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Azul
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世界には数々の植物が生息しているわけだが、それらにそれぞれ効能があることは誰もが知るところである。
例えばミントは虫除けに効果的だし、オレンジスゥイートは気分を前向きにしてくれる。ラベンダーが精神の安定に役立つことは、言わずもがな。
危ないものも存在するが、知識があればそれらだって薬に変化させることも可能だ。トリカブトはその代表なのではないだろうか。
さて、どうしてあなたがこんなことを考えているかというと、今日の魔法薬学の授業は調香であったからだ。
魔法薬学に関しては、ほとんど知識だけでどうにかなるので、魔法が使えないあなたにとっては大好きな授業の一つだ。その上今日の題材はアロマテラピー好きにとってこの上ないもの。
ローズオットーにネロリにベルガモット。それからパチュリにティートゥリー、ムスクもあれば…と、挙げ始めたらキリがない。
もちろんあなたの元の世界の調香とは違い、最後に魔力のある花を加えることで、選択した効能が高められ、一定時間持続されるというのはロマンを感じるところなのだが。
ただ、作るのが男子とあって、ロマンや香りを厳選するよりかは、効能を重視する輩が多く、集中力を高めるとか、目が覚めるとか、消臭とか、そういうものを選びがちなようだ。(もちろん媚薬の類は危険なのでNGリストに加えられている)
そんな中ではあるが、あなたが考えていたことは一つだけに決まっている。
「アズール先輩の香り…」
だって、普段は匂いを嗅がせてもらえないのだから。本当は、たくさん抱きついてたくさん香りを嗅がせてもらいたいのに。
いつかアズールの部屋で枕に染み付いた香りを目一杯吸い込んだ、あのときの記憶を頼りに、香りを選択していく。
「これと、これと…たしか、トップノートはこれのはず…」
嗅覚には多少なりとも自信があった。が、しかし、思い出すその中には、二人の密事も含まれていて、どうにも心が落ち着かない。
なんだかんだ時間がかかってしまい、結局、クラスの中でも最後の最後で指示を仰ぐことになった。皆はざわつきながらも、すでに各々、自分の課題に取り組んでいる。
「クルーウェル先生。この調合は大丈夫ですか?」
「ん?見せてみろ」
選び抜いた材料をクルーウェルの前に提出し、GOサインを待つ。
「…!…仔犬、この調香はどこで覚えた?」
「え?これはアズー…じゃなかった、ええと、元いた世界で嗅いだことのある香りを再現できそうな気がして選びました」
「…そうか」
「?」
「この調香、お前は覚えておいて損はないから教えておくが」
「はい」
「これは、魅了の効果を持つものだ」
その言葉に、あなたの脳は一瞬キョトンとしたが、すぐに理解が追いついて、頬の温度が上がってくる。
「えっ…ぁ…それ、は」
「魅了、意味はわかるな?仔犬、この香りには気をつけておけ。今日は…そうだな、ここからイランイランを抜こう。これで調香してみるといい」
「あ、は、はぃ…っ」
クルーウェルは、その顔にニヤリと意地悪な表情を貼り付けながら、残りの花や草をあなたに手渡した。
「お前は、厄介なのに魅入られているようだな。しっかりと勉学に励んで、対策をするように」
「〜っ?!」
全てお見通しと言わんばかりに、楽しそうな眼で見送られては、言い返す言葉もなく。その後も悶々と調香を進めるのみであった。
さて。出来上がったフレグランスは、イランイランが抜かれたとは言え、限りなくあの時の香りに近いものとなった。頼りは記憶のみだったのに、我ながらすごいなとあなたは自画自賛する。
シュッと自分の手首と首のあたりにそれを吹きかければ、なんとも言えず幸福な気分で満たされた。
「これは多幸感増幅、だっけ。ふふ、さすが魔法世界だなぁ〜。なんだか幸せ。いい気分」
今日のお昼は少し奮発してランチセットでも頼んでしまおうか。なんて可愛らしい欲望に胸を躍らせているだけでも幸せになれるなんて素晴らしいフレグランスだな、そんなことを思っているところで、突然ぽん、と肩を叩かれた。
「はーい?」
ふわふわとしていたために、返事もおざなりになりながらあなたがそちらを振り向くと、とてもいい笑顔をした想い人の姿がそこにあった。驚きもしたが、それよりも嬉しさが優って声をあげた。
「アズールせんぱいだー!こんにちは、どうしたんですか?珍しいですね!廊下で声をかけてくださるなんて」
「あの…貴女、この香り、どうしたのですか」
「香り…?あ、そうなんですよー。さっきの魔法薬学の授業で、調香を教えてもらってー。それで作ったフレグランスをシュッと」
「…調香、ですか?」
「ふふ、これは、アズールせんぱいのことを思いながら調香したんですよー。生憎イランイランは抜かれてしまったのですが、先輩のお部屋の香りをイメージし」
ぱし。
そこまで言った途端、手を取られて引かれた身体は、ぐんと傾いて引かれるままに歩が進む。
「え?!」
「こちらへ」
それだけ言われて、連れて行かれた先はボードゲーム部の部室だ。
しかし今の時間、ここは空き教室のはず。イデアもいなければ、他の誰もいない。
あなたと、アズールの二人だけ。
「どうしたんですか突然…もうすぐ授業がはじまっちゃいますよ、っ!」
「…っ貴女はっ…」
振り向いたアズールは、ぎゅぅとあなたの身体をきつく抱きとめる。突然のことに驚きを隠せないあなたはドキマギしながら、アズールの言葉の続きを待った。
「…聞きましたか…その香りの意味」
「へ?」
「それに、イランイランが混ざっていた場合の、効能を」
「あ…えっと…はい…。クルーウェル先生に」
それを耳にすると、はぁぁぁ…と長い溜息をついてから、アズールはおずおず、あなたの瞳を覗き込む。
だからあなたは笑顔で返事した。
「…嫌いに、なりましたか」
「そんなわけ、ないじゃないですか。私を魅了しようとしてくれたこと、ちょっと…ううん、かなり、嬉しかったですよ」
「!!」
「まぁ、そんなものなくたってメロメロなのですが…。それを抜きにしても、アズール先輩の香りは大好きです、し、アズール先輩のことも、大好きですっ」
ふは、と笑い合えば、そこに生まれたのは、幸せの気持ち。
フレグランスは少しのスパイス。
本当の幸せと、好きの気持ちは、二人で育むものなのだから心配など、いらないよ。
例えばミントは虫除けに効果的だし、オレンジスゥイートは気分を前向きにしてくれる。ラベンダーが精神の安定に役立つことは、言わずもがな。
危ないものも存在するが、知識があればそれらだって薬に変化させることも可能だ。トリカブトはその代表なのではないだろうか。
さて、どうしてあなたがこんなことを考えているかというと、今日の魔法薬学の授業は調香であったからだ。
魔法薬学に関しては、ほとんど知識だけでどうにかなるので、魔法が使えないあなたにとっては大好きな授業の一つだ。その上今日の題材はアロマテラピー好きにとってこの上ないもの。
ローズオットーにネロリにベルガモット。それからパチュリにティートゥリー、ムスクもあれば…と、挙げ始めたらキリがない。
もちろんあなたの元の世界の調香とは違い、最後に魔力のある花を加えることで、選択した効能が高められ、一定時間持続されるというのはロマンを感じるところなのだが。
ただ、作るのが男子とあって、ロマンや香りを厳選するよりかは、効能を重視する輩が多く、集中力を高めるとか、目が覚めるとか、消臭とか、そういうものを選びがちなようだ。(もちろん媚薬の類は危険なのでNGリストに加えられている)
そんな中ではあるが、あなたが考えていたことは一つだけに決まっている。
「アズール先輩の香り…」
だって、普段は匂いを嗅がせてもらえないのだから。本当は、たくさん抱きついてたくさん香りを嗅がせてもらいたいのに。
いつかアズールの部屋で枕に染み付いた香りを目一杯吸い込んだ、あのときの記憶を頼りに、香りを選択していく。
「これと、これと…たしか、トップノートはこれのはず…」
嗅覚には多少なりとも自信があった。が、しかし、思い出すその中には、二人の密事も含まれていて、どうにも心が落ち着かない。
なんだかんだ時間がかかってしまい、結局、クラスの中でも最後の最後で指示を仰ぐことになった。皆はざわつきながらも、すでに各々、自分の課題に取り組んでいる。
「クルーウェル先生。この調合は大丈夫ですか?」
「ん?見せてみろ」
選び抜いた材料をクルーウェルの前に提出し、GOサインを待つ。
「…!…仔犬、この調香はどこで覚えた?」
「え?これはアズー…じゃなかった、ええと、元いた世界で嗅いだことのある香りを再現できそうな気がして選びました」
「…そうか」
「?」
「この調香、お前は覚えておいて損はないから教えておくが」
「はい」
「これは、魅了の効果を持つものだ」
その言葉に、あなたの脳は一瞬キョトンとしたが、すぐに理解が追いついて、頬の温度が上がってくる。
「えっ…ぁ…それ、は」
「魅了、意味はわかるな?仔犬、この香りには気をつけておけ。今日は…そうだな、ここからイランイランを抜こう。これで調香してみるといい」
「あ、は、はぃ…っ」
クルーウェルは、その顔にニヤリと意地悪な表情を貼り付けながら、残りの花や草をあなたに手渡した。
「お前は、厄介なのに魅入られているようだな。しっかりと勉学に励んで、対策をするように」
「〜っ?!」
全てお見通しと言わんばかりに、楽しそうな眼で見送られては、言い返す言葉もなく。その後も悶々と調香を進めるのみであった。
さて。出来上がったフレグランスは、イランイランが抜かれたとは言え、限りなくあの時の香りに近いものとなった。頼りは記憶のみだったのに、我ながらすごいなとあなたは自画自賛する。
シュッと自分の手首と首のあたりにそれを吹きかければ、なんとも言えず幸福な気分で満たされた。
「これは多幸感増幅、だっけ。ふふ、さすが魔法世界だなぁ〜。なんだか幸せ。いい気分」
今日のお昼は少し奮発してランチセットでも頼んでしまおうか。なんて可愛らしい欲望に胸を躍らせているだけでも幸せになれるなんて素晴らしいフレグランスだな、そんなことを思っているところで、突然ぽん、と肩を叩かれた。
「はーい?」
ふわふわとしていたために、返事もおざなりになりながらあなたがそちらを振り向くと、とてもいい笑顔をした想い人の姿がそこにあった。驚きもしたが、それよりも嬉しさが優って声をあげた。
「アズールせんぱいだー!こんにちは、どうしたんですか?珍しいですね!廊下で声をかけてくださるなんて」
「あの…貴女、この香り、どうしたのですか」
「香り…?あ、そうなんですよー。さっきの魔法薬学の授業で、調香を教えてもらってー。それで作ったフレグランスをシュッと」
「…調香、ですか?」
「ふふ、これは、アズールせんぱいのことを思いながら調香したんですよー。生憎イランイランは抜かれてしまったのですが、先輩のお部屋の香りをイメージし」
ぱし。
そこまで言った途端、手を取られて引かれた身体は、ぐんと傾いて引かれるままに歩が進む。
「え?!」
「こちらへ」
それだけ言われて、連れて行かれた先はボードゲーム部の部室だ。
しかし今の時間、ここは空き教室のはず。イデアもいなければ、他の誰もいない。
あなたと、アズールの二人だけ。
「どうしたんですか突然…もうすぐ授業がはじまっちゃいますよ、っ!」
「…っ貴女はっ…」
振り向いたアズールは、ぎゅぅとあなたの身体をきつく抱きとめる。突然のことに驚きを隠せないあなたはドキマギしながら、アズールの言葉の続きを待った。
「…聞きましたか…その香りの意味」
「へ?」
「それに、イランイランが混ざっていた場合の、効能を」
「あ…えっと…はい…。クルーウェル先生に」
それを耳にすると、はぁぁぁ…と長い溜息をついてから、アズールはおずおず、あなたの瞳を覗き込む。
だからあなたは笑顔で返事した。
「…嫌いに、なりましたか」
「そんなわけ、ないじゃないですか。私を魅了しようとしてくれたこと、ちょっと…ううん、かなり、嬉しかったですよ」
「!!」
「まぁ、そんなものなくたってメロメロなのですが…。それを抜きにしても、アズール先輩の香りは大好きです、し、アズール先輩のことも、大好きですっ」
ふは、と笑い合えば、そこに生まれたのは、幸せの気持ち。
フレグランスは少しのスパイス。
本当の幸せと、好きの気持ちは、二人で育むものなのだから心配など、いらないよ。