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「俺の特技はぁ〜、パルクール」
『ぱ、パル…ク?え?なんて?』
「ぱ る く ぅ る!小エビちゃん知らねーの?」
『えっと…すみません、初めて聞きました』
廊下の壁の出っ張りに腰掛けたフロイド先輩は、私の頭に顎を乗せてゆるく私を拘束している。
フロイド先輩の口から飛び出た「パルなんとか」と言う言葉からは、どんな特技であるのかが全く想像ができず、う〜ん、と思わず低い声が漏れてしまう。
「小エビちゃんの国ってパルクールないの?」
『う〜ん?私が聞いたことないだけかもです。あとで調べてみます』
「調べなくていーよ。いつか見せたげるね。カッコいーから」
『フロイド先輩がかっこいいって言うくらいだから、すごい特技なんでしょうね』
「ウン。足あってよかったなって、初めて思った。そんくらい衝撃だった」
どこか誇らしげな声を聞くと、よほど嬉しい出会いだったんだろうなと思えて、私まで心がホワホワしてきた。
気分屋のフロイド先輩ではあるけれど、そのくるくる変わる表情や態度は、人を巻き込んで空気を動かす力を持っていて、憧れるし、尊敬もしている。
私では、絶対にできないことだから。
『見せてもらえるの、楽しみにしてますね』
「小エビちゃん、ほれぼれしすぎて腰抜かすかもよ?」
『ふふ…そうですね、ただでさえかっこいい先輩がもっとかっこよく見えたら、どうなっちゃうかわかりませんね』
今でこそ、この距離感に慣れてしまっているが、私とフロイド先輩は、先輩と後輩という関係以外の肩書きは持っていない間柄だ。
この学校にいる人間は私が元いた世界の誰よりも全てにおいてレベルが違うので感覚がおかしくなっている自覚はあるとはいえ、フロイド先輩を含め、そのようなトップレベルの人が私なんぞを相手にするわけがないと戒めるためにも、恋だの愛だのという気持ちは持たないよう、常日頃から気をつけてはいる。
ましてや今の相手はこのフロイド先輩。機嫌を損ねないためにも、されていることに歯向かう気もなし。
イケメンという部類の人間に抱きしめられて、嫌な気分になるようなできた人間でもないので、そこはありがたく堪能させていただいているところでもあった。
キンコンカンコン…
ありふれた鐘の音が、もうすぐ授業が始まることを告げる。
漸く解放された私の身体は、そのままくるりとフロイド先輩の方に向かされた。
「小エビちゃん」
『はい?』
「絶対、見せてあげるからねぇ」
『…はい、ぜひ!』
いたずらっ子のように微笑んだフロイド先輩は、じゃあ俺あっちだから、と私が向かう方とは反対側に歩いて行った。
*
なんだかんだで午前の授業が終わるのは早いなぁ、と思いつつ、ペコペコなお腹を抱え食堂へ向かう。
この学校の造りは、かの魔法学校を思わせるような厳かなロマネスク建築となっており、一階中央には大きな中庭があった。
「中庭って言うけど、どんだけ広いんだ」と最初は驚きもしたくらいに大きなそこには、小さな池や花壇もある。
生徒が足を踏み入れることは許されないものの、ここから見上げる空はいつでも明るく暖かく私を包んでくれたから、今や大好きな場所の一つになっていた。
『は〜あ!今日もいい天気だ…!』
いつものように空を見上げ、ふと視線を落とすと、向こう側の廊下に、朝見たばかりのシーグリーンを発見した。
(あ。フロイド先輩だ。)
そう思ったが、ここから大声を出すほどの勇気は、私にあるはずもなく。
またどうせ食堂で会うだろうから、とそのまま視線を外そうとした瞬間だった。
「こっ え び ちゃ〜〜〜〜ん!!!!」
大きな声が響いたと思った刹那。向こうの壁を飛び越えた長身が、瞳に映った。
そのまま、ふわり、ふわりと、まるで宙を舞うように、タンタンとステップを踏んで、なんなら途中で宙返りもして。
あまりの衝撃に私の周りから音が消えた。
(こんな場所、足の踏み場を一目で探すことすら相当に難しいだろうに。)
脳の処理が追いつかず、そんな場違いなことを考えながら、フロイド先輩がどんどん大きくなってくるのを見つめて。
そのまま、ダンッ!、とこちら側の廊下の縁に飛び移ってきたフロイド先輩に見惚れてしまった。
どこぞのお姫様を助けに来た王子様のように、自信満々の挑戦的な笑みをたたえて。
フロイド先輩は、ニヤリと笑った。
「パルクール!」
『へ』
「かっこいいでしょ!」
『か、っこいい、です…すごい…!!』
「惚れちゃうでしょ!」
『はいっ!』
「やった〜!」
そのままグィ、と腕を引かれて抱きしめられて。
いつものようなじゃれ合いのギュ〜!ではなく。それはとても優しい抱擁。
『!?』
「小エビちゃんと俺、両思い!!」
『は』
「俺、小エビちゃんのこと大好きだよ。小エビちゃんも俺に惚れたんでしょ?じゃあ、両思いじゃんね!」
彼の思考回路についていけず、腕の中で一時停止した私を、不思議な顔で覗き込み。
それから、か〜わい!、と呟いたと思えば、そのまま唇を塞がれた。
ちゅ、と可愛いキスを一つ落とされて、視界いっぱいにフロイド先輩の顔が映り込む。
「あ〜!!すき!」
『ッ?!』
「俺、パルクールできてよかった〜!」
『い、いま、え? え?!』
だんだんと耳に戻ってくる雑音に、ここが廊下のど真ん中であったことが思い出された。
フロイド先輩の腕の中で真っ赤になる私は、あ、とか、う、とか、言葉にならない声を漏らすことしかできない。
「小エビちゃん、真っ赤」
『だ、って、せんぱい、がっ』
「ここ男だらけだからさぁ、牽制ってやつ?」
ニコニコ。とても機嫌の良い時の顔をしているフロイド先輩は、これで俺の彼女!と私を抱き上げてくるくると回る。
遠くから、バルガス先生の怒声が聞こえたが、フロイド先輩にかかれば逃げ切れてしまうに違いない。
今日も中庭から見える太陽は、明るく優しく私たちを照らしている。
なんだか結婚式みたいだなぁ、と、早すぎる妄想をしたのは、みんなには内緒だよ。
『ぱ、パル…ク?え?なんて?』
「ぱ る く ぅ る!小エビちゃん知らねーの?」
『えっと…すみません、初めて聞きました』
廊下の壁の出っ張りに腰掛けたフロイド先輩は、私の頭に顎を乗せてゆるく私を拘束している。
フロイド先輩の口から飛び出た「パルなんとか」と言う言葉からは、どんな特技であるのかが全く想像ができず、う〜ん、と思わず低い声が漏れてしまう。
「小エビちゃんの国ってパルクールないの?」
『う〜ん?私が聞いたことないだけかもです。あとで調べてみます』
「調べなくていーよ。いつか見せたげるね。カッコいーから」
『フロイド先輩がかっこいいって言うくらいだから、すごい特技なんでしょうね』
「ウン。足あってよかったなって、初めて思った。そんくらい衝撃だった」
どこか誇らしげな声を聞くと、よほど嬉しい出会いだったんだろうなと思えて、私まで心がホワホワしてきた。
気分屋のフロイド先輩ではあるけれど、そのくるくる変わる表情や態度は、人を巻き込んで空気を動かす力を持っていて、憧れるし、尊敬もしている。
私では、絶対にできないことだから。
『見せてもらえるの、楽しみにしてますね』
「小エビちゃん、ほれぼれしすぎて腰抜かすかもよ?」
『ふふ…そうですね、ただでさえかっこいい先輩がもっとかっこよく見えたら、どうなっちゃうかわかりませんね』
今でこそ、この距離感に慣れてしまっているが、私とフロイド先輩は、先輩と後輩という関係以外の肩書きは持っていない間柄だ。
この学校にいる人間は私が元いた世界の誰よりも全てにおいてレベルが違うので感覚がおかしくなっている自覚はあるとはいえ、フロイド先輩を含め、そのようなトップレベルの人が私なんぞを相手にするわけがないと戒めるためにも、恋だの愛だのという気持ちは持たないよう、常日頃から気をつけてはいる。
ましてや今の相手はこのフロイド先輩。機嫌を損ねないためにも、されていることに歯向かう気もなし。
イケメンという部類の人間に抱きしめられて、嫌な気分になるようなできた人間でもないので、そこはありがたく堪能させていただいているところでもあった。
キンコンカンコン…
ありふれた鐘の音が、もうすぐ授業が始まることを告げる。
漸く解放された私の身体は、そのままくるりとフロイド先輩の方に向かされた。
「小エビちゃん」
『はい?』
「絶対、見せてあげるからねぇ」
『…はい、ぜひ!』
いたずらっ子のように微笑んだフロイド先輩は、じゃあ俺あっちだから、と私が向かう方とは反対側に歩いて行った。
*
なんだかんだで午前の授業が終わるのは早いなぁ、と思いつつ、ペコペコなお腹を抱え食堂へ向かう。
この学校の造りは、かの魔法学校を思わせるような厳かなロマネスク建築となっており、一階中央には大きな中庭があった。
「中庭って言うけど、どんだけ広いんだ」と最初は驚きもしたくらいに大きなそこには、小さな池や花壇もある。
生徒が足を踏み入れることは許されないものの、ここから見上げる空はいつでも明るく暖かく私を包んでくれたから、今や大好きな場所の一つになっていた。
『は〜あ!今日もいい天気だ…!』
いつものように空を見上げ、ふと視線を落とすと、向こう側の廊下に、朝見たばかりのシーグリーンを発見した。
(あ。フロイド先輩だ。)
そう思ったが、ここから大声を出すほどの勇気は、私にあるはずもなく。
またどうせ食堂で会うだろうから、とそのまま視線を外そうとした瞬間だった。
「こっ え び ちゃ〜〜〜〜ん!!!!」
大きな声が響いたと思った刹那。向こうの壁を飛び越えた長身が、瞳に映った。
そのまま、ふわり、ふわりと、まるで宙を舞うように、タンタンとステップを踏んで、なんなら途中で宙返りもして。
あまりの衝撃に私の周りから音が消えた。
(こんな場所、足の踏み場を一目で探すことすら相当に難しいだろうに。)
脳の処理が追いつかず、そんな場違いなことを考えながら、フロイド先輩がどんどん大きくなってくるのを見つめて。
そのまま、ダンッ!、とこちら側の廊下の縁に飛び移ってきたフロイド先輩に見惚れてしまった。
どこぞのお姫様を助けに来た王子様のように、自信満々の挑戦的な笑みをたたえて。
フロイド先輩は、ニヤリと笑った。
「パルクール!」
『へ』
「かっこいいでしょ!」
『か、っこいい、です…すごい…!!』
「惚れちゃうでしょ!」
『はいっ!』
「やった〜!」
そのままグィ、と腕を引かれて抱きしめられて。
いつものようなじゃれ合いのギュ〜!ではなく。それはとても優しい抱擁。
『!?』
「小エビちゃんと俺、両思い!!」
『は』
「俺、小エビちゃんのこと大好きだよ。小エビちゃんも俺に惚れたんでしょ?じゃあ、両思いじゃんね!」
彼の思考回路についていけず、腕の中で一時停止した私を、不思議な顔で覗き込み。
それから、か〜わい!、と呟いたと思えば、そのまま唇を塞がれた。
ちゅ、と可愛いキスを一つ落とされて、視界いっぱいにフロイド先輩の顔が映り込む。
「あ〜!!すき!」
『ッ?!』
「俺、パルクールできてよかった〜!」
『い、いま、え? え?!』
だんだんと耳に戻ってくる雑音に、ここが廊下のど真ん中であったことが思い出された。
フロイド先輩の腕の中で真っ赤になる私は、あ、とか、う、とか、言葉にならない声を漏らすことしかできない。
「小エビちゃん、真っ赤」
『だ、って、せんぱい、がっ』
「ここ男だらけだからさぁ、牽制ってやつ?」
ニコニコ。とても機嫌の良い時の顔をしているフロイド先輩は、これで俺の彼女!と私を抱き上げてくるくると回る。
遠くから、バルガス先生の怒声が聞こえたが、フロイド先輩にかかれば逃げ切れてしまうに違いない。
今日も中庭から見える太陽は、明るく優しく私たちを照らしている。
なんだか結婚式みたいだなぁ、と、早すぎる妄想をしたのは、みんなには内緒だよ。