けられていない。
キィ、と扉を開けて中を覗いてから『あなた、いるか?』と声をかければ、談話室からひょっこり顔が出てきた。
「デュース!どうしたの?」
ほわ、と花が舞い散るような柔和な笑顔。デュースの心がトクリと音を立てる。
それを隠すように胸に手を当てて、ワザとらしく息を吐き出した。
「ふふ、また急いで来てくれたの?そんなに急がなくてもオンボロ寮は無くならないよ?」
「確かに…でもあなたに早く会いたかったから、つい」
「…!ま、また、そういうこと、言う…ッ」
「?僕は変なこと言ったか?」
「っ…な、何も…!えっと、その、とりあえず、お茶でも飲む?」
「ああ!ありがとう、お邪魔する」
どうぞ、とのジェスチャーに、あなたの後ろに続いて談話室に入ったデュース。
ソファーに腰をかけていると冷たいお茶を持ったあなたが隣に腰をかけた。
はい、と渡されたグラスを傾け、一気にそれを流し込めば、少しだけ気持ちが落ち着く。
一呼吸置いてから『話があって』と、デュースが切り出した。
「僕は、あなたの、彼氏、だよな」
「唐突だなぁ…そうだよ、彼女にしてもらった、気でいたけど、どうしたの?またエースに何か言われた?」
「い、いや、そうじゃなくて…」
言葉尻を濁したデュースは、スゥ、とまた一つ呼吸してから、あなたの方に身体を向けて、じっとあなたの瞳を覗き込む。
ターコイズブルーに空色を溶かしたような二つの大きな宝石に見つめられては、あなたの頬に熱が集まると言うもので。
知らず伏せ目がちになったあなた。しかしながら、視線はまだ逸らされない。
「僕は、あなたにあまり言葉をかけてこなかったなって反省したんだ」
「?言葉…?いっぱいかけてもらってるけど…?」
「いや、肝心なことを、伝えてない気がするんだ。だから、その、こっちを見て欲しい。…ダメか?」
「…っ…わ、かった、」
そっと戻ってくるあなたの視線に、デュースの視線が絡まる。
キラリと瞳の奥に見えた熱に、囚われる。
「好きだ」
「!!」
「僕があなたのことを好きなのは、本当の気持ちなんだけど…その、これが恋か愛かと聞かれたら、わからないんだ」
「…恋か…愛…」
「あなたは、僕のこと、好きか?」
「そ…そんなの…すき、だよ…もちろん…」
「じゃあ、それは恋か?」
真剣に問われて、あなたは困ってしまう。せっかく、大切な言葉をもらったのに、それすらもおざなりになってしまうのは少し悲しいけれど、デュースがとても悩んでることが伝わってきてしまったから、考える方を優先しなければならない。
「そう、だなぁ…。これは私の持論だけれど…」
「うん」
「私の国に、漢字という文字があってね。あ、こっちの世界に漢字があるのかはわからないけど…その、漢字っていう文字を使うと、ちょっとわかりやすいかもしれないって思ってて」
恋と愛。似て非なるものとはよく言われるが、どんなに調べても言葉で理解するには難しいだろう。
けれど、とあなたは思う。
恋病、恋敵、恋路と『恋』を並べてみると、それらは刹那の激情に突き動かされる心の高ぶりな感じがするし、一方で、愛嬌、愛玩、恩愛、慈愛…と『愛』を並べてみれば、それらは静かに、それでいて、長い間かけて積っていく気持ちの表現な気がする。と。
ゆっくりと、自分の中でも整理するように話をするが、最終的に『でもやっぱり、言葉じゃよくわからないね』と苦笑するあなた。
「ごめん、たくさん話してくれたけど…わかるようで…やっぱり難しいな…」
「ううん、こっちこそ。話したらわかんなくなってきちゃった。ごめんね?」
「いや、あなたの考えを聞けて、助かる。僕は一人で考えるのは苦手なんだ。それに恋愛は二人でするものだろ?気持ちを聞くことに意味があると僕は思ってるから。ありがとう」
「そう?それなら良かったけど…あ」
「ん?」
「うーん、感覚的に、だったら、もっといい伝え方ができるかも…?」
「本当か?よかったらもっと教えてほしい!」
「えぇと…その、じゃあ、デュース、ちょっと目を瞑ってもらってもいい?」
「目?わかった」
言われるままに素直に閉じられた瞳。隠れてしまった宝石からはあなたが今、どんな表情をしているかは見えないだろう。
あなたは、ふ、と小さく息を吐く。
ずっと思っていた。あの時『して欲しい』と言った言葉は、結局空振りに終わってしまったし、なんなら口にしたことを少し後悔はしたけれど。
あれは本心だった。
恋と愛。好きという気持ち。
それを伝える方法を、人はきっと、本能で知っている。
あなたの体重がソファーにかかる。それに合わせて、ギ、と小さな音がたった。
差し込んでくる日差しはすでに夕陽の色を纏いながら、キラキラと二人を照らしている。
床に伸びた影が、重なって。
触れるだけのキスは、とても短く、優しく、音もなく。
けれど確実な熱を残して、そして離れた。
あなたの唇が離れると同時に、デュースの瞼がゆるりと開く。
一秒、二秒。
かち、こち、と時計の秒針が動く音が、とても大きく鼓膜を震わす。
デュースの細い指先が、デュース自身の唇を、ツ、となぞったその刹那、目がパチリと開かれて、顔が真っ赤に染まった。
「な?!」
「っごめん…!」
自分でやっておきながらとてつもなく恥ずかしくなってきたあなたは、バッとあらぬ方向に顔を逸らして、ぎゅっと目を閉じる。
でも、言うことは言わないと、ただの変態になってしまうからと、必死で言葉を紡ぎ出す。
「わ、わた、私は!!いつも、デュースとならなんでもできると思ってる!!で!!その、突然、キスしたいなーって思うときも、ある!!」
「?!」
「でも、勢いに任せてすればいいってものじゃないし、こういうのは!!いや、しちゃっといて何言ってるのって感じだけど!!でもなんだか違うなとも思って!!」
あなたの声はだんだんと大きくなるが、それも厭わず一気に気持ちが吐き出されていく。
「一緒にいたら楽しいなとか、一緒に生きていきたいなって、思って、それで、こうやって時々、ふと、もっと近くにいたいとかもっと相手を感じたいとか、そういう風に思うのって、それが愛に近いんじゃないかなって、そう、私は思って!!だからっ」
『だから、キス、させていただきました…』とは、先ほどまでの大声とは打って変わって、デュースに届くか届かないか程度の、とても小さな音だった。
慌てるあなたを見て、それから、言われた言葉をゆっくりと噛み砕いて飲み込んで。
デュースは、勢い、目の前の身体を引き寄せて力一杯抱きしめた。
「!!」
「僕も、同じだ」
「っ、」
「あなたと、同じ。そっか、これは愛、か」
「デュース…」
少しだけ離れた身体。でも、額はくっついたままで、鼻のてっぺんが擦れ合って少しだけくすぐったいのは、触れ合う肌の感触か、それとも。
デュースの嬉しそうに細められた瞳にとらわれてしまって自然と閉じられたあなたの瞼が示すところは、同意の意味で間違いないだろう。
今度はデュースの方から押し当てられた唇。それはぎこちなくて、でもなんだかそれすらも愛おしいなぁと、あなたの心が温かくなる。
触れるだけ。たった二回のそれは、他の人から見たらとても子供っぽいのかもしれないけれど。心を満たすには十分で。
真っ赤染まった二人の笑顔は、誰から見ても幸せいっぱいだった。
「キス、しちゃったね」
「まだ早いって、あなたが言ったのにな」
「っ…だって…したかったんだもん」
「…僕が疎いから、ごめんな」
「違うよ!それは、ほら…二人で、するもの、なんでしょ?恋愛は」
「…!」
「ね?だからさ」
あなたは、笑顔いっぱい、こう言った。
『二人で一緒に進んでいけば、いいんじゃないかな!』
勉強は、苦手だ。身体を使うほうが性に合っている。
マジカルホイールをぶっ飛ばして風になるほうが、自分らしい。
でも今はそんなことは言っていられない。
それは、さっき廊下を歩いていた時に、こんな話が聞こえてきたからである。
「愛は与えるもの、恋は奪うものって、うちの親父が言ってたんだよなー」
「あー、それよく言われるやつな!?」
「俺は前こんなん聞いたぞ『愛には真心、恋には下心』…な!そうじゃね?」
「なるほどなー」
それは上級生の何気ない会話だった。でも、デュースの気持ちを酷くかき乱したのだ。
「恋と、愛…か。母さんからは愛してるよって言われることも多かったけど、自分が誰かに言うところは想像できないな…」
思い返せば、とデュースは考える。
これまで、あなたに対してどんな言葉をかけてきただろうか?
面と向かって「好き」と声をかけたことはなかったような気さえしてきた。
もちろん、あなたのことを好き、ではある。
好きなんだけれど、「好きだ」と口に出すのは気恥ずかしく、言う機会もなかった。
「って言うのは、卑怯かもしれないな」
あなたとの仲は、順調だ、と思う。
この間だって、ちょっと悲しい思いをさせてしまったけれど、きちんと思いを伝えて仲直りした。
あなたはいつでも笑いかけてくれるし、楽しそうにしてくれている。幸せでいてくれている、はずだ。
けれど、それが思い上がりである保証はどこにもない。
現につい先日間違いを犯したばかりである。言葉で伝えようとして、失敗しているのだ。
拳で語り合うのが常だった自分には、少しのズレを感じ取るだけの語彙力も知識もないことは承知している。
だからこうして辞書と向き合っている。
けれど、書籍から得られる知識は、自分の欲しいものと何か決定的に違うものがあるようだ。
「…やっぱり僕にはこう言うのは向いてないな…」
パタン、と辞書を閉じて、デュースは図書室を後にした。
あなたに会って話したいと思った。だって、恋とか愛とか言うけれど、それは相手がいて初めて成り立つ関係だ。
と言うことは、あなたに聞いたほうが早いと。そんな結論に至ったから。
校舎を出た途端、はやる心を抑えられず、全速力で走り出す。
デュースが向かった先はオンボロ寮。この時間ならここにいる確率の方が高いだろうと踏んでのことだった。
オンボロ寮には人を呼び出すようなものは、まだ取り付けられていない。
キィ、と扉を開けて中を覗いてから『あなた、いるか?』と声をかければ、談話室からひょっこり顔が出てきた。
「デュース!どうしたの?」
ほわ、と花が舞い散るような柔和な笑顔。デュースの心がトクリと音を立てる。
それを隠すように胸に手を当てて、ワザとらしく息を吐き出した。
「ふふ、また急いで来てくれたの?そんなに急がなくてもオンボロ寮は無くならないよ?」
「確かに…でもあなたに早く会いたかったから、つい」
「…!ま、また、そういうこと、言う…ッ」
「?僕は変なこと言ったか?」
「っ…な、何も…!えっと、その、とりあえず、お茶でも飲む?」
「ああ!ありがとう、お邪魔する」
どうぞ、とのジェスチャーに、あなたの後ろに続いて談話室に入ったデュース。
ソファーに腰をかけていると冷たいお茶を持ったあなたが隣に腰をかけた。
はい、と渡されたグラスを傾け、一気にそれを流し込めば、少しだけ気持ちが落ち着く。
一呼吸置いてから『話があって』と、デュースが切り出した。
「僕は、あなたの、彼氏、だよな」
「唐突だなぁ…そうだよ、彼女にしてもらった、気でいたけど、どうしたの?またエースに何か言われた?」
「い、いや、そうじゃなくて…」
言葉尻を濁したデュースは、スゥ、とまた一つ呼吸してから、あなたの方に身体を向けて、じっとあなたの瞳を覗き込む。
ターコイズブルーに空色を溶かしたような二つの大きな宝石に見つめられては、あなたの頬に熱が集まると言うもので。
知らず伏せ目がちになったあなた。しかしながら、視線はまだ逸らされない。
「僕は、あなたにあまり言葉をかけてこなかったなって反省したんだ」
「?言葉…?いっぱいかけてもらってるけど…?」
「いや、肝心なことを、伝えてない気がするんだ。だから、その、こっちを見て欲しい。…ダメか?」
「…っ…わ、かった、」
そっと戻ってくるあなたの視線に、デュースの視線が絡まる。
キラリと瞳の奥に見えた熱に、囚われる。
「好きだ」
「!!」
「僕があなたのことを好きなのは、本当の気持ちなんだけど…その、これが恋か愛かと聞かれたら、わからないんだ」
「…恋か…愛…」
「あなたは、僕のこと、好きか?」
「そ…そんなの…すき、だよ…もちろん…」
「じゃあ、それは恋か?」
真剣に問われて、あなたは困ってしまう。せっかく、大切な言葉をもらったのに、それすらもおざなりになってしまうのは少し悲しいけれど、デュースがとても悩んでることが伝わってきてしまったから、考える方を優先しなければならない。
「そう、だなぁ…。これは私の持論だけれど…」
「うん」
「私の国に、漢字という文字があってね。あ、こっちの世界に漢字があるのかはわからないけど…その、漢字っていう文字を使うと、ちょっとわかりやすいかもしれないって思ってて」
恋と愛。似て非なるものとはよく言われるが、どんなに調べても言葉で理解するには難しいだろう。
けれど、とあなたは思う。
恋病、恋敵、恋路と『恋』を並べてみると、それらは刹那の激情に突き動かされる心の高ぶりな感じがするし、一方で、愛嬌、愛玩、恩愛、慈愛…と『愛』を並べてみれば、それらは静かに、それでいて、長い間かけて積っていく気持ちの表現な気がする。と。
ゆっくりと、自分の中でも整理するように話をするが、最終的に『でもやっぱり、言葉じゃよくわからないね』と苦笑するあなた。
「ごめん、たくさん話してくれたけど…わかるようで…やっぱり難しいな…」
「ううん、こっちこそ。話したらわかんなくなってきちゃった。ごめんね?」
「いや、あなたの考えを聞けて、助かる。僕は一人で考えるのは苦手なんだ。それに恋愛は二人でするものだろ?気持ちを聞くことに意味があると僕は思ってるから。ありがとう」
「そう?それなら良かったけど…あ」
「ん?」
「うーん、感覚的に、だったら、もっといい伝え方ができるかも…?」
「本当か?よかったらもっと教えてほしい!」
「えぇと…その、じゃあ、デュース、ちょっと目を瞑ってもらってもいい?」
「目?わかった」
言われるままに素直に閉じられた瞳。隠れてしまった宝石からはあなたが今、どんな表情をしているかは見えないだろう。
あなたは、ふ、と小さく息を吐く。
ずっと思っていた。あの時『して欲しい』と言った言葉は、結局空振りに終わってしまったし、なんなら口にしたことを少し後悔はしたけれど。
あれは本心だった。
恋と愛。好きという気持ち。
それを伝える方法を、人はきっと、本能で知っている。
あなたの体重がソファーにかかる。それに合わせて、ギ、と小さな音がたった。
差し込んでくる日差しはすでに夕陽の色を纏いながら、キラキラと二人を照らしている。
床に伸びた影が、重なって。
触れるだけのキスは、とても短く、優しく、音もなく。
けれど確実な熱を残して、そして離れた。
あなたの唇が離れると同時に、デュースの瞼がゆるりと開く。
一秒、二秒。
かち、こち、と時計の秒針が動く音が、とても大きく鼓膜を震わす。
デュースの細い指先が、デュース自身の唇を、ツ、となぞったその刹那、目がパチリと開かれて、顔が真っ赤に染まった。
「な?!」
「っごめん…!」
自分でやっておきながらとてつもなく恥ずかしくなってきたあなたは、バッとあらぬ方向に顔を逸らして、ぎゅっと目を閉じる。
でも、言うことは言わないと、ただの変態になってしまうからと、必死で言葉を紡ぎ出す。
「わ、わた、私は!!いつも、デュースとならなんでもできると思ってる!!で!!その、突然、キスしたいなーって思うときも、ある!!」
「?!」
「でも、勢いに任せてすればいいってものじゃないし、こういうのは!!いや、しちゃっといて何言ってるのって感じだけど!!でもなんだか違うなとも思って!!」
あなたの声はだんだんと大きくなるが、それも厭わず一気に気持ちが吐き出されていく。
「一緒にいたら楽しいなとか、一緒に生きていきたいなって、思って、それで、こうやって時々、ふと、もっと近くにいたいとかもっと相手を感じたいとか、そういう風に思うのって、それが愛に近いんじゃないかなって、そう、私は思って!!だからっ」
『だから、キス、させていただきました…』とは、先ほどまでの大声とは打って変わって、デュースに届くか届かないか程度の、とても小さな音だった。
慌てるあなたを見て、それから、言われた言葉をゆっくりと噛み砕いて飲み込んで。
デュースは、勢い、目の前の身体を引き寄せて力一杯抱きしめた。
「!!」
「僕も、同じだ」
「っ、」
「あなたと、同じ。そっか、これは愛、か」
「デュース…」
少しだけ離れた身体。でも、額はくっついたままで、鼻のてっぺんが擦れ合って少しだけくすぐったいのは、触れ合う肌の感触か、それとも。
デュースの嬉しそうに細められた瞳にとらわれてしまって自然と閉じられたあなたの瞼が示すところは、同意の意味で間違いないだろう。
今度はデュースの方から押し当てられた唇。それはぎこちなくて、でもなんだかそれすらも愛おしいなぁと、あなたの心が温かくなる。
触れるだけ。たった二回のそれは、他の人から見たらとても子供っぽいのかもしれないけれど。心を満たすには十分で。
真っ赤染まった二人の笑顔は、誰から見ても幸せいっぱいだった。
「キス、しちゃったね」
「まだ早いって、あなたが言ったのにな」
「っ…だって…したかったんだもん」
「…僕が疎いから、ごめんな」
「違うよ!それは、ほら…二人で、するもの、なんでしょ?恋愛は」
「…!」
「ね?だからさ」
あなたは、笑顔いっぱい、こう言った。
『二人で一緒に進んでいけば、いいんじゃないかな!』