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普段はきっちり時間通りに帰宅するアズールではあるが、今日は『遅めの時間に商談が入ったから場合によっては』とのことだった。
珍しいこともあるものだ、と思いつつも、それは支配人にしかできない仕事なのだから仕方がない。
『商談』ときいても然程嫌な気分にならないのは、アズールがこんな二つ名がつくほどの人物だからだ。
すなわち「接待嫌いのアズール」である。
商談は商談、会食は会食、仕事は仕事。何をするにもきっちりかっちり。
アズールは、接待と名のつくもの、特に酒と女で丸め込めといった昔ながらの手法が大嫌いで、そんなことがあろうものならすぐに怒って帰ってしまうと有名だ。
だからこそ、あなたも安心しきって仕事に送り出せている。
若き実業家は時間管理も完璧だ。毎日定時にきっかり仕事を終え帰宅するその姿に見惚れないわけがなかった。
無駄なことは一切やらず、試したことは全てを次に活かしていく。
結婚する前からモストラロ・ラウンジ二号店の夢を実現させ、今は三号店へと手を広げている真っ最中ではあるけれど、右腕にフロイド、左腕にはジェイドが控えている限り、困ることになるはずもない。
ただ…時々。
本当に極稀に。
身の程知らずの輩によって、アズールの機嫌が損なわれることも、あるには、ある。
ブ、ブブブ、
「!」
鳴ることなどほとんどないスマートフォンから、メッセージ受信を知らせるバイブ音がした。
その音を聞いて頭をよぎったのは、愛する夫…の片腕からの連絡が来たかな、という考え。
軽い夕食なら口にしてくれるだろうかと、温めていた鍋の火を止めて、スマートフォンを手に取る。
メッセージは案の定、片腕、フロイドからだった。
- - - - - - - - - - - - - - -
フロイド:ちょ〜不機嫌
フロイド:頑張って〜
- - - - - - - - - - - - - - -
簡素な文面に、フロイドの人となりが表れている。
忙しい中だろう、こうして連絡をくれるだけでもありがたい話だ。
了解です、の小エビスタンプを一つだけ返して、それに既読が付いたのを見てから電源を落とした。
「何が逆鱗に触れたのかなぁ」
そっと呟いた言葉は、二人用にしては大きなリビングの静寂に消えた。
それからちょうど三十分が経過した頃。カチャリ、小さな音がした。
あなたが玄関に出迎えに行けば、そこにはアズールの背中があった。
だけれど、その背中はどことなく疲れていて、態度にはイライラが表れている。
あーこれはいつもよりも重いかもしれないと、あなたは努めて明るく話しかけた。
「お帰りなさい!今日もお疲れ様です!」
「…」
『む』と口を一文字に引き、眉間にしわを寄せたままではあるが、視線を合わせる程度の余力はあるらしい。
こういう時は事情を聞き出してあげるのが得策だな、と経験があなたに囁く。
「どうかしたんですか?今日は、いつもより…お疲れみたいですね」
「…」
「ご飯にします?お風呂にします?…それとも、お話、聞きましょうか?」
と、今度は明るくではなく『優しく』言って、胸の前で組んでいた手を広げて見せる。
そうすれば、アズールはそのまますっぽりと腕の中に入ってきて、ぎゅう、とあなたを抱きしめた。
『やっぱりいつもよりも重そう』と苦笑した顔は、彼の胸に隠れて見えることはないだろう。
数秒の間、ぎゅっとされた後、そのまま手を引かれてリビングへ連れて行かれた。
あなたはソファーに座らされ、その隣にアズールが座る。
タイミングを見計らって、膝の上に行儀良く置かれた手にそっと触れると、ピクリとアズールの肩が跳ねた。
「時間通りに終われなかったことを気にしているんですか?」
「…違います」
「じゃあ…売り上げがいつもより下回ったとか」
「違います」
「んー…あっ、まさか…商談の時にいかがわしいお店にでも連れていか」
「っ…!」
「…あたり…ですか」
どうやら正解を言い当ててしまったらしい。
しかしながら、地雷を踏み抜く強者がまだ存在していたとは。新参者だろうか。地域のリサーチは徹底的に行ってから来てほしいものだ。
理由を言い当てたのを皮切りに、アズールの口からは呪詛のようにツラツラと今日の出来事が吐き出される。
今日の商談相手は新規参入企業であったこと。
近場だったので、企業内容を把握するためにも先方へ出向いていたこと。
商談相手の年齢は少し高めではあったが、高級食材の卸しをしているとのことで、話を聞かないわけにはいかなかったこと。
「ただ、話を聞けば聞くほど胡散臭かったので、お断りしようとしたらっ…!」
『まぁそんな態度を取らずに』という言葉が耳に届いたのと同時、パンパンと手が叩かれたのを合図に、奥の扉から接待の女の子がたくさん出てきたらしい。
お酒も運ばれてきて、嬢にはベタベタと遠慮なしに身体を触られて大変だったそうだ。
触られたことで、固まるどころか一思いに沸点を超えたアズールは『商談は破棄です』と言い放ち、帰路に着いたという。
これはきっと、リーチ兄弟も後片付けが大変だったことだろう。
「僕は常々接待は大嫌いだと言っているのに!まだやってくる相手がいるなんて!」
「なるほど…それは…大変でしたね…。よく耐えたと思います。お疲れ様でしたよ、アズールさん」
労いの気持ちを込めて、頭を撫でると、両手に顔を埋めてわなわなと肩を震わせていたアズールの身体が、ぐらり、そのまま横に倒れてきて、あなたの膝の上に突っ伏した。
「あら…甘えたさんですか?」
「…本当に…疲れました」
「お察しします…と言っても、私が想像する何倍も大変なお仕事だとは思いますが」
「…だから寝ます」
「へ?このままですか?でもお疲れ様ならなおさら寝室にいきません?お風呂も入ってスッキリしたほうが熟睡できますよ」
「いやです!もう一歩も動けません!」
いつも凛として、背筋はピンと伸ばして、眠気眼なんて言葉とは無縁で。
そんなアズールが家ではこんな駄々っ子な日があるなんて、誰が想像するだろうか。
『これを、可愛いなぁ、と感じてしまうあたり、私も大概末期なんだけれど』と苦笑するあなた。
それでも、こんなところで眠ったらスーツにシワがついたりして、明日の朝も不機嫌になるのは目に見えていたので、うーん、と頭を捻らせてから言葉を紡いだ。
「せっかくこの間買ったお揃いのパジャマ、着てくれないんですか?」
「…」
「熟睡できるかなと思ってアロマも炊いておいたのに」
「…んん…」
「ね?お布団いきましょ?ちゃんと眠った方が疲れもとれますよ」
「し、仕方ない…あなたの頼みなら、仕方ないですね…」
少し顔を赤くしながら、もぞ、と立ち上がったアズールの手を引いて、二人、寝室へと向かう。
疲れているはずなのにスーツを脱ぎっぱなしにせずに几帳面にハンガーにかけてゆくアズールの緩慢な動作は、可愛いったらない。
「そんなに見つめて…なんです?」
「いいえ、何も!はい、パジャマですよ」
「…あなたは着替えないのですか」
「私はあと少し、やり残した家事があっ、わ?!」
「お揃いなんだから一緒に着てください」
「えっ!わっ、や!」
取り去られたエプロンに捲り上げられたニット。逆にかぶされたのは、今し方あなたが手渡したアズールのパジャマだ。お揃いと言えどもちろんサイズは違うので、男用のともなればダボダボでどうしようもないわけだが、それを気にもせず満足そうな顔をするアズール。その表情にキュンとしてしまえば、もう後には戻れない。
自分は下のパジャマにインナーシャツのみ、あなたには上のパジャマだけ着せたアズールは、そのままふかふかのベッドに潜り込み、ぺらりとシーツを捲った。
それから、ここに来いと目線で訴える。
「ベッドが冷たいので眠れません…」
「…ふふ…!」
「なぜ笑うんですか…ふん…そんな風ならもういいで」
「あまりにも素直なので、嬉しくなっちゃいました」
「…!」
機嫌を損ねる前に、あなたは空いたその場所にダイブする。
アズールの頭を胸に抱き留めてよしよしとすれば、彼はまた、む、と眉を潜めた。
「はい!ギューです!」
「…子供扱いはやめていただけませんか」
「そんな、めっそうもないですよ。自分の子をこんなに甘やかすつもりはありませんから」
「…僕だけ、ということですか?」
「そうですね、アズールさんだけ、特別ですよ」
「…特別…ふふ…」
『特別』という言葉を聞いて、寄った眉が、ふや、と緩んだと思ったら、すぐにスゥスゥと寝息が聞こえてくる。
その様子に頬が緩むあなた。
「よっぽど疲れてたんだなぁ…だから余計に怒りゲージが溜まっちゃったのかな?なんにせよ、ちょっとでも癒せればいいんだけど」
シーツをかぶり直し、普段は見られないあどけない表情を間近で観察させてもらいながら、これは自分しか見ることができない姿なんだろうなと、心からの幸せを噛み締める。
「子供は…可愛いけど、まだアズールさんと二人、が、いいかなっ」
ベッドは二人分の体温でもう十分に温まった。
あとはゆっくりとシーツの狭間で揺られるだけ。
珍しいこともあるものだ、と思いつつも、それは支配人にしかできない仕事なのだから仕方がない。
『商談』ときいても然程嫌な気分にならないのは、アズールがこんな二つ名がつくほどの人物だからだ。
すなわち「接待嫌いのアズール」である。
商談は商談、会食は会食、仕事は仕事。何をするにもきっちりかっちり。
アズールは、接待と名のつくもの、特に酒と女で丸め込めといった昔ながらの手法が大嫌いで、そんなことがあろうものならすぐに怒って帰ってしまうと有名だ。
だからこそ、あなたも安心しきって仕事に送り出せている。
若き実業家は時間管理も完璧だ。毎日定時にきっかり仕事を終え帰宅するその姿に見惚れないわけがなかった。
無駄なことは一切やらず、試したことは全てを次に活かしていく。
結婚する前からモストラロ・ラウンジ二号店の夢を実現させ、今は三号店へと手を広げている真っ最中ではあるけれど、右腕にフロイド、左腕にはジェイドが控えている限り、困ることになるはずもない。
ただ…時々。
本当に極稀に。
身の程知らずの輩によって、アズールの機嫌が損なわれることも、あるには、ある。
ブ、ブブブ、
「!」
鳴ることなどほとんどないスマートフォンから、メッセージ受信を知らせるバイブ音がした。
その音を聞いて頭をよぎったのは、愛する夫…の片腕からの連絡が来たかな、という考え。
軽い夕食なら口にしてくれるだろうかと、温めていた鍋の火を止めて、スマートフォンを手に取る。
メッセージは案の定、片腕、フロイドからだった。
- - - - - - - - - - - - - - -
フロイド:ちょ〜不機嫌
フロイド:頑張って〜
- - - - - - - - - - - - - - -
簡素な文面に、フロイドの人となりが表れている。
忙しい中だろう、こうして連絡をくれるだけでもありがたい話だ。
了解です、の小エビスタンプを一つだけ返して、それに既読が付いたのを見てから電源を落とした。
「何が逆鱗に触れたのかなぁ」
そっと呟いた言葉は、二人用にしては大きなリビングの静寂に消えた。
それからちょうど三十分が経過した頃。カチャリ、小さな音がした。
あなたが玄関に出迎えに行けば、そこにはアズールの背中があった。
だけれど、その背中はどことなく疲れていて、態度にはイライラが表れている。
あーこれはいつもよりも重いかもしれないと、あなたは努めて明るく話しかけた。
「お帰りなさい!今日もお疲れ様です!」
「…」
『む』と口を一文字に引き、眉間にしわを寄せたままではあるが、視線を合わせる程度の余力はあるらしい。
こういう時は事情を聞き出してあげるのが得策だな、と経験があなたに囁く。
「どうかしたんですか?今日は、いつもより…お疲れみたいですね」
「…」
「ご飯にします?お風呂にします?…それとも、お話、聞きましょうか?」
と、今度は明るくではなく『優しく』言って、胸の前で組んでいた手を広げて見せる。
そうすれば、アズールはそのまますっぽりと腕の中に入ってきて、ぎゅう、とあなたを抱きしめた。
『やっぱりいつもよりも重そう』と苦笑した顔は、彼の胸に隠れて見えることはないだろう。
数秒の間、ぎゅっとされた後、そのまま手を引かれてリビングへ連れて行かれた。
あなたはソファーに座らされ、その隣にアズールが座る。
タイミングを見計らって、膝の上に行儀良く置かれた手にそっと触れると、ピクリとアズールの肩が跳ねた。
「時間通りに終われなかったことを気にしているんですか?」
「…違います」
「じゃあ…売り上げがいつもより下回ったとか」
「違います」
「んー…あっ、まさか…商談の時にいかがわしいお店にでも連れていか」
「っ…!」
「…あたり…ですか」
どうやら正解を言い当ててしまったらしい。
しかしながら、地雷を踏み抜く強者がまだ存在していたとは。新参者だろうか。地域のリサーチは徹底的に行ってから来てほしいものだ。
理由を言い当てたのを皮切りに、アズールの口からは呪詛のようにツラツラと今日の出来事が吐き出される。
今日の商談相手は新規参入企業であったこと。
近場だったので、企業内容を把握するためにも先方へ出向いていたこと。
商談相手の年齢は少し高めではあったが、高級食材の卸しをしているとのことで、話を聞かないわけにはいかなかったこと。
「ただ、話を聞けば聞くほど胡散臭かったので、お断りしようとしたらっ…!」
『まぁそんな態度を取らずに』という言葉が耳に届いたのと同時、パンパンと手が叩かれたのを合図に、奥の扉から接待の女の子がたくさん出てきたらしい。
お酒も運ばれてきて、嬢にはベタベタと遠慮なしに身体を触られて大変だったそうだ。
触られたことで、固まるどころか一思いに沸点を超えたアズールは『商談は破棄です』と言い放ち、帰路に着いたという。
これはきっと、リーチ兄弟も後片付けが大変だったことだろう。
「僕は常々接待は大嫌いだと言っているのに!まだやってくる相手がいるなんて!」
「なるほど…それは…大変でしたね…。よく耐えたと思います。お疲れ様でしたよ、アズールさん」
労いの気持ちを込めて、頭を撫でると、両手に顔を埋めてわなわなと肩を震わせていたアズールの身体が、ぐらり、そのまま横に倒れてきて、あなたの膝の上に突っ伏した。
「あら…甘えたさんですか?」
「…本当に…疲れました」
「お察しします…と言っても、私が想像する何倍も大変なお仕事だとは思いますが」
「…だから寝ます」
「へ?このままですか?でもお疲れ様ならなおさら寝室にいきません?お風呂も入ってスッキリしたほうが熟睡できますよ」
「いやです!もう一歩も動けません!」
いつも凛として、背筋はピンと伸ばして、眠気眼なんて言葉とは無縁で。
そんなアズールが家ではこんな駄々っ子な日があるなんて、誰が想像するだろうか。
『これを、可愛いなぁ、と感じてしまうあたり、私も大概末期なんだけれど』と苦笑するあなた。
それでも、こんなところで眠ったらスーツにシワがついたりして、明日の朝も不機嫌になるのは目に見えていたので、うーん、と頭を捻らせてから言葉を紡いだ。
「せっかくこの間買ったお揃いのパジャマ、着てくれないんですか?」
「…」
「熟睡できるかなと思ってアロマも炊いておいたのに」
「…んん…」
「ね?お布団いきましょ?ちゃんと眠った方が疲れもとれますよ」
「し、仕方ない…あなたの頼みなら、仕方ないですね…」
少し顔を赤くしながら、もぞ、と立ち上がったアズールの手を引いて、二人、寝室へと向かう。
疲れているはずなのにスーツを脱ぎっぱなしにせずに几帳面にハンガーにかけてゆくアズールの緩慢な動作は、可愛いったらない。
「そんなに見つめて…なんです?」
「いいえ、何も!はい、パジャマですよ」
「…あなたは着替えないのですか」
「私はあと少し、やり残した家事があっ、わ?!」
「お揃いなんだから一緒に着てください」
「えっ!わっ、や!」
取り去られたエプロンに捲り上げられたニット。逆にかぶされたのは、今し方あなたが手渡したアズールのパジャマだ。お揃いと言えどもちろんサイズは違うので、男用のともなればダボダボでどうしようもないわけだが、それを気にもせず満足そうな顔をするアズール。その表情にキュンとしてしまえば、もう後には戻れない。
自分は下のパジャマにインナーシャツのみ、あなたには上のパジャマだけ着せたアズールは、そのままふかふかのベッドに潜り込み、ぺらりとシーツを捲った。
それから、ここに来いと目線で訴える。
「ベッドが冷たいので眠れません…」
「…ふふ…!」
「なぜ笑うんですか…ふん…そんな風ならもういいで」
「あまりにも素直なので、嬉しくなっちゃいました」
「…!」
機嫌を損ねる前に、あなたは空いたその場所にダイブする。
アズールの頭を胸に抱き留めてよしよしとすれば、彼はまた、む、と眉を潜めた。
「はい!ギューです!」
「…子供扱いはやめていただけませんか」
「そんな、めっそうもないですよ。自分の子をこんなに甘やかすつもりはありませんから」
「…僕だけ、ということですか?」
「そうですね、アズールさんだけ、特別ですよ」
「…特別…ふふ…」
『特別』という言葉を聞いて、寄った眉が、ふや、と緩んだと思ったら、すぐにスゥスゥと寝息が聞こえてくる。
その様子に頬が緩むあなた。
「よっぽど疲れてたんだなぁ…だから余計に怒りゲージが溜まっちゃったのかな?なんにせよ、ちょっとでも癒せればいいんだけど」
シーツをかぶり直し、普段は見られないあどけない表情を間近で観察させてもらいながら、これは自分しか見ることができない姿なんだろうなと、心からの幸せを噛み締める。
「子供は…可愛いけど、まだアズールさんと二人、が、いいかなっ」
ベッドは二人分の体温でもう十分に温まった。
あとはゆっくりとシーツの狭間で揺られるだけ。